2017年01月08日 00:02

今期アニメ初回視聴前半。「正宗くんのリベンジ」が現代版金色夜叉なピカレスク・ロマンで面白い!ドンファンとレポレロ。

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今期アニメの初回を視聴致しました。うーん…一話切りアニメが多い感じかな…。そんな中、「正宗くんのリベンジ」が現代版金色夜叉なピカレスク・ロマンで抜群に面白い!まずは他のアニメから。

「青の祓魔師 京都不浄王篇」原作が面白いこともあり安定したクオリティのシリーズ物。視聴継続。

「AKIBA'S TRIP」作中でまとめサイトのステマをやっている為、色々と現実のゲーム系まとめサイトとの裏暗い関連性が見てとれて作品自体とは別に見ていて苦痛。一話切り。

「うらら迷路帖」ほのぼの百合萌え日常系アニメとして良い出来と思いますが、こういうアニメは興味の範囲外なので一話切り。余談ですが本作はおへそフェチ向けという極めて珍しいフェチ特化なのは驚いた。「フェティシズムはその時代・地域の禁制と関連する」(ノイズ「マゾヒズムの発明」)、今の厳しい地上波アニメ規制だと、おへそぐらいしか素肌を直接写すシーンが許されないということとおへそフェチは関連しているのでしょうね…。

「セイレン」アマガミ系恋愛物。興味の範囲外なので一話切り。

「スクールガールストライカーズ」原作がスマホゲーなこともあり世界観が分かりづらい。ゲームをプレイしていてキャラクターに思い入れがある視聴者の為のアニメという感じです。一話切り。

「幼女戦記」戦場において冷徹で優秀な前線指揮官が外見は幼女(中身は成人男性)という以外は、普通に「ファンタジー」+「ミリタリー」のありがちな戦記物な感じですね…。話が進んだら化けそうな気もするので視聴継続。

「正宗くんのリベンジ」これは面白い!完全に現代版金色夜叉(主人公のことを醜いとして蔑み捨てた高慢な財閥令嬢への復讐の物語)なんですが、現代版間貫一である復讐者の主人公の正宗が、復讐のために頼りにするのが、金色夜叉のようなお金ではなく「常に磨き上げている自身の美貌」という身一つでの勝負ところが非常に面白い。夜神月的な孤独な悪党の主人公ですが、夜神月と違い、超常的な力は一切ない世界で、自分の肉体の美貌を頼りに復讐を遂げていくというのは、まさに古典的ピカレスク!

努力により維持している自身の肉体的美貌を頼りに周囲を篭絡して復讐を遂げてゆく悪党主人公というのは古くからピカレスク・ロマンのセオリーなんですね。「セビーリャの色事師と石の招客」(ドンファンを描いた古典ピカレスク)などを読むと分かるんですが、こういった「色事師」は、自身のやっていることが反倫理的なことだと自覚した上で意志的にやっていますし、最終的には物語内においてその報いを受けることが多い。現実の人物の方のドンファン自体、晩年は美貌と財産を失って女性達に見向きもされず悲惨な最後(山田風太郎「人間臨終日記」)でしたし…。

ありがちなハーレム系アニメの主人公というのは、やっていることはドンファン的な「色事師」なのに、本人に「自身の悪」に対する意識が決定的に欠けているがゆえに、「次々と女を毒牙に掛けていくこと」自体が作品世界において「悪」とはみなされておらず、作品世界全体に「ほのぼのとした不気味さ」的な違和感があるんですが、本作の主人公の場合、自身の美貌を常に磨き上げて、それによって周囲を篭絡していくことに極めて自覚的であるので、きちんと「自身の美と悪」の意識があるところが古典的ピカレスク・ロマンを彷彿とさせて極めて面白い。また、復讐の手段が「努力によって磨き上げた美貌」ゆえに、ある種の変身譚でもあるところも見事。優れたミステリーの要素がありますね。

本作を見ていて、エド・マクベインの遺作、実に見事な彼の最後の小説「即興」とか思い出しました…。本作の主人公の変身はちょうど「即興」の男女逆位相になっている。周囲を欺く「変身」が最も必要とされるのは「復讐」と「殺人」な訳ですね…。

彼には一瞬、それがスーザンだということは分からなかった。

「化粧品と衣装は、キャラクターの表現に大いに効力を発揮するのよ」と彼女は言った。

いまや彼女はほっそりとした若い女だった。短くて真っ直ぐなブロンドに、赤いブラウスのはっとするような襟ぐりからのぞく素敵な胸もと。ぴっちりとした黒いミニスカートを穿き、見事な脚にはヒールの高い黒のパンプスを履いている。バーでかぶっていた茶色いカツラを右手からぶら下げ、左手を開いてウィルに向かって差し出したのを見ると、広げた掌の上に載っていたのは、彼女を出っ歯に見せていた義歯だった。開いたままのバスルームのドアから、あのむさ苦しい茶色のスーツがシャワーのタオルかけに吊るしてあるのが見えた。眼鏡は洗面台に置いてあった。

「ウェストの周りにちょっと詰め物をすれば、太めに見えるし」と彼女は言った。「こういった役立つ小道具はどれも教室にあるの」

もはや南部訛りがないことに彼は気付いた。さらに茶色い眼も。

「だけどきみの眼は…」と彼は言った。
「コンタクト・レンズよ」とスーザンは言った。

彼女のほんとうの眼はブルーで…そう、ジェシカの眼と同じような色をしていた。(中略)

「彼女はマクベスに、そんな意気地なしでどうすると言ってるわけ」とスーザンが言った。
「つまりね、彼らは王を殺そうと企てているわけよ、わかるでしょ」とジェシカ。
「これは二人にとって、私的な場面なの」
「自分達がやろうとしていることについて、じっくり考える場面ね」
「二人は人殺しを計画しているのよ、ねえ」(中略)

ジェシカが自分のグラスを高く掲げた。
「わかりましたわ」彼女は言った。「わたくしへの愛情はそんなに頼りのないものなのでしょう」

「乾杯」とスーザンが言い、グラスに口を付けた。
「どういうこと?」とウィルは言ったが、彼も飲んだ。

「舞台の台詞よ」とジェシカが言った。「実のところ、幕の最初の部分なの。彼が躊躇しはじめるところね。その幕の終わりまでに夫人は彼に、王には死んでもらわなければならないと納得させるの」

「偽りの心の企みは、偽りの顔で隠すしかない」とスーザンが言い、うなずいた。
「マクベスの退場の台詞よ。幕のおしまいのところの」

「君がファイル整理係のような格好をしていたのはそのせいなのかい?偽りの顔で隠す……だかなんだか、とにかくいま言ってたことのため?」

「偽りの心の企みは、偽りの顔で隠すしかない」とスーザンは繰り返した。「いいえ、違うわ。私が衣装を身につけていたのはそのためじゃないわ」

「それじゃどうして?」

「キャラクターを創りあげるための、私なりの方法ってことかしら」

「ねえ、このひとやっぱりわかってないのかも」とジェシカが言った。
「殺しのできるようなキャラクターってことよ」とスーザン。

「野暮ったい女にならなきゃダメだったのかい?」

「そうねえ、誰かほかの人間になる必要があったわ、ええ。私とは全然違う人間に。だけど、それだけでは充分じゃないことがわかったの。ふさわしい場所も見つけなきゃならなかった」

「その場所っていうのがここよ」とジェシカが言った。
(エド・マクベイン「即興」「ベスト・アメリカ・ミステリ クラック・コカイン・ダイエット」より)

本作で見事と感じたところは、サディストの財閥令嬢(ドンファンで言えば高慢な貴族令嬢の役柄ですね)に復讐するために自身の美貌という身一つでのし上がっていく色事主人公というピカレスク・ロマンの王道物語の上に、先に挙げた主人公の造形だけでなく、その周囲の役回りが上手い!

本作主人公の正宗はドンファン的、日本の作品で言えばデスノートの夜神月的な、復讐という目的の為に外面を常に偽装している、自分の内心は家族にすら秘密にしている孤独な内面を持つ主人公なんですが、そんな彼に純粋な好意を抱き献身的に支えるレポレロ(ドンファンの従者、彼を献身的に支える)的な役回りの人物が、美少年の朱里小十郎なんですね!これが素晴らしい。弥海砂的な人物(女性)ではないわけです。

フロイトや澁澤龍彦は安定した女性との関係を築けず女性を次々と乗り換えていくドンファン的人物(色事師・漁色家)に恋愛や結婚に対する反抗と男性同性愛的傾向があると分析していたと思いますが(漁色がその実は恋愛に対する反抗と表裏一体であると描くドンファン物語としてはホフマンの「ドン・ファン」が見事、漁色家の自身でも気付かない無意識的同性愛傾向を描いている点では岸田るり子「出口のない部屋」も上手くミステリ仕立てにしていて面白かった)、本作「正宗くんのリベンジ」もまさにそれを感じさせる、見事なドンファン元型物語の発展だと感じましたね。

ドンファンがマントを脱ぎ捨て、真紅の切りビロードに銀の刺繍のきらびやかな衣装ですっくと立つ。たくましい、見事な体格、顔は男性的で美しい。秀でた鼻すじ、炯々たる眼光、やわらかな形の唇。眉の上、顔の筋肉ひとすじの奇妙な動きが、一瞬、相貌にメフィストフェレスめいた雰囲気を添えるが、それも顔の美しさを損いはせず、かえって思わず背筋の寒くなる思いをさせられる。ガラガラ蛇さながらの魔力を持っているのか、魅入られたら最後、女達は彼から離れられず、不気味な力に捕えられたまま、われとわが身の破滅につきすすむほかないようだ。

ひょろりと背が高く、紅白の縞のチョッキに小さな赤マント、白い帽子に赤い羽根飾りをつけたレポレロが、彼のまわりをうろちょろする。(中略)

美しい女からさらに美しい女へとやすみなく渡り歩き、その魅力に飽満し身を滅ぼすほどに酔いしれるまで、燃え盛る熱情をもって遊蕩三昧にふけりながら、どの女を選んでもつねに期待を裏切られたと思い、いつかは満足のゆく理想の女を探しあてたいと望みつづける。だが最後には、地上の生全ては味気なく退屈だと思わざるをえなくなる。

そしておよそ人間というものを軽蔑し、人生最高のものと信じていたのにこれほどこっぴどく彼を裏切った恋という現象に反抗する。こうなると、女遊びはもはや官能の満足ではなく、自然と創造主への冒涜的な嘲笑となる。卑俗な人生観なんぞ糞くらえ、俺はそんなものは超越しているぞと感じ、自然が意地悪くも我々の胸のなかに忍びこませた崇高な願望は、幸福な恋とそこから生まれる市民的な結婚においていささかでも実現されると期待している人間どもを、せせら笑う。だから彼は恋だの結婚だのとくると、とりわけむらむらと反抗的になり、人間の運命を支配する未知の実在、それは彼にとっては、冷笑的な気まぐれで創ったみすぼらしい被造物をむごたらしくもてあそんでは、ざまみろと笑う怪物のように思えたのだが、その未知の実在にたいして、破滅を覚悟で大胆不敵な戦いを挑む。

花嫁を誘惑する、恋人たちに痛みの消えない打撃を与えてその幸福をぶちこわす、こういう行為ひとつひとつが、かの悪意ある力にたいする、自然にたいする、創造主にたいする、輝かしい勝利、窮屈な人生から彼を一歩一歩高みに押し上げてくれる勝利なのだ!
(ホフマン「ドン・ファン」「黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ」より)

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