2009年07月21日 09:30

体調不良が酷いです。虚無的な剣劇RPGの傑作「ひよこ侍」をご紹介致します。

奇人怪人大図鑑 (ちくま文庫―妖怪ワンダーランド)
宮本武蔵 全8冊 吉川英治歴史時代文庫

体調不良が酷く、お腹を下している状態が続いており、あまり更新できそうになく申し訳ありません。今回は、僕の非常に好きなフリーゲーム、剣劇RPG「ひよこ侍」をご紹介致します。

ベクター「ひよこ侍」
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/game/se327136.html

本作は全てを失い、唯ひたすら剣技の道に生きる主人公が、世界一の剣士を目指す内に、剣鬼としか言い様のない存在となって、更に全てを失ってゆくRPG。悲劇的な運命を歩む虚無的な主人公と、情け容赦のない展開が魅力的な暗い剣劇浪漫です。

ゲームとしては一対一のアクションRPGであり、戦闘は敵と上手に間合いを取って刀で斬りつけて討ち取るというのが基本です。僕はアクション苦手ですが、十二分に楽しめました。レベルを上げれば強い敵でも何とかなるので、アクション苦手な人でも楽しめると思います。

ちなみに本作の敵のほとんどは人間であり(雑魚戦闘では動物の敵として犬や虎も出てきますが)、まさに『敵を斬り殺している』という感じの戦闘ですね…。本作の『剣の道』とは、『実戦の殺人剣』であり、如何に相手を殺すかの剣なのですね…。日本の戦国時代の宮本武蔵ら、相手を殺すことで名を上げる武芸者としての剣士です。このような剣を振るうがゆえに、主人公が強くなればなるほど、主人公は身の回りの名だたる武芸者達と決闘して彼らを斬り殺し、全てを失ってゆきます。

しょせん剣とは人を殺すだけのものであり、その外の理屈(建前)は、大道で香具師が下らぬ品物を口先一つで高く売りつけるのと同じく、人を勘違いさせるに過ぎないものだ。大砲は、ただ命中すればよいのだ。
(水木しげる「新講談・宮本武蔵」「奇人怪人大図鑑」より)

主人公は幼い頃に、父親に剣の勝負を挑んできた剣士ジャンルーカに、特に理由もなく、父母、姉のようなメイド、幼馴染で恋心を抱いていた女の子、主人公の周りの大切な人全てを斬り殺されていますが、彼はそのとき、剣の魔力に魅了されてしまい、世界一の剣士を目指して、ひたすら修行に励むことになります。

剣の道を究めるために、感情を捨て、ひたすらの殺人マシーンになってゆく主人公。彼は修行の旅に出て、それぞれの理由で戦う魅力的な剣士達と知り合い、親しくなり、そして勝負をして、彼らを斬り殺して行く。強くなろうと高みを目指せば目指すほど、主人公は全てを失ってゆくのですね…。感情を捨てる為に親しき女性を斬り、感情なく仇を斬り、そして師を斬り、全てを斬って、世界一になるとともに、全てを失ってゆく、ひたすらに虚無的な物語です。

主人公のよりよき仲間にしてライバルの剣士、圧制に支配される帝国に対して反旗を翻し、弱い人々の為に戦っている剣士がいるんですが、主人公は彼とも勝負して斬り殺します。その勝負の時の主人公の台詞が印象的ですね…。「生きる為に剣を振るっているお前が、剣を振るう為に生きている俺に勝てるはずが無い」というようなことを主人公が言うのですが、まさに主人公の生き様は、生きる為に剣を振るうのではなく、ただひたすら剣で強くなる為だけに、人間としての全てを捨てて剣を振るっています。

主人公は自分の剣の道の妨げになる人々を斬り、つわものとして名だたる剣士達と勝負し全てを斬り殺して、名実共に世界一になるのですが、その後、何もないことに気付く。彼には、何もない。世界一になる為に戦ってきて、そして、世界一になったとき感じるのは、何もない虚無感だけ…。本作はマルチエンディングで三つのエンディングに分岐しますが、どのエンディングも世の無常を感じさせるやるせない終わり方です…。最初から最後まで非常に衝撃的な展開で非常に面白かったですね…。

非常に空虚でやるせない終わり方という点では、先日紹介した「分裂ガール」に通じるものがある、分裂ガールと並んでとてもよく出来たフリーゲームの傑作であると思います。暗い物語、悲劇的な物語が好きなお方々にはぜひお勧めの剣劇作品です。なんともいえない虚しさを湛えた傑作です。

空の空、空の空なるかな、全て空なり。
(聖書)

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