2016年11月21日 19:09

赤木智弘「世界の右傾化を支える「ポリコレ棒」とは何か」これ、岡田斗司夫氏ら昔から同じこと言ってますね。系譜学的シニシズムだけでなくサンダース的な希望や理想が必要だと思いますね…。

赤木智弘「世界の右傾化を支える「ポリコレ棒」とは何か」
http://blogos.com/article/198700/
正義の審問官にとっては自分の考えるPCこそが正義に他ならない。正義なのだから対話など必要なく、悪に対して一方的に押しつける態度にしかならない。それに反発する他者は「分かっていない、頭の悪い人」か「悪」なのだから、前者に対しては「しつけ」として、後者に対しては「正義の発露」として、いくら叩いても構わないという心情に至る。

これ、橘玲氏とか岡田斗司夫氏も昔から同じこと言ってますね。元を辿るとニーチェの「道徳の系譜」なんですな。道徳(ここではポリティカル・コレクトネス)の系譜学的分析です。岡田斗司夫さんの政治論・道徳論を語った著書「スター・ウォーズに学ぶ国家・正義・民主主義」より引用しますね。

人間は道徳的に他人を責めることで快感を得る
『他人を道徳的に攻撃すると、脳の快感を司る部分が激しく活性化することが分かっています。道徳は(他人を攻撃することで本能的攻撃衝動を充たすという形で)最大の娯楽の一つですが、それを認めるのは(道徳の根幹を揺るがす為)不都合なので、人々は怒りによって、自分の「不道徳(攻撃性)」を正当化しようとするのです。
(橘玲「「リベラル」がうさんくさいのには理由がある」)』

つまり、こういう風に人を責める(道徳をふりかざして人を責める)のは「良い」「悪い」の問題ではなく、私らの脳に(本能的攻撃衝動として)あらかじめプログラムされているという訳ですね。

タレントのベッキーの不倫にしても、ショーン・Kの経歴詐称疑惑にしても、不道徳だといって責める人が必ず出てくるけど、この人達は何の権利があって責め立てているのかよくわからないし、本人達も自分に対しなぜこれほど怒りを感じるのか理解していないでしょう。

そういう理由のない怒りだとか衝動というものを、私達は持っている。その怒りを収めるために「生贄を殺す」ことが政治の本質なのではないでしょうか。(中略)

例えば、人類学者ジェームズ・フレイザーの「金枝篇」には、未開社会における「王殺し」の神話や伝承が多数収録されています。(中略)地震や日照りについて誰も責任はとれませんが、取れないといって放っておいては私らの感情(自分が損なわれたと感じた時にはその分の損失分かそれ以上の分について他の誰かを損なわせようとする本能的攻撃衝動)は納得しない。何かで鬱憤を晴らさないと我慢できなくなってしまう。

不道徳と思われる人を見かけたらその本人を攻撃して鬱憤を晴らせばいいんですが、国や社会に対する不満のはけ口としては、結局王様が(生贄として)一番適当なんですよ。(中略)

結局のところ政治とは、理不尽に暴発する民衆の心をいかに管理し、どういう方向に誘導するかなんですね。
(岡田斗司夫「スター・ウォーズに学ぶ国家・正義・民主主義」)

橘玲氏とか岡田斗司夫氏は、赤木さんの論を一歩進めた地点から政治を眺めていて、『リベラルとは民衆の一部に「ポリティカル・コレクトネス」という「道徳=暴力への正当性」を与えることで力を得たが、やりすぎて失墜した』『政治とは暴力に道徳的正当性を与えることで民衆を支配するシステムである』と考えているんですね。これはニーチェの「道徳の系譜」に思想の源流があって、欧米のポスト・ニーチェの思想家もだいたいこの考えですね。日本の思想家だと東浩紀氏なんかもこれと同じ考え方をしていますね。

でも、これ、その通りだとしても、何も現状は変わらないんですよね…。ニーチェの道徳の系譜でもそうですが、こういう系譜学は最後は「人間の本性」「人間の本能」「社会とは本性・本能を制御するための技法があるだけの荒野」というところに結論が帰結してしまうので、攻撃的本能に基づいてポリティカル・コレクトネスで他者を攻撃し続けるような人を誰も止められないし(本性・本能なので止められない)、もうどうしようもない。あらゆる破壊的なものは人間の本性、人間の本能に基づいているから…。

ドイツの思想家スローターダイクは著書「シニカル理性批判」でポスト・ニーチェ思想(上記の思想)を批判して、ニーチェ的系譜学に基づいて道徳の欺瞞を暴いても、結局は何の意味も無い。なぜならそれは理想や道徳の欺瞞を暴き道徳とは本能に基づく暴力の正当化であると暴くだけで、新しい理想や道徳については何も提示できないからだ、それはただシニカルな上から目線のインテリであるだけで、社会に対するコミットメントを致命的に欠いている無責任なスタンスである、と述べていますが、私はその通りだと思いますよ…。

社会に対して影響力のある文筆家や思想家が悉く「政治とは民衆の不合理な暴力に道徳的正当性を与えて民衆の攻撃的本能の流れを操作する営みである」「ゆえに社会の不合理は何一つ改善することはできないしそのような仕組みを作ることもできない。なぜなら人間は攻撃的本能に支配された根底的に邪悪な救い難い存在であり、その攻撃性をある程度制御する以外にできることはないからである」みたいな非常にシニカル(冷笑的)でペシミスティック(悲観的)なポスト・ニーチェ的最終結論を出されても、「えっ」って思いますよ、民衆の一員としては…。「人間は根本的に邪悪で世の中に救いはないから社会を良くするなんてアキラメロン」って言ってるのと同じですからね…。結局それは「社会にも人間にも根底的に救いはない」と述べて人々を絶望させることで今現在の支配階級の立場を強化しているだけですよね…。

ちなみにこれは本題とは関係の無い軽い余談ですが、東浩紀氏がトランプ大統領について語っている最近出ていたニコニコ動画みたら以前よりも物凄く太っていて驚愕したんですが…。もしかしたら東浩紀氏の思想に太る要因があるんじゃないかなあ…。肥満をテーマにアシモフらが編纂したアンソロジー「The Science Fiction Weight-Loss Book」で「太る要因の一つは自分に対する楽観主義と外部に対する冷笑主義である」みたいなこと書いてありましたが、東氏の思想ってまさにそれそのものなので、心配になりましたよ…。更に余談ですが、ITベンチャー企業の起業家であり作家である上田岳弘さんの「太陽・惑星」は両作共にまさに上記のポスト・ニーチェ主義の帰結による人類の避け難い完全絶滅を描いている奇妙な味のSFで非常に面白かったですね。特に「惑星」、ゲームのシュタインズ・ゲートを更に先鋭化したような、あらゆる時間に偏在できる能力の持ち主がどのように行動しても、アップルをモデルにしたIT企業の暴走によって引き起こされる最終的な人類史の流れによる人類の完全絶滅は避けられないという、人類にとことん絶望しきっている「惑星」の展開とか、まさにポスト・ニーチェ思想だなと感じました。日本の新富裕層であるITベンチャーの起業家がこういうの書いちゃうくらい、人類全体に対するシニカルな視野が社会の上層にも広がっているのだなと感じさせましたね…。閑話休題。

私は、やはり、希望とか理想がないと社会が良くなる可能性すら閉ざされると思うので「政治とは民衆の不合理な暴力に道徳的正当性を与えて民衆の攻撃的本能の流れを操作する営みである。ゆえにポリティカル・コレクトネスを掲げて暴力を道徳の名の元に振るう人間を止めることはできない。なぜならそれは攻撃性という生物学的本能だからである。終わり」みたいな感じで終わって欲しくないと思います。思想家がシニカルで絶望的な視点だけを「これこそが系譜学的真理!」として出してきても、「社会と民衆は根底的に最悪であると上から目線で分析するだけのあんたたち自体は、一体何のためにいるの?」って思うだけですよ…。バーニー・サンダースがトランプ大統領に理想主義的な要求を出していますが、こういった形で、社会の希望とか理想を何処かに存在するものとして常に掲示し続けることが、社会的影響力を持つ人々の責務としてあると私は思いますね。

アメリカ政治はトランプ対バーニー・サンダースで動き始めた
http://blogos.com/article/198672/
 11月16日、水曜日夜、バーニー・サンダーズ上院議員は、選挙が終わってからはじめて、まとまった演説をし、大きな注目を集めた。フェースブックでは、もう60万の人がみている。
https://www.facebook.com/PoliticalRevolution/videos/1308001395918740/
 このワシントンのジョージタウン大学で行われた演説で、サンダースは、いくつかの問題についてトランプ次期大統領とともに働けることを希望しているといった。(中略)

(1)トランプ氏は社会保障予算をカットすることはしない。メディケアとメディケードを切ることはしないといった。私は拡充せよと主張するが、切らないというのは前提であり、重要な約束だ。

(2)トランプ氏は、1兆ドルを我々の公共的なインフラ整備に投下すると約束した。それをすれば何百万もの給料の良い仕事口ができる。これも私の主張に共通する。

(3)私は、今日の連邦の最低賃金が飢餓賃金であり、それは1時間につき15ドルにアップされねばならないと主張した。トランプ氏は、1時間につき10ドルまで最低賃金を上げなければならないと言った。これは十分ではないが、一つのスタートだ。

(4)トランプ氏は、ウォール街の許しがたい強欲さと悪行を批判し、ニューディールで採用されたグラス・スティーガル法を復活するといった。これは最大の焦点のひとつだ。賛成なことはいうまでもない。

(5)トランプ氏は、6週の有給出産休暇を実現すると約束した。地球上で主要な文明国といえば少なくとも12週の有給の家族と病気療養休暇が条件だが、これもスタートとしては重要だ。

(6)トランプ氏はTPPなどの我々の壊滅的な貿易政策を変えるといった。これも賛成だ。

 時代錯誤の無知で頑迷な人種差別、外国人ヘイト、性差別などではまったく妥協はしない。しかし、以上が、誠実に行われるかどうかが問題だ。

 大統領候補が、この国の労働家族に偽善や嘘をいうことはゆるされないことは分かっているはずだ。これらを注意してみていくし、一緒にできることはいくらでも協力する。期待していると言ってもよい。
  
 以上が演説の主な内容の一部。

私はこの演説に(上記のURLから実際に見れます)全面的に賛同できますね。こうやって社会に理想や希望を掲げるのが、社会的な有力者の本当にやるべきことだと思います。ポスト・ニーチェ的絶望の解毒剤としては「正義論の名著」とか凄く良かったですね。

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