2011年11月24日 02:28
川端康成「愛する人達」読了。「夜のさいころ」が良かったですね…。
掌の小説 (新潮文庫)
愛する人達 (新潮文庫 (か-1-4))
川端康成の短編集「愛する人達」読了。川端康成の小説は「掌の小説」が神懸かった出来なので、それに比べると、佳作の粒ぞろいだけどどうしてもやや落ちるなという感は否めませんが、ただ一編「夜のさいころ」は珠玉の出来で良かったですね…。この一編に巡りあえただけでも読む価値のあった短編集です。年若い少女の踊子をテーマにした小説として、有名な「伊豆の踊子」よりも、僕はこの「夜のさいころ」の方が好きですね。
本作に収録されている短編は、「掌の小説」に収録されている短編に比べると、非常にゆったりのんびりした感じの作品が多いので、昨今の展開の速い小説に慣れている読者のお方々には、退屈を感じさせるところがあるかも知れませんが、ゆっくりと丁寧に読んでいくと、どの作品もとても味わい深くて、良短編の味わいをたっぷり楽しむことができる、粒ぞろいの佳作短編集と思います。「掌の小説」の出来がずば抜けて過ぎているので、比べるとどうしても、やや落ちるなあという感は否めませんが、「夜のさいころ」は、「掌の小説」に匹敵する珠玉の短編であると感じましたね。優しい物語でとても良かったです。
物語をご紹介致しますと、旅芸人の一座で脚本などの裏方をやっている主人公水田は、みち子という踊子の少女のことが気になっているのですね。彼女は、一人でさいころ遊びをしているのが好きな子で、周囲からは一人で遊ぶのが好きな、ぱあっとしたところ(明るいところ)のない暗い子のように見られている。でも、実際は、ごく普通の感じの女の子で、さいころ遊びが好きなのも、芸者だったみちこの母親が、さいころ遊びの達人で、さいころを振って好きな目を出すということを特技としていて、その影響なのですね。みちこは、さいころの好きな目を出す特訓をいつも一人でしているのです。
主人公はそんなみち子とだんだん仲良くなっていくのですが、少女との心の交流を書かせたら川端康成の右に出るものはなしという感じで、とても微笑ましく優しい描写です。みち子も主人公のことを思っていて、相思相愛なのですね。主人公とみち子は、何気ない雑談で、みち子がさいころを幾つもふって、全部一を出せたら付き合おうかみたいな話をするんですね。
そんなところに、花岡という旅芸人の男が出てきます。どうやらこいつはみち子に横恋慕している男のようで、主人公に「みち子がさいころの一人遊びばかりしている変わり者の子なのは、幼い時に性的虐待を受けていたからだ」とデタラメを吹き込むんですね。そんな事実はないんですが、この花岡という男は明らかに主人公とみち子の仲を裂こうとしているようなんですね…。
主人公はそれを聞いて、花岡の魂胆を見破って「デタラメなことを言うな」とはっきり言えばよかったんですが、川端康成さんの物語の主人公ですから、とてもナイーブな男性で、花岡の言葉に強烈な大ショックを受け、一人もんもんと悩み、あらゆるものが真っ暗な陰鬱に染まってしまう。「絶望した!!」って感じになってしまうんですね。
そんな主人公の内心を露知らぬみち子が、喜びの声を掛けてくる。この、みち子の思いで主人公の疑念が晴れて、みち子と結婚してみち子を沢山明るくしてやりたいと彼女への思いを主人公が固めるシーン、凄く美しくて、情景がぱあっと頭に浮かぶ、主人公の心が晴れやかになってゆくのと読者がシンクロするのは、まさに短編の神業的名手、川端康成ならではだなあと、心から思いましたね…。引用致します。
ああ…たまらなく良いですね…。読んでいて幸せな気分になりました。川端康成さんは、純朴な女の子とナイーブな青年の相思相愛の甘やかな物語を書かせたら天下一品ですね…。これを読めただけで、本書を読んだ価値がありました。先述した通り、ゆったりのんびりした物語集ですが、ゆったりした物語を読むのが苦にならない読者さんであれば、大いにお勧めできる短編集です。「掌の小説」は最高にお勧めですが、本作もまたお勧めの川端さんの短編集ですね…。
最後に、このようなことを書いて本当に申し訳なく思うのですが、生活が厳しく、アフィリエイトだけで暮らすのは、非常に困難で、もしよろしければ、ご余裕あり、よろしいと思うお方々は、どうか、amazonギフト券を贈って頂けるか、アフィリエイトで買い物などなさって頂けると、生活がとても助かり、深く感謝致します。生活苦について、書くことが多く、このようなお願いまで申し上げて、心の底から身が縮む思いで真に申し訳ありません…。
掌の小説 (新潮文庫)
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愛する人達 (新潮文庫 (か-1-4))
川端康成の短編集「愛する人達」読了。川端康成の小説は「掌の小説」が神懸かった出来なので、それに比べると、佳作の粒ぞろいだけどどうしてもやや落ちるなという感は否めませんが、ただ一編「夜のさいころ」は珠玉の出来で良かったですね…。この一編に巡りあえただけでも読む価値のあった短編集です。年若い少女の踊子をテーマにした小説として、有名な「伊豆の踊子」よりも、僕はこの「夜のさいころ」の方が好きですね。
本作に収録されている短編は、「掌の小説」に収録されている短編に比べると、非常にゆったりのんびりした感じの作品が多いので、昨今の展開の速い小説に慣れている読者のお方々には、退屈を感じさせるところがあるかも知れませんが、ゆっくりと丁寧に読んでいくと、どの作品もとても味わい深くて、良短編の味わいをたっぷり楽しむことができる、粒ぞろいの佳作短編集と思います。「掌の小説」の出来がずば抜けて過ぎているので、比べるとどうしても、やや落ちるなあという感は否めませんが、「夜のさいころ」は、「掌の小説」に匹敵する珠玉の短編であると感じましたね。優しい物語でとても良かったです。
物語をご紹介致しますと、旅芸人の一座で脚本などの裏方をやっている主人公水田は、みち子という踊子の少女のことが気になっているのですね。彼女は、一人でさいころ遊びをしているのが好きな子で、周囲からは一人で遊ぶのが好きな、ぱあっとしたところ(明るいところ)のない暗い子のように見られている。でも、実際は、ごく普通の感じの女の子で、さいころ遊びが好きなのも、芸者だったみちこの母親が、さいころ遊びの達人で、さいころを振って好きな目を出すということを特技としていて、その影響なのですね。みちこは、さいころの好きな目を出す特訓をいつも一人でしているのです。
主人公はそんなみち子とだんだん仲良くなっていくのですが、少女との心の交流を書かせたら川端康成の右に出るものはなしという感じで、とても微笑ましく優しい描写です。みち子も主人公のことを思っていて、相思相愛なのですね。主人公とみち子は、何気ない雑談で、みち子がさいころを幾つもふって、全部一を出せたら付き合おうかみたいな話をするんですね。
そんなところに、花岡という旅芸人の男が出てきます。どうやらこいつはみち子に横恋慕している男のようで、主人公に「みち子がさいころの一人遊びばかりしている変わり者の子なのは、幼い時に性的虐待を受けていたからだ」とデタラメを吹き込むんですね。そんな事実はないんですが、この花岡という男は明らかに主人公とみち子の仲を裂こうとしているようなんですね…。
主人公はそれを聞いて、花岡の魂胆を見破って「デタラメなことを言うな」とはっきり言えばよかったんですが、川端康成さんの物語の主人公ですから、とてもナイーブな男性で、花岡の言葉に強烈な大ショックを受け、一人もんもんと悩み、あらゆるものが真っ暗な陰鬱に染まってしまう。「絶望した!!」って感じになってしまうんですね。
そんな主人公の内心を露知らぬみち子が、喜びの声を掛けてくる。この、みち子の思いで主人公の疑念が晴れて、みち子と結婚してみち子を沢山明るくしてやりたいと彼女への思いを主人公が固めるシーン、凄く美しくて、情景がぱあっと頭に浮かぶ、主人公の心が晴れやかになってゆくのと読者がシンクロするのは、まさに短編の神業的名手、川端康成ならではだなあと、心から思いましたね…。引用致します。
神聖なものをいただくように、そして、さいころの列の崩れぬ程度に、掌を水平に動かした。みち子の一心不乱の様子につられて、踊子達もなんとなく固唾を呑んだ。みち子は掌の動きをだんだん早めたとみるうちに、ぱっと振った。
「ああ!出た!出た!」
と叫んだのは、みち子だった。みち子は寝床の上に飛び起きていた。見物はあっけにとられた。けれども、五つのさいころは、みんな一が出ていた。しかも、傘を開いたように、五つのさいころが、整然と広がっていた。それに気がついて、踊子達も手を叩いた。水田は頭がすっとした。
飛び起きたまま、寝床にちょこんと座っているみち子は、膝小僧が出ていた。宿の浴衣のなかの短い下着は、白かった。
その膝小僧を見て、花岡の「観察」など、真っ赤な嘘だと、水田ははっきりした。
「お休み。」と水田はみち子の頭を軽く叩いて、立ち上がった。
「ええ。」とみち子はうなずいて、水田の足元を見送りながら「頭が痛かったら、呼んでいいわ。起きてます。」
水田は男達の部屋へ帰った。向こうの方に、みち子の振る、さいころの音が聞こえていた。あの開港場の宿で、耳にさわったのとは、まるで違っていた。よく考えると、あの五つのさいころが、みな一を出すには、真ん中の一の目の一個は八度ころがり、その両側の二の目の二個は七度ころがり、両端の四つの目の二個は、五個ころがったわけだろうか。あの岩の上での水田の言葉を覚えていて、あれからみち子は、どんなに苦心したことだろうか。
一ばかり出たさいころが、美しい花火のように浮かんでいた。
「ぱあっと……ぱあっと……。」
水田は花岡の言葉を思い出した。――浅草という土地の魅力に、なんとなくとらえられて、学校出の青年が、浅草のレヴゥウ小屋に巣をもとめ、脚本や、演出や、装置に半ば道楽仕事をしていた頃のことである。水田もそういう一人だった。
しかし、素人風な新鮮さも、もうその時が過ぎて、仙子ではないが、今は見限り時期かも知れない。
みち子と二人で行って、どこに、ぱあっとしたことがあろうかと、水田はいつまでも眠れなかった。
みち子のさいころの音も、まだ聞こえる。
(川端康成「夜のさいころ」)
ああ…たまらなく良いですね…。読んでいて幸せな気分になりました。川端康成さんは、純朴な女の子とナイーブな青年の相思相愛の甘やかな物語を書かせたら天下一品ですね…。これを読めただけで、本書を読んだ価値がありました。先述した通り、ゆったりのんびりした物語集ですが、ゆったりした物語を読むのが苦にならない読者さんであれば、大いにお勧めできる短編集です。「掌の小説」は最高にお勧めですが、本作もまたお勧めの川端さんの短編集ですね…。
最後に、このようなことを書いて本当に申し訳なく思うのですが、生活が厳しく、アフィリエイトだけで暮らすのは、非常に困難で、もしよろしければ、ご余裕あり、よろしいと思うお方々は、どうか、amazonギフト券を贈って頂けるか、アフィリエイトで買い物などなさって頂けると、生活がとても助かり、深く感謝致します。生活苦について、書くことが多く、このようなお願いまで申し上げて、心の底から身が縮む思いで真に申し訳ありません…。
掌の小説 (新潮文庫)
愛する人達 (新潮文庫 (か-1-4))
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