2009年06月25日 11:35

ゼロの使い魔と銀河英雄伝説の二次創作「ゼロな提督」読了、本編より出来良いかと思います。お勧めです。

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)
ゼロの使い魔 (MF文庫J)

ゼロの使い魔において、ヒロインのルイズに別作品のキャラクターが召喚される二次創作集「あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ」を一通り読んだのですが、「ゼロな提督」が圧倒的に傑出している感じですね。正直なところ、本編(ゼロの使い魔)より出来が良いかと思います。僕としては余り好きではないゼロの使い魔オリジナル本編よりも、遥かに共感するところ大な作品であって本編より楽しめましたね。お勧めです。

「あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ」ゼロな提督
http://www35.atwiki.jp/anozero/pages/3795.html


本作は、ゼロの使い魔ヒロインのルイズが銀河英雄伝説のヤン・ウェンリーを召喚する話ですが、ヤンが、初っ端から貴族制度に不快感を示し、最後までルイズの使い魔にならない(無理矢理ルーンの契約で使い魔にされていますが、ルイズに使い魔になることを断って、最後まで自分を使い魔とは認めない)のがとてもいい感じですね。専制国家であるローゼンバウム王朝及びラインハルトの銀河帝国と最後まで戦ったヤン・ウェンリー、それがどんなに腐敗してようとも最後まで民主主義と自由を掲げる自由惑星同盟の理念に殉じた軍人ヤン・ウェンリーだけあって、ルイズの世界の平民を人間扱いしない専制貴族主義に対して、民主主義と自由を掲げ命がけで戦った立場から深い嫌悪感を示しており、非常に共感です。「ゼロな提督」は二次創作として面白いだけではなく、「ゼロの使い魔」の作品構造(身分制度の無意識的肯定)に対する非常に良く出来た本質的批判の要素を含んでいます。

僕は一応図書館使ってゼロの使い魔を16巻までバーッと読みましたが、どのように考えても、本作ヒロインのルイズって、凄い嫌な奴だと思うんですね…。階級差別のある世界で名門貴族の家柄であることを鼻にかけて、主人公含めて平民を人間扱いせず傲慢かつ差別的に振舞う高慢ちきでヒステリー性のお嬢様じゃないですか。主人公が実力つけた後は、さっさとこんなヒロインは見切りをつけて出奔しろよという感じでした。

ゼロの使い魔の世界はどこも血縁主義による強固な身分制度に支配されていて非常に暮らしにくそうな世界ですが、特に閨閥貴族ルイズの祖国トリステインは最悪の恐怖国家、血縁主義による差別統制国家という感じですね。北朝鮮あたりとトリステインがどう違うのか読んでいてまるっきり不明です。もし僕がルイズに召喚されたらゼロの使い魔世界の国家の中では一番マシそうに見えるゲルマニアへ速攻で出奔しそうですが…。身分差別意識の塊で高慢ちきかつ無能なヒステリーの下品な小娘(ルイズ)になど、とても付き合ってられないと思います。下記SSにてシュウ・シラカワの言うとおりですよ…。

http://www35.atwiki.jp/anozero/pages/5415.html
「平民のくせに!貴族に逆らう気!?」
「……その言い方、下品ですよ?」
 蔑むような目を向けて言う。
「血筋でもって自身の正当性を主張するような感性は、改めた方が良いと思いますがね」

本作「ゼロな提督」にて召喚される銀河英雄伝説の主人公ヤン・ウェンリーは大人な人なので、生活の糧を稼ぐ為に、ルイズの執事になって(自由契約)、なおかつ常に大局的に物事を考えて、ルイズのためではなく、民主主義と自由、そして人権を理念に持つ自由惑星同盟の軍人として、ゼロの使い魔世界のために動いている、決してルイズのために働いているのではないところが好感が持てますね。ヤンは人類が科学技術を発展させ星の海に出て行った時代の人なので、ゼロの使い魔世界を大局的・歴史的に俯瞰することができて、『科学技術が発展すれば貴族制度は崩壊するだろう』と見抜いています。ヤンは本作のなかで、ルイズのような貴族主義的保守の塊ではなく、リベラルな歴史の側を加速させる方向(誰もが使える科学技術の発展と平民の地位向上)に手を貸すので、シエスタとその一族(魔法は使えないが科学技術を重視している)やフーケ(王侯貴族を嫌悪している)の方と男女の仲でも仲良くなってゆきます。ルイズとは最後まで恋愛の感情は無かったのも好感ですね。

本作の中のヤンが見抜いている通り、銃の技術がせいぜい、我々の世界の西暦19世紀ぐらい(小銃、リボルバーやライフルの開発・大量生産)まで発達すれば、一々魔法発動に時間のかかるメイジなんてものは一発で撃ち倒せるようになるわけです。技術発展の歴史的に見れば、いずれゼロの使い魔の世界も革命が起きて貴族制度は崩壊するでしょう。平民を差別的に支配する貴族階級より、虐げられている平民の方が圧倒的に数が多いのですから。

本作において、ヤンの世界のハイ・テクノロジー(軍事技術を含めた科学技術水準)から見れば、ルイズの世界の軍事的な魔法なんて、笑っちゃうほど小さなものに過ぎないことがきちんと書かれています。ヤンも、ゼロの使い魔世界の軍事技術発展を促進して民主主義革命を起こしたい誘惑にさらされます。『武器の差別の消滅により、主人と奴隷の区別も消え失せたのである。』(byヘーゲル)ですね。

貴族の武器の優勢に対抗するものとして、一つの科学的な道具の発明があった――それは火薬である。「人間性」はこの火薬を必要としたのであって、だからこそやがてそれの出現を見たのである。つまり、それは人間を自然の力から解放し、身分を平等化するこの上もなく重大な道具だったのである。すなわち、武器の差別の消滅により、主人と奴隷の区別も消え失せたのである。火薬は城壁の堅陣をも破砕し、城壁や城の価値もいまやその重要性を失った。人々は個人的な勇敢の価値の没落を嘆くであろう。もはや豪勇無双の戦士も、またいかなる義士も、卑怯者が放つ遠くから、片隅からの一発の弾でやられてしまう。

けれども、火薬は(万人に開かれた武器として)かえって理性的な、思慮ある勇敢、精神的勇気の相場を高めもしたのである。この道具によってはじめて、いっそう高度の勇敢、個人的情熱とは切り離された勇敢が生まれてきたのである。というのは、この火器の使用にあたっては、普遍的なものの中に打ち込むのであり、敵は抽象的な敵であって、個々人ではないのである。
(ヘーゲル「歴史哲学」)

本作のいいところは、民主主義と自由、万人の人々を支えるのは、ルイズのような閨閥貴族の血縁特権ではなく、誰にでも使える科学技術、万人に開かれたテクノロジーだということをきちんと書いていることですね。ゼロの使い魔世界が極めて不公平な世界(血縁によって世界を支配する魔法使いだけが特権を得ていて、他の大勢の人々は虐げられている)であることを、ヤンが自由惑星同盟の一軍人の視点からしっかり見ているところが好感が持てます。魔法の使えない平民メイドのシエスタがヤンの世界のブラスター(レーザー銃)使って大活躍するところもGJですね。ヤンの世界、高度にテクノロジーが発展した銀英伝の世界における誰にでも使える高度科学技術(ブラスター等)の方が、ルイズのような貴族主義に凝り固まった魔法貴族達の魔法よりも遥かに強力なのが実に痛快です。

本作「ゼロな提督」、面白かったです。きちんと完結しているところもGJです。本作に限らず、ゼロの使い魔のクロスオーバーSSの多くにて、知性派の優秀な人材が召喚されると、大体においては、実力もない癖に高慢な身分差別主義者であるルイズに対して批判的な視線を持つのですが(僕はこれは当たり前だと思いますね…、ルイズのような身分差別意識の塊の如き高慢ちきなヒステリー小娘に簡単に隷属しようなんて方がどう考えてもおかしな発想です)、本作は、それだけではなく、ヤンがルイスの執事兼教師になって共に行動することで、基本的にはルイズに優しいけど(穏健なヤンは人格者過ぎます)、民主主義国家である自由惑星同盟の一員として、絶対に譲れないところ(身分差別反対や万人の生命の尊重)は譲らずにしっかり締めて行動し、それによってルイズが変わってゆく、最初は身分差別意識の塊にて高慢ちきなどうしようもない閨閥貴族であるルイズの価値観を成長させてゆく、ルイズのビルドゥングス・ロマン(成長小説)の要素も持っています。お勧めです。

http://www35.atwiki.jp/anozero/pages/3795.html
「あまり殺されたくないんですが…」

ヤンは、窓の外を見つめる。 遠い夕焼け空を眺めながら、ゆっくりと語り始めた。

「昨日話したとおり、私は軍人です。いえ、軍人でした。 全く向いてない職業ではあったんですが、どういうわけかやっていました。 そして私は私の所属する国家、というより思想や信条のために戦っていました」

「思想…信条?」

「ええ。自由と、民主共和制です」

「…何、それ?」

少女は、本当に言葉の意味が分からないという様子で聞き返してくる。だが、ヤンは構わず話しを続けた。

「自由と民主、その思想を守るために、私は戦い続けました。私の部下達も、同じ思いで戦ってくれていました。いや、もしかしたら違うかも知れない、彼等には彼等の信じるものや守るものがあったかも知れない。それでも、私達は戦っていました。
 帝国、貴族、専制政治等から自由を守る戦いを」

「な…!」

少女が驚愕して目を見開く。それでも彼は気にせずに話を止めない。

「結果、多くの兵士が、市民が、敵も味方も死にました。その死の一端は、私に原因があるのです。私が彼等を死に追いやったのです。
 
だから、自由と民主政治のために多くの人々を死へ追いやった自分が、我が身可愛さに自由を手放して貴族の奴隷として生きるなど、許されはしない。そう思うのです」

「そんな…あんた、レコン・キスタ…?」

レコン・キスタ。その名にヤンは心当たりがある。古代の地球で行われた宗教戦争、その中の国土回復運動の名だ。だがルイズは、同盟の政治体制を示す言葉として、この名を口にした。

どうやら民主共和制の芽は、この世界にもあったのか…そう思うとヤンは久しぶりの嬉しさを感じてしまった。自分は孤独ではないのだ、と。
 
と同時に、彼の覚悟も一層強固なものとなった。

「どうやら、私とルイズ様とは、立場も思想も完全に異にするようですね」
 
ルイズはわなわなと震えたまま、なにも答えない。答えられない。 そしてヤンの、表面だけの敬意は消えた。

「なら、迷う事はない。殺すといい。 もちろん僕は抵抗する。けど、まぁ、こんな歩く事もままならない人間なんて、楽に殺せるだろう」
(ゼロな提督)

参考作品(amazon)
銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)
ゼロの使い魔 (MF文庫J)
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歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)
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