2008年07月23日 19:10

今昔物語と芥川龍之介と水木しげる、そして山岸涼子

今日も心身ともに調子がよくない(ずっと続く腰痛、頭痛、不安、胃腸の調子悪し)のですが、なんとか起き上がって、芥川龍之介(カバーがない上、ボロボロすぎて買い取ってもらえなかった)の「地獄変・偸盗」を読みました。昔なんかは「藪の中」が一番面白いかなと思っていたんですが、うつ病になった今は、「六の宮の姫君」が一番心を打ちますね…。今も昔も辛い思いで心が伏せ、貧困になり、全てが疲れ果ててしまうことは変わらないな、と…。

暮しのつらいのは勿論だった。棚の厨子はとうの昔、米や青菜に変っていた。今では姫君の袿や袴も身についている外は残らなかった。乳母は焚き物に事を欠けば、立ち腐れになった寝殿へ、板を剥ぎに出かける位だった。しかし姫君は昔の通り、琴や歌に気を晴らしながら、じっと男を待ち続けてゐた。

するとその年の秋の月夜、乳母は姫君の前へ出ると、考え考えこんな事を云った。
「殿はもう御帰りにはなりますまい。あなた様も殿の事は、お忘れになっては如何でございましょう。就てはこの頃或典薬之助が、あなた様にお会わせ申せと、責め立てて居るのでございますが、……」

姫君はその話を聞きながら、六年以前の事を思い出した。六年以前には、いくら泣いても、泣き足りない程悲しかった。が、今は体も心も余りにそれには疲れていた。「唯静かに老い朽ちたい」……その外は何も考えなかった。姫君は話を聞き終ると、白い月を眺めたなり、懶げにやつれた顔を振った。
(芥川龍之介「六の宮の姫君」)

今も昔も貧困と心身の辛い疲れは変わらぬと思いました。貧困について書かれた作品では、漫画では山岸涼子さんの「鬼」、活字のノンフィクションでは「日本残酷物語」がお勧めです(「鬼」は日本残酷物語を参考に描かれた漫画です)。

今昔物語の翻案は「鼻」を代表として、芥川のお家芸ですが、今昔物語の翻案をしている人は大勢いて、そんな中に僕の大好きな漫画家の水木しげるさんもいるんですね。水木さんの翻案(漫画化)のなかに、「鼻」とか芥川と結構重なる作品が入っているんですが、水木さんの方には「六の宮の姫君」が入っていないところが(確か入っていなかったと思います。もう売ってしまったので確認取れなくてごめんなさい)、水木さんの優しさと、芥川の哀しさを、感じずにはいられないところがあるなと、両方読んで、今改めて思いました…。

水木しげるさんの今昔物語も傑作です。一読お勧めします。今昔物語のなかでも、水木さんは好んでエロティックな話を題材に取り上げており、蛇から陰部に淫気をあてられてしまう女性の話(今昔物語巻二十九「蛇女ノ陰ヲ見テ欲ヲ発シ穴ヨリ出デ刀ニ当タリテ死ヌル語第三十九」)の物語に、「蛇と女性が交わる話は他にもある」とただし書きを入れて、今昔物語以外からの、女性と蛇が交わる話を紹介し(日本霊異記中巻第四十一「女人大きなる蛇に婚せられ薬の力にて命を全くすること得る縁 」)、そのカット(蛇を愛するようになった女性と蛇が気持ちよさそうにセックスしている物語の最後の方のシーン)を凄い力込めて描いて入れているのには、芥川と違い、水木しげるさんの活き活きしたエロスを感じましたね。

僕もはやく病を治して、水木しげるさんのような活き活きしたエロスを取り戻したいです…。病だと、働けない、お金がない、お金がなければ怪我や病気でも治療もできないという、どうしようもないことになってしまうので、辛いです。腰の方も痛いのが治らなくて、でも、うつ病の治療費だけでも相当掛かってる(交通費薬代諸々合わせると一回5000円以上)のに、ギックリ腰で病院行ったら三割負担でどれだけお金取られるか不安で外科病院に行けない状態で、山岸涼子さんの漫画「白眼子」とか思い出してなんとか心慰めている状態です。この「白眼子」というのも良い漫画で、今、辛い状況にある人を慰めてくれる力のある漫画なんですね。手元になくて残念ですが、もしよろしければ、一読して欲しい漫画です。辛い心を、慰めてくれます。

参考図書(amazon)
地獄変・偸盗 (新潮文庫)
今昔物語(上)―マンガ日本の古典 (8) 中公文庫
今昔物語(下)―マンガ日本の古典 (9) 中公文庫
鬼 (希望コミックス (288))
白眼子 (希望コミックス (343))

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