2010年12月

2010年12月31日 12:40

今日は大晦日、本当に寒いですね…。生活費節約のため、暖房を使っておらず、唯一の暖房である布団から出てPCに向かってキーボードを打っている今、身体が寒くて凍えそうです…。あまりに寒くて寒さが腰にきて腰が痛いのと、お腹の調子がよくないです…。非常に寒い日が続いていますので、皆様もお身体にお気をつけください。にゃんこたんも寒いらしく、僕が布団から出たらにゃんこたんが入れ替わりに布団に入ってしまい、そのまま出てきません…。

今年は、amazonギフト券とamazonアフィリエイトを贈って頂き、本当にありがとうございました。他に収入が何もないので、生活が本当に助かりました。おかげで暮らして行けることができて、感謝という言葉では言い表せないほど、感謝しております。ありがとうございます…。今年はamazonの食品ストアがとても拡充・改善されて、amazonギフト券でamazon以外の出品者さんのものが買える様になった(お米とか普通に買えるようになった)、そして食品コーナーの品揃えが物凄い勢いで増え拡充され、食生活が改善しました。本当にありがとうございます。生活を助けて頂き、言葉では言い尽くせない感謝をしております…。ありがとうございます。

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大晦日、世相は暗いですが、一人ひとりの心に暖かさが少しでもある大晦日だと良いなと思いますね…。お身体にお気をつけて、どうか、ごゆっくりおすごしください。

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2010年12月30日 20:43

室生犀星詩集 (新潮文庫 (む-2-6))

今年もギフト券を贈ってくださり、アフィリエイトでご購入して頂き、本当にありがとうございます。おかげでなんとかにゃんこたんと一緒に無事に今年も年を越すことができて、本当にありがとうございます。とても深く、感謝しています。amazonはそば・うどんの40%セールをやっていてお蕎麦を買ったので、31日は年越し蕎麦を食べて年を越すことができそうです。本当にありがとうございます。心から深く深く感謝しております。

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現在とても寒い、身を切るような寒さですが、これから更に寒波が増し、雪も降ってきて、どんどん寒くなるようなので、皆様方、どうか、お身体にお気をつけくださいね…。僕はお金ないので(生活費ぎりぎりで交通費まったくありません)行けませんが、コミックマーケットに行かれる方は寒波と雪の降る可能性にお気をつけください。今年は、表現規制が大きく進んで、創作の未来に不安を感じさせる一年でしたが、創作の未来が、このような表現規制に負けずに、絶えることなく、ひりひりした生命力を持って進んでいくことを、僕は、望み願っております。僕が、創作について考えたり、文章を書くときに思い浮かぶ、大好きな詩、室生犀星の「はる」をご紹介いたしますね…。

室生犀星

「はる」

おれがいつも詩を書いていると
永遠がやつて来て
ひたひに何か知らなすつて行く
手をやつて見るけれど
すこしのあとも残さない素早い奴だ
おれはいつもそいつを見ようとして
あせつては手を焼いている
時がだんだん進んで行く
おれの心にしみを遺して
おれのひたひを何時もひりひりさせて行く
けれどもおれは詩をやめない
おれはやはり街から街をあるいたり
泥濘にはまつたりしている

あと、以前、ご紹介したカードキャプターさくらの廉価DVDBOX、最終BOXのSET3がでて、全部揃いましたね。見ると心がほっこりする暖かいアニメですので、アニメ好きのお方々にお勧めですね…。

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カードキャプターさくら SET3 〈期間限定生産〉 [DVD]
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今年、失業と病気で何もない僕の生活を助けて頂き、本当にありがとうございます。明日、また同じ内容でブログを書くと思います。どうか、良いお年を…。

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2010年12月29日 15:44

東のエデン (ちくま文庫)

前回、読後感の良くない傑作として、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」同人誌「俺と妹の200日戦争」や湊かなえの「告白」をご紹介しましたが、年の暮れに読後感が良くない作品で締めくくるというのも気分がよくないことですので、今回は、前回とは一転して、読後感の良い漫画、僕の大好きな漫画、杉浦日向子さんの「東のエデン」をご紹介致します。

この漫画は、明治初期を舞台に、江戸風俗を描く達人、杉浦日向子さんが伸び伸びと当時の人々の暮らしを描いた漫画です。どの漫画も読んでいると心からほっと柔かな気分になってくる優れた好短編ですが、中でも「閑中忘あり」という、明治初期の、四民平等で同じ下宿に一緒に住むことになった「元若殿様」「元侍」「商人出」「農民出」の友誼に熱い学生達と、学生達に助け出された元洋妾の女中さんや「元若殿様」の許婚の可愛らしいけど芯の強い「元お姫様」などの彼らの周囲の人々の、穏やかでゆっくりした生活を描いた連作短編が非常に傑出。漫画の中でも僕の最高に好きな作品ですね…。読後感はとても良いです。

この漫画の読後感が良いのは、登場人物たちが、明治初期という激動期に生きながら、江戸時代の倫理と、明治になって入ってきた西欧文化を和洋折衷して、独自の倫理を持って、ちゃんと生きているところが、とても伸びやかに生き生きと描かれているところですね…。倫理道徳や内面の規範は、現代では敬遠され、遠ざけられることが多く、漫画にもそれは影響して、現代の漫画はアノミー漫画がとても多いですが、杉浦日向子さんの漫画は、江戸や明治初期のような、人心一人ひとりの内面規範と、人々が折り合いをつけて生きていた姿を、とても優しく丹念に丁寧に描き、他者・社会・外部を思いやることで、自分を律するということの生活を深く感じさせてくれますね…。作品から滲み出るユーモアも美しい。裸婦のモデルスケッチをしていた画学生が裸婦を洋妾として囲っていた英国人に間男と間違えられて揉め事になるシーンで、画学生の友達の学生(元若殿)が日本語で謝罪するシーンの描写(このイギリス人には日本語は分からない)とか、漫画として本当に上手です。言葉だと上手く説明できないのが歯がゆい…。

「朋輩の不調法、ひらにおゆるしを。間男の儀は、まったくの冤罪、彼はまこと実直なる男にて、悪を働く所存なく。ただ絵の稽古熱心がすぎて。何卒。ご海容の程を」
(杉浦日向子「東のエデン」)

明治の廃仏令で、近隣の人々が大切にしていたお地蔵さんが壊されそうになったり、フランス人に身請けされて外国に行くことになった遊郭の遊女と貧乏な画学生との僅かな切ない交流とか、悲しさ、哀愁を感じさせる題材もありながら、切ないけれど決して読後感は悪くないのですね…。登場人物たちが、みんな、好感を持てる登場人物、他者や未来のために自らを律することを知っている人々であるというところが大きいのかなと思います。徳川慶喜から元若殿様が授かった葵の御紋の懐中時計を、みんなの生活費のために売ってしまった元若殿と、それを買い戻そうとする友人達の話とか、とても良いです…。

「トノサン、すまん!!金時計が売れてしまった。でも必ず探し出して…」

「いや、構わぬ」

「そうじゃない。トノサンが良くたって、ダメなんだ。…あれは子や孫に見せなけりゃ…そうしなけりゃ江戸のことが夢になってしまう」
(杉浦日向子「東のエデン」)

外部(他者や社会)のために自らを律する心が生み出す行動の美、こういう美もあるんだということを、漫画を読むお方々にはぜひ知って欲しいですね…。自分の欲望だけに生き、他者などは最初から無視するアノミー(無道徳・無規範)こそ、ニヒル(虚無的)でカッコイイみたいな風潮は、僕から見ると底が浅くて馬鹿げているようにしか見えず、好まないので…。

余談ですが、最近のアノミー漫画ですと、「惑星のさみだれ」がとてつもなく凄かったですね…。この漫画、評判が良かったので読んでみましたが、登場人物達が、わがままとかアノミーを超えて、もうこれは「無差別通り魔」と何も変わらないメンタリティの持ち主、読んでいて気分が悪くなりました…。なんだかよく分からない超人的な力を手に入れた超人達が良く分からない理由でバトルするという、大筋はありがちな展開ですが、このバトルの理由が…。この作品のメインヒロイン、超人の首領格のメインヒロインの「さみだれ」は、『自分は病気で長くないので、自分が死ぬときに地球を破壊して地球全ての生命を自分の道連れにする』という目的を達成するために動いている超凶悪な地球規模の無差別通り魔なんですね…。男性主人公の方も、そんな彼女に狂信的に従い、彼女の為なら周囲の人々の命など顧みない男で、なんじゃこりゃと読んでいて呆然としましたよ…。メインヒロインと主人公の、自分(もしくは忠誠を誓う主君)のためなら他の人間の命、あらゆる生命などどうでもいいという感性が、読んでいて心底寒気がしました。読了後、これほど返品したいと思った漫画は始めてです…。

「惑星のさみだれ」のメインヒロイン、ぶっちゃけ、手塚治虫さんのピカレスク・ロマン漫画「MW」の主人公のテロリスト結城美知夫と全く同じメンタリティです。結城美知夫もさみだれも、自分が長くないので、自分以外の全世界の全生命全てを自分の死の道連れにすることを望んでいる。ただ、さみだれの方は結城美知夫を外見は美少女にした形ですね…。結城美知夫という悪をまごうことなき悪として描いていた「MW」と違い、さみだれは結城と全く同じメンタリティのキャラクターにも関わらず、「惑星のさみだれ」では、さみだれを悪として描いていないアノミーさが、実に強烈でした…。道連れ無差別テロのメンタリティは、僕は悪以外の何者でもないと思いますよ…。外見が美少女なら、どんなに邪悪でも、その邪悪さはないことにされる世界・そのような世界の読まれ方というのは、一体どうなんだろうと、思うところはありますね…。しかも、最後まで徹底して悪を貫いた結城と違い、さみだれは、ラストでは平然と健康体になって全世界道連れ破壊計画をまるで最初から無かったことのように放棄しますし…。なんだこの薄っぺらな終わり方…と驚愕を禁じえませんでした。この漫画、ハッピーエンドと解釈されているようですが、さみだれの根幹的に結城と同じ部分・極端に自己中心的で他者の生命に一切共感できない部分は、全く変わっておらず、さみだれは再度死期が迫ることあれば再びの道連れ世界破壊をもくろむかも知れず、全生命にとっての危機は何も去っていないのかも知れませんよ…。

結城美知夫
「僕の命も長くは持たないだろう。僕が死んでしまえばもうこの地球なんざ用がないよ。だから全人類に僕につきあって死んでもらうんだ。六大州の人間を殺すには約五十万トンのMWガスが必要だ。材料を買いこみMWを作り続け貯蔵をし続ける。僕がいよいよ死を感じとった時、スイッチをおして貯蔵庫のMWを放出すればいいんだ。悪徳と虚栄にみちた人類の歴史は、僕の手で永遠に閉じるのだ。アハハハハハハハ」
(手塚治虫「MW」)

夕日
「姫はなぜ、地球を壊したいんですか?」

さみだれ
「んー。愛してるから、この惑星が欲しいねん。でも惑星と人間の寿命ってちゃうやろ?あたしが死んだ後、あたしが居ないままの地球が在り続けたら、それはあたしの所有物とはいえない。だから自らの拳で砕く。それで永遠にあたしのものにするねん」(中略)

さみだれ
「あたしが地球を壊すのをやめてもあたしにだけは未来はないねんな。昔は病弱やったって言うたことあるよなあ。なんで今こんな元気かわかる?今のあたしを生かしているのは(さみだれに超人としての能力を与えている)精霊アニマや。戦いが終わってアニマが消えたらあたしはまた余命幾ばくかって状態に戻る。だから戦いの決着がついたらアニマが消える前にすぐさまやらねばあかんのや、地球と無理心中。なあ、ゆーくん、一緒に死んで」

夕日
「喜んで」
(水上悟志「惑星のさみだれ」)

上記は「惑星のさみだれ」的には、感動的で素晴らしいシーンらしいのですが、僕には理解不能というか『ふざけんな!!』って感じですね。「惑星のさみだれ」は、なんでこんな糞餓鬼(メインヒロインさみだれ)の道連れテロに全世界の全生命が巻き込まれて死ななきゃならないのか、最初から最後まで全く説得力を呈示することができていない漫画だと思います。狂信的なさみだれ信奉者じゃない限り、さみだれの道連れテロに巻き込まれて死ぬなんてことは、『全力でお断りします』以外の何ものでもないですよ…。結城美知夫の方がまだしも、さみだれが持っている不気味な自己正当化のロジック(自分は死期が近い病弱な娘だからあらゆることが許されるべきという自己憐憫ロジック・自分の愛しているものはすべからく自分の所有物で自らの死と共に殉教すべきというおかしな思い込み)を使わずに、ただ世界を道連れにしたいと欲望しているだけなところが、分かりやすく、まだしもさみだれよりはマシであると感じますね…。結城もさみだれもどっちも(結城は毒ガスMWで、さみだれは超人的な能力で)地球規模の大規模破壊を目論み、自分以外の命を極端に蔑ろにしているとんでもない非道の悪党には違いないですが、それでも、結城の方が、おかしな自己正当化をしない分、いさぎよくてマシに感じます…。

水上悟志「惑星のさみだれ」

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余談が本題よりも長くなってしまいました…。「惑星のさみだれ」はあちこちで評判がよくて、面白いのかなと思って読んだら、究極的に胸がむかつき、お金なくて生活費捻出にひどく困っている僕は『ああ…書籍代数千円返して欲しい…』と心から思った漫画だったので、ストレスがたまっていたのかも…。「俺と妹の200日戦争」「告白」「闇金ウシジマくん」「MW」は、イヤな気持ちになるけど面白い傑作で、読了して満足感がありましたが、さみだれは読了して単にイヤな気持ちになっただけだったので…。閑話休題、話を戻しますね。

読後感なんですが、悲しい物語であっても、読後感は決して悪くないということもあります。先の杉浦日向子「東のエデン」にしても、悲しいテーマの短編はありますから…。それでも、読後感が爽やかなのは、人間の美、規範的な節度、自らを律する心といった、自らを自制して、外部(他者・社会)のために行動する、そういった、ある種の根源的な美徳を、描き出している。これは、良心や思いやり、慈しみと呼ばれるもので、それが、美と、美に連なる未来を感じさせてくれるというのがあるのだと思います。そういった、美と、美に連なる未来を感じさせてくれるものは、悲しい物語であっても、読後感が爽やかなのかなと…。

逆に、先に挙げた「俺と妹の200日戦争」や「告白」、「闇金ウシジマくん」「惑星のさみだれ」「MW」なんかは、完全に無規範に陥った世界を描いており、後者の4作に至っては自分の欲望のために他者を殺めることすら、何の規範の束縛も受けない勝手気ままで無軌道な自由が物語に無造作に置かれている。こういうのを読むと、不安になるのでしょうね…。それは、規範というものは、私達一人ひとりを守っているもので、それが無い世界では、死や暴力の恐怖に怯えなくてはならないから…。「告白」の無軌道で無差別な殺人者や、凄惨な暴力を振るってくる闇金融のヤクザや、結城のような世界の破滅を目論むテロリスト殺人者、そして結城と同じく世界の破滅、全生命の抹殺を目論み、超人的な力で人間をたやすく消し飛ばせるさみだれのような存在は、もし実際に身近に存在したら恐怖以外の何ものでもないでしょう。私達一人ひとりの生存という根幹に不安感を与える物語は、読後感がイヤな感じになるのだと思います。

読後感が爽やかなものも、読後感がイヤなものも、どちらも、物語としての面白さ・楽しさを追求して、結果としてそこに至った優れた作品ならば、どれも読む価値のあるものに仕上がります。その点で、杉浦日向子「東のエデン」は、読後感が爽やかな傑作、万人にお勧めできる、明治を駆け抜ける清風のような物語で、お勧めですね。「東のエデン」、僕の非常に好きな、美しい漫画です。心からお勧めできる作品ですね…。

「エフ、アア、イイ、イイ、デイ、ヲヲ、エム、フリードム Freedom
エル、アイ、ビイ、イイ、アア、チイ、ウワイ リベルチ Liberty!!」

「虫除けのまじないか?」

「理想郷のカギさ。『自由』と似ているけど、『勝手気まま』とは違うんだ。じつのところ、適当な訳語が見つからないのさ。ガス燈やテレガラフ(電報)みたいに、全く新しいんだ。フリードム、リベルチ。いいひびきだろう?何かこう、力がわいてくるような…」
(杉浦日向子「東のエデン」)

上記、フェリス和洋女子学校に通う庄屋のお嬢さんに憧れる学生の台詞です。それまでの身分制が廃止された四民平等で、この時代から自由恋愛の花が開いて行くわけですね…。それは「俺と妹の200日戦争」で描かれた性交の相手をとっかえひっかえする無軌道な乱痴気騒ぎとは全く異なるものです。それは恋愛を互いの自由意志による神聖で永続的な精神的契約として捉えるものでした。要するに「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者によらず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、相手を想い、相手に添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」であり、この、自分の意志で互いに愛を誓うというのは、それまでの因習的結婚観を覆す全く新しい、美しい自由意志だったのです。

恋愛至上主義とは、相手を次々に替えて恋愛を楽しむことではない。そういうのは色情狂である。初めて恋愛至上主義という言葉が出てくるのは、明治大正期の英文学者厨川白村の「近代の恋愛観」である。彼はここで、「恋愛の自由」と「自由恋愛」をごっちゃにするな、とか、次々に相手を替えるのは一人の相手さえ愛しえない不幸な人だ、とか、永続性は恋愛の本質的要素である、とか、生真面目で理想主義的なことを述べている。これこそが恋愛至上主義なのである。

要するに、門閥だの家格だのによる因習的結婚ではない両性の合意のみによる結婚を恋愛至上主義と言ったのだ。
(呉智英「マンガ狂につける薬 二天一流編」)

『理想郷のカギさ。『自由』と似ているけど、『勝手気まま』とは違うんだ。』

恋愛に限らず、こういう、他者の為に自らを律する先の自由の美しさ、爽やかさもあるのだということが、漫画を読む人に伝わると嬉しいなと思いますね…。杉浦日向子さんの漫画を気に入られたお方々には、小泉八雲さんの怪談や随筆もお勧めです。あと、「東のエデン」を気に入られたお方々には杉浦日向子さんのもう一冊の明治漫画「ニッポニア・ニッポン」も、とてもいい味の漫画でして、お勧めです。最後に、この本に寄せられている杉浦日向子さんの文章をご紹介。生前は読者にずっと隠しておられましたが、この時点で免疫系の難病で闘病しておられたことを思うと、なんとも、切なく悲しくなるとともに、改めて敬意が沸いて来ますね…。

さようなら杉浦日向子さん
http://www.chikumashobo.co.jp/top/050803/index.html
九三年、「血液の免疫系の難病なんです」と告白された。骨髄移植以外に完治する方法はなく、体力的に無理が利かないのでマンガ家を引退することなどを淡々と話してくれた。それ以来、筆を折ることになったが、江戸や明治の生活風俗をていねいに描いたマンガ作品は、今でも燦然と輝いている。これだけ時代の匂いや息づかい、それに気配までをも身近に感じさせてくれるマンガは他に例がない。筑摩書房から出ている全集や文庫に収められた傑作群をぜひ味わっていただきたい。(中略)
 振り返ってみると、健康なときも、病いとつきあうようになってからも、まったく変わらずに、生きることを満喫した人だった。そういう意味では、惚れ惚れとするような、粋で格好いい江戸の女だったと思う。

杉浦日向子「たのしいくらし」

ごぶさたしています。お元気ですか。筆無精ですみません。元気にやっております。

自転車買いました。26インチ変速機なし、アルミの軽いやつです。晴れた日は、これでどこまでも行きます。初めの二、三十分はそうでもないのですが、一時間漕ぎ続けていると、とてもいい気持ちになってきます。ジョギングやマラソンをする人に、ランナーズ・ハイという快感があるそうですが、そんなのに似ている気がします。自転車は愉快です。ペダルに乗せた足を上下させているだけで、ぐんぐん前に進みます。この単純運動は、呪文のようです。えいえい漕いでいると、額の汗が、風でスースー消えるのと一緒に、色んなことを忘れてゆきます。ハッカ糖を食べた後に、水を飲んだみたいな気持ちになります。

毎日が、穏やかに過ぎていきます。朝起きて、食事して、トイレして、自転車漕いで、風呂入って、少し酒飲んで、眠ります。無事これ名馬の伝にならえば、何事もない日々こそが最良の人生なのかもしれません。惰眠の日々を、思う存分むさぼっています。生きてここにあることを忘れてしまいそうなほど、しあわせです。

近況しらせてください。声を聞かせてください。では、今日は、この辺でさようなら。
(杉浦日向子「東のエデン」より)

東のエデン (ちくま文庫)
東のエデン (ちくま文庫)

ニッポニア・ニッポン (ちくま文庫)
ニッポニア・ニッポン (ちくま文庫)

参考作品(amazon)
東のエデン (ちくま文庫)
ニッポニア・ニッポン (ちくま文庫)
杉浦日向子作品一覧
怪談・奇談 (講談社学術文庫―小泉八雲名作選集)
明治日本の面影 (講談社学術文庫―小泉八雲名作選集)
神々の国の首都 (講談社学術文庫―小泉八雲名作選集)
日本の心 (講談社学術文庫)
光は東方より (講談社学術文庫)
水上悟志「惑星のさみだれ」
MW(ムウ) (1) (小学館文庫)
MW(ムウ) (2) (小学館文庫)
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マンガ狂につける薬 二天一流篇

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2010年12月28日 23:46

俺の妹がこんなに可愛いわけがないDVD・ブルーレイ一覧
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蛸壷屋公式サイト
http://www.takotuboya.jp/

毒のあるパロディ同人誌製作に定評のある蛸壷屋さんの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の同人誌「俺と妹の200日戦争」購入し、ただいま読了。いやあ、読んでいていや~な気持ちになりますね…。登場人物達がことごとく、アノミーでイヤな連中ばかりなのですね…。作者の蛸壺屋さんが後書きに書いている通り、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」のメインヒロイン桐乃の性格は原作でもかなりひどい性格で、他のキャラクターも一癖も二癖もある毒の強いキャラクターばかりですが、それをさらに、蛸壺屋さんの同人誌ならではの、『登場人物の嫌な部分ブースト』で、イヤなイヤなキャラクターに仕立て上げています。

蛸壺屋さんはこういう、オリジナルのキャラが持つ嫌な部分を増幅するのが本当にうまいなあ…。例えば、僕の好きな蛸壺屋さんの同人「使い魔ヤプー」シリーズ(ゼロのルイズのパロディ)だと、「ゼロのルイズ」のメインヒロインであるルイズの持つ、差別主義者としての冷酷な部分にクローズが当たっていて、貴族以外の人間は人間ではなく家畜と考える、高慢で冷酷無比なルイズになっていますが、それが不自然ではない。それは、原作オリジナルでも、ルイズの差別主義者の貴族としての一面が描かれていて、蛸壺屋さんはその面に拡大鏡を当てるように拡大しているから。それによって、ルイズのオリジナルキャラクターと繋がりを持ったまま、『冷酷な差別主義者のイヤなルイズ』というルイズの造形に成功している。この、原作オリジナルから持つキャラクターの負の側面を拡大してイヤなパロディ同人誌を作るというのが、蛸壺屋さんは職人芸的に上手いです。今回も面白かったですね。

オリジナルの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」は、元々オリジナルから、メインヒロイン桐乃の性格が酷く、他のキャラクターも性格に癖があるので、その負の部分が増幅された今回の同人誌「俺と妹の200日戦争」は、主人公の兄と桐乃を始め、本当にイヤな連中の集まりになっています。これはまるで「闇金ウシジマくん」に出てくるイヤな登場人物そのものだ…。傲慢で粗暴で、他者への気遣いや思いやりと言ったものは欠片もない、そして大口を叩くが大口に似合う実力は何もなく、ひたすら自分の欲望だけを求めるエゴイスト達、ウシジマのようなヤクザな闇金業者にカモにされて、最後は保険金かけられて海に沈められるような連中という感じです…。いやあ…僕は元々桐乃というメインヒロインが好きじゃありませんし、毒のある物語として楽しんで面白かったですが、原作の桐乃というキャラクターが好きという人には徹頭徹尾イヤな物語かも知れませんね…。

この同人誌の中で大人になった桐乃は最終的には身を持ち崩して娼婦(AV女優)になっていますが、非常に空虚、終わっているという感じが伝わってくるラストで、桐乃というキャラクターがオリジナルから持つ、心が空っぽで何もないアノミー(無道徳・無規範)の無を上手く描いていると感銘を受けました。ラストのキャラクターグッズの使い方が上手いなあ…。非常に虚無的です。桐乃は小さい頃から外見・見た目だけが自分の全てで、精神、内面、他者といったあらゆるものを、ずっと軽視してきて、そして最後は空っぽになってしまったという感じですね。自意識と外見の相克を主題の一つとした山本英夫の精神分析漫画「ホムンクルス」を思い出しました。

唯一取引できる嘘(カラダのルビ)も老いて崩れてしまえば、嘘(カネのルビ)も手に入らなくなる。そうしたらどこへ向かえばいいんでしょう…。
(山本英夫「ホムンクルス 第14巻」)

山本英夫「ホムンクルス」作品一覧

あと、メインヒロイン桐乃を始めとする主要登場人物が中学生(狂言回しの主人公は高校生)なので、中学生のどうしようもないイヤな人物像を描いたイヤな物語ということでは、2008年度週刊文春ミステリーベスト10第1位、2008年度このミステリーがすごい!第4位、2009年度本屋大賞受賞と、2008年のミステリ界を席巻した湊かなえのミステリ「告白」を思い出しますね…。これも、殺人事件の被害者の、何の落ち度もない、いたいけな幼女以外の主要登場人物達が、ことごとくイヤなイヤな連中として出てくるミステリでして、中学校が舞台ですが、本当にイヤなイヤな中学生ばかり出てくるミステリです…。登場人物が読んでいて不快になる人物ばかりで、読後感が非常にイヤな感じなので、優れた「イヤミス」(読了後、イヤな気分になるミステリの総称)であるとされています。

この「告白」に出てくる中学生達と、「俺と妹の200日戦争」の桐乃達は凄く似ているなあと思いましたね…。身勝手で、自己中心的で、他人に対する優しさや思いやりは欠片もない性格、周囲には上手く取り繕っているが、その実は自分の欲望だけで生きている獣みたいな感じが、そっくりすぎる…。上辺だけ優等生として周囲に上手に取り繕えるところとか、この「告白」の最大の主犯であろう、少年Aこと渡辺修哉と、「俺と妹の200日戦争」の桐乃はそっくりだなと…。両方とも、幻想的な親族イメージを勝手に作り上げて内面では極度に依存している(桐乃は兄に、修哉は母に)ところも、そして読後感がイヤな感じなのも同じですね。「俺と妹の200日戦争」、まさに優れた「イヤミス」ならぬ、優れた「イヤ同人誌」です。

「俺と妹の200日戦争」、この作品は、湊かなえ「告白」や「闇金ウシジマくん」のような、共感不可能なイヤなイヤな登場人物達が出てきて、破滅していくという、毒のあるイヤな読後感のある作品を読みたい方にお勧めです。蛸壺屋さんの同人誌のいつもの特徴として、今回も、桐乃がぼこぼこにされるところとか、毒があるところが一番筆が乗っていて面白いですね。僕は「イヤミス」とかの毒のある物語、救いのない物語は好きなので、面白かったです。今回のこの同人は、蛸壺屋さんの同人誌の中では先に挙げたゼロのルイズ同人誌のように、話題になったけいおん同人誌よりもずっと救いのないところが良かったです。毒のある物語が好きなお方々はご一読する価値ある作品と思います。あと「告白」はすごく面白くて、息を尽かせぬという感じに一気に読めるミステリの傑作なので、こちらも未読のお方々はぜひどうぞ。「闇金ウシジマくん」は、今回の同人や「告白」より更に物凄くダークなので、これは…、物凄くダークな作品でも平気というお方々に…。

告白
告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
コミック版 告白
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闇金ウシジマくん

最後に、本誌は18禁同人誌で、性描写もありますが、はっきり言って全くエロくないので、そちらは期待しない方がいいと思います。蛸壺屋さんは、女体をあくまでオブジェ、物質のひとつとして即物的に描く漫画家さんで、女性の裸を上手に描きますが、そこに色気という情感、性的欲望を喚起する情感は全くないので…。蛸壺屋さんの同人誌は、情感的な色気を排している即物的性描写で有名なので、蛸壺屋さんの同人誌にエロを求める人はあまりいないと思いますが…。この情感のなさ、女体に対する憧れや美の幻想が一切ないという特徴は、ほかのエロ漫画にはあまりみない特色で、僕が蛸壺屋さんのオリジナリティとして高評価するポイントの一つですね。こういった特色を持つのは、僕の知る限りでは後は町田ひらくさんぐらいしかいないかと。ほとんどのエロ漫画家さんは、どんなに女性の体を物体として即物的に描こうとしても、そこに、作家さんが持つ女体に対する賛美や憧れの情感・幻想が固有の印象として絵に入り、それがそれぞれのエロ漫画家さんの独特の味になっています。蛸壺屋さんはそういった固有の印象を排した即物的な女体を書く、数少ない書き手の一人ですね。

参考作品(amazon)
俺の妹がこんなに可愛いわけがないDVD・ブルーレイ一覧
俺の妹がこんなに可愛いわけがない書籍一覧
俺の妹がこんなに可愛いわけがないホビー一覧
告白
告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
コミック版 告白
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闇金ウシジマくん
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おとめ妖怪ざくろDVD一覧
おとめ妖怪ざくろコミック一覧
特務咆哮艦ユミハリ 1 (バーズコミックス)

イカ娘と並んで毎回楽しみに見ていたアニメ「おとめ妖怪ざくろ」最終回。これまでは普通に面白かったのですが、最終回は無理やりあまりにありがちな展開に落とし込んでいる&三下悪役の蜘蛛がはっちゃけてて(汚れ役の悪役なのに声が「永遠の17歳」井上喜久子さんというのが、オールド声優ファンとして感涙)、シリアスなのにギャグみたいな展開で楽しかったですね。

おとめ妖怪ざくろのアニメは、徹底してウェルメイド(そつのない・お約束・定型・既製品踏襲的)な出来を意識して作られているアニメですが、最終回とその前回は、ウェルメイドであろうとしすぎて、アニメのありがちな最終回を踏襲しようとして、逆にウェルメイドから逸脱しちゃってましたね。それによってシリアスなのに笑える楽しいアニメに。アニメのお約束として以下のようなものがあります。

最終回近くになると、唐突にラスボスが出てくる。

今まで戦っていたキャラの立った悪役、悪役になりきれない悪役と手を結んで、一緒にラスボスと戦うことで、これまでの戦いがうやむやになり、今までの敵とはなんとなく和解。

ラスボスを倒してハッピーエンド

これは、アニメでは、延々と繰り返されているお約束の終わり方で、最近だと、「おとめ妖怪ざくろ」の一週間前に最終回を迎えた「サムライガールズ」もこの終わり方でそつなく終わらせていましたね。「ざくろ」もこの終わり方なのですが、ラスボスのセレクトが…。

サムライガールズDVD・ブルーレイ一覧

「ざくろ」の最終回では、それまでは明らかに雑魚三下的ポジションにいた蜘蛛が突如ラスボスに大出世。悪側の本拠地である神がかりの里に反逆し、あっという間に里を全滅させていますが、ええっ…!?確か、神がかりの里って、人間より神に近い、物凄い力を持った連中が集まっている、天上世界みたいな凄いところって、アニメの中で説明していたのに…。蜘蛛って、神がかりの里を全滅させるほど力があったの!?蜘蛛は強い力を持った人間を食えば食うほどパワーアップするから、里の人間を食ってパワーアップと、後付の説明がありますが、蜘蛛の外見があまりにも面白すぎてユーモラスな、RPGで雑魚として出てきそうな外見なので、説得力を感じなかったり…。

というか、ざくろは、最終回に向かうにつれて、むりやり先の「突然ラスボス出てきて、これまでの戦いをうやむやにして大団円」に持ち込もうとしているのが見ていて分かって、設定がおかしくなってきて、これまでのそつのない出来から逸脱してきて、これはこれで面白くなる作品でしたね。最終回の一回前に出てくる神がかりの里の飯綱使い達、妖力を持たないただの人間の芳野少尉にあっさり倒されるほど弱いし…。「凄い力を持った悪党どもの本拠地」がこんな雑魚そのものな連中の集まりだったとは…。

最終回では三下悪役の蜘蛛がいきなり神がかりの里を全滅させてラスボスに大出世するわけですが、神がかりの里を潰して、無理やりハッピーエンドに持ちこむためにしても無理ありすぎだなあ…、と思いながら見ていたら、蜘蛛が三下悪役っぽさ丸出しのままで笑いました。百緑と橙橙が湿っぽく話を盛り上げているところで蜘蛛が言う、「湿っぽい三文芝居はこれで終わりかい?」の台詞破壊力強すぎ。思わず意表を突かれて爆笑してしまいましたよ。三文芝居中にこの台詞は禁句過ぎる…。

なんだろうこれ…。「おとめ妖怪ざくろ」、最終回の展開が、シリアスなんだろうけど、展開が無理やりお約束にはめ込もうとして、かえって不自然な展開になりすぎて、見ているとギャグとしか思えなくて、しかもそこに登場人物が突っ込みをいれるという、面白いアニメでしたね。あれれ…序盤~中盤は普通にそつなく出来ていたアニメだったのに…どうしてこうなった?

たぶん、ざくろの製作スタッフは、物凄くウェルメイドに作ろうとしているんですけど、その過剰なウェルメイド、お約束を外さないようにするという思考の枷が、逆にウェルメイドから逸脱した展開を作っちゃったというところが、今期のアニメでは非常に面白いなと感じさせてくれましたね。基本的にアニメはウェルメイド、既製品踏襲が基本ですが、たまにこういうのが出てくると楽しいですね。既製品を踏襲しようとして、逆にあさってのところに行っちゃうというのは、狙って作れるものではないですからね。文芸評論家の斎藤美奈子氏は、中原昌也氏の言葉を借りて、『訳の分からなさを出せるのは小説だけ』と、漫画やアニメを見下したような評論を書いていますが、これは単に斎藤美奈子氏や中原昌也氏が漫画やアニメに詳しくないだけですね。

「(現代の本は)安易な感動や予定調和の波乱万丈、シンメトリックな起承転結の構造などを伴ったウェルメイドな作品が増え」たと(島田雅彦は文学界一月号のインタビューで)述べる。(中略)同じ状況を、もっと絶望的な口調で書いているのは中原昌也である。「わからないものは偉そうで高尚だと思ったり、通向けのもとだと思ったりするこの精神の貧困さはなんだろう。みんな精神が貧しくなっている」と彼は嘆く。今後について「どうせ、漫画やアニメばかりが語られる悪い方向にしか行かないさ」。(中略)

しかし、わからなさを否定したら純文学は商売あがったりなのだ。わからなくて結構という作品、わかってたまるかという作品、わかったらおしまいだといいたげな作品。文芸誌はそうしたものの宝庫だからだ。(中略)

わからない小説に出会った場合、さて、読者はどうしたらいいのだろう。不親切だと怒る人もいよう。だけど、親切な小説ってそもそも何?(中略)はたして「わかる」ことが小説を読む目的なのだろうか。円城塔は見るからに「前衛でござい」「わからなくて結構でござる」な小説を書く作家である。(中略)

「わからない」の効用はわからなさそのものにある。私の頭はこんなに悪かったのかと愕然とする。しかし文学が、いや世界が簡単に分かると思う方が間違いなのだ。人気俳優が手がけたことで話題の某社小説大賞受賞作は、わかるものだけを並べた小説であった。
(斎藤美奈子「文芸時評」朝日新聞10/12/28文化欄より)

僕は訳が分からない作品が好きで、円城塔さんもイタロ・カルヴィーノに並んで好きな作家ですが、だからといって、『訳の分からない作品』が純文学の独壇場だと思っては困りますね。ちなみに斎藤美奈子さんが今回取り上げている円城塔さんの作品「これはペンです」は、結城恭介さんが新潮新人賞を取った前衛的なメタSFユーモア小説「美琴姫様騒動始末」が元ネタで、その後、結城さんはアニメのノベライズやラノベ作家として活躍していることとか、純文学にしか目の行かない斎藤美奈子さんは、全然知らないことなんだろうなあ…。斎藤美奈子さんが円城塔さんのことを「SF作家」ではなく、「前衛的純文学作家」としてしか捉えられないところこそが、純文学のダメなところを思い切り表しているのですよ…。

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「ねえ、外国語がペラペラって本当?」
「うん、英語とフランス語とスペイン語とロシア語と中国語とエスペラントが喋れるよ」
「ねえ、じゃあ英語でこれはペンですって云ってみてよ」

「これはペンです」

「ねえ、じゃあフランス語で云ってみて」

「これはペンです」

「ねえ、じゃあスペイン語で」

「これはペンです」

「じゃあロシア語で」

「これはペンです」

「じゃあ中国語」

「これはペンです」

「エスペラント」

「これはペンです」

「すご~い、ほんとに外国語ペラペラなんだね!!」
(結城恭介「美琴姫様騒動始末」)

美琴姫様騒動始末 (新潮文庫)

野暮を承知で上記を説明すると、文章としては全部日本語で書いてあるのに、全部別々の言葉として作中世界では理解されているところが、作中世界と現実の構造の違いをネタとしたメタギャグになっている訳ですね。円城塔さんの作品はこの芸風の極地にあって僕は好きですね。こういう前衛的構造ネタは、純文学より、SF小説(円城塔さんとか)やミステリ(先に紹介した麻耶雄嵩さんとか夢野久作とか)やアニメや漫画といった、純文学が見下してきた世界の方がずっと豊穣ですよ。

斎藤美奈子さんや中原昌也さんは、純文学だけを特別扱いして崇め奉り、「どうせ、漫画やアニメばかりが語られる悪い方向にしか行かないさ」なんてほざいて、傲慢で純文学しか見ようとしない視野の狭い態度を取るから、純文学は腐って終わってしまったのだ、あなた達のような純文学を特権化する勢力が、純文学を傲慢により腐らせたのだということが、いまだに分かっていない…。

漫画で『わからなくて結構という作品、わかってたまるかという作品、わかったらおしまいだといいたげな作品』をひとつ挙げるとしたら、富沢ひとしさんの漫画「特務咆哮艦ユミハリ」をお勧めしますね。この漫画の訳の分からなさは常軌を逸しています。この漫画の展開は、まさに『筋らしきものを書いても何の足しにもならない。この小説は解説を拒むのだ』(by斎藤美奈子)な、説明しがたい訳の分からなさです。時間と空間がめちゃくちゃになっている世界の話でして、何もかもめちゃくちゃで混沌としていて、そこが面白くて僕は好きな漫画ですね。ただ、ちょっとグロテスクな描写があるので、グロテスクな描写が嫌いという人は避けた方がいいかもです。

『訳の分からない漫画ランキング』

というのがあったら、僕はこの作品を一位に推薦しますね。そのくらい訳がわからなくて、しかも、なぜかぐいぐい読ませる、読んだ後も印象に残るという…。前衛的なわけの分からない作品が好きな人、SF好きな人にはお勧めの漫画ですね。ちょっとゲームの「東方見文録」を彷彿とさせるかもです。

特務咆哮艦ユミハリ 1 (バーズコミックス)
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特務咆哮艦ユミハリ 2 (バーズコミックス)
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特務咆哮艦ユミハリ 3 (バーズコミックス)
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特務咆哮艦ユミハリ 4 (バーズコミックス)
特務咆哮艦ユミハリ 4 (バーズコミックス)

ウィキペディア「東方見文録」
『東方見文録』は、1988年11月10日にナツメから発売されたファミリーコンピュータ用ゲームソフト。ジャンルはアドベンチャーゲーム。(中略)パッケージに「ニューウェーブ・サイケデリック・アドベンチャー」と銘打っている通り、狂気的で不条理な物語が展開される。

ゲーム探検倶楽部ゲームレビュー #105 東方見文録(ファミコン)
http://park18.wakwak.com/~kuwano-h/game/new-105.html
1.まさしくニューウェーブ
このゲームには、「こういうゲーム展開もあるんだゼ!!」という開発者の声が聞こえてきそうな、まさしくニューウェーブなゲームです。これまで、これほど狂った、そしてキケンなゲームはあったでしょうか。

あと、本題と全く関係ない余談ですが、以前から気になっていたゲーム「ニノ国」ついにamazonで3400円に。ゲームとして評判いいですし、ああ…もう買ってしまいたい…。でも、お金なくて生活厳しいのと、待てばもっともっと安くなる可能性があって…、迷いますね…。「ニノ国」プレイしてないので、僕の判断はできないのですが、評判良くて面白そうなRPGなので、RPGが好きでまだ買ってないゲーマーさんにはいいかもです…。ちなみに僕が実際にプレイしたRPGで今年一番お勧めできるのは、「ラジアントヒストリア」ですね。

二ノ国 漆黒の魔導士(魔法指南書 マジックマスター 同梱)
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ラジアントヒストリア 特典 オリジナルサントラCD/下村陽子付き
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参考作品(amazon)
おとめ妖怪ざくろDVD一覧
おとめ妖怪ざくろコミック一覧
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2010年12月27日 00:58

ほしのはじまり―決定版 星新一ショートショート

新井素子さんが編者としてセレクションした星新一さんの傑作選集「ほしのはじまり」をたった今、読了しました。星新一さんのショートショートを子供の頃から何度も読んでおり、読み返すのはこれで何度になるか知れませんが、何度読んでも楽しめますね…。星さんの愛弟子である新井さんが丹念にセレクトした作品だけあって、どの作品も星さんの作品の中でも秀逸なもので、全編心から楽しめる良書です。

そして、この本を読んでいて特に嬉しかったのは、単行本初収録の星新一さんのエッセイ集「星くずのかご」が収録されているんですね。このエッセイ、この本で初めて読みました。僕は星さんの大ファンで、星さんの本は片っ端から読み、星さんがお亡くなりになったときは、星さんの本になっている文章は全て読みつくしてしまったから、もう星さんの新しい文章は読めないんだ…と悲しく思っていましたが、それが良い意味で覆されてまして、初めて読む星さんの文章に出会え、とんでもなく凄く嬉しいなあと…。楽しいエッセイ集です。このエッセイを読めるだけでも、読んだかいがありましたね…。

このエッセイ集「星くずのかご」の中で、星さんが音楽への思い出を率直に語っているのも、音楽好きとして胸が暖かくなる嬉しいことでした。星さん自身も述べていますが、星さんが自身の音楽の趣味について語っているエッセイ、おそらく、これだけじゃないかな。抜粋引用してご紹介致しますね。

星新一「星くずのかご No.7 音楽について」

音楽について書くのは、たぶんこれがはじめてである。中学の時(昭和14-18)、醍醐忠和という友人がいた。いまでもつきあっている。私に名曲鑑賞なることを教えてくれたのが彼である。あと二人ほど仲間をこしらえ、日曜日に学校の音楽教室のプレイヤーを使わせてもらい、彼の持ってきたレコードを聞いた。そのころはプレイヤーなどとは言わず、電気蓄音機と呼んでいた。

ほかにたいした娯楽のなかった時代である。何回か続けているうちに、音楽とはいいものだなと思うようになった。最初に聞かされたのは、チャイコフスキーだったようだ。醍醐はそのファンで、とくに「悲愴」交響曲を絶賛していた。

そんなことがきっかけで、私も父母にねだってプレイヤーを買ってもらい、こづかいをためてレコードを買うようになった。友人達とレコードの貸し借りをするようになり、いろいろな名曲に接し始めた。シューベルトの登場する映画「未完成交響楽」も醍醐と一緒に見に行った。音楽会にも時たま行った。貸し借りをするレコードは交響曲が多かった。だれでもはじめは、そのへんからであろう。また、中学生の思考として、同じ値段なら大勢で演奏している盤を買った方が得だ、ということもあったようである。

ベートーベンの「田園」は明るくて楽しいし、「英雄」はいわずもがな、「第七」には躍動美があり、第八は小品である点が面白い。いささか疲れさせられるが、「第九」は名作である。しかし、「運命」だけは全曲を通して聞いたことがないのである。もちろん、あの発端の部分は知っているが、その先は知らないのである。友人が貸してやると言っても、断った。あまりに有名すぎることへの抵抗である。あまのじゃく的性格が、そのころからあったようである。今日にいたるまで、いまだに運命を聞かないでいる。こんな人間は珍しいのではないだろうか。

モーツァルト、ブラームス、「新世界」のドヴォルザーク。こういった名に接すると、反射的に中学時代を思い出す。レコード屋にすすめられ、ラロの「スペイン交響曲」を買ったこともあった。どんな作曲家かよく知らないが、いやに新鮮な印象を受けた。真紅のジャケットも美しく、友人達に課して好評だった。もっとも、これは性格にはバイオリン協奏曲である。

バイオリンやピアノの協奏曲も、かなり聞いた。毎日のようにレコードをかけていた。あとは読書ぐらいしかすることがなかったのだ。昭和16年に日米開戦。いい時代だったとはお義理にもいえないが、おかげで私は名曲に親しむことができたのである。

高校(旧制)に入ってから、好みに変化が起こった。「運命」を除いて、シンフォニーを聞きつくしたのである。友人にすすめられ、シューベルトの「鱒」のレコードを買った。ピアノと四つの弦楽器による室内楽である。わかりやすく親しみやすく、ずいぶんくりかえして聞いた。それからしばらく、モーツァルトやベートーベンの弦楽四重奏のたぐいに熱中し、つぎにベートーベン、シューマン、ショパンなどのピアノ曲に興味を持った。

そのうち、どういうわけかドビュッシーのピアノ曲が面白くなった。それまでのと変わった傾向のものだったからだろう。

こう思い出してみると、名曲とともにすごした時間は、結構多かったわけである。シューベルトの「冬の旅」もなつかしい。しかし、歌劇はあまり好きになれなかった。序曲はいいのだが、あの声は私の肌にあわない。

クラシックと呼ばれるものは、いずれも名作である。

しかし、欲にはきりがない。まだ聞いてないなかに、これこそ名作中の名作と呼べる音楽があるのではないか。そう思いながら鑑賞をくりかえしているうちに、ついにそれにめぐりあった。

ベートーベンの「大公三重奏曲」である。こんな名曲があったのかと感嘆させられた。神韻縹渺とはこのようなものへの形容だなと知らされた。当時は漢字制限などなかったのだ。なんともいいようのない、すぐれたおもむき、という意味だが、これだけは漢字で書かないとムードがでない。

難解なところは、まったくない。ベートーベン特有のあの力強さが抑えられ、限りない深みを作り出している。高貴にして明瞭、美の林の中をさまよっているような気分になる。聞くたびに、ため息がでた。

ピアノがコルトー、バイオリンがティボー、チェロがカザルス。いずれもたぐいまれな名手である。そのせいでもあろうが、人類の作り出した芸術のなかで、この曲にまさるものはないのではなかろうかとさえ思った。

戦争の末期である。東京への空襲も多くなった。そんななかで、私は毎日のようにこのレコードをかけ、聞いていた。いつ死ぬかわからぬ状勢。しかし、生きている間に、このような名曲に出会えたのだと思うと、ひとつのなぐさめにもなった。(中略)

(戦後)突如として、私は楽器をいじってみたくなった。空襲で焼かれないようにと、よそにあずけておいたピアノが戻ってきたのである。ひいてみたくなるもなるではないか。級友の紹介で、音楽学校の女の人に週に一回来てもらうことにした。

正攻法である。まさに涙ぐましいほどの努力をした。(中略)ついにバイエルを卒業し、つぎに一段上のチェルニーに入った。そして、その十番にいたって、とうとう力つきた。あまり面白くないのである。楽譜をみて、その通りにキーを叩くだけ。英文タイプを打っているようなもの。やはり楽器というのは、幼いことからはじめないとだめなようである。(中略)

「小説家とは不思議なものだ。どうして、ああつぎつぎと作品が書けるのだろう」と時たまいわれるが、私にいわせれば、ピアノを弾く人がかくも多く存在していることの方が、はるかに不思議である。あれほど私が苦心し、できなかったことなのに。きっと、やつらの神経は、うまれつきどこか私とちがっているにちがいない。(中略)

「星くずのかご No.15 年月」

話は変わるが、このところ私には驚きが多いのである。まず、音楽鑑賞を再開した。騒音公害を起こさないようにと、ヘッドホーンを使うことにし、国産の最高級品を奮発した。それにアンプとカセットデッキを買った。テープで聞こうというわけである。とりあえず「カルメン組曲」を買い、ためしに聞いてみた。そして、飛び上がるほどに驚いた。

普通の人には、なぜかわかるまい。前にこの月報(「星くずのかご 音楽について」)で書いたが、私の音楽鑑賞は終戦を境に中絶していたのである。そのあいだに、録音と再生のメカニズムが、かくもすばらしく発達していたとは。これは三十年の中断の体験者の実感である。

ヘッドホーンはスピーカーより鋭敏だそうである。もう、曲そのものよりも、演奏を耳にするだけで、ただただ感嘆してしまう。眠る前に頭を休ませるつもりで買ったのだが、すっかり興奮してしまった。何回も何回も「カルメン組曲」を聞きなおした。予想もしなかったことである。(中略)

この調子だと、ベートーベンを聞いたら、もっと興奮し、頭を疲れさせる結果になりそうである。ある人から「ヘッドホーンは中毒になるよ」と注意されたが、そうかも知れない。私の音楽鑑賞は、新しい選曲ではじめなければならないようである。
(星新一「ほしのはじまり」)

星さんのショートショート大好きにして、クラシック音楽大好きな僕としては、読んでいて、なんとも嬉しくなるエッセイでしたね…。星さんが紹介している「ピアノがコルトー、バイオリンがティボー、チェロがカザルスのベートーベン「大公」」は、有名なカザルス・トリオによる演奏ですね。下記のアルバムで聞けますよ~。
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」/他 (ティボー/カザルス/コルトー)(1926 - 1927)
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」/他 (ティボー/カザルス/コルトー)(1926 - 1927)

今、この「大公」を聞きながらこの文章を書いているのですが、この曲は大仰なところや技巧走ったところのない、綺麗に美しく小ぢんまりと纏まった軽やかな小品です。星新一さんは、机の上に置く可愛らしい小物を集めるのが趣味の一つであるいうことを、このエッセイ「星くずのかご」に書いていますが、ショートショートという、小さい美しく纏まった小説形式と、こういった美しい小品の音楽の愛好や、小さな小物が好きという趣味は、星さんの人間らしい心の繋がりを感じさせてくれて、嬉しくなりますね…。

ちなみに「大公」は、村上春樹「海辺のカフカ」で、重要な役割の曲だったので、IQ84でヤナーチェクのシンフォニエッタが売れたように、海辺のカフカの影響によって、日本では結構売れた曲ですね。星さんはご自分でも書いておられるとおり、有名なものよりもマイナーなもの、大きいものより小さいものを愛好されておられたので、たぶん、「大公」のこういう売れ方は、もし生きてらっしゃったら、あまり好まなかっただろうなとは思いますが…。まあ、いい曲が大勢の人々に聞かれるのは、良いことだと僕は思いますね…。

彼は眼を閉じ、静かに息をしながら、弦とピアノの歴史的な絡み合いに耳を澄ませた。クラシック音楽を聴いたことはほとんどなかったが、その音楽は何故か心を落ちつかせてくれた。内省的にした、と言ってもいいかもしれない。(中略)

「音楽はお耳ざわりではありませんか?」
「音楽?」と星野さんは言った。
「ああ、とてもいいお音楽だ。耳ざわりなんかじゃないよ。ぜんぜん。誰が演奏しているの?」
「ルービンシュタイン=ハイフェッツ=フォイアマンのトリオです。当時は、『百万ドル・トリオ』と呼ばれました。まさに名人芸です。1941年という古い録音ですが、輝きが褪せません」
「そういう感じはするよ。良いものは古びない」(中略)

「ベートーヴェンの『大公トリオ』です」
「なかなかいい曲だね」
「素晴らしい曲です。聴き飽きるということがありません。ベートーヴェンの書いたピアノ・トリオの中ではもっとも偉大な、気品のある作品です」
(村上春樹「海辺のカフカ」)

ベートーヴェン:大公トリオ
ベートーヴェン:大公トリオ

『良いものは古びない』、音楽もそうですが、星新一さんのショートショートを読んでいると、このことをはっきりと感じますね…。

星さんの作品は、古くならないです。
だって、星さんは『人物を描写』せずに、『人間の本質』を描いていたんだもの。
これは古くなりようがありません。
晩年の星さんの作品は、微妙に寓話のようになってゆきましたが、なんかそれ、当然の帰結のような気がします。
イソップの寓話は、永遠に古くなりません。
時代背景や社会生活が変わっても、イソップはいつでもイソップだし、星さんも、いつまでも星さんです。
(新井素子。「ほしのはじまり」より)

「ほしのはじまり」、お勧めの良書ですね。星さんの作品の中でも粒ぞろいの優れた作品の揃った、星新一さんのショートショート好きには、心からたまらない素敵な本です。
ほしのはじまり―決定版 星新一ショートショート
ほしのはじまり―決定版 星新一ショートショート

参考作品(amazon)
ほしのはじまり―決定版 星新一ショートショート
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」/他 (ティボー/カザルス/コルトー)(1926 - 1927)
ベートーヴェン:大公トリオ

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2010年12月26日 17:56

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本企画の漫画版元ネタ「マンガがあればいーのだ。 全3誌の「2010マンガランキング」に全て選ばれた、ベスト11作品+α!」
http://mangaen.blog30.fc2.com/blog-entry-717.html

さて今年ものこりわずか。終わる前に今年のミステリを振り返るということで…
毎年恒例となりつつある、各雑誌のミステリランキングを今回まとめました。大賞雑誌は以下のとおり。

「このミステリーがすごい!」
「週刊文春 ミステリーベスト10」
「本格ミステリ・ベスト10」
「ミステリが読みたい!」
(全て2011年度版)

それぞれ特色のあるランキングになってるだけに、この4誌複数から選出される作品はすごいんじゃないか!?
という思いから、こういった総合ランキングを個人的に作ってみた次第です。

もちろん各誌のランキング選出形式が全然違うだけに絶対的なものではないのです。
が、選ばれた作品にはそれだけの「面白さ」が詰まってる作品ばかり。どれも納得の作品たちです。

ランキング紹介の前に、上記で挙げた4誌の特色をかんたんにご紹介します。

■このミステリがすごい!
このミステリーがすごい! 2011年版
このミステリーがすごい! 2011年版

 ⇒宝島社より発行。毎年一番注目を浴びます。
このランキングを元に書店では特設コーナーやPOPが張られる事が多いですね。選出の幅が広く、メジャーなミステリからラノベミステリまで硬軟合わせて入り乱れるランキング。

■週刊文春 ミステリーベスト10(文春年末年始号の毎年の企画)

週刊文春の一年を締めくくる毎年の好企画。週刊誌の文春は安いので僕のような貧乏人にはありがたい。選択基準は硬派で、確りとしたミステリが選ばれる印象があります。

■本格ミステリ・ベスト10
2011本格ミステリ・ベスト10
2011本格ミステリ・ベスト10

探偵小説研究会が毎年原書房より出しているミステリ・ベスト10。極めてマイナーかつマニアックな良質ミステリを紹介することが多い、通好みのセレクション。このランキングが僕は一番好きです。

■ミステリが読みたい!

ミステリが読みたい! 2011年版

特徴のないのが特徴なランキング。基本的に内容が安定かつ売れ筋のミステリから選ばれることが多い感じ。安定した質のミステリが読みたいというお方々にお勧め。

というわけで上記4誌の中に複数選出されてる作品をまとめて、
総合ランキング付け!!

基準&ルールは下記の通り。

全誌、1位から10位までに、1位10ポイントから10位1ポイントとしてポイント加算で人気割り出し。

例えば

「このミステリーがすごい!」 1位
「週刊文春 ミステリーベスト10」 9位

だったら、1位の10ポイント+9位の2ポイントという形で、12ポイントという形です。

この計算結果に基づいた総合ランキングを出してみました。

マニアから一般まで、より幅広く支持されてる作品は一体どれなのか?

今年のランキングから読み解いてみました。
あくまで総合ランキングということで複数誌に重なって選ばれた作品が対象です。
今回その対象となるのは11作品。

まさに珠玉の11作品はこれだ!それではドーゾ。

総合9位 「謎解きはディナーのあとで」(東川篤哉) 3ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」10位 1P
「本格ミステリ・ベスト10」 9位 2P
謎解きはディナーのあとで
謎解きはディナーのあとで

ライトノベル風味のとぼけた味わいが楽しい、読みやすいユーモアミステリ。肩の力を抜いて読むのにぴったりです。

総合8位 「小暮写真館」(宮部みゆき) 7ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」7位 4P 
「このミステリーがすごい!」8位 3P
小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
小暮写眞館 (100周年書き下ろし)

ベテラン作家宮部みゆきさん、流石のランクイン。新味はないですが、安定した出来です。

総合7位 アルバトロスは羽ばたかない(七河迦南) 8ポイント
「本格ミステリ・ベスト10」 5位 6P
「このミステリーがすごい!」9位 2P
アルバトロスは羽ばたかない
アルバトロスは羽ばたかない

第18回鮎川哲也賞受賞作「七つの海を照らす星」の続編。普通に良い出来のミステリです。

同着、総合6位 マリアビートル(伊坂幸太郎) 13ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」3位 8P
「このミステリーがすごい!」6位 5P
マリアビートル
マリアビートル

ミステリというよりはサスペンスタッチのピカレスクロマンみたいな感じ。面白いです。いずれ映画化されそうですね。

同着、総合6位 綺想宮殺人事件(芦辺拓) 13ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」8位 3P
「本格ミステリ・ベスト10」 4位 7P
「ミステリが読みたい!」 9位 2P
「このミステリーがすごい!」10位 1P
綺想宮殺人事件
綺想宮殺人事件

4誌全てにランクイン。僕は未読です…申し訳ないorz

総合5位 シューマンの指(奥泉光) 15ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」5位 6P
「ミステリが読みたい!」 8位 3P
「このミステリーがすごい!」5位 6P
シューマンの指 (100周年書き下ろし)
シューマンの指 (100周年書き下ろし)

これも未読です…。申し訳ないです…。クラシック好きとして、読んでみたいですね…。

総合4位 水魑の如き沈むもの(三津田信三) 17ポイント
「本格ミステリ・ベスト10」 3位 8P
「ミステリが読みたい!」 6位 5P
「このミステリーがすごい!」7位 4P
水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)
水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ)

これまた未読…。本当に申し訳ないです…。

ここからいよいよベスト3の発表です。

総合3位 写楽 閉じた国の幻(島田荘司) 18ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」6位 5P
「本格ミステリ・ベスト10」 7位 4P
「このミステリーがすごい!」2位 9P
写楽 閉じた国の幻
写楽 閉じた国の幻

これまた未読…。もうだめだ…。これじゃミステリ好きなんて名乗れない…orz

総合2位 隻眼の少女(麻耶雄嵩) 28ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」4位 7P
「本格ミステリ・ベスト10」 1位 10P
「ミステリが読みたい!」 7位 4P
「このミステリーがすごい!」4位 7P
隻眼の少女
隻眼の少女

僕の大好きな作家、麻耶雄嵩さんの新作。今回も麻耶雄嵩さん独特の叙情的かつ奇怪なドグラマグラ的世界が圧倒的に面白いです。お勧めです!!僕の個人的には圧倒的ダントツで1位です。

同着、総合1位 悪の教典(貴志祐介)  29ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」1位 10P
「ミステリが読みたい!」 2位 9P
「このミステリーがすごい!」1位 10P
悪の教典 上
悪の教典 上

悪の教典 下
悪の教典 下

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貴志祐介さんは読ませる筆力が物凄くあり、非常に面白かったのですが、その…これなんてエロゲ?鬼畜エロゲにありがちな主人公&ストーリー展開なのには、なんとも言えない気分になりました…。エロゲーマーならデジャブを感じずにはおれないかと(^^;

同着、総合1位 叫びと祈り(梓崎優) 29ポイント
「週刊文春 ミステリーベスト10」2位 9P
「本格ミステリ・ベスト10」 2位 9P
「ミステリが読みたい!」 7位 4P
「このミステリーがすごい!」4位 7P
叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)
叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

未読です…。これ凄く面白そうな短編集で読んでみたいのですが、お金がなくて本が買えない…ああ…orz

ランキングをまとめてみた感想としては、自分が如何に近年のミステリを読んでないか分かって、大ショックでした…。1位の「叫びと祈り」を読んでいないことに、物凄くショックと絶望が押し寄せてきて…。自分にまとめる資格があるのか自問自答するほどに、読んでいない…orz

ミステリって値段が高いですから、失業していて病気療養中なので、なかなか買えないのですね…。人気のあるミステリは図書館で何百人待ちとかになっていて、読むのが物凄く大変です…。上記で読んだミステリも、図書館利用&本屋さんで物凄く懸命に立ち読みしたものが多く(悪の教典と隻眼の少女は購入しました)、懸命に立ち読みしていたら、ひどい腰痛になってしまいました…。貧乏だと趣味も制限されて辛いです…。もしよろしければ、アフィリエイトでご購入してくださったり、ギフト券をne.ko.tan@hotmail.co.jpに贈ってくださったりして頂けると、本が買えて、物凄く助かります…。

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でも、まだミステリは月に数冊は読むので継続的に読んでいる方で、SFとか全然読んでない…うう…。病気になってから、心身の衰弱と生活費の窮乏で読書量が十分の一以下になってしまいました…orz 読む量が減ったことで、書くのもうまく行かなくなり(インプット・入ってくる情報量が少ないと、アウトプット・書くことがうまくゆかない)、本当に申し訳ないです…。今年読んだSF、「スティーヴ・フィーヴァー」「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」「時の娘」「もいちどあなたにあいたいな」「ハーモニー」くらいしか思い浮かばない…。もうだめだ…orz

音声は絶え、映像は消え、静寂が残る。
(オールディス「見せかけの生命」「スティーヴ・フィーヴァー」より)

スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
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ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
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ワイオミング生まれの宇宙飛行士 宇宙開発SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
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時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫)
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もいちどあなたにあいたいな
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ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
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聖☆おにいさん(6) (モーニングKC)
聖☆おにいさん作品一覧

一昨日、昨日、クリスマスイブ・クリスマスでしたが、僕の生活においては、いつもと違うことは何一つ起きないまま、いつもの日々と同じく胸に不安な暗雲垂れ込めたまま終わってしまいました…。なんだか凹みます…。少しでも、聖なる気分があるといいなあと思って、クリスマスの日は仏陀&イエス・キリストの生活を描いた中村光「聖☆おにいさん」の最新刊第6巻を読みました。いつもと変わらず安定した出来の面白いキリスト教&仏教パロディ漫画です。以前の巻に比べると、ちょっとですが、絵柄が荒れてきている感じがするのが気に掛かりますが、これぐらいなら、まあいいかなと…。

今回面白いなあと思ったのは、「聖☆おにいさん」、話が進むに連れ、イエス・キリストの性格がだいぶ変わってきていることですね。仏陀は1巻から6巻まで、ずっとマイペースで人の良い、変わらぬ人物像ですが、イエス・キリストの性格は1巻に比べると変わってきているのが面白いなと。最初の頃のイエスは仏陀と同じく、人の良さが前面に押し出された性格でしたが、今回読んだ第6巻になるとかなり性格が変わっていて、普段から常にアグレッシブで、プッツンすると攻撃的になってしまう性格になっていますね。

たぶんこれは、作者の人がキリスト教の歴史とイエス・キリストの人物像を勉強して、史的イエスの資料を読み込んだ結果なのだろうなあと思いましたね…。実際のイエス・キリストは、現在のキリスト教史の研究では、キリスト教会が長年掛けて作り上げた「優しげな博愛の人のイメージ」というものとはだいぶ違い、その実は、かなりアグレッシブで先鋭的なカリスマ宗教指導者、当時の体制(ローマ及び正統ユダヤ教)と対立する革命的宗教組織の強い指導者だったと考えられていますから。死海文書やナグ・ハマディ文書などの、キリスト教会の焚書を免れた古代の文献が20世紀に発見されたことで、イエス・キリストの研究は大きく進展し、そこから導き出されるものは、どうやらイエス・キリストは、ローマ及び当時の正統ユダヤ教と対立する教義を持つ、かなり先鋭的・革命的なユダヤ教の宗教組織(エッセネ派・クムラン宗団)において、重要なメンバー(イエスがダヴィデ王の血筋である場合、その血筋が尊重された可能性が考えられる)であり、そこからキリスト教に繋がっているということですね。

ウィキペディア「史的イエス」
史的イエスとは、キリスト教の開祖とされるナザレのイエスについて、キリスト教信仰の観点を排除し、史料批判など歴史学的な手法を用いて探究される歴史上の人物像のことである。

史的イエスには色んな説があるんですが、共通していることとしては、イエス・キリストは単に柔和な博愛を問いだだけではない。彼は当時のローマ及び正統ユダヤ教の体制に対して反逆的な宗教思想を主張し、なおかつ支持を受けるカリスマ性を持った、初期キリスト教の重要な指導者の一人であっただろうということですね。史的イエスの研究では、イエスはキリスト教会の作り上げたイメージである「博愛の人」というよりは、「アグレッシブな革命家」として考えられていることが多いです。

聖☆おにいさんの作者である中村光さんはこういった資料を読んで、作品に出てくるイエス・キリスト像を、キリスト教会のイメージのイエス(キリスト教徒の人々がイメージとして抱く博愛主義者としてのイエス)から、史的イエス(実際のイエス、体制に反逆する革命家的な宗教指導者としてのイエス)の方へだんだん転換してきているのが読んでいると分かって、面白いですね。今回の第6巻では、ユダの福音書の話や、ローマ順応派であったユダヤ地区の統治者ヘロデ王に対して怒っているシーンとかあって、体制に反逆する革命家イエスという側面がこれまでの巻に比べ、より強く出ていて面白いなと思いました。もう一人の主役である仏陀の方は、仏陀は体制と正面からぶつかるようなことは避け、心の平安を説いた宗教指導者なので、1巻からずっと平和な性格は変わりませんが、イエス・キリストは最初の頃のお人よしだったイエスに比べると、性格がずいぶん変わったなあと…。第6巻のイエスは、このままクリスチャン・ロックのスターになれそうです。

パロディであっても、いい加減に描くのではなく、きちんとキリスト教資料・仏教資料を読み込んで、今回のように史的イエスを描こうとするのは良い取り組みだと思いますね。優れたパロディは、パロディ元となるオリジナルへの敬意とオリジナルへの深い理解を必須としますが、「聖☆おにいさん」はそれらの意欲が感じとれる良い漫画ですね。パロディは、読み手も、パロディ元への知識が深ければ深いほど楽しめますから、聖☆おにいさんを楽しむために、宗教を学ぶ(信仰するのではなく、知識研究として学ぶ)というのも、良いことだと僕は思いますね…。

「聖☆おにいさん」宗教と日本風土

(聖☆おにいさんは)日本漫画ならではの宗教パロディのギャグ漫画で、単行本第一巻の帯にも「こんな漫画見たことない!!」とある。なにしろ、イエスと仏陀が長期休暇を取って世俗界の日本に降りてきて、安アパートをルームシェアしているという設定なのだ。(中略)

日本漫画ならではといったのは、外国では宗教パロディは要注意だからである。(中略)(イエス・キリストをパロディ化したら)アメリカ南部の原理主義者の多い地方などでは大騒ぎになる。(中略)仏教でも小乗仏教圏では、仏陀のパロディはまずいだろう。タイでは日本漫画が大人気だが、「聖☆おにいさん」だけは出版されまい。

日本の宗教的寛容さは、しばしば無節操として否定的に語られるが、こうしてみるとあながち悪いばかりでもない。信教の自由は、権利・義務という無機的な概念ではなく、むしろ風土や民族性に関わっているのかもしれない。

「聖☆おにいさん」の面白さは、設定の妙と共に(宗教の)小ネタの連発にある。キリスト教や仏教の教義や習俗があちこちにひねってはめ込まれている。商店街の福引を引く仏陀が、息をつめて「南無三!!」と口走るところなど、小ネタとして秀逸である。(中略)

パロディには、共有される教養が必要である。何をどうひねっているのかわからなければ、笑おうにも笑えない。「聖☆おにいさん」は、かなり高級なパロディである。仏教とキリスト教の知識が、初歩的なものにしろ、ある程度ないと笑えないからだ。これを機会に、仏教とキリスト教の概略を知っておこう。西洋的思考・東洋的思考の基礎、東西両文明の骨格を知ることになる。(中略)

まずは網羅的・概括的な本が良い。1956年の第一版以来ロングセラーになっている渡辺照宏「仏教」を薦めておこう。

仏教 (岩波新書)

「仏教」は、仏陀の生涯に紙幅の半分ほどを割き、きわめて人間的な仏教像を平明に呈示している。特定宗派の仏教解釈に偏ることもなく、御利益を強調することもない。死を前にした80歳の仏陀は、特別に手厚い看護も受けず、下痢と渇きの中で衰弱していく。そこに何の奇蹟の起きる訳でもない。常人と同じ平凡で静かな死の情景である。ただ、そんな普通の肉体をした仏陀が最後まで法(ダルマ)を説き、精神の自由を保ちえたことが奇蹟なのだ。

手塚治虫「ブッダ」は、創価学会系の「希望の友」に連載されながら、なんら創価学会の宣伝めいたところのない仏伝の名作である。執筆に当たって手塚が主要参考文献としたのが渡辺照宏の「仏教」であった。

ブッダ全12巻漫画文庫

仏教の教理史の手軽な入門書としては、同じ渡辺照宏が「仏教」の続編のように書いた「お経の話」が、やはり平明で水準が高い。(中略)

お経の話 (岩波新書)

(キリスト教の入門書は)これもまた偏りがなく標準的なものとして、波多野精一「基督教の起源 他一編」を挙げておく。(中略)欧米文学、欧米美術の理解にも、キリスト教の基礎知識は必須である。

基督教の起源 他1篇 (岩波文庫 青 145-1)
小型聖書 - 新共同訳

(呉智英「マンガ狂につける薬 二天一流編」)

参考作品(amazon)
聖☆おにいさん(6) (モーニングKC)
聖☆おにいさん作品一覧

仏教 (岩波新書)
お経の話 (岩波新書)
ブッダ全12巻漫画文庫
基督教の起源 他1篇 (岩波文庫 青 145-1)
小型聖書 - 新共同訳
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2010年12月25日 10:34

クリスマスの思い出
ノヴァーリス作品集〈3〉夜の讃歌・断章・日記 (ちくま文庫)

本日はクリスマスですね…。僕は暖房費節約の為、暖房使っていないので、今日は凍えそうに寒い日であるとしか…。お金がないと、寒冬はきついです…。海外の文学、特に東欧などの文学だと、貧乏で生活が窮乏している人にとって、暖冬は神の恵みの冬であり、寒冬は寒さに凍える苦しい冬であるということが季節の巡る日常生活の一端として描かれますが、それが身を持ってよく分かりますね…。あまりにも寒くて身体が縮こまってしまい、身体を伸ばすことができないです…。

キリスト教圏の文学や信仰においては、暖かい春夏の季節が生と太陽と昼の季節であり、寒い秋冬が死と月と夜の季節である。そして冬の真っ只中に、元々はミトラ教の太陽祭であったキリスト降臨祭のクリスマスがあるというのは、死(夜・月)の世界に於ける生(昼・太陽)の新生、世界の新生を表しているとされていますね…。

ウィキペディア「ミトラ教」
ミトラス教またはミスラス教(ミスラスきょう、英語:Mithraism)は、古代ローマで繁栄した、太陽神ミトラス(ミスラス)を主神とする密儀宗教である。(中略)

(太陽を信仰するミトラ教の)12月25日には、ナタリス・インウィクティと呼ばれる祭典があった。この祭典は、ソル・インウィクトゥス(不敗の太陽神)の誕生を祭るものである。このソル・インウィクトゥスとミトラスの関係をミトラス教徒がどう考えていたかは、当時の碑文から明白である。碑文には「ソル・インウィクトゥス・ミトラス」と記されており、ミトラス教徒にとってはミトラスがソル・インウィクトゥスであった。

現在、12月25日はイエス・キリストの誕生日としてキリスト教の祭日となっている。しかし実際にはイエス・キリストがいつ生まれたかは定かではなく、12月25日をクリスマスとして祝うのは後世に後付けされた習慣である。『聖書』にもイエス・キリストが生まれた日付は記述されていない。

ローマ帝国時代において、ミトラス教では冬至を大々的に祝う習慣があった。これは、太陽神ミトラスが冬至に「生まれ変わる」という信仰による(短くなり続けていた昼の時間が冬至を境に長くなっていくことから)。

この習慣をキリスト教が吸収し、イエス・キリストの誕生祭を冬至に祝うようになったとされる。

これは、実感としてよく分かりますね…。僕みたいに暖房のない生活をしていると、ひたすら寒く、身体が寒さに苦しめられるので、一刻も早く、地上を太陽(キリスト教のクリスマスでは太陽=キリスト)が照らして、身体を暖かくして欲しいと願いますから…。クリスマスの起源は、寒さ(夜・月・死)の中で、暖かさ(昼・太陽・生命)の訪れを願う祝祭なのですね…。ノヴァーリスが「夜の賛歌」で歌っている通りです…。

ヘラスの晴朗な空のもとに生を受けた一人の歌びとが
はるかな岸辺からパレスティナに到来し
そのまったき心を この奇蹟の幼子に捧げた――

あなたこそは 久しくわれらの墓の上で
深い思いに沈むあの若者――
暗闇のなかの慰めのしるし――
より高貴な人類の喜ばしいはじまり
われらを深い悲しみに沈めたものが
今はあまやかな憧れとともにわれらを地上から引き連れていく
死のなかにこそ 永遠の命は知られた
あなたは死 そしてわれらをはじめて健やかにしてくれる
(ノヴァーリス「夜の賛歌」「ノヴァーリス作品集3」より)

にゃんこは、にゃんこ用の寝床(にゃんこ用の小さなベッドクッション)で身体を丸めて寝ていますが、僕も寒くて、モニタの前でPCのキーボードを打っていると、寒くて手がかじかんで感覚がなくなってくるので、布団に入って、なんとか寒さをしのぐことにします。布団は、お金の掛からない暖房なので、本当に助かりますね…。クリスマスに相応しく、暖かさの訪れを願うことにします…。皆様に、暖かさの訪れがありますように…。

参考作品(amazon)
クリスマスの思い出
ノヴァーリス作品集〈3〉夜の讃歌・断章・日記 (ちくま文庫)

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2010年12月24日 19:20

失踪日記
うつうつひでお日記 DX (角川文庫 あ 9-2)
地を這う魚 ひでおの青春日記

吾妻ひでおさんが漫画家の大変さを描いた部分の引用が話題になっていますね…。まさに「新・漫画家残酷物語」…。西尾維新さんが作家が如何に気楽で儲かる商売か書いた「難民探偵」での売れっ子作家の優雅な生活描写と全く対極過ぎて、なんとも…。西尾維新さんが著書「難民探偵」で、おそらくは自分の生活をモデルに、儲かりまくる作家の優雅な生活を露悪的に述べた部分を引用いたしますね。

「【漫画家】 大ヒット漫画家が、秋●書店の糞っぷりを暴露」
http://alfalfalfa.com/archives/1774754.html

西尾維新「難民探偵」より引用

「作家って奴は、売れてしまうと必ずといっていいほど、人格が崩壊するんだってさ。(中略)(作家が恵まれた環境の中で儲かり続けるのは)コストパフォーマンスの問題でさ。(作家は)最小の個人事業主だから人件費はゼロだし、事務所に雇われているわけでもない。アシスタントだっていないから取り分は丸々自分のものになる。こんな条件の下で売れてごらんよ。価値観がひっくり返されるようなひどいことになる。一億とか十億とか稼いじゃって、しかも周囲から先生扱いだ。おかしくならない方が異常だよ」(中略)

「人を雇わなくていいというのは、確かに利点かも知れませんね。なんだかんだで、経済活動で一番高くつくのは人件費だと聞いたことがあります。(中略)同じ作家でも、漫画家だったらアシスタントを雇わなければなりませんからね」

「そう。漫画家のメインストリームは週刊連載だというのがキツイ。あれは物理的な仕事量として、一人じゃ無理だろう。そこへ行くと小説家の締め切りなんて、あってなきがごとしだからね。雑誌連載でさえ破り放題らしいよ。ましてや書き下ろしをやという感じで――まあ、注釈しておくと、そんな変わった制度を持つのは日本くらいだそうだけどね。海外じゃ、ちゃんと契約書を交わして、締め切りどおりに仕上げないと、きっちり違約金を取られるそうだ」

日本の出版界には、契約という概念が希薄だということは、証子も聞いたことがあった。口約束が全てなのだそうだ。出版社と作家の信頼関係で成り立っているといえば聞こえはよいが、単にルーズなだけともいえる。(中略)

「あと、漫画と比べて活字は、ロングセラーが生まれやすいという利点はあるかもね」

「ロングセラー?」

「古びにくい、ということさ。四十年前の漫画は、それはそれで面白いけど、もう『名作』という視点でしか読めないだろう?世間で言われるような往年の名作漫画を今の小学生が楽しめると思うかい?アニメやドラマや映画も然り。(中略)(小説は)――百年前の小説が、余裕で読める。売れるものはいつまでも売れる。これが意外と大きい」

「ああ…消費者よりも作品自体の寿命の方が長いというのは、確かに大きいですね。音楽なんかもそうですけど…あれは関わってくる人数も多いですしね」

証子はうなずいた。

「つまり、(作家は)仕事自体がルーズなシステムの上になりたっていて、しかもコストパフォーマンス的にありえない稼ぎが出てしまうゆえに、その費用対効果のバランスの悪さゆえに、人格的に壊れてしまうということですか?」

「平たく言えばね。バランスが狂い、人格が狂う。(中略)(作家は恵まれすぎてて)幸せに思うべきなのかもしれない。壊れられるような流行作家になれたことを――(作家は環境が恵まれすぎてて壊れるというのは)そもそも贅沢な悩みだよ」
(西尾維新「難民探偵」)

なんとも…。最後に言われているように、作家の待遇が恵まれすぎてて壊れるなどというのは、贅沢極まりない悩み、そのような悩みに耽りたいと思う人々が大勢いるであろう、非常に幸福な境遇な訳でして、吾妻ひでおさんの描く、漫画家の忙しすぎる&編集者との軋轢に悩む悲惨な生活とはあまりに違いすぎて絶句です…。作家って、本当に良い恵まれた生活をしているんだな、その生活の一部でも、大変な生活をしている漫画家に分けてあげればいいのにと思わずにはいられません…。

あと、話変わって余談ですが、西尾維新氏の「難民探偵」、小説としてもミステリとしても物凄く評価低いですが(amazonレビューも厳しい)、これはメタ小説で、わざとこう書いたのではないかなと思いますね。西尾維新氏が自分自身をモデルとしているであろう、この小説内登場人物の作家は、もう売れっ子作家として功成り名を挙げており、一生遊んで暮らせるだけの莫大なお金を稼ぎ名声を手に入れていることで、作家としてのモチベーションが限りなく下がっており、もう作家としてのやる気がなくなりかけているんですね。たぶん、西尾維新氏の作家としての心情の素直な露吐なんじゃないかなと…。そう読むと、作家はあまりに環境が恵まれすぎてやる気が無くなるということが、この小説の一つのテーマですから、それを小説の出来ということで表した、新しいタイプのメタ小説なのかなと一読して思いました。あとは、わざとひどい小説を書くことで、一度売れっ子作家になればネームバリューだけで作品の質は問われずいくらでも売れ続ける状況に抗議を示したのかなと…。

「功成り名を遂げちゃったからねえ。今じゃあいつは、交通事故にでもあわない限り、(ネームバリューで本を出せば売れ続けるため)小説を書けなくなるステージに落ちない」

とっくの昔に一生分稼いじゃってるからねえ、と根深。(中略)

「近々作家自体を辞めちゃうんじゃないかと思うよ」
(西尾維新「難民探偵」)

しかし、売れっ子作家さん(おそらくは西尾維新さん自身)のこの悩みは、なんとも贅沢な悩みですね…。「自分は売れっ子作家として莫大な金も名声も何もかも全てを手に入れた。全てを手に入れた結果、作家としてのモチベーションが下がってしまったことが悩みだ」という贅沢すぎる悩みは、僕のように生活苦で明日も知れないほど生活に困っている貧しい立場からは、あまりにも共感不可能な上に、非常に羨ましいとしか言いようのない悩みで、なんともいいようのない絶望的な感覚に教われましたよ…。同じ地球上に生まれてここまで質の違う悩みが存在するのかと、そのことに深い苦悩を覚えましたよ…。この作品はことごとく低評価なのは、この作品のテーマである「売れっ子作家の悩み」というのは、悩みというより、「売れっ子作家の鼻持ちならない自慢」にしか聞こえないというのが間違いなくあるでしょうね…。この売れっ子作家は、使い切れないほど儲かったお金を社会のために役立てようとか、そういう発想は欠片もないのもどうかと思いますし…。吾妻ひでおさんが描く漫画家の悲哀に満ちた苦悩(こちらには共感できます)とは、あまりにも大違い過ぎる…。閑話休題。

難民探偵 (100周年書き下ろし)
難民探偵 (100周年書き下ろし)

漫画家と作家の大きな違いの一つとしては、編集者の態度や編集者の作品への介入の度合いが、漫画は非常に大きく、礼を失していることがあるということはよく言われていますね…。小説に対して編集者が「女の子の裸のエロティックなシーンをてこ入れのために入れろ」とかいうことは考えられないですが、漫画においては編集者はそういうことを平気で言ってくるということはよく聞きます。

編集者の漫画家への無礼や漫画への介入は、特に名門大手の出版社ほどその傾向が強いと言われていて、小学館の漫画編集者とか悪い話ばかり耳に入ってきます…。大手企業の編集者の多くは、漫画が好きで漫画編集になるのではなく、大手企業のエリート社員の一人として漫画編集の仕事に携わるため、『活字信仰』や『学歴信仰』を持っているエリート気質の人が多く、作家のことは『活字を書く先生』として尊敬するが、漫画家のことは『絵を描くセンセイ』として下に見ているという話は聞きます。僕の大好きな漫画家の楳図かずおさんは、小学館の漫画編集者に徹底的に侮辱されて、そのことで、「14歳」以降、実質的な断筆に追い込まれましたし…。こういう漫画差別は絶対に許せないなと思いますね…。

ウィキペディア「楳図かずお」
1995年に完結した『14歳』以後、漫画は休筆中。理由には長年の執筆による腱鞘炎が悪化したことと、「14歳」連載時、新任編集者に、ゲンコツを描いた紙を持ってこられ「手はこう描くんですよ」と言われたとされることから始まる小学館との関係の悪化が挙げられる。1971年『おろち』執筆以降、小学館の諸雑誌を主な発表の場としてきた楳図にとって、こうした扱いは許しがたいものであったと想像される。楳図はこの事件を単に新任編集者一人の性格の問題とは見ず、芸術志向の作品を描いてきた自分に対する、出版社の商業主義的な圧力と見てとったようである。

今、出版業界を支えているのは、小説よりも、遥かに漫画に功績があるわけで、編集者の人々は、漫画家さん一人ひとりをもっと尊重する姿勢で漫画作りを行って欲しいと、漫画が大好きな漫画読みの一人として、心から願います…。

最後に余談ですが、漫画家の描く漫画家生活漫画は、吾妻ひでおさん(ひでおの青春日記、うつうつひでお日記は傑作です!!)を始めとして、悲哀とペーソスがあって、それ自体が漫画として面白くて好きですね…。漫画家生活を描いた漫画としては、藤子不二雄「まんが道」、唐沢なをき「まんが極道」(まんが道と永島慎二「漫画家残酷物語」のパロディ)をお勧めします。面白いですよ。吾妻ひでおさんも藤子不二雄も唐沢なをきも、みんな、描線がまるっこくて柔らかく、キャラクターも柔らかさを持っていて、それが、上手に『漫画家としての苦しみ』という毒の描写を柔らかに昇華していますね…。こういった芸当は、小説には決して出来ない、漫画だけができる凄さだと思います。文字で『出版界』という毒のある世界を描写すると、先の西尾維新さんの文章や筒井康隆「大いなる助走」のように、どうしてもどこかギスギスしてしまいますが、漫画は絵柄で、それを柔らかくほわっとさせることができますね…。漫画編集者を描いた漫画では「編集王」がとても面白くてお勧めです。

「まんが極道」漫画の業に、詩の業に、取り憑かれた青年たち

あちこちの出版社に持ち込みを続ける漫画少女。ついには掲載を目指して「枕営業」をするようになる。それでも漫画家として芽が出ない。(中略)「まんが極道」は、これを読むと息苦しくなるという漫画家が多い。むろん、漫画という業に取り憑かれた青年たちの姿が辛辣かつ赤裸々に描かれているからだ。ただし、そんな業と無縁な人には、楽しく笑いながら読める。当の唐沢なをきがこれを笑いながら描いているのか、嗚咽をこらえ涙をぬぐいながら描いているのか、興味が沸くところである。
(呉智英「マンガ狂につける薬 二天一流編」)

まんが極道

まんが極道 1 (BEAM COMIX)
まんが極道 1 (BEAM COMIX)

参考作品(amazon)
失踪日記
逃亡日記
うつうつひでお日記 DX (角川文庫 あ 9-2)
うつうつひでお日記 その後
地を這う魚 ひでおの青春日記

吾妻ひでお作品一覧

唐沢なをき「まんが極道」

藤子不二雄「まんが道」

永島慎二「漫画家残酷物語」

難民探偵 (100周年書き下ろし)
マンガ狂につける薬 二天一流篇
編集王 全16巻完結(BIG SPIRITS COMICS) [マーケットプレイス コミックセット]
大いなる助走新装版(文春文庫)

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