2016年11月16日 16:16

大澤真幸「トランプのふしぎな勝利」トランプ旋風の分析として個人的に最も納得が行く分析、一読の価値有りと思います。ダニ・ロドリック「グローバリゼーション・パラドクス」

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

トランプ旋風を分析した大澤真幸「トランプのふしぎな勝利」読了。トランプ旋風の分析は専門家から門外漢まであらゆる人が行っていますが、私個人としては、この「トランプのふしぎな勝利」が最も納得の行く分析でしたね。一読の価値有りと思います。

大澤真幸「トランプのふしぎな勝利 上」
http://news.livedoor.com/article/detail/12290620/
大澤真幸「トランプのふしぎな勝利 下」
http://news.livedoor.com/article/detail/12290621/
 まず、はっきりと言っておこう。確かにトランプは勝った。そして、私は今、トランプの人種主義や性差別主義が、トランプの魅力にもなっていると述べた。しかし、トランプに投票した人が、トランプと同様に人種主義的であると思ったら大間違いである。トランプに投票した人が、トランプと一緒に、女性蔑視していると考えたら、事態を見誤ることになる。まして、トランプ支持者は、ハラスメントの推進派だなどと考えたら、とんでもない。もし、真正の人種主義者やほんとうの家父長制的性差別主義者しか、トランプを支持しなかったら、彼は選挙に完敗していただろう。

 それでは、なぜ彼は勝てたのか。とてつもない欠陥に見える彼の顰蹙ものの言動が、どうしてポジティヴな要因に転化したのか。

 もう一度、クリントン側を見よう。繰り返すと、そこには、ほとんどすべての立場、すべての価値観が多文化主義的な包摂されている。だから負けるはずがないように見える。しかし、彼女は負けた。ということはどういうことか。その「すべての立場」が前提にしていること、どんな価値観を主張するものも「それだけは前提だよね」と自明視していること、そのことが有権者に拒否された、と考えなくてはならない。それは一体何なのか。

 答え。それは、グローバル資本主義である。これだけは基本的な土俵である。これだけは、受け入れなくてはならない。これさえ、グローバル資本主義さえ受け入れてくれれば、どんな立場、どんな価値観でも許容しよう。これが、クリントン陣営である。

 多文化主義とか、political correctnessとは、グローバル資本主義を受け入れる限りでの多様性ということである。それだけ受け入れれば、どんな立場も寛容に平等に受け入れましょう、というわけだ。だって、そうでしょう。これ(グローバル資本主義)以外の選択肢はないのだから。……というのがクリント側の主張である。

 すると、当然、グローバル資本主義の不可避の産物は、グローバル資本主義に必然的に随伴するものは受け入れなくてはならない、ということになる。たとえば、それは何か。とてつもない不平等や、とんでもない階級的搾取である。それは、幾分かは緩和できても、無にすることはできない。資本主義は、「格差(不平等)」を食って生きているのだから。

 そうすると、クリントン側の主張は、欺瞞的なものにも聞こえてくる。なぜかと言えば、彼女たちは客観的には次のような態度をとったことになるからだ。一方で、「私たちはどんな価値観も公平に平等に受け入れます」と言いながら、他方で、最も過酷な不平等(資本主義がもたらす格差)だけは容認する、と。

 有権者からすると、こんな気分になる。ろくな収入も仕事すらもなく、社会から、「お前はゴミだ」と言われているときに、移民も大事だとか、LGBTの人に寛容に、だとか言われてもなあ〜。かつてのオバマ大統領のスローガンを変形させると、クリントンのスローガンは、客観的にはこうである。Change without Change. 資本主義という枠組みを変えないならば、どう変えてもよい。…ということは、本質的なところは変わらない、ということになる。格差や搾取は、基本的にはそのままなのだから。(中略)

 トランプが言っていることは、実質的には次のようになる。資本主義がもたらす成果、それがもたらす富をいただこう。ただし、「格差」は抜きにしてみせよう。いや、少なくとも、アメリカ人は搾取されない(仮に搾取する側になるとしても)資本主義にして見せよう。

 実際、トランプを支持している人が期待したのはこれである。資本主義の実りである富はある。しかし、自分たちは絶対に搾取されない。そんな資本主義をいただこう。

 それで、そんな資本主義は可能なのか。無論、不可能である。そんな都合のよいことができるくらいなら、最初からそうしている。トランプが公約したこと、トランプに期待していることは、端的に不可能だ。それは、「資本主義なき資本主義」と言っているに等しいからだ。

 にもかかわらず、人々は、トランプを支持したとき、半信半疑ながら、そんな都合のよいことが、搾取なき資本主義のようなことが可能かもしれない、という夢を見ているのである。半信半疑ではある。だから、アイロニカルな没入なのだ。しかし、アイロニカルであっても、没入は没入である。

 だが、どうしてそんな夢を見ることができるのか。ここで、あの顰蹙を買った言動が効いてくる。非常に寛容な多文化主義でさえも、さすがに容認してくれそうもないような、あからさまに非道徳的な言動をとること。非の打ち所もなく、反論もできないようなpolitical correctnessのルールを、堂々と恥ずかしげもなく蹂躙すること。このことが、誰もが当然のように前提にせざるをえない地平の外に出ることが可能だ、という幻想を生むからである。拒否できそうもない地平とは、もちろん、グローバル資本主義である。

 多文化主義やpolitical correctnessは、いわば、グローバル資本主義の政治的な表現である。誰もが、それらを蹂躙することには躊躇を覚える。どこかおかしいところがある、何か胡散臭いと感じても、どうしても、多文化主義やpolitical correctnessを否定することはできない。そんなふうに感じているとき、一人の男が、平気な顔をして、それらを侵犯し、蔑ろにしてみせた。このとき、人々は、別に、彼の人種主義や性差別がすばらしい、と思うわけではない。ただ、その言動は、多文化主義やpolitical correctnessと表裏一体にくっついているグローバル資本主義の外に出ることが可能なのかもしれない、ということを表現するサインになるのだ。(中略)

 私は、現在の選挙結果を前向きに考えることにした。絶対に優位だと思ったクリントンが負けた。ということは、人々は、ある意味で、「革命」を求めているのだ。ここで革命というのは、自明とされている前提を――つまり資本主義を――相対化するような変動という意味である。この自明の前提(グローバル資本主義)そのものの帰結が、もはや耐え難いのだ。

 では、トランプを選んだということは、それ自体、「革命」なのか。そうではない。今述べたように、それは失敗に終わる。端的に不可能なことを実現しようとしているのだから。

 だからといって、クリントンを選んだとしても、救われはしない。クリントンを大統領にするということは、致命的な生活習慣病を抱えながら、対症療法だけで延命するようなものだ。細々と寿命を少しは延ばすことにはなるが、致命的な病は致命的な病だ。人は病を徹底して治す機会を逸して、いずれ死ぬ。

 トランプは危険な賭けだが、そのはっきりとした失敗を媒介にして、人々は、初めて、真の革命の必要を自覚するだろう。私は、つい先日、『可能なる革命』(太田出版)という本を出したばかりだ。トランプ大統領(の選択)自体は、未だ〈可能なる革命〉ではない。しかし、それは〈可能なる革命〉に至るために、絶対に通過しなくてはならない試練であり、失敗なのかもしれない。クリントンを取っていたら、革命は端的に不可能になっていた。

完全に同意する分析ですね。最後に自分の著書を宣伝しているのはご愛嬌ですが、主な論旨について私も大澤真幸氏と全く同じく思います。「(グローバリズムを推し進める)クリントンを取っていたら、革命は端的に不可能になっていた」というのは、後述しますが、ダニ・ロドリックも同じようなこと述べていますね。

「ここで革命というのは、自明とされている前提を――つまり資本主義を――相対化するような変動という意味である。この自明の前提(グローバル資本主義)そのものの帰結が、もはや耐え難いのだ。」

ヒラリーの言っていたことは大澤真幸氏が述べるようにグローバル資本主義を不可侵な聖域であり推進すべきものとしている時点で深い欺瞞なんですね。彼女が日本の安倍首相と同じく熱狂的なグローバリストであり国家よりも多国籍大企業を優越させるグローバル資本主義の尖兵であることは彼女のあらゆる発言や行動から誰でも分かる訳ですよ…。

「クリントン側の主張は、欺瞞的なものにも聞こえてくる。なぜかと言えば、彼女たちは客観的には次のような態度をとったことになるからだ。一方で、「私たちはどんな価値観も公平に平等に受け入れます」と言いながら、他方で、最も過酷な不平等(グローバル資本主義がもたらす格差)だけは容認する」

ということな訳です。グローバル資本主義の齎す格差を前提とした政治なんてこと言われたら貧しい人にとっては「はぁ?何言ってるの?」としか思わないですよ。オバマ大統領の8年間で、富は上層階級に集中して貧富の差は拡大し、アメリカのジニ係数は全く変動しなかった、つまり景気が良くなっているのではなく、上昇した景気分の利益は全てグローバル経済の上層階級が掻っ攫っていった訳です。そんな政治を更に続けるとか、そりゃ悪夢以外の何物でもないでしょう。

日本なんかますます訳が分からなくて、ヒラリー支持で安倍不支持という人がテレビに出てくる識者と呼ばれるような人々に一杯いる訳ですよ。でもヒラリーの政策と安倍の政策ってほとんど同じじゃないですか。グローバリズム拡大、グローバリズム拡大の結果として起きる貧富の格差の拡大の是認、軍事展開重視、多国籍大企業を国家主権よりも優遇、他国への介入主義。日本のニュース番組とか見ているともう本当に、「お前は何を言っているんだ」と言いたくなるコメンテーターがわんさかいますよ…。

ハーバードの国際経済学者ダニ・ロドリックは、「グローバリゼーション・パラドクス 世界経済の未来を決める三つの道」として、以下の三つは、二つしか達成できない世界経済のシステムになっていることを語っています。究極的には、ある程度成功した国家のその後に進む道というのは下記の三つのうちどの二つを取るかという選択になってくるということなんですね。

1.グローバリズムによる自由資本主義(=貿易の活性化及び貧富の格差の拡大と貧困層の増大)

2.国家主権(=国家が市場からの要求に対して国家の独立性を保てるかどうか)

3.民主主義(=議会制民主主義。国民が選挙により国家の行く末を決めることが出来る国民国家かどうか)

分かりやすいところで言えば、中国は3を捨てて1と2に特化した国家なんですね。EU圏はこれはちょっと複雑なんですが、大雑把に言えば1と3を取って2を捨てているんですが、2の欠片がまだ地域ごとに残っていて、2と3が強くなるとその地域はEUから離脱していく(イギリスのように離脱していく)という感じです。日本はTPP条約が発効してISD条項により国家主権が多国籍企業の権限によって制限されていくようになると、EU圏と同じく1と3を取って2を捨ててゆくタイプになるんですが、TPPが頓挫しそうなのでなんとかそこまではゆかずに踏みとどまっているところです。

で、アメリカもグローバリズムを推し進めてEU圏タイプの1と3を取って2を捨てていく形になるのかと思われたら、それに思い切りブレーキが民主主義的に掛かった、それがトランプの勝利(2・3の勝利)なんですね。ダニ・ロドリックはこのことを予想していて、グローバリズムによる自由資本主義は国内の貧富の格差と貧困層の増大を齎すので、民主主義国民国家においては、人々のボトムアップな声(下からの声)としてまさに民主的にストップが掛けられるだろう。結果、民主主義国民国家においては2と3の勢いが増して、世界は無秩序にグローバル化が進むのではなく、グローバル化にストップが掛かる地域と掛からない地域が混合したカオスな状態になるだろうって予想しているんですね。

ダニ・ロドリックは貧しい人々を救うべきと考える本当の意味のリベラルで理想主義者的なところのある経済学者でして大勢の人々を貧しくしていくグローバリズムの進行に反対しているので(ちなみに余談ですが、グローバリズムに賛成するリベラルはリベラルではなく、世界的収奪者とかワンワールド主義者とか、リベラルではなく別名を名乗って欲しい…)、最終的には人々の善意と良識によって2と3が最終的に民主主義国民国家では選ばれるだろうというのは彼の願望が入った予想なんですが、トランプの勝利というまさにその通りのことが起きたことは、真に希望だと思います。

今回のことで一番重要なことは、グローバリズムで利益を得る超少数のグローバル富裕層以外の人々、つまり地球上のほとんどの人々にとってみれば、1の勢いが強まるというのは悪夢以外の何物でもないということです。21世紀はグローバリスト対反グローバリストが戦う世紀になると予想致しますね。

あと、リベラルの中でも、グローバリストリベラルと反グローバリストリベラルはもう完全に正反対に政治的立ち位置が違うのに、「リベラル」で一緒くたにされるのは、本当になんとかしてほしいです…。TPPを支持するようなグローバリストリベラルはリベラルじゃなくて、格差拡大賛成論者とかワンワールド主義者とかギャラクシーエンパイア主義者とか名乗ってくれないかなあ…。彼らの理想は銀河帝国ですから…。

パルパティーン
「銀河の安全と安定を恒久的に維持していくために、共和国は解体・再編され、新しく第1銀河帝国が誕生する!より安全で安定した共同体に変わるのだ!」

銀河帝国議員達「一つの法!一つの意志!一つの安定!」
(スターウォーズ シスの復讐)


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