2025年10月

2025年10月15日 19:29

新訳クトゥルー神話コレクション6「狂気の山脈にて」読了。凄い面白かった!!超お勧め。1巻からずっと読んでいて、全巻どれも面白いけど、本作が私的には一番お勧め。お勧めの理由はいくつかあって、編者であり訳者である森瀬繚さんの訳文がどんどん硬さが取れてこなれていって、本作では最高に読みやすく雰囲気を伝える名訳中の名訳になっていること、もう一つは個人的に好きなイースシリーズ、イースの大いなる種族と彼らの本拠地イースに関する作品群が「時を超えてきた影」を中心としてまとめて収録されていること、最も有名な代表作「狂気の山脈にて」が収録されていること、そして、次が最も大きな理由です。

SF作家として有名なアーサー・C・クラークのクトゥルー神話パロディ、狂気山脈パロディである「陰気な山脈にて」が収録されていること!これは徹底的にクトゥルー神話をコメディタッチ、ギャグタッチに変奏した二次創作パロディ小説で超面白かった。このクラークの小説では、旧支配者達、旧きもの達が、人間味溢れた親しみ易いキャラクターに変わっているのは、「這いよれ!ニャル子さん」などの日本のクトゥルー神話パロディを彷彿させるのが最高に面白い。日本のクトゥルーパロディ(クトゥルーの怪物達を萌えキャラ化する)をアーサー・C・クラークが先駆けていたのは、クラークマジ凄いと賞賛の念を禁じえないよ。

本作では、クトゥルー神話の神々は人類に友好的なんだけど、ウィアード・テイルズを読んでクトゥルー神話を知っている人々はまさにクトゥルー神話的な語彙を用いて一方的に恐がったり的外れな畏怖の念を抱いているの、ニャル子さんだけでなく、SCP財団のクトゥルー神話パロディ回SCP-2662ぽいのも面白いね。しかも本作「陰気な山脈にて」は1940年発表!!あまりにも凄すぎる。100年近く前にクトゥルー神話の二次創作パロディを先駆けすぎていてマジで流石はアーサー・C・クラークとしか言いようがない。ぜひご一読お勧めです。

言語に絶する代物だった。目鼻はなく、不定形で、完全に邪悪なそいつは、私達の行く手を塞ぎ陰険に見据えているようだった。私達は束の間、身動きも取れないほどの恐怖に襲われ、筋肉一つ動かすことができなくなっていた。やがて、何もないところから悲しげな声が響いてきた。
『ハロー。どちらから来られたので?』
『ロロロロロロロ――』パルシーが舌をもつれさせた。
『意味のあることを話してください。そんな場所はありませんよ』
(陰気な山脈にて)

森瀬繚「彼(SF作家アーサー・C・クラーク)は大学時代にアスタウンディング・ストーリーズ誌に掲載された「狂気の山脈にて」「時間を超えてきた影」に感銘を受けて彼(ラヴクラフト)のファンとなり(略)パロディ小説を執筆、SFファンジン「サテライト」第四号(1940年3月)に発表した(略)筆者(森瀬繚)は「宇宙のランデヴー」におけるラーマ内部の描写にHPL味を強く感じるのだ」訳者解説














2025年10月13日 19:40

涼元悠一「ノベルゲームのシナリオ作成技法」読了。元KEYのシナリオライターで現在はアクアプラスのシナリオライターを務める涼元悠一さんがゲームシナリオについて書いた本。とにかく本音全開で面白い本でした。ゲーム関係の仕事を目指す全ての人にお勧め。「ゲームクリエイターはゲーム会社の雇われ社員or外注のままではまずお金持ちになることはできない、自分の作るゲームの権利を自分が所有する必要がある。それにはインディー(同人)がお勧め」とか「恋愛ゲームを作るなら、現実味はいれずに、徹底して主人公に依存的なヒロインを創造せよ」とか、もう本音全開なのが面白すぎる。少し引用してご紹介。
「ゲーム業界に籍を置き、被契約者としてPCゲームを『作らせて貰っている』限り、残念ながらまず絶対にお金持ちにはなれません(略)シナリオライターに限らないことですが、創作業というのは、作品の権利を自分で握っていなければ大儲けなんてありえないのです(略)昨今の人気同人ゲームの台頭も、このこととは無関係ではないように思います」同書

「恋愛をメインとしたゲームは、なにより夢一杯の砂糖菓子であることが要求されます。そこに『味が締まるから』と塩(女性の自立等の現実味)を入れても、喜んでくれるお客さんはほとんどいないのです。例え本当に味が締まって作品全体として美味しくなったとしても、です。ですから、最初から最後まで均質に、盲目的、あるいは本能的に主人公のことを好きでいる、そういう愛玩動物のようなキャラが好まれます」同書

こんな感じで本音全開で面白い。上記の「作品の権利を自分で握っていなければ大儲けなんてありえない」は、シュライアーの米国ゲーム業界ルポタージュ「リセットを押せ」でも指摘していたね。スタデューバレーのエリック・バロンのように自らのゲームの権利者となることが億万長者への道、アメリカン・ドリームであることが現代のゲーム開発者達に意識されていると。
本書、ゲームシナリオライターを目指す方々には勿論お勧めですし、ゲームが好きな人全般にとっても面白い本と思います。クラナドの一ノ瀬ことみシナリオについて触れているので、クラナド好きにもお勧めだよ。お勧めです。最後に一番面白かったところをご紹介。
最強の『特殊演出』があります。それは、シナリオやゲームの長さそのものです。クリアーに何十時間も掛かるような超長編になると、作風が合わないような人は最初からプレイしません(略)プレイを開始してある程度まで進んだ人は、無意識にその作品に対して肯定的になる傾向があります。おそらく、長々と付き合っている自分自身の行為を否定する訳には行かない、という心理が働くからです(略)(ゲームが合わない)プレイヤーは遥か昔に脱落している訳です」同書

ゲーム批評の本質を突いている!!20万本を売り上げている今年最大のインディーゲーム話題作まのさば(魔法少女ノ魔女裁判)なんかも、まのさば大好き配信者ぺこーら(兎田ぺこらさん)が言うように、めっちゃボリュームがあるのも大きいなと感じましたね。大長編ゲームを最後までやる人は、本当に大好きな人な訳です。ゆえに大長編は熱心なファンが付き、そういったファンは次回作にも買ってくれる、面白いね。

ノベルゲームのシナリオ作成技法 第2版
涼元 悠一
秀和システム
2008-12-18


リセットを押せ: ゲーム業界における破滅と再生の物語
ジェイソン・シュライアー
グローバリゼーションデザイン研究所
2022-06-21



2025年10月10日 23:14

SF・サイード「タイガー」(東京創元社)読了。デイヴ・マッキーンによる沢山の挿絵が付いたビジュアルノベル(挿絵付き小説)。壮大なパラレルワールドSFファンタジーで面白かった!無数のパラレルワールドが存在し、それぞれが繋がっており、パラレルワールド間を行き来できる超生命体の活動やその超生命体の影響により超知覚を身に付けた各世界の人間達によって各世界は影響を及ぼしあっているアイデアの作品で、ハーラン・エリスンの「世界の中心で愛を叫んだけもの」を彷彿とさせるところが面白い。

物語の舞台は、大英帝国が全世界を専制的に支配する21世紀。現代の歴史とは全く異なる歴史を辿った世界で、民主主義や人権は存在せず、貴族が平民と奴隷を専制的に支配している。そんな世界で、パラレルワールドを渡る能力を持ち、生命体の可能性を広げることを目的とする超生命体「タイガー」と出会った主人公は、タイガーと組んで、世界を専制的に支配する貴族達の側に立ち、タイガーと逆の目的で動いている超生命体「ユリゼン」と戦ってゆくことになる。それは専制政治を打破する革命でもあるという話。主人公は画家で、革命を起こす力が主人公の描く絵(ポスター)であるのは現代的。

ファンタジー次元の話と政治の話が上手く融合しているのが面白い。また、タイガーは善良な火の鳥って感じですが、敵は、火の鳥が描くような全ての生命体が持つ根源的な愚かさではなく、タイガーと同じく超越的な存在、悪の側の超越的な存在が齎す悪であるというのが、日本的(仏教的)な火の鳥とは違う、西欧的な二元論の系譜を感じさせるのも面白い。そして何より、最後の話の膨らませ方が、ハーラン・エリスンの「世界の中心で愛を叫んだけもの」やエリスンの影響を多大に受けたエヴァンゲリオンやエヴァンゲリオンの影響を多大に受けた「まどかマギカ」ぽいのも面白かった。ぜひご一読お勧めです。良質なSFファンタジー。
タイガー
SF・サイード
東京創元社
2025-08-29



2025年10月07日 14:55

「我孫子武丸犯人当て全集」読了。本書は、我孫子武丸先生が所属していた京都大学推理小説研究会(京大ミステリ研)を始めとする各地の大学のミステリ研で行われている「犯人当て」(ミステリ研メンバーがそれぞれ出題編と解答編に分かれた自作のミステリを持ち寄り、まずは出題編を読んで推理してもらい、その後、解答編を読んで推理が当たったかを競う遊び)をテーマとしたミステリ短編集。全ての作品が出題編と解答編に分かれており、出題編を読んで推理することを楽しむパズラー(パズル的ミステリ)です。とても面白かった!どれも、フェアに推理要素が提示されており、解答編を読む前に推理して当てたり外したりが楽しい。物語としても面白く、我孫子先生のユーモアミステリ的な味わいがあるところも良いですね。ゲーム的なミステリ短編集、ミステリ好き、ゲーム好きにお勧めです。



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