2013年10月04日 14:29

9月25日にギフト券を贈って頂きありがとうございます。「宮河家の空腹」メタ・マルクス的で面白いですね。日常系と生活系。

宮河家の空腹作品一覧

9月25日にギフト券を贈って頂きありがとうございます。生活とても助かります。気づくのが遅れて御礼を申し上げるのが遅くなり申し訳ありません。本当にありがとうございます。身体を壊しておりまして、ギフト券やアフィリエイトのお買い物で助けて頂き、本当に深くありがとうございます。

最近は新作アニメの「宮河家の空腹」を見ています。本作は大人気作品「らきすた」のスピンオフ作品でして、僕としてはこちら(宮河家)の方が好きですね…。「けいおん」と並ぶ日常系作品(毎日遊び暮らしている幸せな日常の日々が無限に続く系統の作品)の金字塔として有名な「らきすた」ですが、らきすたのスピンオフ「宮河家の空腹」は、そういった日常系の下部構造にメスを入れている、いわば日常系の対極的作品、社会的視点のある生活系作品(生活系については後述)なのですね。

どういうことかといいますと、日常系な日々を送る幸せな人々とは、経済的特権階級たる高等遊民であり、その安楽な暮らしを支える遊興費や生活費がどこからか出ているということなのですね。そのお金の部分(下部構造)こそが重要である、というマルクス経済学的な視点をきちんと持っているのが「宮河家の空腹」と言えます。

ウィキペディア「下部構造」
唯物史観(史的唯物論)では、人間社会は土台である経済の仕組みにより、それ以外の社会的側面(法律的・政治的上部構造及び社会的諸意識形態)が基本的に規定されるものと考えた。(土台は上部構造を規定する)

よい子の社会主義
http://www.thought.ne.jp/html/text/socio/02is5.html
親たちは自分がすでに身につけ、労働や消費生活のなかでそれが「賢明」なやりかただと自明視している行動様式を、子どもたちに習得(あるいは納得)させていく。労働者階級の家庭では、労働者としての立ち振る舞い、口の聞き方、モノの考え方が、ほかの階級でもその階級にふさわしい立ち振る舞い、口の聞き方、モノの考え方がそれぞれ植え付けられる。いわば、それは親から子へ手渡される、無形の遺産として。たとえばレーニンだって、同志労働者諸君がスープを音をたてて飲むのが我慢ならなかった。

宮河家の空腹OP「KACHIGUMI」(平野綾)
産まれてこの歳まで ガマンはしたことない ガマンする理由がどこにもない ラッキーなスターの下で のびのび育ってきたの

食べたいもの食べて 寝たいときに寝て自由気まま奔放 生きてるの いいとこ生まれた それまた運命じゃん

宮河家の空腹ED「MAKEGUMI」(島形麻衣奈・川崎琴)
白いお米を 噛み締める 噛み締めれば 噛み締めるほど 消化酵素

もやし炒め 35円 豆腐特売 3パック100円 カレーライス 具はない カップラーメン なんてごちそう

節約なのよ ケチじゃない わびしくないわ 貧しいだけ お肉は 幻の 食べ物(中略)

ただの数字に 支配され 右往左往 しているよりは 幸せだわ なーんていうけど 強がりよ お金は大事 大事だよ

要するに、上記の歌詞で歌われているように、「らきすた」は、富裕層のキャラクター達の幸せな日常を描くアニメですが、本作「宮河家の空腹」は、貧困層のキャラクター達の特に幸せではない日常を描いているアニメでして、作品そのものが、「らきすた」や「けいおん」に対する痛烈なアンチテーゼとなっている、『らきすたやけいおんの幸せな世界は、主人公達が皆富裕層の学生達だからこそなりたっているのだ!』ということを下部構造から突きつけている作品でして、凄く痛快で面白いと感じますね。本作は浅羽通明さんの言うところの日常系と対極になる生活系(作品の中に労働生産と経済的・社会的視点がある)と言える作品だと思います。

『生活』という漫画がありました、作者は福満しげゆき。彼には『僕の小規模な生活』という作品もあります。作者と妻の間のたわいないあれこれをギャグ化して描いておりますが、これは「日常系」ではまったくない。そこには漫画家とその妻とが、経済的に生活を成り立たせている現実が、ひしひしと伝わってくるのです。

思うに「日常系」と「生活系」との違いは、「日常系」では消費しか描かれないのに対して、「生産系」が何らかの生産(労働)を描く所ではないのか?「日常系」ではチョココロネとかお菓子や紅茶が消費されますが、「生活系」では三度のご飯が描かれる。こちらは消費であって(遊興的な)消費にとどまりません。明日の労働に耐える心身を養う生産。マルクス経済学の用語でいうところの労働力再生産なのです。

漫画家福満しげゆきの家庭生活はそのまま家庭内手工業の労働に他なりません。作品が出来上がりその数が着実に増えていく。そこには付加逆な「直線的時間(変化する日々)」が流れています。

福漫夫婦はやがて子供を授かり、漫画は子育て漫画ともなってゆく。子育ては世代を超えた労働力再生産の際たるものです。ですから「うさぎドロップ」など最近人気の子育て物は「生活系」といってよいでしょう。育ってゆく子供こそは、日常に入り込んだ「直線的時間」に他なりません。

さらにはコロコロ系の「ドラえもん」とか「おぼっちゃまくん」も生活系と言うべきです。野比のび太は孫の孫のセワシが借金に苦しむ未来を到達させないため、しずかちゃんと結婚できる未来を実現するため、ドラえもんの力を借りて成長しようとしているのですから。御坊茶魔は、厳父亀光の手で御坊財閥の次代当主に相応しい帝王学教育を施されています。

これらにも子育て漫画と同様、明日が見える。「直線的時間」が包含されているのです。幼年向けという性格上、のび太は永遠に小学生、茶魔は小学五年生、忍たま乱太郎はずっと一年坊主ですが、そこにはたしかに未来があるのです。「直線的時間」があるのです。

これは、進級進学をしっかり描く「らき☆すた」や「けいおん!」がそのために少女たちの変わらなさ、即ち「円環的時間(変化しない日々)」を際立たせているのと好対照といえましょう。

そういえば、この講義を熱心に聴いてくれた芝浦康一という早稲田卒の若い人が、「日常系」と「生活系」に関して誠に興味深い指摘をしてくださった。日常系と猫派、生活系と犬派がそれぞれ対応するのではないかというのです。

たしかに「らき☆すた」には猫型クッションがシンボルマークのように出てくるし、「けいおん!」の唯一の後輩はあずにゃんですね。「日常」にも坂本という猫がでてくる。犬も出ますがレギュラーではない。「あずまんが大王」には大型犬が出てくるけど、あずまきよひこは、子育て漫画「よつばと」も描いています。

私がこの指摘で連想したのは、また漱石と鴎外です。漱石はご存知「吾輩は猫である」で知られ、実際モデルとなった名無しの黒猫を可愛がっていた。弟子筋も、寺田寅彦、内田百間と文学史に残る猫好きが多い。

鴎外は犬ですね。戦地から連れ帰ったセントバーナードみたいな大型犬ジャンに始まり、何匹も犬を飼っていました。
(浅羽通明「時間ループ物語論」)

最後の猫と犬が日常系と生活系に対応するというのは、僕からみると少々牽強付会に過ぎるかなとも思いますが、日常系と生活系という区分そのものは優れていると思います。例えば「ロウきゅーぶ」なんかは、生活系な訳ですね。かの作品の中ではスポーツ(バスケットボール)が変化する日々(直線的時間)を裏付ける労働力再生産として機能している。日常系だと「そらのおとしもの」「To LOVEる」などは典型的な日常系にあたると考えられます。オーバーテクノロジーによって無限に消費(主にセクシーな色々を消費)して生産はしない、変化しない日々(円環的時間)の物語な訳です。

本作「宮河家の空腹」の面白いところは、ただの生活系ではなくて、日常系作品世界そのものを成り立たせている下部構造(経済的諸問題)を、貧しい層の貧しい生活を描くことで、ダイナミックに突きつけてきているところですね。ここは、通常の日常系作品では隠されている(特に語られるところのない)、ある種の秘中の秘なわけです。「らきすた」にしろ「けいおん」にしろ「そらのおとしもの」にしろ「To LOVEる」にしろ、富裕なバックボーンを主人公達が備えているからこそ、安楽で面白おかしい日々を無限に送れる訳ですが、そういうところは、特に語られることとはされない。

その秘に対して、思いっきり突っ込んでいるのが、「宮河家の空腹」であり、本作は単なる生活系アニメにとどまらず、本作自体が日常系アニメに対する優れた批評として機能としている。そこが見ていて凄く面白い。ようするに『お金さえあれば日常系アニメみたいな生活ができるけど、お金が無いからできない!!』っていう貧しい生活を面白く描いているわけです。単独で作品が成り立っているというより、日常系アニメへのツッコミ(下部構造から上部構造へのツッコミ)として作品が面白く成り立っている、メタ・マルクス的な視点を持ったパロディ作品と言えます。僕は本作、非常に面白くて意欲的な作品だと思いますね。僕もお金がなくて、生活が苦しくて困っているので、その点でもすごく共感できます。「宮河家の空腹」お勧めの作品ですね。

宮河家の空腹作品一覧

時間ループ物語論

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