2016年11月29日 14:11

宮内悠介「アメリカ最後の実験」読了。環境システム論的に音楽を捉えたメタ音楽SFで面白かった!!対照としての伊藤計劃と宮内悠介。

CHAGE and ASKAのASKA氏が覚醒剤で再度逮捕ということで巷間大騒ぎですが、ちょうどタイムリーに音楽を主題にした宮内悠介さんのSF「アメリカ最後の実験」読了。環境システム論的に音楽を捉えたメタ音楽SFで面白かった!!

本作は、主人公のピアニストが、音楽は感覚器を通して人間を動かす技法であるという、環境システム論的な音楽の捉え方を徹底的にしているんですね。そうするとそういった人体システムにおける音楽の受容と反応のシステムの解析が進んで、それをテクノロジーで代用できるようになれば、人間に特定の感銘を与える音楽演奏などをコンピュータ等のマシンが補助し、いずれはマシンが全て代行して演奏できる未来、音楽から固有性が失われる未来が来るかもしれない。現代を舞台にした本書ではそこまでは行きませんが(そこまで現代のテクノロジーは進歩していない)、そういった可能性の未来を感じさせる小説で、音楽好きとしてとても興味深い小説でした。

「音楽は突きつめれば人間に対するハッキングだ」

音を媒介として、人の感情や欲求をコントロールする。その営為は、ハッカーがウェブを経由してコンピュータを乗っ取る行為に似ているとする。

すると、どのような演奏が聴衆の気分を和らげるのか。あるいは不安をかきたて、暴力性を高めるのか。どんなリズムやフレーズが、和音や構成が、進行が、音色が、音域が、対位と和声が、刺繍音が、通底低音が、持続音が、倚音が、掛留音が、切分法が――。

「こうした視点に一度立ってしまえば、もう音楽はかつてのように響いてはくれない。虚ろな、空っぽの器が後に残されるだけだ」
(宮内悠介「アメリカ最後の実験」)

これは、私みたいにブログを書いている人とか、音楽でも文章でも絵画(CG)でも何でもいいので何かを表現している人なら凄く良く分かるんじゃないかな…。つまり、オーディエンス(受け取り手側)を意識して何かを製作したり表現したりを始めると、表現とは、受け手側の反応を最初から加味した構造、始めからシステム的に受け手の反応を予想して構築の仕方が決定されている技巧、オーディエンスの欲求を反映するための技法になって、それ自体が作り手から離れた、最初から表現するものが限定され決定された虚ろな空っぽの器になるということですね。

主人公のピアニストは確信犯的に、パンドラというシンセサイザーの力を借りてさらにその方向性を進めて、徹底的にオーディエンスを動かすためだけに計算された音楽を極北まで突き進めようとするのですが、本書はその企みが、だんだんと挫折してゆく物語なんですね。

主人公の企みを挫折させるのは、家族との確執だったり、良き友人にしてライバルや主人公と同じタイプのライバルとの出会いであったり、色々あるんですが、最終的に主人公が心から愛せる恋人と出会ってしまうことで、角が取れて丸くなってしまうというのが…何とも…芸術に全てを捧げようとした意志を終わらせるのが異性との安寧というのが、非常にリアルな感じでしたね…。個人的には、主人公が目指す音楽の先にある極北も見てみたかったんですが、主人公はそこまで人間性を捨ててシステムそのものにはなり切れなかった。そういった点で中途半端な感じのする小説です。

ただ、この『主人公が決して新しい世界の最後までは行けず、古典的な人間性の世界に帰還してしまう』

というのが、宮内悠介作品の全てに共通する、まさに宮内悠介作品のオブゼッションとしての固定の通底低音でして、そこも含めて、ああ…いつもの宮内悠介作品だ…という感じで、新味はないけれど、安定して面白かったですね。ちなみに

『主人公が古典的な人間性の世界を完全に排して、新しい世界へ突き抜けていく』

というのが、今は亡き伊藤計劃さんの全作品であって、その点で宮内悠介さんと伊藤計劃さんというのは、それぞれの作品が凄く対照的、両方とも『テクノロジーによる変革が古典的な人間性の世界を超えて行く』というテーマでありながら、着地する方向がそれぞれ正反対なのが面白いなと感じますね。SFファンの間でも、クラシカルな保守的な層には宮内悠介さんの作品の方が受けがよくて、パンクな革新的な層には伊藤計劃さんの作品の方が受けがよいというのは、まさに作品から帰結されるあり方だなと思いますね。

(故伊藤計劃に捧げるに相応しい)テーマはただ一つ、「『テクノロジーが人間をどう変えていくか』という問いを内包したSFであること」です。これは、生前の伊藤氏がサイバーパンクの定義として捉えていたテーマでもあります。(ハヤカワ文庫JA『楽園追放rewired サイバーパンク傑作選』の虚淵玄氏による編者まえがき参照)
(塩澤快浩「伊藤計劃トリビュートまえがき」)

アメリカ最後の実験アメリカ最後の実験
著者:宮内 悠介
新潮社(2016-01-29)
販売元:Amazon.co.jp

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)
著者:王城夕紀
早川書房(2015-08-21)
販売元:Amazon.co.jp

楽園追放 rewired  サイバーパンクSF傑作選 (ハヤカワ文庫JA)楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選 (ハヤカワ文庫JA)
早川書房(2014-10-17)
販売元:Amazon.co.jp

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)
著者:伊藤計劃
早川書房(2014-08-08)
販売元:Amazon.co.jp

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