2010年08月28日 21:46
ボルヘス「幻獣辞典」読了。素晴らしく面白かったです。RPG好きはぜひどうぞ〜。
幻獣辞典 (晶文社クラシックス)
ホルへ・ルイス・ボルヘスの幻想の生物図鑑「幻獣辞典」読了。素晴らしく面白かったですね。ドラクエやファイナルファンタジー、ポケットモンスターなど、RPG好きはぜひ読んで欲しい本です。きっと大満足頂けるかと思います。
本書は世界を代表する幻想小説家にして大碩学のボルヘスが、その知識と小説家としての才を駆使して纏め上げた、幻想の生物「幻獣」達の大辞典です。バハムート、べヒーモス、ケルベロス、ヤマタノオロチ、ガルーダ、ゴーレム、リリス、ミノタウロス、カーバンクルなどなどのRPGでお馴染みの面々から、月のウサギやオドラデクなどのちょっと変わった幻獣まで、120種類の幻獣を詳しく紹介しています。
この本の面白いのは、その紹介文で、流石は碩学ボルヘス、ただの無味乾燥な紹介文ではありません。紹介文ではそれぞれの幻獣の、誰も知らないような逸話や伝承を語っていて、それが素晴らしく面白い。例えば一つ引用して見ますね。
こんな感じで、ただの紹介ではなく、その幻獣にまつわる面白くて誰も知らないような逸話を紹介し、さらに逸話の逸話を紹介し、さらに逸話の逸話の逸話を紹介し、それに注釈を付け…、みたいな感じで、まさにボルヘスならではの、入れ子細工のような構造で幻獣についての様々な事柄が語られており、素晴らしく面白いです。澁澤龍彦さんのエッセイみたいな感じですね。僕の大好きなタイプの文章です。普通に読んでも面白いですが、ゲーム好き・RPG好きなら、RPGのモンスター(幻獣)に関する一通りの説明を遥かに超えた、幻獣に関する面白い逸話薀蓄がたっぷりで、きっと楽しめるかと。僕は最高に楽しかったですね〜。思いきりお勧めです。
最後に余談ですが、ラミアーの逸話、日本の怪談「蛇性の淫」(上田秋成の雨月物語に収録、水木しげるさんの漫画も傑作)」「牡丹灯籠」に似ていますね。雨月物語は1776年刊で、バートンより後世に編纂されたものですが、牡丹燈籠の元になった話は中国の「剪灯新話」(聊斎志異よりも更に古い中国の怪談集)に収録された「牡丹燈記」でして、こちらは明の時代に編纂されたもの(14世紀後半編纂)なので、こちら(牡丹灯篭の元ネタ)の方が編纂の年代はロバート・バートンより遥かに前というのは面白いですね。本書「ヤマタノオロチ」の項目にも書いてありますが、神話や怪談は洋の東西を越えて、根本的に似た要素を含むというところが、僕はとても好きですね。
参考作品(amazon)
幻獣辞典 (晶文社クラシックス)
怪談 牡丹燈籠 岩波文庫
水木しげるの雨月物語 (河出文庫)
改訂版 雨月物語―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)
ポケットモンスター ブラック ホワイト
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ホルへ・ルイス・ボルヘスの幻想の生物図鑑「幻獣辞典」読了。素晴らしく面白かったですね。ドラクエやファイナルファンタジー、ポケットモンスターなど、RPG好きはぜひ読んで欲しい本です。きっと大満足頂けるかと思います。
本書は世界を代表する幻想小説家にして大碩学のボルヘスが、その知識と小説家としての才を駆使して纏め上げた、幻想の生物「幻獣」達の大辞典です。バハムート、べヒーモス、ケルベロス、ヤマタノオロチ、ガルーダ、ゴーレム、リリス、ミノタウロス、カーバンクルなどなどのRPGでお馴染みの面々から、月のウサギやオドラデクなどのちょっと変わった幻獣まで、120種類の幻獣を詳しく紹介しています。
この本の面白いのは、その紹介文で、流石は碩学ボルヘス、ただの無味乾燥な紹介文ではありません。紹介文ではそれぞれの幻獣の、誰も知らないような逸話や伝承を語っていて、それが素晴らしく面白い。例えば一つ引用して見ますね。
ボルヘス
「幻獣辞典」
ラミアー
ギリシア人やローマ人によると、ラミアーはアフリカに棲んでいた。腰から上は美しい女の姿で、腰から下は蛇だった。これを妖術師とみなす説も多かったが、邪悪な怪物とする説もある。ラミアー達は話す能力を持たなかったが、音色のよい口笛を鳴らし、砂漠では旅人をだまして貪り食った。遠くさかのぼれば生まれは神聖で、ゼウスの数多い愛人のひとりを祖先に持つ。『憂鬱の解剖』(1621)の恋愛を論じた箇所で、ロバート・バートンはこう書いている。
『フィロストラトスは『アポロニウス伝』第四の書においてこの種の銘記すべき一例を挙げており、ここで割愛することはできない。メニッポス・リュキオスなる25歳の若者がケンクレヤとコリントスの間を歩いていると、美しい貴婦人の装いをした亡霊に出会った。この女は彼の手を引いて、コリントスのはずれにある家に連れて行き、自分はフェニキアの生まれだと告げ、一緒に暮らしてくれるなら、彼女の歌を聴きながら遊んで過すことができ、誰も飲んだことのない酒が飲め、しかも誰にも煩わされることはないと言った。しかし美しくて愛らしい自分は、美しくて愛らしい彼と生きるも死ぬも一緒なのだとも言った。この若者は哲学者で、他の場合なら思慮深く分別をわきまえ、情熱を抑えることができたが、この恋心は抑え難く、しばらく一緒の暮らしを大いに楽しみ、ついにこの女と結婚することになった。結婚式に招かれた客の中にアポロニウスがおり、彼はいくつかの可能な推測をすることで女が蛇、ラミアーであることを見破り、女の家具調度すべてがホメロスの描いたタンタロスの黄金の如く、実体のない幻影にすぎないとみてとった。なじられると女は泣き、アポロニウスに黙っていてくれと哀願したが、彼は動かされなかった。すると女も料理も家も、一切が一瞬の上にかき消えた。ギリシアの真夜中で起こったことなので、この事件は数千の人間が目撃した。』
死の少し前、ジョン・キーツはバートンを読んで心を動かされ、長詩「ラミアー」を書いた。
こんな感じで、ただの紹介ではなく、その幻獣にまつわる面白くて誰も知らないような逸話を紹介し、さらに逸話の逸話を紹介し、さらに逸話の逸話の逸話を紹介し、それに注釈を付け…、みたいな感じで、まさにボルヘスならではの、入れ子細工のような構造で幻獣についての様々な事柄が語られており、素晴らしく面白いです。澁澤龍彦さんのエッセイみたいな感じですね。僕の大好きなタイプの文章です。普通に読んでも面白いですが、ゲーム好き・RPG好きなら、RPGのモンスター(幻獣)に関する一通りの説明を遥かに超えた、幻獣に関する面白い逸話薀蓄がたっぷりで、きっと楽しめるかと。僕は最高に楽しかったですね〜。思いきりお勧めです。
最後に余談ですが、ラミアーの逸話、日本の怪談「蛇性の淫」(上田秋成の雨月物語に収録、水木しげるさんの漫画も傑作)」「牡丹灯籠」に似ていますね。雨月物語は1776年刊で、バートンより後世に編纂されたものですが、牡丹燈籠の元になった話は中国の「剪灯新話」(聊斎志異よりも更に古い中国の怪談集)に収録された「牡丹燈記」でして、こちらは明の時代に編纂されたもの(14世紀後半編纂)なので、こちら(牡丹灯篭の元ネタ)の方が編纂の年代はロバート・バートンより遥かに前というのは面白いですね。本書「ヤマタノオロチ」の項目にも書いてありますが、神話や怪談は洋の東西を越えて、根本的に似た要素を含むというところが、僕はとても好きですね。
ボルヘス
「幻獣辞典」
ヤマタノオロチ
高志の八岐大蛇は、日本の天地開闢神話において特に名高い。これは頭が八つ、尾が八本あった。目はほおずきのように真赤で、背には松や苔が生え、ひとつひとつの頭には樅が芽を出していた。這うと、八つの谷と八つの丘にまたがって伸び、腹にはいつも血糊がついていた。七年間のうちに、この獣は一国の王の娘である七人の娘を食べてしまっており、八年目には末娘のクシナダ姫を食べようとしていた。姫を救ったのが、スサノオノミコトという神である。(中略)
救った者が救われた者と結婚したことはいうまでもない。ギリシア神話でも、ペルセウスがアンドロメダーと結婚する。
古代日本の天地開闢と神々の系譜の英訳(「日本人の聖典』)のなかで、ポスト・ウィーラーはギリシア神話のヒュドラー、ゲルマン神話のファーヴニル、エジプトの女神ハソール(セクメト)の同類の伝説をも記している。ハソールにはある神(ラー)が血のように赤い酒を飲ませてこれを酔わせ、人類の滅亡を救った。
参考作品(amazon)
幻獣辞典 (晶文社クラシックス)
怪談 牡丹燈籠 岩波文庫
水木しげるの雨月物語 (河出文庫)
改訂版 雨月物語―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)
ポケットモンスター ブラック ホワイト
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