2009年06月12日 21:18

音楽技術のデジタル的発展。ガーシュウィンのピアノロール。プレイヤー・ピアノからボーカロイドのDMTへ。

Gershwin Plays Gershwin: The Piano Rolls

先日に引き続きニコニコ動画の話をしますと、ニコ動をみていて思うのは、僕はもっぱら音楽系ばかり視聴しているので、その他のジャンル(MAD等画像編集系)はあまり詳しくないのですが、音楽系でいえることは、音楽技術が非常に発展していて面白いということですね。特にボーカロイドを開発したクリプトン、ヤマハの技術は凄いなあと感じます。前々回紹介した僕の好きなアルカンの曲もちゃんとUPされていて嬉しいです。

アルカン「鉄道」(ニコニコ動画、プレイヤーピアノ演奏。3分後半から人間技を越えます)
ロマン派の異端児、シャルル=ヴァランタン・アルカンの作中でも一、二を争う変態的超絶技巧曲を。 左手は常に疾走する機関車のリズムを刻み、右手はそれに輪をかけて高速で鍵盤上を動き回る等、おおよその人間の範疇を逸脱しているのでピアノロールの演奏にて。 
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2152364

上記鉄道は技巧派の天才ピアニストアムランとかも挑戦していますが、はっきりいって人間の可能な演奏限界(指使い)を超えている為、プレイヤー・ピアノに演奏させるのが一番スコアに忠実という感じはしますね。アルカンやリストは今現代から見ると人間の常識を遥かに超えている自作の曲の数々を弾けたらしいですが、彼らは人間を超越した天才、彼らの録音が残っていないのが無念です。現代演奏家で言えばアムランは超絶技巧の天才なので(間違いなくピアノ技量は20世紀のナンバーワン)、我々がアムランの録音を聴くことができるのは幸いですね…。

アムランリスト ハンガリー狂詩曲第2番より”カデンツァ”
アルカン、ヘンゼルト、ブゾーニ、ゴドフスキーら19世紀のコンポーザーピアニストの珍曲難曲を現代に甦らせた超絶技巧ピアニスト、マルク=アンドレ・アムラン自身による作曲のカデンツァ−終曲を。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm599718

アンサイクロペディア「ラ・カンパネッラ」
ラ・カンパネッラとは、片手に6本の指を持つピアノの神、フランツ・リストが作曲した曲。ピアノ愛好家に感動と絶望を与える曲として有名である。 (中略)

この曲は世界的にも名曲と認められている。そのため愛好家なら一度は聴いたことがあるはずだ。そして多くはこの曲を聴いて感動するだろう。このとき、多くの愛好家は自分で弾いてみたいと思うものである。

この曲は始まりの部分がとても簡単であり(初心者でも充分弾けるレベル)、しばらくは比較的簡単な楽譜となっているため、弾いてみようかなと思うのは自然のことであろう。

しかし曲が進むにつれ耳の良い者ならば聴いている最中、あまりよくないならば楽譜を見たときに、あまりの無茶っぷりに絶望するはずである。なぜならば前半の途中からは五線譜の中にありえないほどの密度でおたまじゃくしが並べられ、楽譜の解読自体が恐ろしく困難になっているからである。実際に見てみればすぐわかるが、うにょうにょぬるぬるしたおたまじゃくしが大量に並べられていて感動を覚える人は…少しはいるかもしれないが、大半の人はそのページを閉じてなかったことにするはずである。

これを初見かそうでなくても1時間くらいで弾けるようになったならば、貴方はプロのピアニストかそれを目指すべき才能の持ち主である。もし貴方が弾けたというならば、こんなサイトを見ていないで超絶技巧に更に磨きをかけるべきだ。そのような者はごく一部であり、恐らく殆どの者は、冒頭の簡単な部分しか弾けないだろう。こんな曲を作って自ら演奏できるリストはやはり天才である。

伝説の初版
この曲は二回にわたって改訂され、全部で三つのラ・カンパネッラがあるのだが、このうち初版はとてつもなく難しいということで知られる。というのもこの曲はリスト本人にしか弾けないというある意味素晴らしく、ある意味どうしようもない曲であった。本当にリストが弾けたのか疑問の声もあるが、当時リストは指が6本あった上に、ヨーロッパ中を回りながらこの曲を弾いて女性を落としていったという話もあるので恐らく完璧に弾けたものと思われる。流石に指が6本あればなんとかなるかもしれない。

第一版を弾けるものは21世紀になった今でも現れていないあたり、どれだけ難しいかを物語っている。もし完璧に弾いた曲をyoutubeやニコニコ動画に流せばあまりの反響にサーバーを落とすくらいは容易いだろう。

【最速?】ラ・カンパネラ 演奏:ガヴリーロフ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm3248722

最速か? リスト「ラ・カンパネラ」(演奏:ジョン・オグドン)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2355592

超絶技巧ピアノ曲ではリャプノフの「12の超絶技巧練習曲作品11」が素晴らしいです。下記のニコニコ動画にて部分的に聴けますが、ぜひよろしければ全曲聴いて欲しい、超絶技巧の傑作です。

ニコニコ動画
ロシアの作曲家 セルゲイ・リャプノフ(1859 - 1924)の作品集『12の超絶技巧練習曲 作品11』より 第10番「レズギンカ」です
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6910921

上記の演奏は下記のアルバムに全曲録音されています。演奏者のシチェルバコフはアムランと同じく演奏技量に秀でた天才ピアニストです。

Sergei Michailovich Liapunov: Transcendental Etudes, Op.11

僕は19世紀〜20世紀前半の古いクラシック演奏家のファンでして、古い録音をよく聴きまして、19世紀末(1877年)にエジソンの手によってレコード蓄音機が発明され世界初の録音技術であるシリンダー録音(円筒式レコード録音)が始まった頃の録音とかも聴くのですが、シリンダー録音は録音したシリンダーレコードに物理劣化が起きる為、経年劣化がとんでもなく激しく、一世紀前の録音など、まったく聴けたものではないのですね…。アナログデータは経年劣化がさけられない上にコピーすればする程音質が劣化します。

ウィキペディア「蓄音機」
トーマス・エジソンが発明した、錫箔を巻いた円筒式レコードが、後に蝋(ろう)管式になった。1889年頃にエミール・ベルリナーにより円盤式レコードへと改良された。

例えば、僕はスクリャービンのピアノ曲が大好きで、スクリャービン本人が演奏した自作自演録音のアルバムを集めましたが、19世紀始めに録音されたスクリャービン自身による自作自演の録音は経年劣化により録音シリンダー(円筒式レコード)が磨耗しており、復元困難なレベルでダメになってしまっていて、無念です。ソビエト連邦の音楽ライブラリーが国家の威信にかけて当時の技術における最大の努力を払って保存しましたが、アナログ的録音であるレコード、シリンダー録音の経年劣化だけはどうにもなりません…。アナログ録音であるビデオテープが経年劣化によりダメになってしまうことを考えて頂けると分かりやすいかと思います。

19世紀後期〜20世紀始めまでのシリンダー録音はアナログ的な経年劣化により西東問わずどちらに保存されたものも録音が悉くダメになってしまっているのですが、19世紀末からの録音で、素晴らしい再生を図ることができるたった一つの優れた録音技術があり、それらを聴くのが古い音楽を愛好する僕の楽しみです。その録音技術とは、ピアノ・ロールです。一世紀前にデジタル的な録音を生み出した当時の先進的技術です。

ウィキペディア「ピアノ・ロール」
ピアノロールとは、オルガン式オルゴールや自動ピアノに取り付けて使用する、演奏情報が穿孔された紙製のロール(巻き紙)のこと。空気圧をかけ、穿孔部を通してハンマー等を動作させる仕組み。19世紀末からつくられ、専用の機械を用いればピアノ演奏をある程度正確に記録することができたため、SPレコード普及前の一時期、家庭用の音楽再生手段として広く使われ、ロールは現在のレコードと同様に商業販売された。20世紀初頭の作曲家自らが演奏したピアノロールなどがいくつか残っている。

20世紀後半の作曲家コンロン・ナンカロウは、自動ピアノの未知なる可能性を開拓した一人で、音の長さを計算して自らロールに穴開け(パンチング)を行い、自動ピアノのための複雑な作品を数多く残した。

現在のMIDI制御による楽器の自動演奏は、鑽孔テープと電子的方法という違いはあるが、ピアノロールと本質的に同じであるといえる。

コンピュータ音楽では、シーケンスソフト上での演奏情報の視覚化として、楽譜表示に並んでピアノロール式の表示が用いられることがある。

ピアノ・ロールはボーカロイドらDTM(デスクトップミュージック)の祖としての側面を持つ技術、録音したデジタルデータを容易に加工できる特性を持つ技術でして、人類の録音記録技術としてデジタル的な録音として始めて世界を席巻した録音です。ボーカロイド技術を開発したヤマハはコンピュータを使ったピアノ・ロール再生において世界最高の技術を持つ会社でもあり、ヤマハが一世紀の時を経て再生させた20世紀初頭のピアノ・ロール演奏は、驚くべきクオリティ、今現在活躍中のピアニスト達を凌駕する側面も持つハイ・クオリティです。

1900年頃に「ティン・パン・アレイ」と呼ばれる一大楽譜製造産業がニューヨークに腰をおろし始めた頃から、(それまでは上流階級のものであった音楽の存在が)劇的に変化し始める。(中略)大物の作曲家達が、当時アメリカで起こっていた社会の大きな変化(文化の大衆化)を音楽に反映させたこと(ポピュラー音楽の誕生)で、一般大衆にとっては、ポピュラー音楽を聴いたり演奏したりすることが、この「地殻的(地殻変動的)」ともいえる(音楽文化の)大衆化に対応していくための安全な方法となっていたのである。(中略)

(音楽文化の大衆化は)ラグタイムやジャズ、ブルースなどの音楽を貪欲な勢いで生み出していった。さらに、ポピュラーソングの歌詞は「娯楽」という名目の元、(上流階級が占有していた音楽文化の)ヴィクトリア風の上品なスタイルに終止符を打つ、いわば銃弾的役割を果たしたのである。

幸運な偶然(音楽の大衆化とピアノの大衆化ブーム及び録音技術の発展)から、1900年までにプレイヤー・ピアノ(自動演奏ピアノ)は大衆市場における(音楽の)中心にまでになった。(中略)自動ピアノとピアノ・ロールの莫大な売り上げが、数知れない楽譜の大ヒットを記録に残した。結局のところ、20世紀の始めの25年で(諸外国に先駆け)アメリカはピアノの音(ピアノ録音)で飽和状態となっていたのである。(中略)

ガーシュウィンは130近くのピアノ・ロールを作っている。(中略)また、その他多くのミュージカルやレビューの中に挿入歌を作曲し、彼の始めての大ヒットミュージカル「ラ・ラ・ルシール」を作り、1919年、20歳の時には、ミリオン・セラーとなったあの「スワニー」を書いた。そしてついに1924年の「ラプソディー・イン・ブルー」の圧倒的な大成功によって、アメリカの音楽家の最高位に昇りつめるのである。(中略)
(ガーシュウィン「The Piano Rolls」)

ガーシュウィンが100年前に録音したピアノ・ロールをヤマハがコンピュータ技術によって現代に再生した演奏は実に素晴らしく、DTMがお好きなお方々にぜひご一聴お勧め致します。音楽技術の勝利を感じる圧倒的な品質で、素晴らしいとしか言いようがないです。ぜひご一聴お勧めです。

今回の録音(ピアノ・ロール再生)に使用されたピアノは、9フィートのヤマハ・ディスクラヴィーア・グランド・ピアノ(コンピュータ・グランド・プレイヤー・ピアノ)である。この機種を選んだ理由は、このコンピュータの再生能力が、かつてなかったほど演奏を洗練させることが可能だからである。(中略)現在に至るまで、ピアノ・ロールのCD化において、これほどまでのダイナミック・レンジと音色の豊かさはまず見られなかった。

ヤマハのディスクラヴィーア・ピアノは、コンピュータと光センサーを備えており、それによって手で実際に演奏した音をフロッピー・ディスク(記憶媒体)に録音する。従って、演奏を一音一音、ニュアンスに至るまで録音することが可能なのである。(中略)

今回のガーシュウィンのリプロデューシング・ロールの準備は、従来とは全く異なる方法で行われた(従来はピアノロールをそのままアナログ・プレイヤー・ピアノで再生・録音する)。まずロールは、カスタム・ミュージック・ロール社でロールの読み取り(ピアノ・ロールをデジタル再生データに変換する作業の過程)を手がけているリチャード・トネセンによって、穴の長さと位置を判読するコンピュータ・ファイルに変換された。そして、コンピュータ・プログラマのリチャード・ブランドルが、リプロデューシング・ピアノのコンピュータ・シミュレーションを起こし、各音の長さ、位置、適切な音量などを、ファイルからMIDI二変換するのである。(中略)このCDの録音の際には、ディスククラヴィーアをマイクの正面に据え、このフロッピー(MIDIファイル)からガーシュウィンのロール演奏を再生したのである。
(ガーシュウィン「The Piano Rolls」)

ピアノ・ロールは修正が容易で、人間には不可能な指の動きをプログラムしてピアノ再生することができるため、一世紀前から人間には演奏不可能な曲(十本の指の限界を超えており、連弾でも弾く事が不可能な曲)の演奏が作られており、面白いです。アムランの難曲の入った「Player Piano, Vol. 6」と伝説的演奏揃いのヴェルテ=ミニョン・ピアノ・ロール・シリーズがご一聴お勧めです。ガーシュウィンのピアノ・ロールがお気に召したお方々ならきっと楽しめるかと思います。

最後に、20世紀及び21世紀の今現在最大の技巧派ピアニスト、アムランの超絶技巧ということでは、アルバム「Mark-Andre Hamelin plays Liszt」において、アムラン自身が超難度の自作のカデンツァを演奏しておりますので、超絶技巧系が好きなお方々にお勧め致します。

Mark-Andre Hamelin plays Liszt

参考作品(amazon)
Gershwin Plays Gershwin: The Piano Rolls
Sergei Michailovich Liapunov: Transcendental Etudes, Op.11
Player Piano, Vol. 6: Original Compositions in the Tradition of Nancarrow
ヴェルテ=ミニョン・ピアノ・ロール・シリーズ 第1集(1905 - 1927)
ヴェルテ=ミニョン・ピアノ・ロール・シリーズ 第2集(1905 - 1915)
ヴェルテ=ミニョン・ピアノ・ロール・シリーズ 第3集(1905 - 1926)
Mark-Andre Hamelin plays Liszt
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