2016年03月12日 04:36

ケヴィン・ブロックマイヤー「第七階層からの眺め」読了。物凄い超傑作SF短編集!!私的にはイーガンを超えた!!

第七階層からの眺め

ケヴィン・ブロックマイヤーのSF短編集「第七階層からの眺め」読了しました。凄い、これは本当に物凄い。こんな凄い作家がまだあまり話題になってないのはなぜだろう。断言できます、間違いなく凄い傑作です。私的にはイーガン短編集を超えたと強烈に感じました。ものすごい傑作です。

何といいますか、物凄くバラエティに富んだ多彩な短編集で一言では言い表せない作品集です。全ての作品がジャンル横断的で、SFであり、純文学であり、ファンタジーであり、漫画的であり、良い意味で情感的で叙情的なのですが、それらが渾然一体になっていて、そしてそれら全ての作品の基本としてあるのはSFのマインドなんですね。我々の思考の延長線上としての論理的整合性が完璧に美しく成立している。イーガンやテッド・チャンといった優れたSF作家の短編集を読んだときの、全体の整合性の美しさから感じる感嘆を本作作品の全てから味わうことができます。

そしてそれだけではないのが本短編集の特徴、非常に人間描写の繊細さと深さに長けた描写で、ステレオタイプな描写ではなく、人間の深みがしっとりと描かれている。良い意味で非常に純文学的です。いわゆる「テンプレ」的な人間造型と全く対極にある。

それでいて、作品の手法は凄く挑戦的で、ゲームブックそのままの短編「アドベンチャーゲームブック ルーブ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂」とか、パロディや映画的、テレビ的、漫画的手法、アニメ的手法、サブカルチャー的なものもふんだんに取り入れたりしており、凄い面白みがある。ジャンルというものを完全に越境した作品集です。

これは凄い。物凄い傑作としか言いようがない。特に短編「思想家たちの人生」とかSF的なガジェットを何一つ使わなくても、とてつもない傑作SFを描くことは出来るのだということを証明していて、物凄い感銘を受けました。この作品は、「ニーチェとアクィナスはなぜ晩年おかしくなってしまったのか?」という問いに憑りつかれた哲学科の講師の主人公と、マタニティ・ブルーな恋人との話で、SF的なガジェット、すなわち架空のテクノロジー等は一切ない現代の話なんですが、それでも、物凄くSFなんですね。ラストとか凄すぎる…。凄い作品集です。

本書解説によると、ケヴィン・ブロックマイヤーはケリー・リンク(こちらも私の好きな作家です。超メタメタ幻想短編「プリティ・モンスターズ」とかファンタジーの強烈な傑作「パーフィルの魔法使い」とか大好きです)と並んで、「Interstital Art」という、ジャンル横断的表現の旗手とされているようですね。個人的には、ケリー・リンクも大好きですが、ケヴィン・ブロックマイヤーの方がより壮大で読みやすくて一般受けしそうな感じがしましたね。ブロックマイヤーは凄くSFのマニアなんだけれど(本書を読むとそれは凄くよくわかります)、SFの名門クラリオンではなく、純文学の名門アイオワ州立大学創作科の方で創作を学んできた作家さんということで、良い意味でSFと純文学が融合して凄く面白くなっているような感じの作風ですね。

もうこれは、本当に傑作なので、SF好きに限らず、全ての本好きに読んで欲しい。とても読みやすいので、普段本を読まない方にもお勧めですね。人間の描き方はちょっと吉本ばななに似ているかも。何年も本を読んできて、「これは凄い!!」って心の底から感じられる久々の素晴らしい傑作です。心からお勧めですね。

ジャンルの枠組みなど、出版社や書店が勝手に決めているだけで、すでに普通の読者は特定のジャンルなど選ばずに小説を読むようになっている。「スパイダーマン」の映画を楽しむために膨大なアメコミを読んでいる必要などなく、「ハリー・ポッター」を楽しむために「指輪物語」に始まる膨大な現代ファンタシィの名作を読破する必要などないのだ。そもそもブロックマイヤー自身、子供の頃に愛読したのはコミックでありSFであったと述べている。そうした奔放な想像力を駆使した作品の世界観は、もはや現実と乖離したものではなく、ごくふつうの現代人の心の景観を作りあげているのだ。(中略)

(ブロックマイヤーは)コミック、児童書、SF、ファンタシィ、現代文学など、子供の頃からもっとも大きな影響を受けている作風を利用して、これからもジャンルの枠にとらわれない作品を発表していくことは間違いなさそうだ。

この短編集でもそうした多岐に渡る影響は顕著だが、それもそのはずで、この作家が選ぶ愛読書ベスト十五作は以下のように様々なジャンルにまたがっている。(中略)

このリスト(純文学・古典文学・近現代エンターテイメントがごちゃまぜの愛読書リスト)を見ても分かるように、ジャンルの混交など、ブロックマイヤーにとっては何の不思議もなければ実験ですらない。たとえば本書に収録されている「トリブルを連れた奥さん」は、「スター・トレック」(というよりは、「宇宙大作戦」の初期エピソードでも人気の高かった「トリブル騒動」)を下敷きに、宇宙船エンタープライズならぬエンデバー号のパヴェル・チェコフ(Chekhov)が語る我らのケプティン(艦長=キャプテンのロシア語なまり)の道ならぬ恋の顛末を描いたものだが、実際に下敷きになっているのは、同じChekhovでも文豪アントン・チェーホフの描く、最近映画にもなった名作短編「犬を連れた奥さん」なのだ。
(ケヴィン・ブロックマイヤー「第七階層からの眺め」解説)

もっと話題になって然るべき凄い本と作家さんだと思うし、もっと話題になって他の著書も翻訳されるといいなあ…。翻訳されていない本がかなりある…。翻訳されるよう思わず祈ってしまいます…。本書ラストの収録作、人々の祈りを知ることのできるコートを手に入れた男の話「ポケットからあふれてくる白い紙切れの物語」とか本当にいい…。アイデアの面白みや描写の繊細さだけでなく、読んでいてほっとできる優しさが底流にあるのが、本当に良い。ぜひにご一読お勧めする短編集です。

最初、男はコートの能力に気づいたとき、かつて子供の頃に白昼夢で見たような空想に耽った。その中で、彼は正義の使者となって、だれにも正体を知らせずに人々の願いを叶えた。あるいは、ポケットを利用して、人々の人生の浮き沈みをこっそりと知った(とはいえ、詳細まではわからない)。はたまた、謎めいた、ちょっと恐ろしげな人物となって、誰かの肩をむんずとつかむと、その目をじっと見て言った。「今、きみがなにを考えているのか、言ってやろうか」しかし、こうした思いはすぐに頭から去っていった。

世界にはたくさんの祈りがあり、たくさんの切望があって、それら全てを前にすると、彼は無力感を覚えはじめた。

ある夜、男は夢を見た。夢の中の彼はプールサイドを歩いていて、頭上の空は水面とおなじように柔らかく輝いていた。そのとき、彼はホテルのデッキチェアの一つで、神が回復期の患者のように寝そべっているのに気づいた。「神様!」と男は声をかけた。「ここでなにしてるんです?うちにあなたのコートがあるんです。返してほしいでしょう?」

神は読んでいた雑誌を膝の上に置き、ページの角を折り曲げると、首をふった。「今ではおまえのものだ。あれはすべて、今ではおまえのものさ。私はもう責任を負いたくないんだ」

「だけど、わかってないんですか?」男は神にいった。「地上の僕らにはあなたが必要なんですよ。それを見捨てるなんて」

すると神は答えた。「私は自分の身分の限界をようやく理解したんだ」

目覚めてみると、まだ午前二時をわずかにすぎたところだった。月明かりがあったので、洗濯物のかごと陶製の鉢、それから寝室の床を覆いつくしている十箱ほどの段ボールが見えた。そのすべてに、彼がどうにも捨てかねた白い紙切れが詰まっている。
(ポケットからあふれてくる白い紙切れの物語)


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終わりの街の終わり終わりの街の終わり
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