2008年06月19日 21:19
大岡昇平「オフィーリアの埋葬」 悲しみを引き受ける女性
シェイクスピア全集一覧
NHKで放送していたうつ病の特集を見ました。僕はシェイクスピアが大好きで、ハムレットのオフィーリアがリア王のコーディリアと並んで、とても愛しく思っているヒロインなんですが、そのこと思い出しました。
僕は、ハムレットは、ハムレットが躁的なスキゾフレニックな怒りと仮面を象徴しているとすれば、オフィーリアは鬱的なメランコリックな悲しみと誠心を象徴していると思っていて、凄く見ていて辛くて、愛しいヒロインです。僕は、こういう、世の中の悲しみをじっと引き受けて、静かに悲しげだけど、それでも頑張って、生きているヒロインが、とても好きです。僕の好きなゲームに「AIR」という作品があって、そこに出てくるヒロインの神尾観鈴にも、同じような、魅かれる、どうにかこの子を幸せにしてあげたいと強く感じさせる気持ちで、胸が一杯になりました…。
大岡昇平さんの小説で、ハムレットの二次創作・翻案小説「オフィーリアの埋葬」という作品があります(「戦後短編小説再発見3さまざまな恋愛」に収録)。ここで、亡霊のオフィーリアがハムレットをなんとか救おうと、一生懸命、頑張るのですが、ハムレットは聞き入れないんですね。亡霊のオフィーリアはずっとすごく悲しそうで、こういう悲しみが、欝や自死のことになっているのかもしれない、もう少しでも、こういったものを減らして、楽しいことを増やしていければいいのにと、心から思いました。宿命は変えられぬとしても、せめて、喜びがあって欲しい…。
生きることの苦しみ、誰しもの苦しみ、僕の苦しみが消えないように、僕のなかに、オフィーリアやコーディリアや神尾観鈴、そういった、悲しみを引き受けて、静かに微笑んでいるような女性が消えないでいてくれて、彼女達のおかげでこの世界で生きていられると感じます。そういった女性は、本当に、僕にとって、救いです…。
シェイクスピア全集一覧
ハムレット シェイクスピア全集 〔23〕 白水Uブックス
リア王 シェイクスピア全集 〔28〕 白水Uブックス
戦後短篇小説再発見〈3〉さまざまな恋愛 (講談社文芸文庫)
野火;ハムレット日記 (岩波文庫)
AIR ~Standard Edition~
AIR オリジナルサウンドトラック
Re-feel Kanon・Airピアノアレンジアルバム
AIR DVDアニメ版
アニメ総合一覧
その穢れない身体から、すみれの花を咲かせてくれ
(シェイクスピア「ハムレット」)
NHKで放送していたうつ病の特集を見ました。僕はシェイクスピアが大好きで、ハムレットのオフィーリアがリア王のコーディリアと並んで、とても愛しく思っているヒロインなんですが、そのこと思い出しました。
僕は、ハムレットは、ハムレットが躁的なスキゾフレニックな怒りと仮面を象徴しているとすれば、オフィーリアは鬱的なメランコリックな悲しみと誠心を象徴していると思っていて、凄く見ていて辛くて、愛しいヒロインです。僕は、こういう、世の中の悲しみをじっと引き受けて、静かに悲しげだけど、それでも頑張って、生きているヒロインが、とても好きです。僕の好きなゲームに「AIR」という作品があって、そこに出てくるヒロインの神尾観鈴にも、同じような、魅かれる、どうにかこの子を幸せにしてあげたいと強く感じさせる気持ちで、胸が一杯になりました…。
大岡昇平さんの小説で、ハムレットの二次創作・翻案小説「オフィーリアの埋葬」という作品があります(「戦後短編小説再発見3さまざまな恋愛」に収録)。ここで、亡霊のオフィーリアがハムレットをなんとか救おうと、一生懸命、頑張るのですが、ハムレットは聞き入れないんですね。亡霊のオフィーリアはずっとすごく悲しそうで、こういう悲しみが、欝や自死のことになっているのかもしれない、もう少しでも、こういったものを減らして、楽しいことを増やしていければいいのにと、心から思いました。宿命は変えられぬとしても、せめて、喜びがあって欲しい…。
オフィーリアの亡霊
「子として父の死を悲しまぬものがございましょうか。しかし二度と帰らぬ旅路に上られたハムレット様を、一層おかわいそうに思っておりました。
二度と戻って来ぬわいな
二度と戻って来ぬわいな
なんで戻ろか、亡き人の
帰らぬ日を、待つよりは
いっそこの身も捨てましょう。
さようなら。
いとしい方がお父様を殺されました。とはいえ王様にはかられて、遠いイギリスにつかわされたとのこと、オフィーリアは胸を痛めておりました。いとしいお方を見殺しに、何事もこの小さな胸三寸に収めておかねばならぬ。その辛さに気が狂いました。(中略)
しかし復讐はいけません。すべては神様のお心に任せて」
ハムレット
「坊主のようなことを申すな」
オフィーリアの亡霊
「殿下のお心にないことを、私はいえませぬ。目には目を、歯に歯、はいけませぬ。それ、聖書にも書かれております。人、汝の右の頬を打てば、ほかの頬を向けよ」
ハムレット
「私も世継王子になるまでは、そんな気がしていた。しかし人間の心は黒く、汚れている。思いはとかく罪に向かう。さればこの恐れと悩みに満ちた体が、この機会に水となってとけてしまえばよい、と思っていた。この腐り切った世の中におさらばするなら、早い方がよい。私はそなたが身投げしたのであっても、別に責めはしないのだよ。ただ父上の亡霊より、うむ、復讐せよとのお言葉をいただいた。世継王子としてしなけれなならぬことが残っている。そなたの相手ばかりしていられないのだよ」
オフィーリアの亡霊
「それでは、殿下はやはり私を愛して下さいません」
ハムレット
「いや、愛はまた別だ。いとしく思っていた。あわれに思っていた。あの世に行ってからも、そなたが私を導いてくれることを望んでいる」
オフィーリアの亡霊
「復讐はいけません。殿下はすでに三人の人間を殺しておられます。王の命令に従っただけのローゼンクランツ、ギルデルスターンの徒まで。このオフィーリアは自らの感情に負けて命をちぢめたのですけれど。私の申すことをおききください。煉獄はありません。亡霊はありません。それはみんな殿下の気の迷いでございます」
ハムレット
「私ははじめはそう思っていた。城壁の上で父上の亡霊を見たと偽りをいった。ところが母上のお部屋でほんとにお目にかかったのだよ」
オフィーリアの亡霊
「その時から、殿下は本当に気が狂われたのです。それがおわかりになりませぬか。オフィーリアが純潔ではない(ハムレットに官能性も持つ熱い恋心を抱いていた)ように、亡霊などありませぬ。あれは殿下の妄想です。復讐はなりません。殿下の誤りの犠牲たるオフィーリアの願い、お聞き届け下さいますよう」
ハムレット
「うーむ、うるさい奴め。そなたまで、私に逆らうのか。大望ある身に、川にはまった娘の世迷い言を聞く耳持たぬ。とっとと消え失せい」
しかしオフィーリアは消えなかった。悲しげな眼差を私の顔に据えて、ずっとそこにいた。凍り付いたように動かぬ顔貌が、いつまでも私の前にあった。その時、私はこれが夢である、と気が付いた。
(大岡昇平「オフィーリアの埋葬」)
生きることの苦しみ、誰しもの苦しみ、僕の苦しみが消えないように、僕のなかに、オフィーリアやコーディリアや神尾観鈴、そういった、悲しみを引き受けて、静かに微笑んでいるような女性が消えないでいてくれて、彼女達のおかげでこの世界で生きていられると感じます。そういった女性は、本当に、僕にとって、救いです…。
シェイクスピア全集一覧
ハムレット シェイクスピア全集 〔23〕 白水Uブックス
リア王 シェイクスピア全集 〔28〕 白水Uブックス
戦後短篇小説再発見〈3〉さまざまな恋愛 (講談社文芸文庫)
野火;ハムレット日記 (岩波文庫)
AIR ~Standard Edition~
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