2016年12月26日 04:37

山田正紀「カムパネルラ」読了。とんでもない傑作です。ソードアート・オンライン系小説が好きな方には絶対読んで欲しい!!SAO系の究極だと思います。

カムパネルラ (創元日本SF叢書)

山田正紀さんのSF小説「カムパネルラ」をただ今読了致しました。これは凄い…とんでもない傑作です!!山田正紀さんの小説の中でも五指に入る出来と思いますし、私的には山田正紀ベストワンに推したい!!そしてソードアート・オンライン系小説が好きな方には絶対読んで欲しい!!SAO(ソードアート・オンライン)系小説の究極だと思います。

僕がシステムに接続されたのは七ヶ月前のことになる。といってもこれは特別なことというわけではない。この国の子供達は十歳で「ピノキオの冒険」を、十六歳で「銀河鉄道の夜」を「システム体験」するのを義務付けられているからだ。
(山田正紀「カムパネルラ」)

本書は、ソードアート・オンラインと同じく、VR技術の発展により、SAOのナーヴギア以上のVRシステムが開発され、「完全に現実と区別のつかないVR世界」への没入が可能になった未来の日本が舞台。この未来の日本はファシズム右翼国家にして監視統制管理国家かつ「愛国主義教育国家」になっており、VRシステムを「教育」及び「更正」のシステムとして国家システムの根幹に取り入れているんですね。そして、「教育」や「更正」のその実は「現実と区別のつかないVR世界の特性を最大限に利用した洗脳」である訳です…。

現実以上に現実感を感じさせ意識を変容させることが可能な非常に高度なVRシステム(仮想現実システム)が開発されれば、それは「洗脳」として最も活用されるであろう、ということは、日本の仮想現実SFミステリ小説の先駆け「クラインの壺」でも指摘されていましたが、本書はそのテーマを、より大きく壮大に発展させた形と言えると思います。

「『現実』だと思い込んでいるこれにしたってさ。巧妙にそう思い込まされているだけの幻想なのかもしれない。つまり培養器が、培養器のなかに浮かんでいる脳をピンポイントで刺激し、ニューロン回路を構築し、脳の中に幻想を生成しているのかもしれない。それがこれなのかもしれない――その可能性は誰にも否定できない」
(山田正紀「カムパネルラ」)

「クラインの壺」では、あくまでVRシステムで行うと考えられているのは「個人」の認識を仮想現実で歪めることで行う「洗脳」であった訳です。本書では、巨大な仮想現実世界、ソードアート・オンラインでいうところの「アインクラッド」や「アルヴヘイム」のような世界、VRMMORPG的な仮想現実物語世界に多数の人間(国中の子供や更正が必要とされた「思想犯」等)を接続し、多数の人間に短時間の間に強烈な仮想現実体験を味あわせて、その人間の深層に強烈な体験意識を刻み込むんですね…。

この未来日本では、全ての子供や国家に批判的な大人は「教育」や「更正」の名目の元、国家が主導する「愛国主義的アインクラッド」や「愛国主義的アルヴヘイム」に強制的に送り込まれて、そこでの強烈な物語体験の認識により思想を塗り替えられてしまう、頭をやられてしまう訳です。

この発想が、流石は山田正紀さんだなあと深く感じましたね。ソードアート・オンラインとか、アクセルワールドとかの仮想現実SFを読んでいて感じるのは、どう考えてもそれらの小説で描かれるとてつもなく超高度なVRシステムが大規模に使えるような状況なら、国家という最大の権力機構がそこに介入してこないはずがないだろうって思いますものね。それこそ、超高度なVRシステムを使えば人間の認識を徹底的に操作できるわけで、そんな状況において国民の管理統治を目指す国家が介入してこない訳が無い。超高度VRシステムが存在したら、それは世界中の国家の垂涎の的になりますよ。ソードアート・オンラインやアクセルワールドで描かれるような超高度VRシステムの発達があれば、世界中の国家群は国民の管理、統制、教育にVRシステムを使用する方向に進むことを抑えられないでしょう。勿論、これは企業も同じで、世界中の企業群もまた、同じように超高度VRシステムを使った「洗脳」を行う方向に進んでゆくでしょう。

――どうやったら、これを「現実」でないと実感することができるだろう。どうやったら、この仮想現実を突き破って、その外側に達することができるだろう。

つまり、どうやったら、この「洗脳」を解くことができるか?どうやったら、ほんとうの「現実」にたち戻ることができるのか…それは、ぼくにはとても、とても切実な問題なのだ。

なぜなら、かりに幸運に恵まれ、ここから脱出したとしても、そこにはまたべつのシミュレーション内世界が待ち受けているからだ。「愛国」をうたい、「美しい日本」を称揚し、祖国への滅私奉公を督励する、べつの意味での「洗脳」が待機している。

そこには、「銀河鉄道の夜」第三次稿のシミュレーション内世界と同じように、ブルカニロ博士、「黒い大きな帽子をかぶった青白い顔の痩せた大人」に相当する大人たちがいることだろう。そして、適宜アドバイスを下し、耳に聞こえのいい教訓を授け、ぼくらをしかるべきところに「善導」することだろう。

しかるべきところ、それは――
(山田正紀「カムパネルラ」)

未来日本が「教育」「更正」の為に使う「アインクラッド」的な仮想現実世界が「銀河鉄道の夜」の第三稿世界というのも上手い。宮沢賢治はタカ派の軍国主義的な思想に染まっていたことがあり、銀河鉄道の夜の初期〜中期稿などにはそういった思想がかなり現れているんですね。

仮想現実世界を描くソードアート・オンライン系の小説の大半は「仮想現実技術の発達」自体は良いことと捉えている、ある種の性善説的な立場、科学技術の発展を信頼する立場に拠っているんですが、本書は全く逆に、「仮想現実技術の発達」によって、人間の「認識」自体が破壊され、人間性がバラバラに解体されていく恐るべき未来を描いているんですね…。超高度なVRシステムや超高度監視システムはとてつもなく洗練された「1984」的世界を生み出す…。本書の胸に残るラスト、読んでいて「クラインの壺」のラストを思い出しました…。ソードアート・オンライン系の多くの小説が無条件に前提としていた立場を、丸ごとひっくり返して全く新しい世界を見せてくれるのが、まさにSF、まさにセンス・オブ・ワンダー、本当に「流石は山田正紀さん!」って感じですね。

本書は仮想現実SFとして最高に面白く、全てのお方々にお勧めできる傑作です。なにより、ソードアート・オンライン系の小説が好きなお方々にはぜひ読んで欲しいですね。新しい世界を拓いてくれる小説と思います。

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