2016年12月25日 00:14
クリスマスを舞台としたお勧めサイコ・スリラー小説「サイコブレイカー」。インターネットと相互リンクしたミステリー。
クリスマスですね…。この時期は落ち込みと不安が激しくなりきついです…。冬季による日照量の減少で起こる冬季うつ病とはまた別に、「クリスマスうつ」というのがヨーロッパにはありまして、クリスマスに独り身で過ごす人々が孤独感により心身に打撃を受ける症状を指します…。日本は分かりませんが、ヨーロッパはクリスマスを大々的に家族や恋人で祝うため、独り身の人のうつの精神科受診が増えるそうですね…。今回はそんなクリスマスを舞台にしたサイコ・スリラー「サイコブレイカー」をご紹介致しますね。
本書「サイコブレイカー」は、とあるクリスマス・イブに、外は吹雪の大嵐、電話も移動手段も塞がれ、しかも内部から開けることができなくなった閉鎖シャッターにより、完全に外界から閉ざされたドイツの精神病院に、恐るべき殺人鬼「サイコブレイカー」と共に閉じ込められた主人公達を描くサイコ・スリラー。以前ご紹介致しました「治療島」の間接的続編になっており、「治療島」を読んでいるとより楽しめますが、本書単独で読んでも楽しめる作品です。
本書に出てくるドイツ中を騒がす連続殺人鬼「サイコブレイカー」は、被害者に一切外傷を与えることなく、被害者を深い昏睡状態に陥らせ死に至らしめる連続殺人犯。完全な記憶喪失と悪夢のような記憶のフラッシュバック再生とそして深い欝症状に悩まされる主人公は、クローズド・サークルとなった病院の中で、この「サイコブレイカー」と対決していくことになります。
スリラーの名手セバスチャン・フィツェックの技巧が冴え渡っており、「治療島」等と同じく息をつかせずに一気に読ませるサイコ・サスペンスの傑作です。ただ、「治療島」などは、ギリギリのところでミステリーとして成立していたと思いますが、本書は、そのギリギリを越えて、ミステリーとしてはアンフェアな域になっていると思うので、ミステリーとしてはちょっとうーんかも。ヴァン・ダインの二十則にどう考えても反していますからね…。
これがなあ…。宮部みゆきさんの某小説はぎりぎりミステリだと思ってますが、本作はミステリとしてフェアなラインをぎりぎり越えちゃった感じですね…。西澤保彦さんの「七回死んだ男」みたいに最初から作内で使われる超展開のネタを読者に公開した上で謎解きを挑んでくるミステリや、岸田るり子さんの「ランボー・クラブ」みたいな、超技術は出てくるけどそれとミステリとしての謎解きは直接に関わらないタイプのミステリはフェアだと思いますが、本書はそうではないので…。ミステリ読んでて「CIAの超技術」みたいのが出てくると、やっぱり「えええ…勘弁…」みたいに感じるんですよ…。そして何より日本の18禁ゲームなどで凄くよくあるネタなのがちょっとなあ…。日本の二次元18禁ジャンルの大ジャンルじゃないですか…。ただ、ミステリとしては難ありですが、サスペンス・スリラーとしては抜群に面白いことは保証致します。
あと、フィツェックのスリラー小説の中でも、主人公と物語と舞台がどれも非常に陰鬱で、時期がクリスマスというのは、まさに今の時期に独り身で過ごす自分のような境遇の人々にぴったりではないでしょうか…。主人公の心の支えがペットの動物というのは共感しますね…。
そして本書の面白いところは、本書は小説だけでは終わらず(ある意味において小説は未完)、インターネットと相互リンクすることで謎が解けていくという仕掛けなんですね。本書の日本語訳を行った柏書房さんが、特設サイトを作っておられるとのことを最後に読み、本書を読んだ後、早速、ネットで本書に関連したサイトを探したんですが…
本書内では明かされない最後の謎を解き明かす特設サイトが完全に消えてました!!
ポカーンとなりました…。…なんていうか…。ものすごくトホホな気持ちになりました…。
こういう、インターネットのサイトと相互リンクするミステリって日本にもあった気がするんですが(メフィストレーベルか何かで出版社の公式サイトに最後の落ちがあるミステリが昔出ていた気がする)、その小説も、出版社の公式サイトが消えたことで、ミステリとして永遠に落ちが分からなくなるという落ちだったんですね…。本は物質ですから消えたりしませんが、インターネットのサイトは夢幻の如きデジタルデータなので、本と違っていつでも消えてしまうので、ネットと相互リンクしたミステリは、ネットのサイトが消えたらそこでおしまいで謎が永遠に分からなくなるのが辛い…。
それでも頑張って、必死に痕跡を探して、昔存在した特設サイトのURLを何とか探り当て、インターネット図書館(インターネットのキャッシュサイト)を使って、昔存在した特設サイトを見ることができたんですね。
そして、全てが明かされる特設サイトへついにたどり着いた…そこは…
ドイツのドイツ語サイトだった!!
言葉の壁をひしひしと感じました…。
と言うわけで、本書はやはりドイツの読者層(ドイツ語を母語としてドイツのネット環境にいるドイツ人)に向けたミステリーなので、ネット上の仕掛けまで含めて全て楽しもうと思うと中々ハードルが高いですが、それもネットを使った謎解きだと思えば楽しめると思います。また、ネットの謎解きは無理にやらずとも本書だけでも楽しめます。クリスマスを舞台にしたクリスマスにぴったりの優れたスリラー小説、お勧めです。
ちなみに、既に消滅した柏書房さんのサイコブレイカー特設サイトのURLは、「http://www.kashiwashobo.co.jp/cgi-bin/bookisbn.cgi?isbn=978-4-7601-3557-8」です。ここからインターネット図書館のキャッシュ情報などを使えば、ネットでの最後の謎解きも進めてゆくことができると思います。ドイツ語は…頑張るしか…。
サイコブレイカー
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2009-07-06)
販売元:Amazon.co.jp
魔術はささやく (新潮文庫)
著者:宮部 みゆき
新潮社(1993-01-28)
販売元:Amazon.co.jp
ランボー・クラブ (ミステリ・フロンティア)
著者:岸田 るり子
東京創元社(2007-12)
販売元:Amazon.co.jp
七回死んだ男 (講談社文庫)
著者:西澤 保彦
講談社(1998-10-07)
販売元:Amazon.co.jp
治療島
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2007-06-21)
販売元:Amazon.co.jp
ラジオ・キラー
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2007-12-21)
販売元:Amazon.co.jp
前世療法
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2008-05-21)
販売元:Amazon.co.jp
アイ・コレクター (ハヤカワ・ミステリ 1858)
著者:セバスチャン・フィツェック
早川書房(2012-04-06)
販売元:Amazon.co.jp
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「休日うつ」の患者達が大挙して押し寄せるのは明日の午後のはずだった。彼らは、クリスマスイブをまた独りぼっちで過ごさなければならないというイメージがいよいよ現実になり、それに耐えられなくなってやってくるものなのだ。
(セバスチャン・フィツェック「サイコブレイカー」)
本書「サイコブレイカー」は、とあるクリスマス・イブに、外は吹雪の大嵐、電話も移動手段も塞がれ、しかも内部から開けることができなくなった閉鎖シャッターにより、完全に外界から閉ざされたドイツの精神病院に、恐るべき殺人鬼「サイコブレイカー」と共に閉じ込められた主人公達を描くサイコ・スリラー。以前ご紹介致しました「治療島」の間接的続編になっており、「治療島」を読んでいるとより楽しめますが、本書単独で読んでも楽しめる作品です。
本書に出てくるドイツ中を騒がす連続殺人鬼「サイコブレイカー」は、被害者に一切外傷を与えることなく、被害者を深い昏睡状態に陥らせ死に至らしめる連続殺人犯。完全な記憶喪失と悪夢のような記憶のフラッシュバック再生とそして深い欝症状に悩まされる主人公は、クローズド・サークルとなった病院の中で、この「サイコブレイカー」と対決していくことになります。
スリラーの名手セバスチャン・フィツェックの技巧が冴え渡っており、「治療島」等と同じく息をつかせずに一気に読ませるサイコ・サスペンスの傑作です。ただ、「治療島」などは、ギリギリのところでミステリーとして成立していたと思いますが、本書は、そのギリギリを越えて、ミステリーとしてはアンフェアな域になっていると思うので、ミステリーとしてはちょっとうーんかも。ヴァン・ダインの二十則にどう考えても反していますからね…。
ヴァン・ダインの二十則
十四則目:殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
これがなあ…。宮部みゆきさんの某小説はぎりぎりミステリだと思ってますが、本作はミステリとしてフェアなラインをぎりぎり越えちゃった感じですね…。西澤保彦さんの「七回死んだ男」みたいに最初から作内で使われる超展開のネタを読者に公開した上で謎解きを挑んでくるミステリや、岸田るり子さんの「ランボー・クラブ」みたいな、超技術は出てくるけどそれとミステリとしての謎解きは直接に関わらないタイプのミステリはフェアだと思いますが、本書はそうではないので…。ミステリ読んでて「CIAの超技術」みたいのが出てくると、やっぱり「えええ…勘弁…」みたいに感じるんですよ…。そして何より日本の18禁ゲームなどで凄くよくあるネタなのがちょっとなあ…。日本の二次元18禁ジャンルの大ジャンルじゃないですか…。ただ、ミステリとしては難ありですが、サスペンス・スリラーとしては抜群に面白いことは保証致します。
あと、フィツェックのスリラー小説の中でも、主人公と物語と舞台がどれも非常に陰鬱で、時期がクリスマスというのは、まさに今の時期に独り身で過ごす自分のような境遇の人々にぴったりではないでしょうか…。主人公の心の支えがペットの動物というのは共感しますね…。
そして本書の面白いところは、本書は小説だけでは終わらず(ある意味において小説は未完)、インターネットと相互リンクすることで謎が解けていくという仕掛けなんですね。本書の日本語訳を行った柏書房さんが、特設サイトを作っておられるとのことを最後に読み、本書を読んだ後、早速、ネットで本書に関連したサイトを探したんですが…
本書内では明かされない最後の謎を解き明かす特設サイトが完全に消えてました!!
ポカーンとなりました…。…なんていうか…。ものすごくトホホな気持ちになりました…。
こういう、インターネットのサイトと相互リンクするミステリって日本にもあった気がするんですが(メフィストレーベルか何かで出版社の公式サイトに最後の落ちがあるミステリが昔出ていた気がする)、その小説も、出版社の公式サイトが消えたことで、ミステリとして永遠に落ちが分からなくなるという落ちだったんですね…。本は物質ですから消えたりしませんが、インターネットのサイトは夢幻の如きデジタルデータなので、本と違っていつでも消えてしまうので、ネットと相互リンクしたミステリは、ネットのサイトが消えたらそこでおしまいで謎が永遠に分からなくなるのが辛い…。
それでも頑張って、必死に痕跡を探して、昔存在した特設サイトのURLを何とか探り当て、インターネット図書館(インターネットのキャッシュサイト)を使って、昔存在した特設サイトを見ることができたんですね。
そして、全てが明かされる特設サイトへついにたどり着いた…そこは…
ドイツのドイツ語サイトだった!!
言葉の壁をひしひしと感じました…。
と言うわけで、本書はやはりドイツの読者層(ドイツ語を母語としてドイツのネット環境にいるドイツ人)に向けたミステリーなので、ネット上の仕掛けまで含めて全て楽しもうと思うと中々ハードルが高いですが、それもネットを使った謎解きだと思えば楽しめると思います。また、ネットの謎解きは無理にやらずとも本書だけでも楽しめます。クリスマスを舞台にしたクリスマスにぴったりの優れたスリラー小説、お勧めです。
ちなみに、既に消滅した柏書房さんのサイコブレイカー特設サイトのURLは、「http://www.kashiwashobo.co.jp/cgi-bin/bookisbn.cgi?isbn=978-4-7601-3557-8」です。ここからインターネット図書館のキャッシュ情報などを使えば、ネットでの最後の謎解きも進めてゆくことができると思います。ドイツ語は…頑張るしか…。
サイコブレイカー
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2009-07-06)
販売元:Amazon.co.jp
魔術はささやく (新潮文庫)
著者:宮部 みゆき
新潮社(1993-01-28)
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ランボー・クラブ (ミステリ・フロンティア)
著者:岸田 るり子
東京創元社(2007-12)
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七回死んだ男 (講談社文庫)
著者:西澤 保彦
講談社(1998-10-07)
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治療島
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2007-06-21)
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ラジオ・キラー
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2007-12-21)
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前世療法
著者:セバスチャン・フィツェック
柏書房(2008-05-21)
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アイ・コレクター (ハヤカワ・ミステリ 1858)
著者:セバスチャン・フィツェック
早川書房(2012-04-06)
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