2009年01月25日 18:36

映画「ヒトラー最後の12日間」戦後ドイツの真摯さに、腐敗した日本との違いを深く感じました。

ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション [DVD]
劇画ヒットラー (ちくま文庫)

ずっと背中の痛みが取れないのですが、昨日から少し体調が回復したので、本日のAM0:30から放映していたドイツの歴史ドキュメント映画「ヒトラー最後の12日間」を録画しておいて、先ほど見終わったのですが、とても優れた映画だと思いました。とても公平な視線でヒトラーの姿を中心としてドイツのベルリン陥落までの最後の12日間を見事に描いています。

特に僕が心打たれたのは、こういう優れた映画が作れるドイツの真摯さであり、その真摯さは日本には全くないことを思って絶望的に悲しくなりました。ドイツでこういう映画が作れるのは、ナチスドイツの権力中枢が戦後一掃されたからであり、日本の場合は、大本営最高幹部等の大日本帝国の最高幹部達が一時的に政治的権力を見た目は失っても、その後政治的権力を取り戻しているがゆえ、こういう映画は決して作れないし、今後も作られることはないだろうと予想します。そして、それは、現在のドイツの方が現在の日本より遥かに社会福祉や政治の透明性の上で優れており、戦後を真摯に受け止める視線を獲得している、日本より遥かに優れて成熟した自由民主主義国家になっていることと、無関係ではないと思います。

本映画を見るとよくわかりますが、ベルリン陥落でナチスドイツの権力中枢は完全に破壊され、ナチスの最高幹部達は戦死か自殺かニュルンベルグでの処刑か、ソ連邦収容所での処刑か、もしくはニュルンベルグやソ連邦収容所から運よく解放されてもその後は、決して政治的な力を持つことができなかった(映画のエンディングクレジットで主だった幹部達のその後が延々と流れます)。

本映画では、ある種、ヒトラー以上にヒムラーが狡猾な卑劣漢として描かれており、ヒトラーは私生活では心優しく、子供達にヒトラーおじさんと親しまれていますが、独裁者の総統としては、冷酷で非人道的な命令を次々と出してゆく。ただ、ヒトラーは最後は自決します。ヒトラーの後をおって、SSの若い将校達も「総統と我々は一心同体。総統と運命に共にする」といって、ヒトラー万歳を叫んで次々と死んでゆく、日本の若い兵士達が「天皇陛下万歳」を叫んで死んでいったような、ある種の信念を持って死んで行く、本映画ではゲッベルス夫妻がヒトラーに殉じるその中心になっています。

本映画はヒトラーやナチス幹部をある種の狂的な信念、それでも一応ある種の大義を持った人間として描いていますが(ゲッペルス、シュペーア等)、けれど、本映画のナチス幹部の中で非常に異質なのがヒムラーで、彼は西側(英米)と東側(ソ連)との対立を利用してアイゼンハワーと交渉し、自分だけが生き残ってドイツ敗戦後も権力を持つことを策謀するわけです。彼が最後まで心配していることは、アイゼンハワーと会うときは、ナチス式敬礼がいいのか、握手がいいのかなどです(ヒトラーやナチズムに対する忠誠がないことを示している)。本映画ではゲーリングに関してはかなり中立的に描いていますが、ヒムラーははっきりと卑劣漢として描いています。そしてヒムラーの目論見は失敗して彼は自殺します。西側も東側もヒムラーが考えていたほど甘くなかったわけです。

けれど、日本の場合は、最悪なことに、戦前戦中は日本の最高指導部におり、戦後も権力を握り続けた、『成功したヒムラーの日本人版』みたいな連中が大勢います。そういう連中の集まりが日本の戦後をずっと支配し続けた自由民主党と財界と学界の一部に閨閥として存在して、彼らは皇室を権力の盾にしているので誰も手が出せない。彼らはGHQの改革が西側と東側の対立で頓挫し、GHQのリベラル派が追放されたのを追い風に、次々とアメリカ軍部のタカ派と手を結んで「日本の赤化を防ぐ盾となる」の名目でずっと日本を支配してきた。それは、我々のすぐ側にだってある影響力です。

例えば、今現在、学問の世界で大衆、特に若年層に対して一番影響力を持っているのは、タカ派の学者である東工大教授の東浩紀氏がその筆頭の一人として挙げられると思いますが、彼は自民党イデオローグで元首相中曽根康弘氏の参謀として活躍し、リクルート疑惑で東大から追放された公文俊平元東京大学教授(公文元東大教授はリクルート社より一万株のリクルート・コスモス社未公開株の譲渡を受けており、それが発覚して東大辞職)の弟子で、公文氏と共に財界(主に旧NTT)のロビー機関国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの乗っ取りを図った人です。

池田信夫「永遠の精神的幼児」
http://www003.upp.so-net.ne.jp/ikeda/Azuma.html
公文俊平と一緒になって、われわれ(池田信夫氏ら)を追放しようと(東浩紀氏は)画策した。しかし結局、逆に公文が中山素平氏に追放され、自分も追い出されたのだから世話はない。

公文俊平氏はリクルート事件発覚によって政治的な権力をかなり失っていますが、弟子の東浩紀氏は強力な閨閥を持ち(東浩紀氏の義父は出版界の重鎮である小鷹信光氏)、与党の影響力の大きい政府系(国立系)の出版社であるNHK出版等から非常にタカ的かつ自民党保守派支持的な本を書いています(思想地図等)。特に特筆すべきは、彼が公文俊平氏と同じく中曽根氏支持を東工大の講義において明言していることでしょう。そういった本や発言に影響を受けてタカ的特性を持っていく若者たちがある程度の知的エリートとして今の日本に東京大学などを中心として一定層、存在します。自民党の戦前からの保守(中曽根一族等)と繋がる若手タカ派エリートたちです。

そして、この中曽根一族の政治閨閥というのは、旧日本軍部の閨閥世襲であり、自民党そのものが、旧日本軍(大本営)の何処に消えたか不明になった膨大な財産(本土決戦などに備えて溜め込んだ軍事資金)をGHQやキャノン機関との対外交渉などの政治資金として使ってきたのではないかと疑われる戦前からの閨閥世襲政治組織です(松本清張「昭和史発掘」「日本の黒い霧」等)。今も戦前からずっと政治の連続性が続いています。

結局のところ、日本という国は『敗戦後、東と西の対立を利用して権力を再び奪取する』という策謀が成功したヒムラーの日本人版達の子孫(閨閥)が強力な政治権力を握り続けている国であり、そういった権力に学問も何もかも群がっています(学問の世界で言えば先の公文氏や東氏、皇室と戦前より関係を持つ宮台家の御曹司である天皇家崇拝者で著名な学者宮台真司氏、甘粕事件で大杉栄らを虐殺し、その後は満州の裏の支配者になった甘粕人脈に連なる閨閥の見田宗介氏や見田ゼミ傘下の学会で力を所有する著名学者達等。参考、松本清張「小説東京大学」等)。

こういった事情を考えると、日本では決して「ヒトラー最後の12日間」のような、歴史を真摯に見据える映画は作れないし、戦争ということについて真剣に考えれば潰されるだけである日本の悪い意味で継続的な政治システム(権力中枢が戦後入れ替わったドイツと違い、日本は戦前と戦中と戦後が断絶しているように見えて、権力中枢自体は皇室の連続性を盾にすることで明治維新からずっと繋がっている)は延々と続き、いつまでも僕のような貧困層、下層の生まれの人間は日本の支配システムに苦しめられるだけだろうと予想し、深く絶望的な気持ちになりました。

第二次世界大戦の敗戦国でも日本とは違い、ドイツではこのような歴史を真摯に見据える優れた映画が作れるのだ、ということで、ぜひご視聴をお勧めする映画です。IDF(イスラエル国防軍空挺部隊)及びイスラエル中央警察コマンドに所属したヤーロン・スヴォレイが書いたナチスの残党を狩るナチスハンターを描いたノンフィクション「ヒトラーズシャドウ」から引用致します。

SSの大尉、プリープケは1944年ローマ近郊のアルデアティンの洞窟で七十名のユダヤ人を含む民間人三百名を大量虐殺した。(中略)(ナチスハンターは捜索を続け)ドナルドソンは(アルゼンチンに逃亡していた)プリープケ八十一歳を発見した。(中略)(戦争責任を逃れて)安全なはずだった世界(南米)も決してそうでなかったと、コップスもプリープケも今度ばかりは思い知ったことだろう。

(隠れているナチス残党を見つけ出して逮捕する)ほころびのきっかけが、たったひとりで「敵の陣地(ネオナチス)」に乗り込んでいった男(ナチスハンター)の執念の聞き込みだったとは、知る人は少ないだろう。
(ヤーロン・スヴォレイ、ニック・テイラー「ヒトラーズシャドウ」)

戦後のドイツにはナチスとその残党(ネオナチス、ナチス残党のヒトラーズシャドウ)を狩るナチスハンター達が存在し、彼らは南米等に逃れたナチス幹部達を狩り続けました。しかし、戦後の日本では、旧日本軍の最高幹部達は、阿南惟幾のように自決した人間は少なく、ベルリンが陥落するまで戦い続けた多くのナチス幹部の自決数や戦死数に比べると旧日本軍幹部の自決数や戦死数は非常に微々たるものです。彼ら旧日本軍幹部たちは自分たちだけは安全地帯(地下防空壕参謀本部等)にいて、下層の兵士を大勢戦場に送り続けました。

日本では若い兵士達を死地に送って自分達は保身を図ったヒムラーのような腐った連中が大日本帝国の中枢である大本営や皇室の周りの政治家に大勢おり、彼らの多くは敗戦後も生き残り、権力を再度奪取しました。それは日本の腐敗している歴史です。

日本では旧日本軍幹部ハンターが生まれるどころか、逆に旧大日本帝国幹部(大日本帝国の影)が再度の閨閥政治で政治権力を取り戻し(主に自民党と財界と学問界の一部)、西側諸国と東側諸国の対立を利用して戦争責任を逃れて、自分たちにとって邪魔な左派を弾圧したりしてきた歴史があることを、日本人一人一人が、このことをよく考えるべきことだと僕は思います。

最後に、日本人が書いたヒトラーの史伝としては、水木しげる著「劇画ヒットラー」が総括的にとても分かりやすくヒトラーとその時代のヨーロッパの歴史を描いており、一読お勧め致します。

参考作品(amazon)
ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション [DVD]
劇画ヒットラー (ちくま文庫)
ヒトラーズシャドウ
日本の黒い霧〈上〉 (文春文庫)
日本の黒い霧〈下〉 (文春文庫)
昭和史発掘〈1〉 (文春文庫)
昭和史発掘〈2〉 (文春文庫)
昭和史発掘〈3〉 (文春文庫)
昭和史発掘 (4) (文春文庫)
昭和史発掘 (5) (文春文庫)
昭和史発掘 (6) (文春文庫)
昭和史発掘 (7) (文春文庫)
昭和史発掘(8) (文春文庫)
昭和史発掘(9)(文春文庫)
小説東京帝国大学〈上〉 (ちくま文庫)
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