2009年04月27日 22:41
ジネット・ヌヴーとジャクリーヌ・デュ・プレ。ジャクリーヌ・デュ・プレEMI完全録音集(17枚組)が再販されました。
ブラームス : ヴァイオリン協奏曲ニ長調
ジャクリーヌ・デュ・プレ~EMI完全録音集(17枚組)
まず、心からこれまで助けて下さったお方々にお礼を申し上げます。今月様々な出費が重なるなかで、なんとか生活できたのは、ギフト券を贈ってくださり助けて頂き、皆様方に命を救われ、心から深く感謝しております。生活が破綻状態で自棄になっていましたが、なんとかなりました。本当にどうもありがとうございます。助けてくださったお方々に心から深く一杯にお礼申し上げます。ありがとうございます。
現代音楽について。古楽について。僕の大好きな古楽合唱団「タリス・スコラーズ(The Tallis Scholars)」音楽の喜び。
http://nekodayo.livedoor.biz/archives/811070.html
先日の上記エントリに引き続き、音楽の話をしようと思います。本日、品薄で入手困難だった名盤中の名盤、悲劇の天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレのEMI完全録音集(17枚組)がamazonで再販されました。ただ…値段が…。品薄でHMVにもタワーレコードにもないから(タワーレコードでは在庫なし、HMVでは入手困難表示です)、強気の値段設定で値段が以前の倍近くになってます…。
出た当初は7000円くらいで円高が進んで昨年くらいは全般的に5000円くらいでした。ただ、今年に入ってからついに在庫がつきたのか品薄になり、入手が難しくなった名盤です。この文章を書き始めた数時間前は在庫ありだったのがあっという間に残り一点になっていて驚きました。音楽好きの皆様方がきっちりとamazonの音楽コーナーをチェックされているのを感じます。
値段が倍近くになっているからコストパフォーマンス的にお勧めできるか悩ましいところです。カスタマーレビューにもありますが、7000円だったら自信を持ってお勧めでき、5000円だったら絶対買いですが、今の値段設定は一万円超えているので、ご生活にご余裕のあるお方向けです。ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロは20世紀最高のチェロだと僕は確信しておりまして、僕としては一万円でもお勧めです。本BOXセットは人気があるので、再プレスされればまた出回って値段が落ちてくると思うのですが、万が一、EMIが再プレスしなかった場合は入手が極めて困難になる可能性が予想されるので、判断が難しいところです。僕としてはお勧めですが、高いので、ご余裕のあるお方にお勧め致します。
ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロが素晴らしいのは僕が保証致します。僕はデュ・プレは20世紀最高のチェリストと思っています。デュ・プレは悲劇のチェリストであり、5才にしてチェロを弾きこなし神童と呼ばれチェロの英才教育を受け、世界中の音楽家達が、『間違いなく世界最高のチェリストになる!!』と太鼓判を押したチェロ演奏の大天才でしたが、若くして不治の難病に掛かり、20代で演奏ができなくなってしまった悲劇的女性チェリストです。彼女の旦那さんはかの有名なピアニスト、指揮者ダニエル・バレンボイムです。ジャクリーヌ・デュ・プレは僕の大好きなチェリストです。
僕は悲劇の女性チェリスト、デュ・プレを想う時、悲劇の女性ヴァイオリニスト、ジネット・ヌヴーを思います。ジネット・ヌヴーはデュ・プレと同じく、世界最高のヴァイオリニストになること確実と名高い若き大天才女性ヴァイオリニストでしたが、30歳の誕生日を迎えた直後、アメリカ演奏旅行に向かう為に乗っていたエール・フランス機が墜落し、亡くなった悲劇の女性です。彼女は名ヴァイオリン「ストラディヴァリウス」を自らの身体の一部のように弾きこなす天才と名高く、墜落現場で彼女はストラディヴァリウスを確り抱きしめる形で亡くなっていたそうです…。
クラシック音楽の世界でよく言われることは、共に世界最高の天才と謳われながら、双方とも20代の若さにして演奏から無念のリタイアすることになってしまった、この二人、ヌヴーとデュ・プレの女性音楽家がもし20代以降も活躍できていれば、世界は変わっただろうと言われています。ジネット・ヌヴーはヴァイオリン演奏とその演奏技術改良にかけて、誰一人並ぶものなしと言われた天才で、彼女が生きていれば、女性の音楽家が活躍しやすい舞台が今よりも整ったであろう、ヴァイオリン演奏の技術改良も速度が上がっただろうと言われています。デュ・プレも、ジネット・ヌヴーほどの超越的な天才であったかは不明ですが、少なくとも、普通の天才を遥かに超えた天分を持つ大天才であり、活躍していた時は、既に二十代にして世界最高のチェリストとして認められ、その成長には眼を見張るものがあったので、ジネット・ヌヴーと並び、彼女が活躍していれば、女性がクラシック音楽界で活躍する環境は今よりも整ったと思われます。
また、デュ・プレは埋もれた名曲を発掘する天才で、それまで誰一人見向きもしなかった作曲家エルガーの晩年の最後の傑作「チェロ協奏曲」をその天才的な技量で見事に弾きこなし(名曲かつ難曲です)、今ではエルガーの「チェロ協奏曲」はエルガーの代表作の一つとみなされていますが、それはデュ・プレの演奏によって再評価された結果です。デュ・プレが弾いたエルガーの「チェロ協奏曲 1970年11月ライブ録音盤」は本曲の伝説的な名演奏です。ライブなのでお客さんの咳が入っていますが、そのようなことが全然気にならない物凄い熱情に溢れた見事な演奏です。バックのフィラデルフィア管弦楽団の指揮はデュ・プレの旦那さんのダニエル・バレンボイムさんがやっています。
勇気ある強くて優しく思いやりについて。ダニエル・バレンボイム「無言歌集全48曲」
http://nekodayo.livedoor.biz/archives/700606.html
ただ、ジャクリーヌ・デュ・プレは、実姉と実弟がなんといいますか、かなりアレな感じの姉弟でして、彼らはデュ・プレの死後、散々デュ・プレのスキャンダルを書きたてたデュ・プレの暴露本的な伝記を出して(ベストセラーになりました)、デュ・プレを敬愛する僕としては残念です。特にデュ・プレが難病で演奏できなくなった後のことを散々に書いているのは余りにもどうかと思いました。しかも映画化されてしまい(映画題名「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」)、伝記と映画で描かれるデュ・プレが、『悲劇の天才チェリスト』というより、『淫らで物凄くワガママで人格が破綻して病んでいる天才チェリスト』のような描かれ方で、描かれていることの真偽は分かりませんが、デュ・プレが生きていたら、伝記の著者の兄弟と映画会社を名誉毀損で訴えたら確実に勝てるレベルだと思います…。映画公開に合わせて発売されたデュ・プレのアルバム「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」ライナーノーツより引用致します。
僕としては、社会的に影響のある公的な事柄においては、それはきちんとした情報公開が大切ですが、デュ・プレの実姉がやったような身内の間の私的なこと、しかも真贋不明瞭なことを本人の死後にスキャンダラスな形で発表するというやり方は、好感が持てません。デュ・プレがとても気の毒に思います。デュ・プレは亡くなっておりますから、姉がスキャンダルをでっち上げていたとしても、反論できないわけです。あまりにもどうかと思います。以下のサイトさんの映画レビューに僕は全く同感です。
『教訓は、アホなきょうだいを残して先に死ぬなかれ、である。』というのはまさにそのとおりで、ジネット・ヌヴーは伝説的な悲劇のヴァイオリニスト、ヴァイオリニストの守護女神的な存在として今現在も崇敬されていますが、ジャクリーヌ・デュ・プレの方は、悲劇の天才チェリストとして生きている間はとても人気があったのですが、彼女の死後に書かれた実姉・実弟の真贋不明なスキャンダル暴露本により、イメージに大打撃を受けました。
大体、世の中完璧な人間なんているわけがなく、山田風太郎さんはエッセイ集「死言状」のなかで、『世の中には三つの人間がいる。有益で有害な人間、無益で有害な人間、無益で無害な人間である。有益で無害な人間は存在しない』と書かれていますが、これは、いわゆる『出る杭は叩かれる』という世の風潮を皮肉って書いておられます。デュ・プレもそういったこと(活躍したがゆえに、実姉、実弟に妬まれた)があったんじゃないかなと僕は思っています。
デュ・プレのプライベートがどうであろうと、彼女は別に公的に何かよくないことをした訳でもありません。彼女は素晴らしい、聴いていてまさに胸を打つ素晴らしい演奏を残してくれました。僕は、デュ・プレの演奏を聴いて感動したこと、ジネット・ヌヴーの演奏を聴いて感動したこと、どちらも胸の中の大切な宝物です。よろしければ、デュ・プレの演奏、ジネット・ヌヴーの演奏、ぜひご機会ございましたら、ご一聴を心からお勧め致します。どちらもパワフルな熱情と女性の優れた繊細さをあわせ持つ、情感と技術どちらもとてつもなく優れた、感動に溢れる素晴らしい演奏です。
参考作品(amazon)
ブラームス : ヴァイオリン協奏曲ニ長調
Neveu Barbirolli Perform Sibelius
Ginette Neveu Plays Brahms
ジャクリーヌ・デュ・プレ~EMI完全録音集(17枚組)
エルガー/ディーリアス:チェロ協奏曲
ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ ― オリジナル・サウンドトラック
風のジャクリーヌ〜ある真実の物語〜
ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ デラックス版 [DVD]
死言状〔文庫版〕 (小学館文庫)
amazonトップページ
ジャクリーヌ・デュ・プレ~EMI完全録音集(17枚組)
まず、心からこれまで助けて下さったお方々にお礼を申し上げます。今月様々な出費が重なるなかで、なんとか生活できたのは、ギフト券を贈ってくださり助けて頂き、皆様方に命を救われ、心から深く感謝しております。生活が破綻状態で自棄になっていましたが、なんとかなりました。本当にどうもありがとうございます。助けてくださったお方々に心から深く一杯にお礼申し上げます。ありがとうございます。
現代音楽について。古楽について。僕の大好きな古楽合唱団「タリス・スコラーズ(The Tallis Scholars)」音楽の喜び。
http://nekodayo.livedoor.biz/archives/811070.html
先日の上記エントリに引き続き、音楽の話をしようと思います。本日、品薄で入手困難だった名盤中の名盤、悲劇の天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレのEMI完全録音集(17枚組)がamazonで再販されました。ただ…値段が…。品薄でHMVにもタワーレコードにもないから(タワーレコードでは在庫なし、HMVでは入手困難表示です)、強気の値段設定で値段が以前の倍近くになってます…。
出た当初は7000円くらいで円高が進んで昨年くらいは全般的に5000円くらいでした。ただ、今年に入ってからついに在庫がつきたのか品薄になり、入手が難しくなった名盤です。この文章を書き始めた数時間前は在庫ありだったのがあっという間に残り一点になっていて驚きました。音楽好きの皆様方がきっちりとamazonの音楽コーナーをチェックされているのを感じます。
値段が倍近くになっているからコストパフォーマンス的にお勧めできるか悩ましいところです。カスタマーレビューにもありますが、7000円だったら自信を持ってお勧めでき、5000円だったら絶対買いですが、今の値段設定は一万円超えているので、ご生活にご余裕のあるお方向けです。ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロは20世紀最高のチェロだと僕は確信しておりまして、僕としては一万円でもお勧めです。本BOXセットは人気があるので、再プレスされればまた出回って値段が落ちてくると思うのですが、万が一、EMIが再プレスしなかった場合は入手が極めて困難になる可能性が予想されるので、判断が難しいところです。僕としてはお勧めですが、高いので、ご余裕のあるお方にお勧め致します。
ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロが素晴らしいのは僕が保証致します。僕はデュ・プレは20世紀最高のチェリストと思っています。デュ・プレは悲劇のチェリストであり、5才にしてチェロを弾きこなし神童と呼ばれチェロの英才教育を受け、世界中の音楽家達が、『間違いなく世界最高のチェリストになる!!』と太鼓判を押したチェロ演奏の大天才でしたが、若くして不治の難病に掛かり、20代で演奏ができなくなってしまった悲劇的女性チェリストです。彼女の旦那さんはかの有名なピアニスト、指揮者ダニエル・バレンボイムです。ジャクリーヌ・デュ・プレは僕の大好きなチェリストです。
僕は悲劇の女性チェリスト、デュ・プレを想う時、悲劇の女性ヴァイオリニスト、ジネット・ヌヴーを思います。ジネット・ヌヴーはデュ・プレと同じく、世界最高のヴァイオリニストになること確実と名高い若き大天才女性ヴァイオリニストでしたが、30歳の誕生日を迎えた直後、アメリカ演奏旅行に向かう為に乗っていたエール・フランス機が墜落し、亡くなった悲劇の女性です。彼女は名ヴァイオリン「ストラディヴァリウス」を自らの身体の一部のように弾きこなす天才と名高く、墜落現場で彼女はストラディヴァリウスを確り抱きしめる形で亡くなっていたそうです…。
クラシック音楽の世界でよく言われることは、共に世界最高の天才と謳われながら、双方とも20代の若さにして演奏から無念のリタイアすることになってしまった、この二人、ヌヴーとデュ・プレの女性音楽家がもし20代以降も活躍できていれば、世界は変わっただろうと言われています。ジネット・ヌヴーはヴァイオリン演奏とその演奏技術改良にかけて、誰一人並ぶものなしと言われた天才で、彼女が生きていれば、女性の音楽家が活躍しやすい舞台が今よりも整ったであろう、ヴァイオリン演奏の技術改良も速度が上がっただろうと言われています。デュ・プレも、ジネット・ヌヴーほどの超越的な天才であったかは不明ですが、少なくとも、普通の天才を遥かに超えた天分を持つ大天才であり、活躍していた時は、既に二十代にして世界最高のチェリストとして認められ、その成長には眼を見張るものがあったので、ジネット・ヌヴーと並び、彼女が活躍していれば、女性がクラシック音楽界で活躍する環境は今よりも整ったと思われます。
また、デュ・プレは埋もれた名曲を発掘する天才で、それまで誰一人見向きもしなかった作曲家エルガーの晩年の最後の傑作「チェロ協奏曲」をその天才的な技量で見事に弾きこなし(名曲かつ難曲です)、今ではエルガーの「チェロ協奏曲」はエルガーの代表作の一つとみなされていますが、それはデュ・プレの演奏によって再評価された結果です。デュ・プレが弾いたエルガーの「チェロ協奏曲 1970年11月ライブ録音盤」は本曲の伝説的な名演奏です。ライブなのでお客さんの咳が入っていますが、そのようなことが全然気にならない物凄い熱情に溢れた見事な演奏です。バックのフィラデルフィア管弦楽団の指揮はデュ・プレの旦那さんのダニエル・バレンボイムさんがやっています。
勇気ある強くて優しく思いやりについて。ダニエル・バレンボイム「無言歌集全48曲」
http://nekodayo.livedoor.biz/archives/700606.html
ただ、ジャクリーヌ・デュ・プレは、実姉と実弟がなんといいますか、かなりアレな感じの姉弟でして、彼らはデュ・プレの死後、散々デュ・プレのスキャンダルを書きたてたデュ・プレの暴露本的な伝記を出して(ベストセラーになりました)、デュ・プレを敬愛する僕としては残念です。特にデュ・プレが難病で演奏できなくなった後のことを散々に書いているのは余りにもどうかと思いました。しかも映画化されてしまい(映画題名「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」)、伝記と映画で描かれるデュ・プレが、『悲劇の天才チェリスト』というより、『淫らで物凄くワガママで人格が破綻して病んでいる天才チェリスト』のような描かれ方で、描かれていることの真偽は分かりませんが、デュ・プレが生きていたら、伝記の著者の兄弟と映画会社を名誉毀損で訴えたら確実に勝てるレベルだと思います…。映画公開に合わせて発売されたデュ・プレのアルバム「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」ライナーノーツより引用致します。
(実姉ヒラリー・デュ・プレがジャクリーヌ・デュ・プレ死後に書いた、デュ・プレをかなりの異常な人物として身内の眼から描いた暴露ノンフィクション伝記を原作としたジャクリーヌ・デュ・プレの伝記映画「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」は)かなりショッキングな内容(本映画においてジャクリーヌ・デュ・プレは天才ではあるが、精神的に破綻した、情緒不安定かつ極度にワガママなヤンデレ娘として描かれている。男好きで姉の夫と閨を共にしたことなどが描かれている)を含んでいたことで、地元イギリスはもとより、欧米では、伝記も映画も大きな論争を巻き起こした。(ジャックリーヌが本当に姉の夫と閨を共にしたかどうかや、身内に対する様々な奇行があったかは、姉と弟の証言のみで、真偽不明なので、姉と弟がスキャンダラスな金儲けの為にジャクリーヌのスキャンダルをでっちあげた可能性が指摘されている。)(中略)
(姉の書いた本及びそれを原作とした映画においてデュ・プレは精神的にかなりの異常を来たし)それは姉の夫を共有するところまで進むのだ。(デュ・プレの名誉のために書いておくと彼女の実姉の証言以外に立証するものがないため真偽不明。)
(姉の暴露伝記を元にした)映画のなかのジャッキー(デュ・プレの身内間の愛称)のように、実際のジャクリーヌ・デュ・プレも性的に早熟で、性的欲望も強く(このことも根拠不明。それに、音楽家にモーツァルトやルービンシュタイン等々、性的に奔放な音楽家は普通にいる、独身の頃浮名を流したとて、それほど責められることではないです。)、またあまりに特殊な環境(彼女は5才でチェロを演奏し出し、既に5才時点でチェロを瞬く間に弾きこなせる天才神童として周囲を驚嘆させた)〜子供の頃から神童として(チェロの英才教育を施されて)隔離されて育った〜によって、精神的な成長のバランスが欠けていたとろこがあったようだ。(これもジャクリーヌが正気でなかったというのはあくまで彼女の実姉の書いた本によればなので真偽不明。この実姉も音楽家志望だが挫折したので、音楽家として成功したジャクリーヌに逆恨みがあった可能性があり、そのことは差し引いて考えなければならないです。)
しかし、それを上回って、彼女の演奏家としての資質がずば抜けていたため、すべてはその美しく激しい演奏の陰に隠れてしまったのだ。(と彼女の実姉は主張しています。)(中略)
最後に一言だけ、この映画で音楽の中心的な位置に置かれているサー・エドワード・エドガーのチェロ協奏曲について書いておこう。この作品は1919年に書かれたエルガー最後の大作である。この作品には、まるで人生の夕暮れを見つめるような寂寥感と、それに抗おうとする劇的な感情が交錯している。エルガーがこの協奏曲を作曲後、1920年(曲完成直後)に妻を亡くしてからは、その後(エルガー自身が)亡くなるまでの15年間(エルガーは1934年没。妻が亡くなった後は作曲をすることはなかった。)創作意欲を失ってしまったという事実。
さらに、この協奏曲で最高の演奏を残した(忘れ去られていたこの曲を復活させた)デュ・プレが悲劇的な後半生を送ることになったという事実が重なって、このチェロ協奏曲は一層陰影を深めた。ジャッキーの完全に作品と一体化した演奏によって、エルガーのチェロ協奏曲は本当の生命を得たのである。
(「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」ライナーノーツより)
僕としては、社会的に影響のある公的な事柄においては、それはきちんとした情報公開が大切ですが、デュ・プレの実姉がやったような身内の間の私的なこと、しかも真贋不明瞭なことを本人の死後にスキャンダラスな形で発表するというやり方は、好感が持てません。デュ・プレがとても気の毒に思います。デュ・プレは亡くなっておりますから、姉がスキャンダルをでっち上げていたとしても、反論できないわけです。あまりにもどうかと思います。以下のサイトさんの映画レビューに僕は全く同感です。
wad's 映画メモ「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」
http://www.ywad.com/movies/288.html
Hilary and Jackie Anand Tucker / Emily Watson,Rachel Griffiths,David Morrissey / 1998
★これは醜い
監督のアナンド・タッカーはドキュメンタリーを撮ってきた人らしい。予備知識なしに原題を見ると、夫の不品行に悩む合衆国ファースト・レディーたちの苦労話かと思ってしまうが、実際には多発性硬化症で死んだセロ弾きのジャクリーヌ・デュ・プレの伝記映画である。ただし、ジャクリーヌのきょうだい2人が書いた暴露本をベースにしており、きわめて醜い映画になっていた。
ジャクリーヌを演じるのはエミリー・ワトソン。その姉のヒラリーを演じるのがレイチェル・グリフィス(『ハーモニー』、『マイ・スウィート・シェフィールド』)。原題は、この2人の名前からとられている。原作は、精神的に苦しい状況に追い込まれていたジャクリーヌを助けるために、ヒラリーが夫を提供した(夫にジャクリーヌと寝るように頼んだ)というスキャンダラスなエピソードを暴露したことで話題を呼び、この映画の公開にあたっては音楽界の重鎮たちから抗議の声が上がったという。教訓は、アホなきょうだいを残して先に死ぬなかれ、である。
この映画は、動き回るカメラがうっとうしいとはいえ、照明と発色はかなり美しく、見た目はそこそこ気持ちよい。その気持ちよい映像の中で、(デュ・プレの尊厳を貶めるような)めったに見られないような冒涜的な映画が進行する。
『教訓は、アホなきょうだいを残して先に死ぬなかれ、である。』というのはまさにそのとおりで、ジネット・ヌヴーは伝説的な悲劇のヴァイオリニスト、ヴァイオリニストの守護女神的な存在として今現在も崇敬されていますが、ジャクリーヌ・デュ・プレの方は、悲劇の天才チェリストとして生きている間はとても人気があったのですが、彼女の死後に書かれた実姉・実弟の真贋不明なスキャンダル暴露本により、イメージに大打撃を受けました。
大体、世の中完璧な人間なんているわけがなく、山田風太郎さんはエッセイ集「死言状」のなかで、『世の中には三つの人間がいる。有益で有害な人間、無益で有害な人間、無益で無害な人間である。有益で無害な人間は存在しない』と書かれていますが、これは、いわゆる『出る杭は叩かれる』という世の風潮を皮肉って書いておられます。デュ・プレもそういったこと(活躍したがゆえに、実姉、実弟に妬まれた)があったんじゃないかなと僕は思っています。
デュ・プレのプライベートがどうであろうと、彼女は別に公的に何かよくないことをした訳でもありません。彼女は素晴らしい、聴いていてまさに胸を打つ素晴らしい演奏を残してくれました。僕は、デュ・プレの演奏を聴いて感動したこと、ジネット・ヌヴーの演奏を聴いて感動したこと、どちらも胸の中の大切な宝物です。よろしければ、デュ・プレの演奏、ジネット・ヌヴーの演奏、ぜひご機会ございましたら、ご一聴を心からお勧め致します。どちらもパワフルな熱情と女性の優れた繊細さをあわせ持つ、情感と技術どちらもとてつもなく優れた、感動に溢れる素晴らしい演奏です。
参考作品(amazon)
ブラームス : ヴァイオリン協奏曲ニ長調
Neveu Barbirolli Perform Sibelius
Ginette Neveu Plays Brahms
ジャクリーヌ・デュ・プレ~EMI完全録音集(17枚組)
エルガー/ディーリアス:チェロ協奏曲
ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ ― オリジナル・サウンドトラック
風のジャクリーヌ〜ある真実の物語〜
ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ デラックス版 [DVD]
死言状〔文庫版〕 (小学館文庫)
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