2013年09月03日 01:32

最近更新できず本当に申し訳ありません。カポーティ「夜の樹」読了。孤独と暗い運命。

最近ブログ更新できず本当に申し訳ありません。体調不良と生活困窮が酷く、ネットに繋げない日々もたびたびで、更新ができず申し訳ありません。身体を壊しておりまして、あまり食事も取れない状況で、身体を動かすのも辛く、何も出来ず申し訳ないです…。

先日より、カポーティの短編集「夜の樹」を読んでおり、先ほど読了致しました。「ティファニーで朝食を」にて世界的に知られた、アメリカ文学を代表する作家であるトルーマン・ガルシア・カポーティ、この作家さんの小説(殺人事件を描いた有名なノンフィクション「冷血」も)は、物凄く暗いんですね。暗いだけではなく、近現代アメリカ社会を舞台に人間の心の闇、狂気、幻想、妄想といったものを迫真の筆致で描き出す作家さんなんですね。幻想に囚われていく心理描写が非常に見事で、実に優れた良作揃いの暗黒幻想短編集でした。

カポーティは実に見事な短編の名手で、日本の作家でいうと芥川龍之介(特に晩年の芥川龍之介の作品)に凄く似ています。芥川龍之介の「歯車」(http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/40_15151.html)みたいな作品群ですね。生活の中で心身共に疲れた主人公が、その疲労の中で悪夢的な幻想に心身が侵食されていくという感じの作品がカポーティの短編には多く、今回読んだ「夜の樹」、まさに今、病苦と生活困窮にある僕自身にとって非常に身に染み入る感じの暗い作品集でしたね…。

晩年の芥川の作品も、カポーティの「夜の樹」の短編もテーマ的には、暗い定めの運命に敗れるということですね…。芥川は自分の中に流れる狂気の血(芥川は母が発狂している)を恐れ、その恐れは晩年肥大化してゆきましたが、これは、もうどうしようもないわけですね。心身の破滅的な不調(病気や困窮)というのはある種、生まれ付いての運命的なもの(遺伝と環境)なので、否定することができない暗い運命として、どうしても幻視してしまう。カポーティの作品の登場人物達も、同じように、どうすることもできない暗い運命の中で、終わってゆきます…。

僕はこのホテルの部屋に午前八時頃に目を醒(さ)ました。が、ベツドをおりようとすると、スリツパアは不思議にも片つぽしかなかつた。それはこの一二年の間、いつも僕に恐怖だの不安だのを与へる現象だつた。
(芥川龍之介「歯車」)

カポーティの短編は、暗く、冷たく、内向的なものが多い。狂気、無意識の闇、生きる恐れ、都市の疎外感、オブセッション(妄執)といった人間の心の負の部分にこだわる。孤独癖の強い人間が見る白昼夢のような、現実とも夢ともつかない淡い幻影の作品が多い。ときに病的ですらある。カポーティは、外部社会の現実に向かうというより、自分の心の中の秘密の部屋へゆっくりと降りて行こうとする。その点で、たとえば男性的なヘミングウェイの世界とはまるで違う。

「夜の樹」のケイ、「ミリアム」のミセス・ミラー、「夢を売る女」のシルヴィア、「無頭の鷹」のヴィンセント……彼らはみんな孤独な人間たちである。目は外部の世界に向かわず、いつも自分の内部に向けられる。よく不可思議な、ときにグロテスクな夢を見る。日常生活から次第に切り離されて行き、夜の世界へ入っていく。自分だけの部屋に閉じこもろうとする。彼らの暗い内面を象徴するかのように、カポーティの世界では、よく雨や雪が降る。
(川本三郎。「夜の樹」解説)

彼女の生活はつましい。友達というような人間はいないし、角の食料品店より先に行くこともめったにない。マンションの住人は彼女がいることに気付いてもいないようだった。(中略)

ミセス・ミラーは立ったまま、ブローチを取り返そうと何かいい言葉を考えようとした。そのとき彼女は、自分には頼りになる人間が誰もいないことに気がついた。彼女は一人ぼっちだった。長いあいだ考えたことがなかったが、それは事実だった。いまはじめてその厳然たる事実に気づいて彼女は愕然とした。しかし、いまこの雪の降りしきる町の部屋のなかには彼女の孤独を示す証拠がいくつもあった。彼女はその証拠をもはや無視できなかったし、驚くほどはっきりとわかったことだが、それに抵抗もできなかった。
(カポーティ「ミリアム」「夜の樹」収録)

僕自身も、病苦と生活困窮で、誰も頼ることのできる人もおらず、完全な孤独で、自分の手を離れていてどうしようもできない、自分の暗い運命というものはあるのだなと感じていますので、「夜の樹」まさに、身に染み入る作品集でした…。

「そのとき彼女は、自分には頼りになる人間が誰もいないことに気がついた。彼女は一人ぼっちだった。」

夜の樹 (新潮文庫)
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