2022年08月23日 06:01
Vチューバーとペルソナ -Rapport形成の為に中の人の日常を見せる技術-
山野弘樹さんの「「VTuberの哲学」序論――多様化するVTuberと「身体」としてのアバター」読了。とても面白い研究で今後の発展を期待します。ただ、個人的には、Vチューバーで最も重要なのは、アバターの多彩さではなく、Vチューバーが中の人の日常を少しずつチラチラッと段階的に見せてゆくことで、リスナーとの間に擬似的なRapport(感情的な親密さ)を形成してゆく技術だと思うので、今回はその辺の技術について書いてゆきたいと思います。
まさにこれが重要で、なぜVチューバーが「配信者の日常的な行動や言動を明示的な形で組み込む」のかという問題です。これは実は、配信者が現実の日常的な行動や言動を見せることは、リスナーとの関係性を深める技術として機能する側面があるんですね。
これは、Rapport(感情的な親密さ)を形成するに最も効果的な方法は、日常では被っているペルソナを外して素の自分を見せている(と相手に思わせる)ことだからです。『特別な相手であるあなただけに見せる素顔の自分』ってやつです。普段は厳格な委員長タイプの子が、自分といるときだけは甘えてくる、これは自分には心を許しているからに違いない、と思い込んで、好感度が急上昇してその子に惚れてメロメロになってしまうみたいなテクニックです。まあ、それが本当に素顔かどうかは、神のみぞしるところですが(恋愛工学技術としてはメジャー)。
ホロライブやにじさんじのVチューバーには、非日常的なVチューバーとしての設定がある訳で、デビュー当初などはその設定を演じている側面が大きいですが、配信歴が長くなり、馴染みのリスナー達が出来て、人気も安定してゆくと、だんだん、配信者の日常的な行動や言動を明示的な形で組み込むファクターが大きくなってゆく。重みを置く比重が、非現実的な設定を演じることから、現実の中の人としての日常性を見せることに切り替わるんですね。これは、ペルソナ(非日常的なアバターを演じること)を外した現実の一個人としての姿をリスナーに見せることで、リスナーとのRapport(感情的な親密さ)を形成して人気と好感を高めることに非常に効果的だからです。
その点で、Vチューバーの人気と好感は、アバターの多彩さよりは、アバターの中の人の日常性を上手に見せることで、リスナーとのRapportを形成する技術の方がより大きいと自分は見ています。例えば、ぺこーらは、アバターの側面では他のホロメンよりも冷遇されている側面がありますが、アバターがより多彩な他のホロメンよりも人気は高かったりする。これは、ぺこーらは、この辺のこと(現実の自分を出すことでリスナーとの親密感を高める)に極めて意識的で、上手に人気と好感を上げていく能力があることが大きいと思う。
ぺこーらの特徴として、アバターを演じるだけでなく、現実の中の人の話を積極的に行うというのがあり、ぺこーらの中の人の現実の家族の話や、現実の猫の話や、現実の食べ物の話や、様々な現実の話をすることで、リスナーに『ぺこーらはアバターを演じるだけじゃなく、中の人の現実の話もしてくれる。ぺこーらはリスナーに心を許してくれている』と感じさせる効果を持っている。これはぺこーらの物凄く大きな強みで、Vチューバーとして大成功している大きな一因になっていることは間違いないと考えます。
ぺこーらがアバターとしてだけではなく、中の人としても振る舞うのは(猫の話とか)、リスナーにとって心地よいことなんですね。それは、『ぺこーら(の中の人)がリスナーに心を許している』と感じられるから。これはぺこーらに限らず、ホロライブやにじさんじやその他もろもろの穏健な非還元タイプVチューバー達はみんな行っている技術です。
自分は、この技術こそが、Vチューバーが成功した側面において欠かすことのできない重要な技術だと考えます。あえて非日常的なアバターと設定を作ることで、現実の中の人を見せるときに落差が際立ち、それが魅力に通じる。ツンデレで、ツン(非日常アバター)とデレ(現実の中の人の日常)の落差が大きいほど、デレを見せてくれたときに、『心を許してもらっている』感が強まり、Rapportが大きく形成される。穏健な非還元タイプVチューバーのアバターは、ツンデレのツンであり、デレ(Vチューバーが中の人の日常を見せる)がなければあまり機能しないものだと考えています。
こういう素を見せる配信が人気なことは、Vチューバーを考える上で最も核心的なことの一つだと自分は思いますね。Vチューバーにおいて重要なのは実はアバターではなく、中の人こそ重要なことを示している。
心理療法的にはRapportの形成はクライアントがカウンセラーを、カウンセラーという役職を超えた一人の人間として信頼することで形成されると見られる。実はVチューバーも同じなんですよね。アバター=カウンセラーという役職という形。
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「VTuberの哲学」序論
https://fashiontechnews.zozo.com/research/hiroki_yamano
「穏健な非還元タイプ」とは、配信者の日常的な行動や言動を明示的な形で組み込むCタイプのVTuberである。現状においてはこちらのタイプの方が圧倒的に多く、例えばにじさんじやホロライブプロダクション所属のVTuberたちは、およそ全員がこのタイプに分類される
まさにこれが重要で、なぜVチューバーが「配信者の日常的な行動や言動を明示的な形で組み込む」のかという問題です。これは実は、配信者が現実の日常的な行動や言動を見せることは、リスナーとの関係性を深める技術として機能する側面があるんですね。
これは、Rapport(感情的な親密さ)を形成するに最も効果的な方法は、日常では被っているペルソナを外して素の自分を見せている(と相手に思わせる)ことだからです。『特別な相手であるあなただけに見せる素顔の自分』ってやつです。普段は厳格な委員長タイプの子が、自分といるときだけは甘えてくる、これは自分には心を許しているからに違いない、と思い込んで、好感度が急上昇してその子に惚れてメロメロになってしまうみたいなテクニックです。まあ、それが本当に素顔かどうかは、神のみぞしるところですが(恋愛工学技術としてはメジャー)。
ホロライブやにじさんじのVチューバーには、非日常的なVチューバーとしての設定がある訳で、デビュー当初などはその設定を演じている側面が大きいですが、配信歴が長くなり、馴染みのリスナー達が出来て、人気も安定してゆくと、だんだん、配信者の日常的な行動や言動を明示的な形で組み込むファクターが大きくなってゆく。重みを置く比重が、非現実的な設定を演じることから、現実の中の人としての日常性を見せることに切り替わるんですね。これは、ペルソナ(非日常的なアバターを演じること)を外した現実の一個人としての姿をリスナーに見せることで、リスナーとのRapport(感情的な親密さ)を形成して人気と好感を高めることに非常に効果的だからです。
その点で、Vチューバーの人気と好感は、アバターの多彩さよりは、アバターの中の人の日常性を上手に見せることで、リスナーとのRapportを形成する技術の方がより大きいと自分は見ています。例えば、ぺこーらは、アバターの側面では他のホロメンよりも冷遇されている側面がありますが、アバターがより多彩な他のホロメンよりも人気は高かったりする。これは、ぺこーらは、この辺のこと(現実の自分を出すことでリスナーとの親密感を高める)に極めて意識的で、上手に人気と好感を上げていく能力があることが大きいと思う。
ぺこーらの特徴として、アバターを演じるだけでなく、現実の中の人の話を積極的に行うというのがあり、ぺこーらの中の人の現実の家族の話や、現実の猫の話や、現実の食べ物の話や、様々な現実の話をすることで、リスナーに『ぺこーらはアバターを演じるだけじゃなく、中の人の現実の話もしてくれる。ぺこーらはリスナーに心を許してくれている』と感じさせる効果を持っている。これはぺこーらの物凄く大きな強みで、Vチューバーとして大成功している大きな一因になっていることは間違いないと考えます。
ぺこーらがアバターとしてだけではなく、中の人としても振る舞うのは(猫の話とか)、リスナーにとって心地よいことなんですね。それは、『ぺこーら(の中の人)がリスナーに心を許している』と感じられるから。これはぺこーらに限らず、ホロライブやにじさんじやその他もろもろの穏健な非還元タイプVチューバー達はみんな行っている技術です。
自分は、この技術こそが、Vチューバーが成功した側面において欠かすことのできない重要な技術だと考えます。あえて非日常的なアバターと設定を作ることで、現実の中の人を見せるときに落差が際立ち、それが魅力に通じる。ツンデレで、ツン(非日常アバター)とデレ(現実の中の人の日常)の落差が大きいほど、デレを見せてくれたときに、『心を許してもらっている』感が強まり、Rapportが大きく形成される。穏健な非還元タイプVチューバーのアバターは、ツンデレのツンであり、デレ(Vチューバーが中の人の日常を見せる)がなければあまり機能しないものだと考えています。
Minecraft 35 | 廃村を救う計画始動2 村人の収容及び、役割を授けるにぇ
https://www.youtube.com/watch?v=lTH9nbr85NY
さくらみこ「うさだ〜〜〜〜!!おはよう」
ぺこーら「………なあに(配信と違う寝起きぽい素の声で)」
さくらみこ「寝起き?」
ぺこーら「違う…(配信用の声で)喋ってなかったぺこだからさぁ…」
さくらみこ「今さぁ、配信してるけどいい?」
ぺこーら「わかってるよ…だから『ぺこ』つけたんだろ」
さくらみこ「おまえ、それ言うなよ」
こういう素を見せる配信が人気なことは、Vチューバーを考える上で最も核心的なことの一つだと自分は思いますね。Vチューバーにおいて重要なのは実はアバターではなく、中の人こそ重要なことを示している。
「(Rapportとは)CL(クライアント)がセラピストに好感を持ち、暖かい感情の交流がスムーズに行われていく状態で、感情の分かち合いが出来る関係であり、また、容易に壊れることなく安定し、お互いの信頼が生じている関係である」(心理臨床家の経験知に基づくラポールの定義について)
心理療法的にはRapportの形成はクライアントがカウンセラーを、カウンセラーという役職を超えた一人の人間として信頼することで形成されると見られる。実はVチューバーも同じなんですよね。アバター=カウンセラーという役職という形。
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