2011年11月23日 15:56

押井守さんの講演について読みました。現代アニメが描き続ける悠久平和のユートピア。変わらぬものの価値について。

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論議を醸しているらしい、押井守さんの講演について読みました。いつもの押井節で、特に変わったことは言っていないように思いますが…。押井守さんの文章(講演含む)は良い意味でぐねぐねしていて、端的に何かをダメだしすることはめったにないように思いますが、今回もそうですね。現在のアニメは表現になってないと言っていますが、だから悪いとは一言も言ってないわけで…。それに、ハーレムアニメとか萌えアニメという言葉はどこにも一言もないのですが、なんでこれがハーレムアニメや萌えアニメ批判として捉えられているのか、訳が分からないです…。僕はむしろ、過去作品から変わらぬものを受け継ぐコピーであることの価値を積極的に評価するべきだと思っています。本エントリではそのことについて述べますね。

「若者は夢を持つな」と監督が言った
http://www.asahi.com/showbiz/column/animagedon/TKY201111200107.html
押井監督は、日本人が科学技術の表面的な受容と円滑な運用のみにかまけ、その技術の核たる思想、技術をゼロから立ち上げる思想を持たなかったことが今回の原発事故を生んだと指摘。様々な当事者の認識を改めるために今回の事態をヒロシマ・ナガサキに続く「第3の原爆」と呼ぶべきだと訴えました。「技術の思想」の欠如は、ロボットに「かっこよさ」のみを求めるアニメ製作者の思考にもあてはまる、と自作「機動警察パトレイバー」をもとに批判を展開し、そして訴えかける核を持たない日本アニメは、その表層を細緻に描き込み磨きあげることで「極東の島国の珍なる文化」として世界に地位を獲得したと分析。工芸品的に細部を作り込みたがるその日本人的な意識が、細緻な映像表現に好適なロボット・アンドロイド・サイボーグなどへと向けられた結果、肉体や自意識をめぐるテーマへと結びつき、つまりはアニメという表現形式が発展過程でテーマをはらんでしまったのだと説き明かしました。そして現実の劣化コピーに過ぎない実写と違い、「現実に根拠を持たない」アニメは珠玉の工芸品となり得、アニメはその根本から細部までコントロール可能であるがゆえにその力を使ってアニメ監督は、全世界・全歴史に向けて自分の言いたいことを完全な形で言えてしまうという誇大妄想の極限を味わうことができる。これは悪のにおい、危険なにおいがする。ゆえに若い人をひきつける。しかし僕の見る限り現在のアニメのほとんどはオタクの消費財と化し、コピーのコピーのコピーで「表現」の体をなしていない。あと、ユニコーンガンダムのツノはアイデアとして面白いけど、だからどうなの?

ぐねぐねっとしたいつもの押井節ですね。だいたい、コアたるテーマを持たない無限コピーの極致たるアニメといえば、押井守監督のアニメ映画「イノセンス」な訳で、イノセンスは、「コピーをちりばめた映画であること」に対して非常に自覚的な作品ですよね。コピーの特徴というのは、押井監督の映画「イノセンス」「ビューティフルドリーマー」で描かれている通り、コピーされた時間が繰り返される世界では、オリジナル(過去の時間)とコピー(未来の時間)の差異がなくなることに特徴がある。すなわち、全ておなじものがぐるぐるぐるぐる循環している、時の経過が無意味化する世界になって、過去と未来の区別がなくなり全てが永遠の現在となることが挙げられます。

過去がコピーされた日々が永遠と続くことで過去と未来の差異が消滅して永遠の現在が続く世界、これこそがユートピア(永遠に変わらない平和な世界)の特徴であり、僕は、この独特の時間意識が、イノセンスやビューティフルドリーマーの最も面白いところであり、現代のアニメの最もラディカルな見るべき面白さの一つであると思いますね。押井守さんはアニメを監督するとき、明らかにこのことに自覚的です。これはトーマス・マンやプルーストが持っていた時間意識に通ずるものがあると思いますね。以下、トーマス・マン「魔の山」より引用致します。

毎日が同じような日の繰り返しであるが、毎日が同じような日だとしたら、繰り返しというのは本当は正しいとは言えないだろう。単調とか、永遠に続く現在とか、悠久と呼ぶべきだろう。君の枕元へ正午のスープが運ばれてくる、昨日も運ばれてきたように、そして明日も運ばれてきたように。こうして、時間の区分が分からなくなり、区分が溶け合ってしまい、君の目に万象の真実の姿として映じるのは、枕元へ永遠にスープが運ばれてくる、前後のひろがりのない現在となる。
(トーマス・マン「魔の山」)

プルーストは記憶を反芻することによって、始めて生を生きることができるということをひたすら書いた作家ですが(彼にとって、生とは、過去の記憶をゆっくりと味わうことなのです)、このことを音楽と絡めてとても上手く表現しています。以下、プルースト「失われた時を求めて」より引用致します。

はじめて聴く少し複雑な音楽の場合、しばしば人は何も耳にはいらないものである。にもかかわらず、後になって人からこのソナタを二度、三度弾いてもらったとき、私は自分がそれを完全に知っているのを発見した。だから、(何度も耳にした音楽を)「はじめて耳にする」という言い方は間違いではないのである。
(プルースト「失われた時を求めて」)

僕は、現在のアニメはこういった音楽の聴き方のように、新しいものや変化を求めるのではなく、過去を精緻に磨き上げてゆく、無時間的なユートピアとしてのアニメになっているのだと思いますね。僕はクラシック音楽が好きなのですが、クラシック音楽というのは、同じ演奏者の同じ曲を、何度も何度も聴いてゆっくりと味わうのが最高の醍醐味です。録音された音楽という変化しない一つの小宇宙を味わう、それが近現代クラシック音楽の醍醐味として確かにあるんですね。

日本のアニメは既にそういった、過去の優れたものをゆっくりと味わい、過去の優れたものをほんの少し僅かに変えて磨き上げてゆくという、古典芸術的な領域に入っていると思うのですね。魔法少女まどか☆マギカとかまさにそういうアニメでした。変わらないことを批判する言説、過去よりも未来の方が優れているとか、新しく作られるものは過去を模倣するのではなく新奇でなくてはならないといったような、高度成長期の進歩史観に囚われた発想は、既に衰退の道に入っている日本社会においてはもはや意味を失った発想だと思います。

進歩史観的なオリジナル幻想に囚われるよりも、洗練ということの意味を考えるべきときにきているのだと思います。無限にコピーされるということは、無限に洗練されてゆくということ。無時間な悠久の時の中で、果てしない洗練を味わうというのは、趣味人にとっての至福ではないでしょうか…。

そしてまた、無時間性を破壊するものは、生命の破壊でもあったということも、忘れるべきでないでしょう…。トーマス・マン「魔の山」の無時間性を破壊するものは第一次世界大戦であり、クラシック音楽のような過去の古典芸術をゆっくりと楽しむことを否定したのは近現代資本主義に基づく思想、常に変化する芸術を主張した未来派です。彼らは変化を肯定し、変化しないことを堕落であるとして排撃しました。それは資本主義の運動が無限の変化であるところから来た発想です。この「常なる変化」は平和(変化しないこと)を嫌悪し戦争(変化すること)を愛好するため、弱肉強食の競争思想と繋がり、ナチズムなどのファシズムの根源となりました。

ウィキペディア「未来派」
未来派(みらいは、Futurismo(伊)、Futurism, フトゥリズモ、フューチャリズム)とは、過去の芸術の徹底破壊と、機械化によって実現された近代社会の速さを称えるもので、20世紀初頭にイタリアを中心として起こった前衛芸術運動。この運動は文学、美術、建築、音楽と広範な分野で展開されたが、1920年代からは、イタリア・ファシズムに受け入れられ、戦争を「世の中を衛生的にする唯一の方法」として賛美した。

産業革命以降、ヨーロッパでは中世の封建社会から資本主義社会への転換が起こり、それに伴い様々な社会情勢も劇的な変化を遂げた。また、科学技術の進歩により戦争に人間を大量に殺戮する「兵器」が投入され、近代戦争へと変容した。旧来の価値観の変化と、それに伴う社会不安を背景に、19世紀末頃より「表現主義芸術」が興隆し始める。(中略)

『……機銃掃射をも圧倒するかのように咆哮する自動車は、《サモトラケのニケ》よりも美しい。……』(未来主義創立宣言(1909年)より引用)

フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティは1909年2月29日、パリの「フィガロ」紙に「未来主義創立宣言」を発表した。全11箇条のうちの第4条に、この有名な言葉が登場する。「速度の美」の華々しい称揚である。それを体現するのが「自動車」、対照的に引き合いに出されるのが「サモトラケのニケ」である。

「イタリア・ルネサンスは犯罪と狂気にみちみちているが、ミケランジェロやレオナルドのような偉大な芸術家を輩出せしめた。しかるにスイスの三百年の平和は何を生んだか。鳩時計だ」
(映画「第三の男」)

戦争に向かっていろいろな力が絶えず砕けてゆく。あらゆる人間の営みはその姿を抹殺され、あらゆる観念もまたその価値を抹殺される。人はその中で、おびただしく変化する力の啓示を悟ることができる。そしてこの力の啓示こそ、常に存在する世界の基本的な原理である。もうこれからは沢山の人命を尊重する必要はないのだ。
(エルンスト・ユンガー「内的経験としての戦争」)

変化しないことよりも変化することの方が正しいといったような思想は、こういった、弱肉強食の資本主義や戦争を肯定する思想であったことを鑑みて、真に平和ということを考えるならば、例えば今やっているアニメなら「侵略!?イカ娘」「たまゆら」のような、過去作品の洗練の上にある、平穏な、変化のない無時間的なユートピアの作品の意味合いも変わってくると思います。僕は、ARIA、けいおん、イカ娘、たまゆら、ガンダムUC(変わらないガンダムの象徴としての永遠の宇宙世紀)のような無時間的ユートピアの作品は、平和とユートピアの観点からもっと評価されていいものだと思っていますね…。コピーというのは、変わらぬ大切なものを持ち続けていること、それを忘れてはならないと思います。

(平穏な変わらぬ)時間の単調な繰り返しによって時間を消滅させること、これがあらゆるユートピストの無意識の願望なのである。実現すべくもない永久運動や自動人形(オートマトン)製作者達の永遠の夢想(決して変わらぬものを生み出すという夢想)も、(永遠の平穏を求める)ユートピストのイメージそのものだと称して差し支えあるまい。千篇一律な自動人形の動きのなかに「輝ける都市」のイメージが透けて見えるのである。前に私が、永久運動は中世の最も重大な形而上学的夢想だったと書いたのも、この意味からである。
(澁澤龍彦「ユートピアとしての時計」「胡桃の中の世界」より)

最後に全くの余談ですが、「第三の男」、amazonで380円ですね…。価格破壊過ぎてすごい…。

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