2011年10月26日 10:14

北杜夫さんがお亡くなりに…。「父っちゃんは大変人」は「吉里吉里人」を遥かに超える「建国物」の大傑作でした…。ご冥福をお祈りします。

父っちゃんは大変人 (新潮文庫)
北杜夫著作一覧

北杜夫さんがお亡くなりに…。ショックです…。僕は小さい頃から北杜夫さんのユーモア小説が大好きで、特に「父っちゃんは大変人」は日本のユーモア小説の最高峰にして、「建国物」の最高峰と思っているので…。残念でたまりません…。ご冥福をお祈りします…。

「それよりもまず言いたいのは、わしは現在、桜井さんなどと馴々しく呼ばれることを好まんことを諸君に告げたい。いやしくもデンキチ王国の国王だからな。デンキチ国王、王さま、ハイネス、いやユア・マジェスティとでも呼んでくれなくては、わしは返事をしない」
(北杜夫「父っちゃんは大変人」)

「父っちゃんは大変人」は、ひょんなことから一兆円を手に入れた桜井伝吉(語り手である主人公の父親)が、そのお金を元にデンキチ王国という新国家を建国する物語。新国家建設のためにありあまる莫大な財産を湯水のように使ってメチャクチャ破天荒な振る舞いを行いまくるこの桜井伝吉の行動が奇想天外にして痛快です。建国といっても、「吉里吉里人」のような生真面目な建国物とは違い、そこには思想的なものや真面目な大義は一切ありません。ただ彼は、物事を『面白いからやっている』だけなのです。国家建設を思いついたのは、彼自身がオリンピックに出たいからです。自分自身で新国家を作って認められれば、その国の代表選手としてオリンピックに出られますから(笑)

『面白いから国家を作って国王兼元帥兼総統になる』

桜井伝吉の行動は全て『面白がるため』に行われており、物凄く不真面目なことを莫大なお金を掛けて真面目に熱狂的にやってしまうハチャメチャぶりが読んでいて思わず吹きます。『新国家の建国』という、ある種、究極的に政治的なことでありながら、伝吉の行動にはイデオロギーや思想の影が一切ないため、読んでいてとても爽やか、物凄く痛快で爽快なのですね。

桜井伝吉は明らかに精神病患者(躁病患者)ですが(伝吉が狂躁的に強烈な行動を起こしまくって世界を変えてゆく様子は、躁鬱病だった北杜夫の躁期が反映されている)、北杜夫さんが精神病(躁鬱の躁状態)の創造性というものにある種の評価を与えていたことが本書から伺えますね。伝吉は躁状態でやたらめったら暴走しまくるので、もちろん、それを全面的に肯定しているわけではありませんが、とても優しい眼差しで伝吉の暴走を描いている。

ウィキペディア「北杜夫」
壮年期より躁うつ病(双極性障害)に罹患。みずからの病状をエッセーなどでユーモラスに記し、世間の躁うつ病やうつ病に対するマイナスイメージを和らげるのに一役買うこととなった。躁病期の株への投資のために破産も経験している。この経験が戯曲風小説『悪魔のくる家』の執筆のヒントになったとされる。

昭和末期から、自宅を領土とするミニ独立国「マンボウ・マブゼ共和国」主席を名乗る。同国は真の共産主義国家であると称するが、実在の共産主義国家は偽者として批判。特に訪問経験のあるソヴィエトには辛口である。もっとも、原則として政治的発言はしない作家であり、マンボウ・マブゼ共和国についてもシャレ以上の意味を持たせる意図はない。(ムツゴロウこと畑正憲と対談した際、北がムツゴロウ動物王国とマンボウ国で日本から分離独立し、同盟を結ぶ提案をしたことがある。この時の北は極端な躁状態だった。)

「父っちゃんは大変人」は北杜夫小説のなかで最も躁的な作品だと思います。彼の小説は、躁期に書かれたものであっても、どことなく欝が混合しているのですが(怪盗ジバコなどのユーモア小説にもどことなく影がある)、本書だけは100パーセント中の100パーセント完全な躁小説で、読んでいて心から楽しくなってくる愉快な小説です。まさにひたすら踊り狂う陽気なダンスのような小説、未読のお方々はぜひ読んで欲しい小説ですね。

デンキチ王国は国家としての形を着々と整え、新国家としてどんどん成長してゆきます。それに警戒感を強めた日本国とデンキチ王国は対立状態になります。こっそりと軍備を蓄えていたデンキチ王国は日本国に宣戦布告し、戦争が始まるのですが、そこで描かれる『愉快で楽しい戦争』の展開、これはイデオロギッシュな反戦平和主義者に対する風刺でもあって、右であろうが左であろうが、あらゆる思想的権威を軽やかに風刺する反骨の人北杜夫の本領発揮です。まあ、本書でこうやって反戦左翼思想(岩波書店系の当時の文壇主体)を風刺しちゃったもんだから、これだけの傑作が長いこと絶版になったのかなとも思いますが、21世紀のいまさら思想がどうこうもあるまいし、これだけ面白い小説が21世紀においても、いまだに埋もれているのは極めてもったいないことだと思いますね…。

本書ラスト、『愉快で楽しい戦争』のあと、行われる終戦処理とその後の展開に、精神病患者などの世のあらゆるアウトサイダーに対する北杜夫さんの優しい眼差しを感じて、僕はこの本を小学生の頃読んで、北杜夫さんの大ファンになったんですね…(北杜夫は自身が躁鬱病であっただけでなく、祖父が創設し父の斉藤茂吉が院長を務める精神病院の青山脳病院を幼少期より見ていて、そして茂吉が晩年精神に変調を来たしたのも見ているので、そういった事柄が影響していると思われます)。「父っちゃんは大変人」ぜひ皆さんに読んで欲しい小説です。読むと心から元気がでる楽しく愉快な小説、最高にお勧めです!!

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