2017年01月04日 06:14

クトゥルフ神話RPGの大傑作「呪われた人魚姫」ご紹介。「アーカム計画」等を彷彿とさせる原典とTRPGを見事に発展させた良質なRPG!

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

正月そうそう、風邪気味で生活費も切り詰めておりあまり調子がよくないです…。寒いので皆さんもお体にお気をつけ下さい。今回は、クトゥルフ神話RPGの大傑作「呪われた人魚姫」をご紹介しますね。前回のエントリでも軽く触れましたが、この作品は極めて優れた傑作でして、ついにネットの色々なところで取り上げられ始めて、ふりーむのDLランキングも現在TOPを独走しておりますね。本作には優れた前作「黒山羊と幸福の姫」があるのですが(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1892117.html)、それを更に発展させてシナリオ・バトル・システム・遊びやすさなどあらゆる面でパワーアップさせた大作が本作と言えると思います。

呪われた人魚姫
http://www.freem.ne.jp/win/game/13438

黒山羊と幸福の姫
http://www.freem.ne.jp/win/game/10456

本作「呪われた人魚姫」は、「インスマスを覆う影」「ダゴン」「クトゥルフの呼び声」等のクトゥルフ神話の原典及びクトゥルフTRPGに準拠して、現代を舞台に壮大なコズミック・ホラーを描き出すクトゥルフ神話RPG。クトゥルフ作品に出てくる「ダゴン秘密教団」がメインテーマになっているんですが、極めて精緻に原典に沿った形を発展させてシナリオにしているため、ラヴクラフティアンがプレイすると全編通して思わずニヤニヤしてしまうことを抑えられないでしょう。良い意味でマニアなラヴクラフティアンが製作した作品という感じです。クトゥルーな終わり方とか思わずニヤリ。

勿論、物語だけでなく、あらゆる面が前作より遊びやすくなっているんですね。特に良くなったのが戦闘でして、本作の戦闘の大きな特徴は「戦闘バランスの調整が丁寧」なことと、「ヒトコロスイッチ」の導入です。前作と本作は両方とも「回復手段が有限」というシステムを導入しており、戦闘バランスは前作はかなり高めで、回復アイテム稼ぎのために雑魚を延々と狩るとかしないときついところもあったんですが、本作はバランスが極めて丁寧に調整してあり、普通にプレイしていけば、最後までクリアできると思います。ただ、スキルの「挑発」「大防御」「駆け回り手当」及び「呪文」各種は全員に覚えさせていないと一部のボス戦闘で詰む可能性があるかなとは思いました。

ただ、そんな詰み防止措置として本作にはアイテム「ヒトコロスイッチ」が実装されており、これは使うとどんな敵だろうと(ボスだろうと裏ボスだろうとやりこみボスだろうと)、一撃で全滅させる無限使用可能な究極アイテムです。どんな状況下でも「ヒトコロスイッチ」で逆転できるので、いざとなったらこれを使えば詰みはありません。本作は大きく分けて三通りの展開(三人いる仲間候補のうち、誰を仲間にするかで展開が色々変わってくる)が楽しめるので、一周目は普通にスイッチを使わずにクリアして、2週目からはスイッチを使用して気楽にプレイがお勧めですね。

キャラクターもとても魅力的で、本作のように原典を重視するクトゥルフ作品は、ややもすると、よく言えば重厚、わるく言えば堅苦しく重苦しい作品になってしまうこともあるんですが、本作は前作からさらにパワーアップした魅力的なキャラクター達のフレンドリーな掛け合いが楽しく、クトゥルフ神話の重苦しさを上手く中和して親しめる作品にしている。アトラスの「ペルソナ」シリーズとか彷彿とさせますね。

また、物語自体は非常に本格的なクトゥルフ物で、話がどんどん壮大に広がっていくところとか、クトゥルフ物の傑作「アーカム計画」とかプレイしながら思い出していましたね。人間は万物の霊長などといっておごり高ぶっているが、それこそ、地球規模から見ればちょっとした地殻変動などでも、人類全体があっさりと壊滅してしまうくらい脆弱な、地表にへばりついている存在に過ぎず、地球規模の災厄から見れば、それは路傍の石ころのようなものなのだ、というクトゥルフ神話の根幹的主題「宇宙的恐怖」を、上手くシナリオに反映させている。個人的にはクトゥルーエンドが凄く良かったですね。まさにクトゥルフ神話って感じでしたよ!

驚異と栄光に包まれながら永遠に其処でダゴンやクトゥルフに奉仕し続けるだろう。世界が滅びるまで…。

………(中略)………

貴方たちは永遠に取り返しのつかない選択をしたよ。その報いは想像を遥かに上回る絶望となって降りかかる!
(呪われた人魚姫)

クトゥルフ神話の最大の特徴は、アンチ・ヒロイックなことなんですね。それはヒロイック・ファンタジー的な「勇者が世界を救う」とは対極にある世界観。人間が如何に動こうとも、地球規模、そして宇宙規模の災厄の前では何をしても何の意味もない、何にもならないのだという、世界に対する正確な認識を重視する世界観なのですね。本作はその点が凄く良く描けていて感服致しましたね。この点においては、クトゥルフ要素は大きいながらもヒロイック・ファンタジー的な方向に大きく引きずられているペルソナシリーズよりも、よりクトゥルフ神話の原典に本作の方が近いと言えると思いますね。

笠井潔
「世界はどんどん合理化されていくという近代の力を、いわば認めまいとして、もうひとつの異世界というか、ワンダーランドというかな、そういうものをつくりあげようとする水準からいったんそれを全部認めちゃった上で、その裏側のところを引っくり返して出していくというふうな、そういう怪奇小説の歴史の中の新しい水準というのはラヴクラフトがつくったんじゃないかなという気がしますね」

荒俣宏
「そうですね。トールキンだとか、あるいはいまファンタジーだといわれている異空間と(クトゥルフ神話が)ぜんぜん違うところはその辺なんですね。あれ(トールキン等のファンタジー)はどんどんどんどん(現実世界と幻想世界が)離れていくから、つまりお互いにお互いを影響するということはまずないわけだけども、ただ影響されるとしたら、そのどっちかに、あるいは両方にまたをかけて、人間がどっちかを選択すればいいだけの話なんだけど、ラヴクラフトなんかがつくっていった異次元あるいは異世界というのは、ぜんぜん思想を異にしているんですね。

自分がなにをやろうが必然的にその世界(クトゥルフ神話)へ巻き込まれていってしまう世界。こういう一元性をもつ点がラヴクラフトの小説で非常に特異な点だと思う。(中略)

(ヒロイック・ファンタジーにおいては)人間がある意味の力を発揮できるんですね。人間がある意図のもとになにかをやれば、少なくともそれは、その世界の中ではある影響を及ぼすという構図になっているわけだけれども、ラヴクラフトの中は全然そうじゃない。人間は何をやっても徹底的にだめな存在だ。だから、ただひたすら恐がっているだけで、ただ恐がっているだけの存在を一生懸命書いたというのは、あれはちょっとすごいと思うんですけどね。

つまり彼の場合はあらゆる怪物の限定条件というものをみんな取っ払って、とにかく宇宙は飛べるわ、昼でも夜でもかまわずやってくるわ、古代でも太古でも未来でも全然関係なくやってくるわ、たとえそれがどんな状態にあっても、とにかくその気になれば、いつでもなんかできる、という状態になっている。(中略)

ラヴクラフトがなにやっているかといえば、宇宙の無目的性について説く。あの人はすぐアインシュタインとド・ジッターが出てくるんですけどね。つまり、宇宙のマクロのレベルでは地球というのは大したことなくて、どうせフラフラフラフラしている状態であるから、我々は何をやってもしようがないんだ、という話をえんえんとやっている。(中略)

たとえば、(ラヴクラフトは)ニューヨークとかボストンの地下鉄なんかも喜んで描いている。ボストンの地下鉄の中にさえ怪物が出てくるという構造にどんどん入れ替わっていっちゃう、というところが非常にアメリカ的だと思うんですけどね。そのポイントというのが、彼とヨーロッパの、あるいは世紀末に出てきた幻想文学の基本路線と外れている根本的な問題点だと思うんですね。(中略)

ラヴクラフトにとってはイデアというものは全くなくなっているという、イデアのぶちこわしの運動であると思う」

笠井潔
「逆イデアになっているんだよな」

荒俣宏
「それは大きな要素だと思いますね。ラヴクラフトを読んでて、ものすごくなんか殺伐とした感じがする原因のひとつはそのへんにあると思いますね」

笠井潔
「(ラヴクラフトの小説には)いるのかな、善い神様ってのが」

荒俣宏
「いや善神というのは、あまりラヴクラフトの段階では出てこないですね」

笠井潔
「人間を守ってくれるような超自然的な力ってのはないわけだ」

荒俣宏
「人間を守ってくれる力という意味では、だから自然の気粉れだけなんですね。そういう意味ではある意味の神性なんだけれども……」

笠井潔
「人格的に分離されてはいない」

荒俣宏
「人格的にはないですね」

笠井潔
「それが全然ないっていうのは面白いな」

荒俣宏
「そういう点ではラヴクラフトなんか徹底的に突き詰めた人なんではないですか。逃げは一切打たなかったと思う。で、愛は信じていなかったからね。あの人(ラヴクラフト)については」

笠井潔
「愛で救われた主人公って一人もいないもんね」(中略)

荒俣宏
「ラヴクラフトの書いているいろんな小説のパターンというのは、だいたい宇宙からいろんな生物が、まあその生物を彼は「旧人類」(旧支配者)と呼ぶわけですけれども、それが地球に入植してきて、なんらかの関係で――主として地球の地殻変動ですが、その辺は生物学的というか進化論的だと思うんですけど、とにかくそれによってうまく入植できてしまうけれど、地殻変動によって死滅していくという展開になります。(中略)

次々に(地球において覇権を握る種の)世代が交代していくというパターンで、その路線が人間まで(人間が滅んだ後の次々の種まで)つながっている」
(ユリイカ「ラヴクラフト」より「荒俣宏・笠井潔対談」)

この惑星(地球)が経てきたほとんど知られていない茫洋たる歴史において、人類が、高度に進化した支配種族の一つ――おそらくは最小の種族――にしか過ぎないということなのだ。
(H・P・ラヴクラフト「時間からの影」「ラヴクラフト全集3」より)

こういう、クトゥルフ神話の原典に近いゲームがやれるのは、本当にフリーゲームならではの醍醐味ですよね。クトゥルフ神話って元来「世界に対する正確な認識を重視するアンチ・ヒロイックの物語」ですから、元々あまり大衆受けはしない系統のシェアード・ワールドなんですね。大きく大衆受けする物語と言うのはどうしても「ヒロイック・サーガ(善が勝ち悪が敗北する英雄物語)」の方向になりますから…。クトゥルフ神話の、人間の決めた善悪を超えた地球的、そして宇宙的な災厄の前では人間の営為は全く意味を為さないという暗い諦念に充ちた世界観をきちんと継承した本作のような作品を、開発費が年々膨れ上がっている商業コンピューターゲーム業界できちんとやるのは中々難しい状況と思います…。

クトゥルフの原典にきっちりと沿った新しいクトゥルフゲームというのは、まさに本作「呪われた人魚姫」のように、個人や少人数制作の良い意味で趣味的なゲーム製作から生まれてくるんだろうなと、プレイしていて感じましたね…。

「呪われた人魚姫」、ラヴクラフトの世界観に魅惑を感じる者として、最高に素晴らしい作品でした!ぜひプレイをお勧めする大傑作です!!

最後に余談ですが、本作ではハトホ姉さんとクリスFBI副長官の日米警察官コンビが一番お気に入りでした(ハトホ姉さんはおっとりした真面目で天然ボケなお姉さんのように見えてときどき冒涜的発狂するのが思わず吹く。名前からするとハトホル女神と何か関係があるのかな?)。ぜひ次回作では、ハトホ姉さんとクリス副長官と「黒山羊と幸福の姫」に出てきたロシアのフィグネリア捜査官で、日米露警察パーティーが組めるようにしてほしい!!両方の作品をプレイした方ならお分かりになると思いますが、水と油のような関係のクリス副長官とフィグネリア捜査官の会話が凄い見てみたいです!!

アーカム計画 (創元推理文庫)アーカム計画 (創元推理文庫)
著者:ロバート ブロック
東京創元社(1988-11)
販売元:Amazon.co.jp

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