2010年12月28日 23:46

「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」同人誌、蛸壺屋「俺と妹の200日戦争」読了。湊かなえ「告白」や「闇金ウシジマくん」を彷彿とさせるイヤな傑作です。

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蛸壷屋公式サイト
http://www.takotuboya.jp/

毒のあるパロディ同人誌製作に定評のある蛸壷屋さんの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の同人誌「俺と妹の200日戦争」購入し、ただいま読了。いやあ、読んでいていや~な気持ちになりますね…。登場人物達がことごとく、アノミーでイヤな連中ばかりなのですね…。作者の蛸壺屋さんが後書きに書いている通り、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」のメインヒロイン桐乃の性格は原作でもかなりひどい性格で、他のキャラクターも一癖も二癖もある毒の強いキャラクターばかりですが、それをさらに、蛸壺屋さんの同人誌ならではの、『登場人物の嫌な部分ブースト』で、イヤなイヤなキャラクターに仕立て上げています。

蛸壺屋さんはこういう、オリジナルのキャラが持つ嫌な部分を増幅するのが本当にうまいなあ…。例えば、僕の好きな蛸壺屋さんの同人「使い魔ヤプー」シリーズ(ゼロのルイズのパロディ)だと、「ゼロのルイズ」のメインヒロインであるルイズの持つ、差別主義者としての冷酷な部分にクローズが当たっていて、貴族以外の人間は人間ではなく家畜と考える、高慢で冷酷無比なルイズになっていますが、それが不自然ではない。それは、原作オリジナルでも、ルイズの差別主義者の貴族としての一面が描かれていて、蛸壺屋さんはその面に拡大鏡を当てるように拡大しているから。それによって、ルイズのオリジナルキャラクターと繋がりを持ったまま、『冷酷な差別主義者のイヤなルイズ』というルイズの造形に成功している。この、原作オリジナルから持つキャラクターの負の側面を拡大してイヤなパロディ同人誌を作るというのが、蛸壺屋さんは職人芸的に上手いです。今回も面白かったですね。

オリジナルの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」は、元々オリジナルから、メインヒロイン桐乃の性格が酷く、他のキャラクターも性格に癖があるので、その負の部分が増幅された今回の同人誌「俺と妹の200日戦争」は、主人公の兄と桐乃を始め、本当にイヤな連中の集まりになっています。これはまるで「闇金ウシジマくん」に出てくるイヤな登場人物そのものだ…。傲慢で粗暴で、他者への気遣いや思いやりと言ったものは欠片もない、そして大口を叩くが大口に似合う実力は何もなく、ひたすら自分の欲望だけを求めるエゴイスト達、ウシジマのようなヤクザな闇金業者にカモにされて、最後は保険金かけられて海に沈められるような連中という感じです…。いやあ…僕は元々桐乃というメインヒロインが好きじゃありませんし、毒のある物語として楽しんで面白かったですが、原作の桐乃というキャラクターが好きという人には徹頭徹尾イヤな物語かも知れませんね…。

この同人誌の中で大人になった桐乃は最終的には身を持ち崩して娼婦(AV女優)になっていますが、非常に空虚、終わっているという感じが伝わってくるラストで、桐乃というキャラクターがオリジナルから持つ、心が空っぽで何もないアノミー(無道徳・無規範)の無を上手く描いていると感銘を受けました。ラストのキャラクターグッズの使い方が上手いなあ…。非常に虚無的です。桐乃は小さい頃から外見・見た目だけが自分の全てで、精神、内面、他者といったあらゆるものを、ずっと軽視してきて、そして最後は空っぽになってしまったという感じですね。自意識と外見の相克を主題の一つとした山本英夫の精神分析漫画「ホムンクルス」を思い出しました。

唯一取引できる嘘(カラダのルビ)も老いて崩れてしまえば、嘘(カネのルビ)も手に入らなくなる。そうしたらどこへ向かえばいいんでしょう…。
(山本英夫「ホムンクルス 第14巻」)

山本英夫「ホムンクルス」作品一覧

あと、メインヒロイン桐乃を始めとする主要登場人物が中学生(狂言回しの主人公は高校生)なので、中学生のどうしようもないイヤな人物像を描いたイヤな物語ということでは、2008年度週刊文春ミステリーベスト10第1位、2008年度このミステリーがすごい!第4位、2009年度本屋大賞受賞と、2008年のミステリ界を席巻した湊かなえのミステリ「告白」を思い出しますね…。これも、殺人事件の被害者の、何の落ち度もない、いたいけな幼女以外の主要登場人物達が、ことごとくイヤなイヤな連中として出てくるミステリでして、中学校が舞台ですが、本当にイヤなイヤな中学生ばかり出てくるミステリです…。登場人物が読んでいて不快になる人物ばかりで、読後感が非常にイヤな感じなので、優れた「イヤミス」(読了後、イヤな気分になるミステリの総称)であるとされています。

この「告白」に出てくる中学生達と、「俺と妹の200日戦争」の桐乃達は凄く似ているなあと思いましたね…。身勝手で、自己中心的で、他人に対する優しさや思いやりは欠片もない性格、周囲には上手く取り繕っているが、その実は自分の欲望だけで生きている獣みたいな感じが、そっくりすぎる…。上辺だけ優等生として周囲に上手に取り繕えるところとか、この「告白」の最大の主犯であろう、少年Aこと渡辺修哉と、「俺と妹の200日戦争」の桐乃はそっくりだなと…。両方とも、幻想的な親族イメージを勝手に作り上げて内面では極度に依存している(桐乃は兄に、修哉は母に)ところも、そして読後感がイヤな感じなのも同じですね。「俺と妹の200日戦争」、まさに優れた「イヤミス」ならぬ、優れた「イヤ同人誌」です。

「俺と妹の200日戦争」、この作品は、湊かなえ「告白」や「闇金ウシジマくん」のような、共感不可能なイヤなイヤな登場人物達が出てきて、破滅していくという、毒のあるイヤな読後感のある作品を読みたい方にお勧めです。蛸壺屋さんの同人誌のいつもの特徴として、今回も、桐乃がぼこぼこにされるところとか、毒があるところが一番筆が乗っていて面白いですね。僕は「イヤミス」とかの毒のある物語、救いのない物語は好きなので、面白かったです。今回のこの同人は、蛸壺屋さんの同人誌の中では先に挙げたゼロのルイズ同人誌のように、話題になったけいおん同人誌よりもずっと救いのないところが良かったです。毒のある物語が好きなお方々はご一読する価値ある作品と思います。あと「告白」はすごく面白くて、息を尽かせぬという感じに一気に読めるミステリの傑作なので、こちらも未読のお方々はぜひどうぞ。「闇金ウシジマくん」は、今回の同人や「告白」より更に物凄くダークなので、これは…、物凄くダークな作品でも平気というお方々に…。

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最後に、本誌は18禁同人誌で、性描写もありますが、はっきり言って全くエロくないので、そちらは期待しない方がいいと思います。蛸壺屋さんは、女体をあくまでオブジェ、物質のひとつとして即物的に描く漫画家さんで、女性の裸を上手に描きますが、そこに色気という情感、性的欲望を喚起する情感は全くないので…。蛸壺屋さんの同人誌は、情感的な色気を排している即物的性描写で有名なので、蛸壺屋さんの同人誌にエロを求める人はあまりいないと思いますが…。この情感のなさ、女体に対する憧れや美の幻想が一切ないという特徴は、ほかのエロ漫画にはあまりみない特色で、僕が蛸壺屋さんのオリジナリティとして高評価するポイントの一つですね。こういった特色を持つのは、僕の知る限りでは後は町田ひらくさんぐらいしかいないかと。ほとんどのエロ漫画家さんは、どんなに女性の体を物体として即物的に描こうとしても、そこに、作家さんが持つ女体に対する賛美や憧れの情感・幻想が固有の印象として絵に入り、それがそれぞれのエロ漫画家さんの独特の味になっています。蛸壺屋さんはそういった固有の印象を排した即物的な女体を書く、数少ない書き手の一人ですね。

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