2010年05月29日 00:53
僕の好きなユニーク・ピアニスト。スヴャトスラフ・リヒテル、サンソン・フランソワ。「神秘的」。
スヴャトスラフ・リヒテル名演奏集(5枚組)
ショパン:バラード、スケルツォ全曲
先日、演奏者のユニークなパワフルさが出るリズミカルな曲ジャンルとしてジョプリンのラグタイム・ピアノ曲を始めとするラグタイムのご紹介をさせて頂きました(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1181714.html)。こういったユニークでパワフルな演奏がクラシック・ピアノ曲にないのかというと、決してそんなことはないのですね。音楽は演奏者の解釈によって十人十色、千差万別の姿を聴かせるもの。クラシック・ピアノ曲も、演奏者によって、オーソドキシー(正統的)から、非常にユニーク(個性的)なものにまで、あらゆる方向に変化してゆきます。
今回は、ユニークでパワフルなクラシック・ピアニストとして、スヴャトスラフ・リヒテル、サンソン・フランソワの二人をご紹介させて頂きます。この二人は、僕の非常に好きな、解釈の幅の大きいユニーク・ピアニストです。聴くと一聴瞭然という形で分かるんですが、この二人の演奏は、物凄く荒っぽいパワフルな陶酔的演奏と、非常にデリケートで繊細な、ある種神経質とまで言えるであろう繊細で丁寧な演奏が、1つの演奏の中に同居するんです。他のピアニストは絶対このようには弾かないであろう、動と静のありえない同居が、聴いていて非常にユニーク、面白いのです。
解釈の幅の大きい現代のユニーク・ピアニストとしてはマルタ・アルゲリッチが有名ですね。アルゲリッチも非常に優れたユニーク・ピアニストです。ただ、アルゲリッチの場合は、個性が1つの纏まった形(パターン)になっていて、誰が聴いても「ああ…これはアルゲリッチの演奏だ」ということが分かる、個性がきちんと整然とした綺麗な形で1つに纏まっているピアニストです。
リヒテルやフランソワの面白いのは、アルゲリッチに感じるような個性の纏まりを感じないところです。聴いていて何が飛び出すか分からないビックリ箱のようなドキドキ感のある演奏です。これが何ともいえず面白い。リヒテルもフランソワも聴衆が予想不可能な形でピアノを弾くんですね。吃驚するほど荒々しい動の演奏の後に、動の荒々しさからは考えられない繊細で柔らかな静の演奏が来る。演奏の振幅が非常に大きく、聴いていると、聴きながら思っている音の未来予想をしばしば超えてゆく。それが非常に面白い。二人とも、通常ありえないような解釈を行って演奏します。聴いていると、「ええ、こんな解釈をしていいの?」みたいな思いが湧き上がる演奏ですね。
そして何より、面白いだけではなく、演奏を聴いていると凄まじく感情が揺さぶられる。しかも揺さぶりの感覚がどこから来ているのか分からない。この二人の演奏は「神秘的」と称されることが多いですが、僕も同感に思います。一体どうして演奏を聴いてこんなに感情が揺さぶられるのか分からない、分析できない。確かに「神秘的」としか言い様のないものを感じますね…。
具体的なお勧めとしては、リヒテルでは「スヴャトスラフ・リヒテル名演奏集」(五枚組)がとてもお勧めですね。リヒテルの壮年期の最高傑作を集めたベスト五枚組でして、一枚目から聴いているだけで素晴らしさで震えが走る出来です。僕が先ほど書いた「動と静の驚くべき落差」というのが実感して分かって頂ける出来と思います。特にCD1〜CD3のベートーヴェンの解釈は驚くべきもので、聴いていると予想を次々と裏切る驚くべき展開の連続、心地よい驚き、現代の聴衆の皆様方にも新鮮な喜びに満ちた感銘が味わえると思います。また、リヒテルの音楽を好まれるお方々には、「ラフマニノフ前奏曲集」も、リヒテルの名盤として心からお勧めするアルバムです。
スヴャトスラフ・リヒテル名演奏集(5枚組)
ラフマニノフ:前奏曲集
リヒテルが、荒々しく力強くパワフルに弾いているのは壮年期までで、老年期に入ると、そういった演奏は陰りを見せてしまうので、彼の演奏を聴くならできるなら壮年期の演奏をお勧めします。リヒテルは録音少ないですが…。ちなみにリヒテルの若い頃は、鉄のカーテンにて東西の交流が閉じられていた頃であり、若きピアニストであるリヒテルは当時のソビエト連邦の中で身動きとれない状態だったため、若き日の彼の実際の演奏の録音はないんですね…。非常に残念なことです…。リヒテルは素晴らしいピアニスト、ぜひ一度は聴いて欲しいピアニストですね…。下記のユーチューブで、リヒテルのベートーヴェンがさわりだけちょこっと聴けます。僕の書いた文章の意味が、分かって頂けたら嬉しく…。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番op57「熱情」:リヒテル
http://www.youtube.com/watch?v=Bxh5i0lXj1Q&feature
サンソン・フランソワは、リヒテルに比べると、全体的に落ちるといっても仕方がないかなと思いますが、それはリヒテルがあまりにもユニークにずば抜けすぎた天才であるだけで、彼もまた優れたピアニストであることには変わりありません。彼もまた、リヒテルと同じく、静と動の強烈なコントラストが素晴らしい、心地よい驚きを持った演奏を行うピアニストです。
先日紹介したキーシン(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1179592.html)が「キーシンの為のショパン」を弾くことを抑えて、「ショパンの為のショパン」を弾いている、楽譜に対して中立性を保って弾こうとして努力しており、その結果、素晴らしく美しい透明性を持っているのに比べると、フランソワは、「フランソワの為のショパン」を弾いていて、ショパンがフランソワの色に染まっているのですね。キーシンにある美しい透明性は失われていますが、その代わりに、フランソワの演奏は美しい色ガラスのように、彼の独自の色彩を輝かせている。下記ユーチューブなどをご参考にどうぞ。彼のショパン解釈は素晴らしいです。
ショパン:バラード第1番ト短調Op.23:フランソワ
http://www.youtube.com/watch?v=1XUpOt30Kfc&feature
フランソワのお勧めとしては、やはりショパン、それとドビュッシーも挙げられると思います。僕はラヴェルよりドビュッシーを推しますね。あと、今年がショパンイヤーであるということに合わせて、彼のショパン全集が極端な廉価(2000〜3000円程度)で出るみたいです。この今年出る全集は聴いていませんが、ばら売りの彼のショパンアルバムが素晴らしいこと、過去に出た彼のピアノ全集が数万くらいすることを考えれば、極めてお買い得かなと思います。残念ながらamazonには入荷しないようなので、僕は購入できず無念ですが…(HMVサイトhttp://www.hmv.co.jp/product/detail/3739973より)。僕がバラで聴いた中でお勧めとしては、「バラード、スケルツォ全曲」「別れの曲ピアノ名曲集」それとドビュッシーの「月の光」などを集めた名曲集が良かったですね…。
ショパン:バラード、スケルツォ全曲
ショパン:別れの曲(ピアノ名曲集)
ドビュッシー:月の光(ピアノ名曲集)
素晴らしい音楽にて、皆様方のお心に安らぎとそして深き喜びがあることを、心から願います。アーノンクールが「音楽は人の心を癒すだけでなく、さらに何かを与えなくてはならない」と述べておりますが、今回ご紹介させて頂いた音楽はこの条件を満たしていると、僕は思いますね…。人生が良き音楽と共にあらんことを…。
参考作品(amazon)
スヴャトスラフ・リヒテル名演奏集(5枚組)
ラフマニノフ:前奏曲集
ショパン:バラード、スケルツォ全曲
ショパン:別れの曲(ピアノ名曲集)
ドビュッシー:月の光(ピアノ名曲集)
バッハ:音楽の捧げ物
クラシックストア
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ショパン:バラード、スケルツォ全曲
先日、演奏者のユニークなパワフルさが出るリズミカルな曲ジャンルとしてジョプリンのラグタイム・ピアノ曲を始めとするラグタイムのご紹介をさせて頂きました(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1181714.html)。こういったユニークでパワフルな演奏がクラシック・ピアノ曲にないのかというと、決してそんなことはないのですね。音楽は演奏者の解釈によって十人十色、千差万別の姿を聴かせるもの。クラシック・ピアノ曲も、演奏者によって、オーソドキシー(正統的)から、非常にユニーク(個性的)なものにまで、あらゆる方向に変化してゆきます。
今回は、ユニークでパワフルなクラシック・ピアニストとして、スヴャトスラフ・リヒテル、サンソン・フランソワの二人をご紹介させて頂きます。この二人は、僕の非常に好きな、解釈の幅の大きいユニーク・ピアニストです。聴くと一聴瞭然という形で分かるんですが、この二人の演奏は、物凄く荒っぽいパワフルな陶酔的演奏と、非常にデリケートで繊細な、ある種神経質とまで言えるであろう繊細で丁寧な演奏が、1つの演奏の中に同居するんです。他のピアニストは絶対このようには弾かないであろう、動と静のありえない同居が、聴いていて非常にユニーク、面白いのです。
解釈の幅の大きい現代のユニーク・ピアニストとしてはマルタ・アルゲリッチが有名ですね。アルゲリッチも非常に優れたユニーク・ピアニストです。ただ、アルゲリッチの場合は、個性が1つの纏まった形(パターン)になっていて、誰が聴いても「ああ…これはアルゲリッチの演奏だ」ということが分かる、個性がきちんと整然とした綺麗な形で1つに纏まっているピアニストです。
リヒテルやフランソワの面白いのは、アルゲリッチに感じるような個性の纏まりを感じないところです。聴いていて何が飛び出すか分からないビックリ箱のようなドキドキ感のある演奏です。これが何ともいえず面白い。リヒテルもフランソワも聴衆が予想不可能な形でピアノを弾くんですね。吃驚するほど荒々しい動の演奏の後に、動の荒々しさからは考えられない繊細で柔らかな静の演奏が来る。演奏の振幅が非常に大きく、聴いていると、聴きながら思っている音の未来予想をしばしば超えてゆく。それが非常に面白い。二人とも、通常ありえないような解釈を行って演奏します。聴いていると、「ええ、こんな解釈をしていいの?」みたいな思いが湧き上がる演奏ですね。
そして何より、面白いだけではなく、演奏を聴いていると凄まじく感情が揺さぶられる。しかも揺さぶりの感覚がどこから来ているのか分からない。この二人の演奏は「神秘的」と称されることが多いですが、僕も同感に思います。一体どうして演奏を聴いてこんなに感情が揺さぶられるのか分からない、分析できない。確かに「神秘的」としか言い様のないものを感じますね…。
具体的なお勧めとしては、リヒテルでは「スヴャトスラフ・リヒテル名演奏集」(五枚組)がとてもお勧めですね。リヒテルの壮年期の最高傑作を集めたベスト五枚組でして、一枚目から聴いているだけで素晴らしさで震えが走る出来です。僕が先ほど書いた「動と静の驚くべき落差」というのが実感して分かって頂ける出来と思います。特にCD1〜CD3のベートーヴェンの解釈は驚くべきもので、聴いていると予想を次々と裏切る驚くべき展開の連続、心地よい驚き、現代の聴衆の皆様方にも新鮮な喜びに満ちた感銘が味わえると思います。また、リヒテルの音楽を好まれるお方々には、「ラフマニノフ前奏曲集」も、リヒテルの名盤として心からお勧めするアルバムです。
スヴャトスラフ・リヒテル名演奏集(5枚組)
ラフマニノフ:前奏曲集
リヒテルが、荒々しく力強くパワフルに弾いているのは壮年期までで、老年期に入ると、そういった演奏は陰りを見せてしまうので、彼の演奏を聴くならできるなら壮年期の演奏をお勧めします。リヒテルは録音少ないですが…。ちなみにリヒテルの若い頃は、鉄のカーテンにて東西の交流が閉じられていた頃であり、若きピアニストであるリヒテルは当時のソビエト連邦の中で身動きとれない状態だったため、若き日の彼の実際の演奏の録音はないんですね…。非常に残念なことです…。リヒテルは素晴らしいピアニスト、ぜひ一度は聴いて欲しいピアニストですね…。下記のユーチューブで、リヒテルのベートーヴェンがさわりだけちょこっと聴けます。僕の書いた文章の意味が、分かって頂けたら嬉しく…。
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番op57「熱情」:リヒテル
http://www.youtube.com/watch?v=Bxh5i0lXj1Q&feature
サンソン・フランソワは、リヒテルに比べると、全体的に落ちるといっても仕方がないかなと思いますが、それはリヒテルがあまりにもユニークにずば抜けすぎた天才であるだけで、彼もまた優れたピアニストであることには変わりありません。彼もまた、リヒテルと同じく、静と動の強烈なコントラストが素晴らしい、心地よい驚きを持った演奏を行うピアニストです。
先日紹介したキーシン(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1179592.html)が「キーシンの為のショパン」を弾くことを抑えて、「ショパンの為のショパン」を弾いている、楽譜に対して中立性を保って弾こうとして努力しており、その結果、素晴らしく美しい透明性を持っているのに比べると、フランソワは、「フランソワの為のショパン」を弾いていて、ショパンがフランソワの色に染まっているのですね。キーシンにある美しい透明性は失われていますが、その代わりに、フランソワの演奏は美しい色ガラスのように、彼の独自の色彩を輝かせている。下記ユーチューブなどをご参考にどうぞ。彼のショパン解釈は素晴らしいです。
ショパン:バラード第1番ト短調Op.23:フランソワ
http://www.youtube.com/watch?v=1XUpOt30Kfc&feature
フランソワのお勧めとしては、やはりショパン、それとドビュッシーも挙げられると思います。僕はラヴェルよりドビュッシーを推しますね。あと、今年がショパンイヤーであるということに合わせて、彼のショパン全集が極端な廉価(2000〜3000円程度)で出るみたいです。この今年出る全集は聴いていませんが、ばら売りの彼のショパンアルバムが素晴らしいこと、過去に出た彼のピアノ全集が数万くらいすることを考えれば、極めてお買い得かなと思います。残念ながらamazonには入荷しないようなので、僕は購入できず無念ですが…(HMVサイトhttp://www.hmv.co.jp/product/detail/3739973より)。僕がバラで聴いた中でお勧めとしては、「バラード、スケルツォ全曲」「別れの曲ピアノ名曲集」それとドビュッシーの「月の光」などを集めた名曲集が良かったですね…。
ショパン:バラード、スケルツォ全曲
ショパン:別れの曲(ピアノ名曲集)
ドビュッシー:月の光(ピアノ名曲集)
素晴らしい音楽にて、皆様方のお心に安らぎとそして深き喜びがあることを、心から願います。アーノンクールが「音楽は人の心を癒すだけでなく、さらに何かを与えなくてはならない」と述べておりますが、今回ご紹介させて頂いた音楽はこの条件を満たしていると、僕は思いますね…。人生が良き音楽と共にあらんことを…。
音楽とは常に人々の生活と関与すべきものなのです。音楽は人の神経を慰めたり、落ち着かせたりするだけにあるのではなく、人々の眼を開けさせたり、揺り動かしたり、更には驚きを与えるためにあるのだというのが、私のずっと抱き続けている信念です。もし、音楽がそれを為しえないのならば、私が音楽を演奏することはないでしょう。
(ニコラウス・アーノンクール。「バッハ 音楽の捧げ物BWV1079」より)
参考作品(amazon)
スヴャトスラフ・リヒテル名演奏集(5枚組)
ラフマニノフ:前奏曲集
ショパン:バラード、スケルツォ全曲
ショパン:別れの曲(ピアノ名曲集)
ドビュッシー:月の光(ピアノ名曲集)
バッハ:音楽の捧げ物
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