2008年07月30日 21:52

ネルヴァル「廃嫡者」とデューラー「メランコリア」と運命、暗い演奏の和らぎと元気を出す音楽

マリオ・ブルネロ 「アローン」

今日は不安発作が起きなかったですが憂鬱が酷く、ショパンとかも聴けなくて、何か聴けるないか探して、マリオ・ブルネロの無伴奏チェロ「アローン」を聴いていました。独特の陰影を持ったチェロ曲をブルネロが素晴らしく弾きこなす名盤です。

憂鬱な気分のなか、ネルヴァルの詩「廃嫡者」を読んでいたら、まるで自らのようで、そして読み進めると、この詩がデューラー銅版画メランコリアと関連していると注釈に書いてあり、何か、運命のようなものを感じずにはいられませんでした…。

ネルヴァル「廃嫡者」(フランス名詩選より)

私は闇に住む者、――妻亡き者、――慰謝なき者、
廃れ果てた塔に住むアキタニア公だ。
私の唯一の星は死に、――星ちりばめた私の琵琶は、
「憂愁」の「黒い太陽」を宿している。

僕はうつ病になる前からデューラーの版画が好きで、特にメランコリアが好きでしたので、そんな大きな運命のようなものをどうしても感じずにはいられませんでした。世界は全て巨大な運命に御されており、その運命からは逃れられないと感じられます。全ては運命に呑まれ、朽ち果ててゆくのを、暗く見事な演奏を聴きながら感じておりました…。ルコント・ド・リールの「赤い星」のように、全ては巨大なる運命に御され、飲み込まれてゆくと、感じました…。

ルコント・ド・リール「赤い星」(フランス名詩選より)

死んだ「諸大陸」にかぶさる昏睡状態の大波、
そこに一世界の臨終の戦慄が走ったその大波が、
沈黙と無辺の広がりのうちに、膨れ上がる。
そして赤いサヒールは、悲劇の夜々の奥底から、
ひとり燃え上がり、血に染まる眼差しをその波に投げる。

むきだしの孤独の、はてしない空間を通して、
この、無気力で、鈍重で、空虚で、虚無さながらの深淵、
サヒール、無上の証人、海をいっそうどんよりさせ、
天をいっそう暗くする陰性の太陽が、
万物の眠りを、血みどろな眼で、いとしげに眺めている。

天才、愛情、苦痛、絶望、憎悪、羨望も、
人が夢見るもの、人が崇めるもの、人をだますものも、
「天」も「地」も、往古の「瞬間」に属するものは、もう何もない。
「人間」と「生命」の忘れられた夢の上で
サヒールの赤い「眼」は永遠に血を流す。

消えた世界のなかで、音楽は救いとしてありますね…。アローンの中ではイザイ作曲の無伴奏チェロ・ソナタハ短調作品28が心にしっとりと染み渡ってゆくのを感じます。作曲家の重い悲しみが心に流れ込んできます…。

ウージェヌ・イザイはベルギー生まれのヴァイオリニスト・作曲家(中略)このソナタはいわば、第一次世界大戦後の不安定なヨーロッパ情勢を背景にした、きわめて現代的な性格を持っている。さらに手の震えと糖尿病に苦しみ、(後の29年にはこの病気のために右足を切断している)、精神面での厳しい状況にあった作曲者の姿を反映している。
第一楽章は、全曲を象徴する暗い色調が、ねっとりとした持続で綴られる音楽。曲尾であらわれる、どこまでも上昇しようとする重音が印象に残る。第二楽章は、いくぶん軽やかなリズムを持っており、切迫する表現の合間に絶妙のタイミングでピツィカートが鳴り響く。第四楽章でようやく速いテンポに移るが、擬似対位法的な要素と揺れ動く調性が、やはり不安定な表情を伝えながら全曲を閉じる。
(「アローン」ブックレットより)

イザイの作品28を聴いていると、心が諦念に包まれた憂鬱に染み渡ってゆき、暗い闇は、音楽の力で、虚無の中に溶け込んでゆく、虚無と同化するような形で、心が少し和らぎます。

アローンは無伴奏チェロの非常な名盤でして、チェロ曲がお好きな方、暗く低音で優れた音楽がお好きな方にお勧めです。特にイザイの作品28は暗い気分の方にはぜひお聴きになって欲しいと願います。自らの暗さが、音楽の暗さと同化して和らいでいくのを感じます。

そして、気分が暗い方々は、暗い音楽を聴いてだんだん心が和んできたら、だんだん明るい、元気がでるような曲を聴いてみてください。これは音楽療法といいまして、音楽で心を癒して元気にする方法です。明るい元気な曲でお勧めはルービンシュタインの弾くショパン「ポロネーズ全曲」とか聴いているだけで元気が出て来る感じで、素晴らしい美しい演奏でお勧めです。

参考作品(amazon)
マリオ・ブルネロ 「アローン」
ショパン:ポロネーズ全曲
フランス名詩選 (岩波文庫)
デューラー『メレンコリア1』―解釈の迷宮 (作品とコンテクスト)

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