2010年10月24日 22:01
久慈光久「鎧光赫赫」読了。白土三平を彷彿とさせる、社会について考えさせられる優れた作品です。
鎧光赫赫 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)
昨日ご紹介させて頂いた、「狼の口 ヴォルフスムント」の作者、久慈光久さんの短編集「鎧光赫赫」読了。歴史漫画を中心に、昨今の漫画においては見かけることの少ない、極めて硬派でシリアスな漫画が多くて、凄く良かったですね。タッチも劇画ですし、久慈光久さんは新人漫画家さんですが、新人とは思えぬ巧の腕前、劇画の良いところを上手に受け継いだ、今後に大いに期待が持てる漫画家さんだなと改めて感じました。
物語の主人公達は、現代アメリカのラティーノの女性、戦国時代の女性達、人間に虐げられている種族(天狗族)の女性など、抑圧者から虐げられながら、その状況と戦っている人々で、社会的に不公正で不遇な立場に置かれている人々の視点から世界を描き、物語を極めて実直真摯に組み立てており、どの短編も良かったですね(一つだけ、森薫さんのエマの宣伝企画漫画が収録されていて、その短編のみコミカルギャグですが、他の短編はどれも極めて硬派な漫画です)。虐げられる立場の側から世界を描いているところは、劇画漫画家の中でも、やはり白土三平さんを彷彿とさせますね。
また、本作に収録された物語の多くは、社会的に不公正で不遇な立場の人々が、それに抗うというスタンスですが、ここで、本作の大きな特徴として、極めてフェミニンな視点が挙げられます。本作では、男女が社会的に不平等な関係にあるということを踏まえた物語作りがされており、抑圧してくる男性に武器を持って抗する女性が多くの作品の主人公に据えられている、意識的に男女関係の不平等さを、階級的不平等さなどと同等かそれ以上の重大な問題として捉えて作品が作られているのですね。これは、女性キャラクターを愛玩的に描くことが流行る昨今の漫画事情を考えれば驚くほどラディカルな切り口で、僕は好感を持ちましたね。こういったところに切り込むのは、岡崎京子さんとか、主に女性の意欲的な漫画家であることが多く、男性のエンターテイメント漫画家がこういった問題に切り込むということは、これまであまりなかったことですからね。感服致しました。
また、もう一つ、本作の大きな特徴として挙げられるものは、『銃』を、腕力を持たない人々が、強い腕力を振るってくる暴力的な人々に蹂躙されることなく自衛できる可能性を秘めた有益な存在として描いているんですね。これは、凄く国際的な感性だなと思いましたね。現代日本では『銃=悪』みたいな一面的な捉え方をされることが多いですが、これは、現代日本の社会が、世界的に見れば例外的と言えるほどのレベルで平和裏に安定した社会だからそう捉えられるだけで、日本以外の国際社会においては、自らの身を自ら守るしかない、その時に、暴力的な相手から自らを守るために、銃は必携である、というような自衛的な考え方は、普通にありますし、そのような考え方にもまた一理あるということは、否定できないことだと思いますね…。読了後、社会の在り方などについて、色々と考えさせてくれると言う点においても優れた作品です。「鎧光赫赫」とてもお勧めです。
参考作品(amazon)
鎧光赫赫 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)
狼の口 ヴォルフスムント 1巻 (BEAM COMIX)
狼の口 ヴォルフスムント 2巻 (ビームコミックス)
歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)
歴史哲学講義〈下〉 (岩波文庫)
カムイ伝全集―決定版 (第1部1) (ビッグコミックススペシャル)
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「人間性」はこの火薬を必要としたのであって、だからこそやがてそれの出現を見たのである。つまり、それは人間を自然の力から解放し、身分を平等化するこの上もなく重大な道具だったのである。
(ヘーゲル「歴史哲学」)
昨日ご紹介させて頂いた、「狼の口 ヴォルフスムント」の作者、久慈光久さんの短編集「鎧光赫赫」読了。歴史漫画を中心に、昨今の漫画においては見かけることの少ない、極めて硬派でシリアスな漫画が多くて、凄く良かったですね。タッチも劇画ですし、久慈光久さんは新人漫画家さんですが、新人とは思えぬ巧の腕前、劇画の良いところを上手に受け継いだ、今後に大いに期待が持てる漫画家さんだなと改めて感じました。
物語の主人公達は、現代アメリカのラティーノの女性、戦国時代の女性達、人間に虐げられている種族(天狗族)の女性など、抑圧者から虐げられながら、その状況と戦っている人々で、社会的に不公正で不遇な立場に置かれている人々の視点から世界を描き、物語を極めて実直真摯に組み立てており、どの短編も良かったですね(一つだけ、森薫さんのエマの宣伝企画漫画が収録されていて、その短編のみコミカルギャグですが、他の短編はどれも極めて硬派な漫画です)。虐げられる立場の側から世界を描いているところは、劇画漫画家の中でも、やはり白土三平さんを彷彿とさせますね。
また、本作に収録された物語の多くは、社会的に不公正で不遇な立場の人々が、それに抗うというスタンスですが、ここで、本作の大きな特徴として、極めてフェミニンな視点が挙げられます。本作では、男女が社会的に不平等な関係にあるということを踏まえた物語作りがされており、抑圧してくる男性に武器を持って抗する女性が多くの作品の主人公に据えられている、意識的に男女関係の不平等さを、階級的不平等さなどと同等かそれ以上の重大な問題として捉えて作品が作られているのですね。これは、女性キャラクターを愛玩的に描くことが流行る昨今の漫画事情を考えれば驚くほどラディカルな切り口で、僕は好感を持ちましたね。こういったところに切り込むのは、岡崎京子さんとか、主に女性の意欲的な漫画家であることが多く、男性のエンターテイメント漫画家がこういった問題に切り込むということは、これまであまりなかったことですからね。感服致しました。
また、もう一つ、本作の大きな特徴として挙げられるものは、『銃』を、腕力を持たない人々が、強い腕力を振るってくる暴力的な人々に蹂躙されることなく自衛できる可能性を秘めた有益な存在として描いているんですね。これは、凄く国際的な感性だなと思いましたね。現代日本では『銃=悪』みたいな一面的な捉え方をされることが多いですが、これは、現代日本の社会が、世界的に見れば例外的と言えるほどのレベルで平和裏に安定した社会だからそう捉えられるだけで、日本以外の国際社会においては、自らの身を自ら守るしかない、その時に、暴力的な相手から自らを守るために、銃は必携である、というような自衛的な考え方は、普通にありますし、そのような考え方にもまた一理あるということは、否定できないことだと思いますね…。読了後、社会の在り方などについて、色々と考えさせてくれると言う点においても優れた作品です。「鎧光赫赫」とてもお勧めです。
なみすぐれた個人を基準として、全体をみることはできない。
(白土三平「カムイ伝」)
貴族の武器の優勢に対抗するものとして、一つの科学的な道具の発明があった――それは火薬である。「人間性」はこの火薬を必要としたのであって、だからこそやがてそれの出現を見たのである。
つまり、それは人間を自然の力から解放し、身分を平等化するこの上もなく重大な道具だったのである。すなわち、武器の差別の消滅により、主人と奴隷の区別も消え失せたのである。火薬は城壁の堅陣をも破砕し、城壁や城の価値もいまやその重要性を失った。人々は個人的な勇敢の価値の没落を嘆くであろう。もはや豪勇無双の戦士も、またいかなる義士も、卑怯者が放つ遠くから、片隅からの一発の弾でやられてしまう。
けれども、火薬は(国民の武器として)かえって理性的な、思慮ある勇敢、精神的勇気の相場を高めもしたのである。この道具によってはじめて、いっそう高度の勇敢、個人的情熱とは切り離された勇敢が生まれてきたのである。というのは、この火器の使用にあたっては、普遍的なものの中に打ち込むのであり、敵は抽象的な敵であって、個々人ではないのである。
(ヘーゲル「歴史哲学」)
「銃は力よ。それもとても平等な。体格の大小や性別に関係なく普遍的な戦闘能力を与えてくれる。危険に満ちた恐ろしい社会……それがこの国。でも反面、自分の力で戦うことを認めてくれる国でもあるわ」
(久慈光久「ラピッドファイア」「鎧光赫赫」より)
参考作品(amazon)
鎧光赫赫 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)
狼の口 ヴォルフスムント 1巻 (BEAM COMIX)
狼の口 ヴォルフスムント 2巻 (ビームコミックス)
歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)
歴史哲学講義〈下〉 (岩波文庫)
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