2011年02月27日 03:24
魔法少女まどか☆マギカ二次創作SS「正義の魔法少女さやかちゃん」
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魔法少女二次創作SS
「正義の魔法少女さやかちゃん」
学園に設けられた豪華な特別室。豪奢なソファに横たわり、美樹さやかは新聞を読んでいた。
さやか
「あいもかわらずけっこうづくめの新聞。この世から悪が消えたとでもいうの。ばかにしてるわ!」
部屋を出て学園の廊下を歩き出すと、さやかの顔を見た生徒達、教師達は、みな硬直し、怯えと恐怖の入り混じった引きつった笑顔を浮かべた。
女子トイレに入るさやか。みなが怯えながらそそくさとトイレを出て行く中、さやかは一人の少女の後ろ姿に声を掛けた。
「まどか、何もあたしの顔を見て逃げることはないじゃない」
引きつった笑顔を浮かべるまどか。
まどか
「逃げるなんて、そ、そんな。そ、そんなことないよ、さやかちゃん。ひ、ひさしぶり、だね…」
「ほんと、同じ学園内にいるのにね」
「さ、さやかちゃんは、名誉生徒だから、わ、私達よりずっとすごいです」
「……それ、どういう意味?」
「い、いや…わたし…いいたいのは…さやかちゃんはすごいって…わるい意味じゃなくて…」
「………」
「……ゆ、ゆるしてさやかちゃん。わたし…ごめんなさい…気に障ったなら許してください…」
トイレの床に座り込み、泣き出すまどかを見て、さやかは頬を緩めた。
さやか
「悪かったわ、まどか。悪人じゃないまどかをどうこうしようという気持ちはないから安心して」
「さ、さやかちゃん…」
「そうだ!今日はあたしの家に遊びにきてよ。久しぶりに一緒に遊びましょう」
くぐもった水音が響く。腰が抜けたまどかが失禁したのだ。真っ青な顔で呆然とさやかを見上げるまどか。
さやか
「まどか、今日の6時にあたしの家に来てね。それまではあたし、魔法少女として正義の為の活動をしているから」
まどかは、恐怖と絶望に満ち溢れた顔でこくこくとうなずいた。
――午後3時
まどかの家では、電話で連絡を受け、すぐさま早引けして帰ってきたまどかママを含む、家族全員が恐怖と苦悩に満ちた表情を浮かべていた。
まどかママ
「なんてこと…トイレで偶然出会うなんて…。だからあれほど、学校ではなるべく教室から出ないようにしなさいと言ったのよ…」
まどかパパ
「逃げる訳にはいかないのか…」
まどか
「だめだよパパ…。もしもさやかちゃんに逆らったら…どういうことになるか…」
タツヤ
「お姉ちゃん…帰ってきてね…約束だよ…」
さやかは、悲壮な顔つきで、家を出て行った…。
――午後5時
さやかの家に向かっているまどかは警察官に呼び止められた。
警察官
「ここから先は何もありません。戻ったほうが良いですよ」
さやか
「その…美樹さやかちゃんに…呼ばれているんです」
警察官
「美樹さやか!?」
青ざめる警察官。まどかはぺこりと頭を下げるとまた歩き出した。
警察官
「お気をつけて…。無事を願っていますよ…」
爆撃を受けたかのような荒れ果てた廃墟を進む。さやかの家へ向かう途中、道路の片隅に薄汚れた格好の一人の女が呆然としたようすでうろうろ歩き回っていた。
まどか
(なんだろう、あの人…。今は、それどころじゃないか…。さやかちゃんの機嫌を損ねないようにしないと…)
駆け足になり、急いでさやかの家に向かうまどか。しかし、廃墟は思ったより歩きにくく、まどかの顔はどんどん青ざめていった。
まどか
「ど、どうしよう。このままじゃ遅刻しちゃう!!さやかちゃんを怒らせたら…ああ…」
絶望的な表情でひた走るまどかの前に、空から弾丸よりもはやく、人影が飛来した。
「お困りのようね、まどか。あたしが来たからにはもう安心して!!」
「あ…ああ…」
青い鎧をつけ、剣を持った少女は、まどかの前に立つと、マントを翻して自慢げに誇らしく口上を述べた。
「あたしは正義の魔法少女さやかちゃん!!正義の為に日夜働いている魔法少女よ!!」
「あ…あ…さやかちゃん…こ、こんにちわ…」
「行くわよ、まどか」
さやかはまどかを片手でひょいと持つと、物凄い速さで空を飛んだ。空の向こうに、新築の巨大な豪邸が聳え立っているのが見える。あっという間に、屋敷の中に連れ込まれるまどか。
さやか
「家族は実家に帰っていてね。二人きりだから気を抜いて楽にしてくれていいわ。昔のまどかとあたしみたいにざっくばらんにいきましょ」
まどか
「あ…あはは…、そ、そうだね…」
「ふふ、友達が遊びにくるなんてひさしぶり」
「あはは…さやかちゃんはすごいからね…」
「あたしはただ正義の為に働いているだけよ」
「…その…こんなこと聞いていいのか分からないけど…どうしてさやかちゃんはこうなったの…?」
「ふふ…そうね…。あたしがここまで正しく強くなれたのは、悪を抹殺するという信念が出来たからよ」
「……?」
「一年ぐらい昔ね。あたしがまだ魔法少女になりたてだった頃、電車の中に、悪党がいたの。そいつらを殺したときに感じたのよ。正義の為にしなくちゃいけないことは、悪党を皆殺しにすることだって。それからあたしは、あたしを裏切った上條や仁美のような悪党を全部皆殺しにしてきたの。まどかも知ってるでしょ」
「………」
「単なる犯罪者だけじゃない。上條や仁美のような法律には引っかからないような悪党も、全てあたしが殺すの。そうすれば素晴らしい正義の世界が訪れるのよ。あたしは犯罪者だけじゃなく、暴走族から政治家、人々を苦しめた企業のトップに至るまで、人々を苦しめるありとあらゆる悪党を殺して殺して殺して殺して殺しつくしてきたの…うふふ…」
「………」
「だけど最近は、なかなか殺すべき悪党がいなくて困ってるのよ」
「さ、さやかちゃんがいるから、もう悪いことしようなんて人は出てこないよ…」
「ちがうわ!!」
「ひぃっ…」
「報道管制よ。犯罪のニュースを流すとあたしが飛んでゆくものだから隠しているのよ…もう一度国連本部を粉々にしてやろうかしら…」
「………そ、そんなことしないで…」
「…まどか。なぜそんな目であたしを見るの」
「えっ…わ、わたし、別に…」
「あたしの力は、世の中に正義を為せとキュゥべえから与えられた偉大な魔法の力なのよ。正義の魔法少女のあたしに逆らうものは全て悪!!悪を抹殺するのがなぜ悪いの!!」
「わ、わかってるよ…わわわ、わかってます…」
「この当たり前のことが分からない連中が多くてうんざりしたわ。あたしに逆らうキュゥべえもほむらも杏子も皆殺しにして、やっと正義の魔法少女として本格的に活躍できると思ったら、警察があたしのこと、殺人容疑で逮捕するなんて言うのよ。正義の魔法少女を逮捕しようとするなんて、そんなのは悪だわ。だからみんな正義の魔法で皆殺しにしてやったわ」
「………」
「あたしのことを魔女呼ばわりする、こうるさい魔法少女も何人もやってきたわ。みんな返り討ちにしてやった!!正義の魔法少女さやかちゃんを魔女呼ばわりする悪党は皆殺しよ!!」
「………」
「魔法少女よりも面倒だったのは警察や軍隊ね。どんどん大規模な攻撃を正義の魔法少女であるこのあたしにしてきたのよ。機動隊が来て、その次は自衛隊が戦車や戦闘ヘリで攻めてきたわ。米軍や国連軍も出撃してきた。もちろん、全部返り討ちだけどね。正義の魔法少女に逆らう悪者は全て殺されるべきなのよ!!」
「………」
「マスコミや知識人有志によるアピールとやらもあったっけ。法治国家がどうとか私的制裁はどうとか…。小難しいことはあたし嫌いなの、まどかは知ってるでしょう。正義の魔法少女さやかちゃんに逆らうものは、全て悪なのよ!!」
「………」
「だから、こうるさい連中もあたしの魔法で永遠に黙らせてやったわ。マスコミも、知識人とかやらもね…うふふふ…」
「………」
「国連軍の連中なんて、挙句の果てには、あたしが寝ている間に周りの人間全員を避難させて、小型核ミサイルで攻撃してきたのよ。正義の魔法少女さやかちゃんには全然効かない無駄なことなのに、アハハハハハッ、こちらはかわりにニューヨークの国連本部を魔法で粉々にしてやったわ!!」
「………」
「それから、日本政府・アメリカ政府・国連の合同公式調査団が発表したわ。『正義の魔法少女などという荒唐無稽な人物はどこにも存在しない』ですって!あたしがここにいるのによ!!それから、犯罪のニュースが全く流れなくなった。学園はあたしを名誉生徒として特別待遇するようになった。そして、今日、まどかが久しぶりに遊びにきたわけよ」
「………」
そのとき、どたどたっという音がすると、部屋のドアが開き、ボロボロの姿の女が鉄パイプを振りかざしてさやかに襲い掛かってきた!!
まどか
(あっ、道端にいた女の人…!)
女
「眞一郎さんの仇!!」
さやか目掛けて振りかざされるパイプ。だが、そのパイプはさやかの身体に触れる前に粉々に砕け散った。
さやか
「うふふ…久しぶりの獲物ね…。眞一郎…。たしか、あたしが電車の中で一番最初に殺した男が、そんな名前だったわね。お前のためにあの男を殺してやったのよ…うふ。悪党の恋人も悪党!!お前を悪党と認定したわ。よってお前は死刑!!」
さやかが片手を振るうと、その手に握られていたソウルジェムが輝きだす。
さやかの片手のソウルジェムは黒く染まって輝きを深め、そしてソウルジェムと片手とが黒い霧に覆われて、そこから禍々しい姿をした剣が形成されてゆく。さやかの体から黒い魔法の力が噴出され、肌寒くなるような殺気が立ち込める。
まどか
「あ…あっ…!!逃げ、逃げる、逃げるよ…!!あなたも早く逃げる…!!」
まどかは、急いで女の手を掴むと、ドアから逃げ出した。呆然とした様子の女は、おとなしくまどかに付いて来る。
さやか
「あらあら…まどか…悪党の手助けをする者は、悪党よ。うふふ……」
さやかが持つ禍々しい形をした剣が黒い触手に姿を変えて、まどかと女をあっという間に拘束する。
さやか
「ふふ…。まどか、あなたとは長い付き合いだからね…。間違いを認めて、あたしに謝るなら、許してやってもいいわよ…」
まどか
「さ、さやかちゃん、この女の人をどうするつもりなの」
さやか
「聞くまでもないわ。正義の魔法少女さやかちゃんが、正義の裁きとして、処刑するのよ!!」
まどか
「こ、こんなの絶対おかしいよ…さやかちゃんは、く、狂ってる…」
さやか
「……今、何か、サラッと、とんでもないこと言わなかった、まどかァァァァァ!!」
まどか
「さやかちゃんは正義の魔法少女なんかじゃない!!魔法の力に溺れた怪物、血に飢えた化け物だよ!!」
さやか
「まどかァァァァァ!!殺す殺す殺す!!じわじわと締め付けてなぶり殺しにしてくれるわ!!」
さやかの片手と融合した黒い触手が女とまどかを締め付けてゆく。
女
「ぐあっ…」
まどか
「ううっ…苦しい…」
さやか
「アハッアハハハハハハハハハハハハハッアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!正義の魔法少女さやかちゃんに逆らうものは全て処刑処刑処刑!!」
苦しさのあまりまどかの意識が遠くなってゆく。
まどか
(あたし…こんなところで死んじゃうのかな…。ママ…パパ…タッちゃん…ごめん…。仁美ちゃん…ほむらちゃん…上條くん…杏子ちゃん…いま…みんなのところに…)
さやか
「アハ…!?グゲエゲゲエエエエエエエエエエエエエッ!!」
突然、黒い触手が消える。まどかの前で、さやかは、真っ黒な血とも泥ともつかないようなものを口から吐き出し、もんどりうって苦しんでいた。
まどか
「な、何が起こったの…?」
――それから一週間が過ぎた。
さやかちゃんの吐血の原因は胃ガンでした。さやかちゃんは現代医学で可能な限り最高の医療をきちんと受けました。お医者さん達はさやかちゃんが回復したとき、ちゃんと治療しなかったと言われて殺されるのをみんな怖がっていたから…。でも、魔法少女のガン細胞は、人類の医学の常識を遥かに超えていて、治療は何の役にも立ちませんでした。そしてさやかちゃんは、一週間の闘病の末、召されました。きっと、天ではなく地獄に召されたと思います。さようなら、さやかちゃん。
魔法少女になる前のさやかちゃん、
私の大好きなさやかちゃんは、
私の大切な最高の親友だったんだよ――
後書き
元ネタは藤子・F・不二夫「カイケツ小池さん」「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」(「藤子・F・不二雄異色短編集 気楽に殺ろうよ」収録)より。虚淵玄さんが深くリスペクトしている映画「レオン」(レオンのヒロインのマチルダは虚淵玄さんの作品「ファントム」のヒロインのアインのモデル)にて、殺し屋レオンは仇討ちを望むヒロインのマチルダに最後まで殺しをやらせません。それについて、主人公のレオンは作中でこう述べています…。
リュック・べッソン監督の映画「レオン」において、殺人は殺人者にとっても取り返しのつかないものであると主人公の殺し屋レオンが知っているから、最後まで、レオンはマチルダを守って、マチルダに人を殺させない。最後まで、マチルダは、誰も殺さず、家族の死とレオンの死を悲しみながら、それでも、人間として生き続ける…。彼女は、深い悲しみと怒りを抱えながら、決して、殺人者にはならなかった…。
魔法少女まどか☆マギカ第8話にて、被害妄想と嫉妬妄想が酷くなって精神的に追いつめられたさやかが、全く独善的で身勝手な理由で、通り魔的殺人に手を染めたとき、正義感が強すぎてあやういところもある彼女が、『全てが変わってしまう』ところに行ってしまったのを感じましたね…。決して取り返しのつかない、『全てが変わってしまう』ところに行ってしまった…。なんとも、悲劇的で、衝撃的な展開でした…。
これまでの魔法少女アニメにおいて、魔法少女の魔法は人々を幸せにする希望の力として描かれていましたが、魔法少女リリカルなのはでは、魔法とは善とも悪とも関係のないただの武力兵器であるとして描かれ、そしてついに魔法少女まどか☆マギカにおいては、魔法は人々を不幸にするもの、人の道を踏み外し、人間を人間でなくしてしまう、他者への恐るべき攻撃の強大な力として描かれていますね…。EDテーマ曲「Magia」で歌っている通りだ…『世界の夢を壊す力』…。
魔法少女が魔法を凶器として使って魔法とは無関係な一般人に対する殺人を行ったのは、魔法少女まどか☆マギカがアニメ史上、始めてではないでしょうか…。まだ魔法少女になっていない(人の道を踏み外していない)まどかが、魔法に頼らずに、人間としての幸せを掴んでくれることを祈るばかりです…。
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「……それ、どういう意味?」
「い、いや…わたし…いいたいのは…さやかちゃんはすごいって…わるい意味じゃなくて…」
「………」
「……ゆ、ゆるしてさやかちゃん。わたし…ごめんなさい…気に障ったなら許してください…」
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さやか
「悪かったわ、まどか。悪人じゃないまどかをどうこうしようという気持ちはないから安心して」
「さ、さやかちゃん…」
「そうだ!今日はあたしの家に遊びにきてよ。久しぶりに一緒に遊びましょう」
くぐもった水音が響く。腰が抜けたまどかが失禁したのだ。真っ青な顔で呆然とさやかを見上げるまどか。
さやか
「まどか、今日の6時にあたしの家に来てね。それまではあたし、魔法少女として正義の為の活動をしているから」
まどかは、恐怖と絶望に満ち溢れた顔でこくこくとうなずいた。
――午後3時
まどかの家では、電話で連絡を受け、すぐさま早引けして帰ってきたまどかママを含む、家族全員が恐怖と苦悩に満ちた表情を浮かべていた。
まどかママ
「なんてこと…トイレで偶然出会うなんて…。だからあれほど、学校ではなるべく教室から出ないようにしなさいと言ったのよ…」
まどかパパ
「逃げる訳にはいかないのか…」
まどか
「だめだよパパ…。もしもさやかちゃんに逆らったら…どういうことになるか…」
タツヤ
「お姉ちゃん…帰ってきてね…約束だよ…」
さやかは、悲壮な顔つきで、家を出て行った…。
――午後5時
さやかの家に向かっているまどかは警察官に呼び止められた。
警察官
「ここから先は何もありません。戻ったほうが良いですよ」
さやか
「その…美樹さやかちゃんに…呼ばれているんです」
警察官
「美樹さやか!?」
青ざめる警察官。まどかはぺこりと頭を下げるとまた歩き出した。
警察官
「お気をつけて…。無事を願っていますよ…」
爆撃を受けたかのような荒れ果てた廃墟を進む。さやかの家へ向かう途中、道路の片隅に薄汚れた格好の一人の女が呆然としたようすでうろうろ歩き回っていた。
まどか
(なんだろう、あの人…。今は、それどころじゃないか…。さやかちゃんの機嫌を損ねないようにしないと…)
駆け足になり、急いでさやかの家に向かうまどか。しかし、廃墟は思ったより歩きにくく、まどかの顔はどんどん青ざめていった。
まどか
「ど、どうしよう。このままじゃ遅刻しちゃう!!さやかちゃんを怒らせたら…ああ…」
絶望的な表情でひた走るまどかの前に、空から弾丸よりもはやく、人影が飛来した。
「お困りのようね、まどか。あたしが来たからにはもう安心して!!」
「あ…ああ…」
青い鎧をつけ、剣を持った少女は、まどかの前に立つと、マントを翻して自慢げに誇らしく口上を述べた。
「あたしは正義の魔法少女さやかちゃん!!正義の為に日夜働いている魔法少女よ!!」
「あ…あ…さやかちゃん…こ、こんにちわ…」
「行くわよ、まどか」
さやかはまどかを片手でひょいと持つと、物凄い速さで空を飛んだ。空の向こうに、新築の巨大な豪邸が聳え立っているのが見える。あっという間に、屋敷の中に連れ込まれるまどか。
さやか
「家族は実家に帰っていてね。二人きりだから気を抜いて楽にしてくれていいわ。昔のまどかとあたしみたいにざっくばらんにいきましょ」
まどか
「あ…あはは…、そ、そうだね…」
「ふふ、友達が遊びにくるなんてひさしぶり」
「あはは…さやかちゃんはすごいからね…」
「あたしはただ正義の為に働いているだけよ」
「…その…こんなこと聞いていいのか分からないけど…どうしてさやかちゃんはこうなったの…?」
「ふふ…そうね…。あたしがここまで正しく強くなれたのは、悪を抹殺するという信念が出来たからよ」
「……?」
「一年ぐらい昔ね。あたしがまだ魔法少女になりたてだった頃、電車の中に、悪党がいたの。そいつらを殺したときに感じたのよ。正義の為にしなくちゃいけないことは、悪党を皆殺しにすることだって。それからあたしは、あたしを裏切った上條や仁美のような悪党を全部皆殺しにしてきたの。まどかも知ってるでしょ」
「………」
「単なる犯罪者だけじゃない。上條や仁美のような法律には引っかからないような悪党も、全てあたしが殺すの。そうすれば素晴らしい正義の世界が訪れるのよ。あたしは犯罪者だけじゃなく、暴走族から政治家、人々を苦しめた企業のトップに至るまで、人々を苦しめるありとあらゆる悪党を殺して殺して殺して殺して殺しつくしてきたの…うふふ…」
「………」
「だけど最近は、なかなか殺すべき悪党がいなくて困ってるのよ」
「さ、さやかちゃんがいるから、もう悪いことしようなんて人は出てこないよ…」
「ちがうわ!!」
「ひぃっ…」
「報道管制よ。犯罪のニュースを流すとあたしが飛んでゆくものだから隠しているのよ…もう一度国連本部を粉々にしてやろうかしら…」
「………そ、そんなことしないで…」
「…まどか。なぜそんな目であたしを見るの」
「えっ…わ、わたし、別に…」
「あたしの力は、世の中に正義を為せとキュゥべえから与えられた偉大な魔法の力なのよ。正義の魔法少女のあたしに逆らうものは全て悪!!悪を抹殺するのがなぜ悪いの!!」
「わ、わかってるよ…わわわ、わかってます…」
「この当たり前のことが分からない連中が多くてうんざりしたわ。あたしに逆らうキュゥべえもほむらも杏子も皆殺しにして、やっと正義の魔法少女として本格的に活躍できると思ったら、警察があたしのこと、殺人容疑で逮捕するなんて言うのよ。正義の魔法少女を逮捕しようとするなんて、そんなのは悪だわ。だからみんな正義の魔法で皆殺しにしてやったわ」
「………」
「あたしのことを魔女呼ばわりする、こうるさい魔法少女も何人もやってきたわ。みんな返り討ちにしてやった!!正義の魔法少女さやかちゃんを魔女呼ばわりする悪党は皆殺しよ!!」
「………」
「魔法少女よりも面倒だったのは警察や軍隊ね。どんどん大規模な攻撃を正義の魔法少女であるこのあたしにしてきたのよ。機動隊が来て、その次は自衛隊が戦車や戦闘ヘリで攻めてきたわ。米軍や国連軍も出撃してきた。もちろん、全部返り討ちだけどね。正義の魔法少女に逆らう悪者は全て殺されるべきなのよ!!」
「………」
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「………」
「だから、こうるさい連中もあたしの魔法で永遠に黙らせてやったわ。マスコミも、知識人とかやらもね…うふふふ…」
「………」
「国連軍の連中なんて、挙句の果てには、あたしが寝ている間に周りの人間全員を避難させて、小型核ミサイルで攻撃してきたのよ。正義の魔法少女さやかちゃんには全然効かない無駄なことなのに、アハハハハハッ、こちらはかわりにニューヨークの国連本部を魔法で粉々にしてやったわ!!」
「………」
「それから、日本政府・アメリカ政府・国連の合同公式調査団が発表したわ。『正義の魔法少女などという荒唐無稽な人物はどこにも存在しない』ですって!あたしがここにいるのによ!!それから、犯罪のニュースが全く流れなくなった。学園はあたしを名誉生徒として特別待遇するようになった。そして、今日、まどかが久しぶりに遊びにきたわけよ」
「………」
そのとき、どたどたっという音がすると、部屋のドアが開き、ボロボロの姿の女が鉄パイプを振りかざしてさやかに襲い掛かってきた!!
まどか
(あっ、道端にいた女の人…!)
女
「眞一郎さんの仇!!」
さやか目掛けて振りかざされるパイプ。だが、そのパイプはさやかの身体に触れる前に粉々に砕け散った。
さやか
「うふふ…久しぶりの獲物ね…。眞一郎…。たしか、あたしが電車の中で一番最初に殺した男が、そんな名前だったわね。お前のためにあの男を殺してやったのよ…うふ。悪党の恋人も悪党!!お前を悪党と認定したわ。よってお前は死刑!!」
さやかが片手を振るうと、その手に握られていたソウルジェムが輝きだす。
さやかの片手のソウルジェムは黒く染まって輝きを深め、そしてソウルジェムと片手とが黒い霧に覆われて、そこから禍々しい姿をした剣が形成されてゆく。さやかの体から黒い魔法の力が噴出され、肌寒くなるような殺気が立ち込める。
まどか
「あ…あっ…!!逃げ、逃げる、逃げるよ…!!あなたも早く逃げる…!!」
まどかは、急いで女の手を掴むと、ドアから逃げ出した。呆然とした様子の女は、おとなしくまどかに付いて来る。
さやか
「あらあら…まどか…悪党の手助けをする者は、悪党よ。うふふ……」
さやかが持つ禍々しい形をした剣が黒い触手に姿を変えて、まどかと女をあっという間に拘束する。
さやか
「ふふ…。まどか、あなたとは長い付き合いだからね…。間違いを認めて、あたしに謝るなら、許してやってもいいわよ…」
まどか
「さ、さやかちゃん、この女の人をどうするつもりなの」
さやか
「聞くまでもないわ。正義の魔法少女さやかちゃんが、正義の裁きとして、処刑するのよ!!」
まどか
「こ、こんなの絶対おかしいよ…さやかちゃんは、く、狂ってる…」
さやか
「……今、何か、サラッと、とんでもないこと言わなかった、まどかァァァァァ!!」
まどか
「さやかちゃんは正義の魔法少女なんかじゃない!!魔法の力に溺れた怪物、血に飢えた化け物だよ!!」
さやか
「まどかァァァァァ!!殺す殺す殺す!!じわじわと締め付けてなぶり殺しにしてくれるわ!!」
さやかの片手と融合した黒い触手が女とまどかを締め付けてゆく。
女
「ぐあっ…」
まどか
「ううっ…苦しい…」
さやか
「アハッアハハハハハハハハハハハハハッアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!正義の魔法少女さやかちゃんに逆らうものは全て処刑処刑処刑!!」
苦しさのあまりまどかの意識が遠くなってゆく。
まどか
(あたし…こんなところで死んじゃうのかな…。ママ…パパ…タッちゃん…ごめん…。仁美ちゃん…ほむらちゃん…上條くん…杏子ちゃん…いま…みんなのところに…)
さやか
「アハ…!?グゲエゲゲエエエエエエエエエエエエエッ!!」
突然、黒い触手が消える。まどかの前で、さやかは、真っ黒な血とも泥ともつかないようなものを口から吐き出し、もんどりうって苦しんでいた。
まどか
「な、何が起こったの…?」
――それから一週間が過ぎた。
さやかちゃんの吐血の原因は胃ガンでした。さやかちゃんは現代医学で可能な限り最高の医療をきちんと受けました。お医者さん達はさやかちゃんが回復したとき、ちゃんと治療しなかったと言われて殺されるのをみんな怖がっていたから…。でも、魔法少女のガン細胞は、人類の医学の常識を遥かに超えていて、治療は何の役にも立ちませんでした。そしてさやかちゃんは、一週間の闘病の末、召されました。きっと、天ではなく地獄に召されたと思います。さようなら、さやかちゃん。
魔法少女になる前のさやかちゃん、
私の大好きなさやかちゃんは、
私の大切な最高の親友だったんだよ――
後書き
元ネタは藤子・F・不二夫「カイケツ小池さん」「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」(「藤子・F・不二雄異色短編集 気楽に殺ろうよ」収録)より。虚淵玄さんが深くリスペクトしている映画「レオン」(レオンのヒロインのマチルダは虚淵玄さんの作品「ファントム」のヒロインのアインのモデル)にて、殺し屋レオンは仇討ちを望むヒロインのマチルダに最後まで殺しをやらせません。それについて、主人公のレオンは作中でこう述べています…。
レオン
「復讐はやめた方がいい」
マチルダ
「あいつら(家族の仇)の頭をぶっ飛ばしてやりたいのよ!」
レオン
「人を殺したら、全てが変わってしまう」
(映画「レオン」)
リュック・べッソン監督の映画「レオン」において、殺人は殺人者にとっても取り返しのつかないものであると主人公の殺し屋レオンが知っているから、最後まで、レオンはマチルダを守って、マチルダに人を殺させない。最後まで、マチルダは、誰も殺さず、家族の死とレオンの死を悲しみながら、それでも、人間として生き続ける…。彼女は、深い悲しみと怒りを抱えながら、決して、殺人者にはならなかった…。
ウィキペディア「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」
「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」は、藤子・F・不二雄(発表時は藤子不二雄名義)の読みきりSF漫画作品。『S-Fマガジン』の1976年1月号に掲載。ブラックな内容と、主人公の顔がラーメン大好き小池さんであるそのミスマッチが、この作品を単なるブラックユーモアともギャグとも違う独特のテイストを引き出している。小池さんがウルトラ・スーパー・デラックスマン(以後USDマン)として目覚め、殺人鬼に変貌していく姿を描いた「カイケツ小池さん」の続編にあたる。個人の正義のエゴイズムとその先に待つ虚しさを描いた名作である。
魔法少女まどか☆マギカ第8話にて、被害妄想と嫉妬妄想が酷くなって精神的に追いつめられたさやかが、全く独善的で身勝手な理由で、通り魔的殺人に手を染めたとき、正義感が強すぎてあやういところもある彼女が、『全てが変わってしまう』ところに行ってしまったのを感じましたね…。決して取り返しのつかない、『全てが変わってしまう』ところに行ってしまった…。なんとも、悲劇的で、衝撃的な展開でした…。
これまでの魔法少女アニメにおいて、魔法少女の魔法は人々を幸せにする希望の力として描かれていましたが、魔法少女リリカルなのはでは、魔法とは善とも悪とも関係のないただの武力兵器であるとして描かれ、そしてついに魔法少女まどか☆マギカにおいては、魔法は人々を不幸にするもの、人の道を踏み外し、人間を人間でなくしてしまう、他者への恐るべき攻撃の強大な力として描かれていますね…。EDテーマ曲「Magia」で歌っている通りだ…『世界の夢を壊す力』…。
Magia(アニメ盤)
魔法少女まどか☆マギカEDテーマ曲
「Magia」
いつか君が 瞳に灯す 愛の光が 時を超えて
滅び急ぐ 世界の夢を 確かに一つ 壊すだろう
ためらいを飲み干して 君が望むものは何?
どんな 欲深い憧れの行方に 儚い明日はあるの?
魔法少女が魔法を凶器として使って魔法とは無関係な一般人に対する殺人を行ったのは、魔法少女まどか☆マギカがアニメ史上、始めてではないでしょうか…。まだ魔法少女になっていない(人の道を踏み外していない)まどかが、魔法に頼らずに、人間としての幸せを掴んでくれることを祈るばかりです…。
気楽に殺ろうよ (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
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