2011年10月30日 20:18

倉野憲比古「墓地裏の家」読了。本格ミステリと怪奇小説のぶっ飛んだ融合、幕の内弁当的な面白さ!!お勧めです!!

墓地裏の家
火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)

倉野憲比古さんの第二作「墓地裏の家」読了。素晴らしい、実に素晴らしく面白い出来です!!先日ご紹介した第一作「スノウブラインド」(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1602429.html)を遥かに超えています。個人的にはカーの「火刑法廷」、殊能将之の「黒い仏」を超えたと感じました!!本作は、実に見事に「吸血鬼が暗躍する超常的な怪奇小説」と「全てが常識の範囲内で論理的に解き明かされる本格ミステリ」が融合しております。よくよく考えると完全にぶっ飛んだバカミスなのですが、『だが、それがいい』。ミステリを読んでいてこういうぶっ飛びを感じるのはミステリにおける最高の喜びですね…。以下、物語についてご紹介致しますね。

本作「墓地裏の家」は、神霊壽血教というカルト教団の教主一族である印南一族におきる陰惨な連続殺人事件を描きます。この宗教は、邪神の悪魔たる吸血鬼を崇拝し、殺人や破壊、自殺などのあらゆる悪を教義とし、「邪悪」ということを至高の価値としている、既存の宗教が完全にひっくり返った、悪魔崇拝宗教なのですね。作中で明かされていますが、印南一族とはインナーサークル、つまり、北欧に実在するブラックメタルの構成員による悪魔崇拝の犯罪組織であるインナーサークルがモティーフになっており、インナーサークルの中枢であるブラックメタルバンド「メイヘム」の行った「直接手を下さない殺人」がこの物語で描かれる殺人の原型になっています。また、墓地裏の家というタイトルは、ルチオ・フルチ監督の映画「墓地裏の家」から来ています。この映画の内容もまた、殺人事件に絡んでいるのですが、ただ、これらのことは知らなくても、別に全然大丈夫です。

実は上記のことこの本読むまで全然知らなかったですが、インターネットで調べて「なるほどなあ」と…。インターネットは薀蓄てんこもりの小説を読書するとき欠かせないお供ですね。今回、この本読んでネットで調べて驚くことばかりでした。これまで、北欧のノルウェーって平和な国かと思っていたんですが、ついこの前も77名が殺害される大量殺人事件がありましたし(銃撃で69人死亡、爆破で8名死亡)、またノルウェーでは本書のモティーフになっているインナーサークルというブラックメタルから派生した悪魔崇拝集団が犯罪組織化し、無差別な殺人などあらゆる凶悪犯罪を行ったそうでして、恐ろしすぎる…。ノルウェー、凄い恐ろしい国じゃないですか…。

ウィキペディア「ブラックメタル」
長らく人の知るところではなかったブラックメタルが俄に注目を浴び、その名が広まるに至ったのは、これらのバンドのメンバーを中心に結成されていた反キリスト教集団「インナーサークル」の存在が大きい。集団内の格付けは行った犯罪の大きさで決まったと言われ、彼らは教会への放火、十字架の破壊、殺人、窃盗、自殺などと数々の事件を起こした。

本書で描かれる神霊壽血教はまさに反キリスト教の悪魔崇拝(吸血鬼崇拝)宗教でして、この教義が殺人事件の動機に密接に関わっているのですね。物語は、スノウブラインドでも出てきた心理学者探偵の夷戸武比古がこの印南一族の連続殺人に巻き込まれ、その謎を解いてゆくことになります。この心理学者探偵は、オカルトなんて相手にしないバリバリの唯物論者なので、怪しげな宗教の絡んだオカルティックな殺人の始まりを最初は「自殺だろう」で片付けてしまい(しかもこの探偵が最初に大ポカしてるせいで読者までミスリードされてしまう!!)、どんどん殺人が起きてゆくのですが、それらも「自殺」で片付けてしまうというていたらく。どうするんだと思いきや、この探偵自身が、友人のホラー映画マニアと、なかなかいい感じのヒロイン(ただのヒロインではなく、男の娘なところがいい感じ)と三人で事件とは全く関係ないピクニックをしていたら、突然そこで命を狙われたことで、自分や友達や好きな人の命の危機によって頭脳が覚醒して、やっと「全ての謎は解けた」モードに移行します。

そこからは心理学者探偵夷戸武比古がスノウブラインドと同じく心理学の薀蓄を語りまくりながら数々の殺人トリックを解き明かし、全ての謎を鮮やかに解いていきます。ここはまさに本格ミステリの醍醐味、謎解きを読みながら、何度も事件が起きたときのページに戻って読み返しましたよ。ちゃんと全ての伏線は張られていた!!特に第一の殺人のトリックは鮮やか、本格ミステリとして素晴らしい出来!!これで事件の謎は全て解決と思いきや…。

吸血鬼
「ちょっと待った!!」


ここで超常的な力を持っているとしか考えられない、今までの常識の世界をひっくり返す吸血鬼が乱入してきて、二時間ドラマのラストで崖の上で告白する犯人ばりに、超能力を使った犯行について滔々と語ってきます。いやあ…ぶっ飛びましたね…。なんといえばいいのか…。「相棒」とかの真面目な刑事ドラマを見ていたら、突然ドラマのラストにUFOが飛んできてそこから宇宙人が出てきて、「杉下右京ヨ、実ハ犯人ハ我々ダ。犯行ハ瞬間移動装置ヲ使用シタ」と言い出した感じというか…。ミステリ読んでいてこれほどポカーン的衝撃を受けるのは久々です。こういう衝撃を与えてくれるミステリは最高ですね、僕はこういうミステリ大好きです。

そして、謎の吸血鬼を謎の方法で倒すのですが(なんであの方法で吸血鬼が倒せたのかなんど読みかえしてもよく分からないんですが…吸血鬼の本体が×××であるなんて描写、どこにもないのに…)、そのあと、訳の分からない事態を収拾しようと、あくまで「現実的解釈」にこだわる心理学者探偵と、「超常的怪奇幻想的」に解釈する主人公の友達のホラー映画マニアと、「この世には不思議でないものなど何もないのです」と堂島大佐みたいなことを語るヒロインの男の娘(主人公とは友達以上恋人未満なイイ関係)の三者三様の解釈が陳列され、物語は終焉します。結局どれが正しかったか明らかにはされませんが、どの解釈(男の娘の解釈はただたんに解釈しないというだけなので、実質は心理学者探偵とホラー映画マニアの二人の解釈)もきちんと筋が通っている、殺人トリックがきちんと解き明かされている、火刑法廷のようにちゃんとしたリドル・ストーリー(複数の解釈が可能な物語)として高い完成度のミステリー、大満足ですね。リドル・ストーリー作品では以前ご紹介した紀田順一郎さんの編纂したリドル・ストーリー・アンソロジー「謎の物語」(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1540101.html)古今東西のリドル・ストーリーの傑作が一挙に読めてお勧めです。

本書読了して一番心に残ったのは、最初の殺人のトリック、ちゃんと伏線張られていたのに、気づかなかった!!一応、作中の犯人当ての前に、心理学者探偵と同じ結論(犯人を当てる)には達したのですが、このトリックにはやられた。分かってみれば物凄くシンプルな、分かりやすい簡単なトリックなのに、気づけなかったのが悔しい!!ミステリ読んでいて、分かってみれば膝を打つ簡単なトリックに気がつけない悔しさは何ともいえない独特の快感ですね。ああ…。

ヒントは「第一の殺人においてなぜ凶器はなかったのか」「凶器に通常の刃物のような切れ味はなかった」「凶器は小型」です。第一の殺人が起きたときの描写を読み返し、切れ味のない小型の凶器の存在自体を完全に消去する方法を考えれば、おのずと犯人(実行犯)も明らかになるでしょう…。ぜひ、本書を読んで、謎解きの前に、トリックを解き明かすことに挑戦してみてほしいですね!!本書、本格ミステリとしても、怪奇幻想小説としても、リドル・ストーリーとしても、バカミスとしても、全てにおいて楽しめる幕の内弁当のような豪華なミステリです。面白いです、お勧めです!!

墓地裏の家
墓地裏の家

火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)
火刑法廷[新訳版] (ハヤカワ・ミステリ文庫)

スノウブラインド
黒い仏 (講談社文庫)
謎の物語 (ちくまプリマーブックス)

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