2010年05月27日 05:48
チェーザレ・ボルジアとルネサンス・リュート。「教会の音楽」から「民衆の音楽」へ。
ルネサンス・リュート曲集
前回(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1180868.html)、総領冬実さんの、チェーザレ・ボルジアをメインとしたイタリア・ルネサンス歴史物「チェーザレ」についてご紹介させて頂いたので、今回は、当時の音楽についてご紹介致します。当時のヨーロッパの民衆的な音楽としては、小型弦楽器のリュート(現在のギターに近い弦楽器)による音楽が挙げられます。リュートは、どこでも誰でも持ち歩いて弾けるため、教会でのみ弾く・聴くことが可能なオルガンなどの楽器とは違い、一般市民に膾炙しました。ちょうど、チェーザレ・ボルジアが活躍した頃は、イスラムからヨーロッパに伝わったリュートの最初の全盛期でして(ちなみに日本に伝わったリュートの原型は「琵琶」になりました)、総領冬実さんの「チェーザレ」に出てくる実在の登場人物達もおそらくはその響きを耳にしていたと思われます。リュートはルネサンスに興隆した最大の楽器であり、その特徴は、奏でられるのが宗教音楽ではなく、民衆音楽であるということです。
ヨーロッパにおけるリュートの興隆の最大の決め手となったのは、ルネサンス期の芸術において繁栄を極めたイタリアです。イタリアはルネサンスにおいてリュート音楽の大国でした。1507年、奇しくもチェーザレ・ボルジアの没年に、リュートの楽譜本、リュート・タブラチュアがイタリアで出版されたことで、リュートはヨーロッパ中で大きな発展を遂げます。16世紀を通して、イタリアはリュート音楽の最盛国となり、各国の宮廷にもその影響を与えました。現代でいうところの「流しのギター弾き」みたいな感じで、旅の音楽家が「流しのリュート弾き」をやっていると考えて頂けると、分かりやすいかなと。リュートは、教会で奏でられる宗教音楽の為の楽器ではない新しい楽器、民衆音楽を宮廷や街の広場・街路で奏でるための楽器として大いに使われたのです。
これは音楽史を考える上でかなり重要なことで、音楽が教会の音楽(オルガン曲、賛美歌など)から、民衆の音楽(教会と関係の薄い民衆音楽家達が奏でる音楽、ルネサンス・リュート曲など)に移行した流れの一環としてあるのです。チェーザレ・ボルジアなど、ルネサンスの立役者達が、民衆に対する教会の支配的権威を弱めたことで、音楽に対する教会の支配的権威も弱まり、リュートが誰でもどこでも弾ける楽器であることとあいまって、「民衆の音楽」としてリュート音楽が人々に膾炙したとされています。リュートという楽器自体も、キリスト教文化が生み出したものではない、イスラムから入ってきたもの(発祥はササン朝ペルシアとされています)ですから、このことを考えると、歴史のうねりを感じますね…。
僕はリュートがチェンバロと並んで大好きな古楽器でして、よく聴くことが多いですね。良い意味で素朴さを感じさせる、郷愁に満ち溢れたリュートの音色が奏でられるルネサンスの音楽を聴くと、チェーザレ達もこの音楽を聴いていたのだろうか、と感慨深い想いが浮かび上がります…。
リュート曲は数ありますが、僕が好きで良く聴いている、「チェーザレ」の新刊が出たときにBGMとして流しているアルバムは、イェラン・セルシェルの「ルネサンス・リュート曲集」です。ルネサンス・リュート音楽のなかで僕が知る限りにおいて、一番聴きやすいアルバム、穏やかで郷愁を感じさせる、心を打つ音楽アルバムだと思いますね…。ただ、このアルバムは高いので(3000円もします)、安く手軽に聴きたいという場合は、500円で売っている「涙のパヴァーヌ ルネサンス・リュート名曲集」や、1500円前後で売っているキルヒホーフのものなども、ちゃんと聴ける演奏ですので、そちらのアルバムでも、ルネサンス・リュートの味わいは確りと味わえると思います。デッカの1200円のダウラント・リュート曲集もとても良い出来です。
イェラン・セルシェルの「ルネサンス・リュート曲集」についてご紹介させて頂きますと、イェラン・セルシェルはルネサンス音楽の第一人者であるギタリスト、ヨンソンに師事したギタリストでして、リュートという古楽演奏に行いながら、なおかつ、現代ポピュラー音楽の娯楽性(現代の聴衆)を意識した演奏を行う音楽家です。古楽を当時のまま弾くのではなく、古楽を現代の人々に分かりやすく弾くタイプの演奏者ですね。ビートルズなどの近現代ポピュラー音楽の演奏も手掛けているので、他のリュート音楽演奏者に比べると、彼の演奏は非常に聴きやすいのが特徴です。リュート演奏における最高峰の弾き手と言える人物の一人だと僕は思いますね。
彼は、アルト・ギターという、ヨンソンが開発した、リュートの音を出す為の特殊なギターの弾き手でして、彼の奏でるルネサンス・リュート曲は、ルネサンスという遥か古い時代の郷愁を感じさせる優れて切なく胸に響く、名演奏であると思います。セルシェルの奏でるルネサンス・リュート音楽は、心からお勧めする美しい音楽ですね…。お勧めです。「チェーザレ」を読むとき、流しているのに相応しい音楽だと思いますね。ルネサンスの時代に民衆によって奏でられていた、美しい音楽です…。僕は「チェーザレ」読むときは、いつもこのアルバムを聴いています。
参考作品(amazon)
ルネサンス・リュート曲集
涙のパヴァーヌ~ルネサンス・リュート名曲集
ルネサンス・リュート
ダウランド:リュート集
チェーザレ 破壊の創造者(1) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(2) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(3) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(4) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(5) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(6) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(7) (KCデラックス)
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前回(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1180868.html)、総領冬実さんの、チェーザレ・ボルジアをメインとしたイタリア・ルネサンス歴史物「チェーザレ」についてご紹介させて頂いたので、今回は、当時の音楽についてご紹介致します。当時のヨーロッパの民衆的な音楽としては、小型弦楽器のリュート(現在のギターに近い弦楽器)による音楽が挙げられます。リュートは、どこでも誰でも持ち歩いて弾けるため、教会でのみ弾く・聴くことが可能なオルガンなどの楽器とは違い、一般市民に膾炙しました。ちょうど、チェーザレ・ボルジアが活躍した頃は、イスラムからヨーロッパに伝わったリュートの最初の全盛期でして(ちなみに日本に伝わったリュートの原型は「琵琶」になりました)、総領冬実さんの「チェーザレ」に出てくる実在の登場人物達もおそらくはその響きを耳にしていたと思われます。リュートはルネサンスに興隆した最大の楽器であり、その特徴は、奏でられるのが宗教音楽ではなく、民衆音楽であるということです。
ヨーロッパにおけるリュートの興隆の最大の決め手となったのは、ルネサンス期の芸術において繁栄を極めたイタリアです。イタリアはルネサンスにおいてリュート音楽の大国でした。1507年、奇しくもチェーザレ・ボルジアの没年に、リュートの楽譜本、リュート・タブラチュアがイタリアで出版されたことで、リュートはヨーロッパ中で大きな発展を遂げます。16世紀を通して、イタリアはリュート音楽の最盛国となり、各国の宮廷にもその影響を与えました。現代でいうところの「流しのギター弾き」みたいな感じで、旅の音楽家が「流しのリュート弾き」をやっていると考えて頂けると、分かりやすいかなと。リュートは、教会で奏でられる宗教音楽の為の楽器ではない新しい楽器、民衆音楽を宮廷や街の広場・街路で奏でるための楽器として大いに使われたのです。
これは音楽史を考える上でかなり重要なことで、音楽が教会の音楽(オルガン曲、賛美歌など)から、民衆の音楽(教会と関係の薄い民衆音楽家達が奏でる音楽、ルネサンス・リュート曲など)に移行した流れの一環としてあるのです。チェーザレ・ボルジアなど、ルネサンスの立役者達が、民衆に対する教会の支配的権威を弱めたことで、音楽に対する教会の支配的権威も弱まり、リュートが誰でもどこでも弾ける楽器であることとあいまって、「民衆の音楽」としてリュート音楽が人々に膾炙したとされています。リュートという楽器自体も、キリスト教文化が生み出したものではない、イスラムから入ってきたもの(発祥はササン朝ペルシアとされています)ですから、このことを考えると、歴史のうねりを感じますね…。
僕はリュートがチェンバロと並んで大好きな古楽器でして、よく聴くことが多いですね。良い意味で素朴さを感じさせる、郷愁に満ち溢れたリュートの音色が奏でられるルネサンスの音楽を聴くと、チェーザレ達もこの音楽を聴いていたのだろうか、と感慨深い想いが浮かび上がります…。
最初のリュート・タブラチュア本が印刷出版されたのは、1507年のイタリアにまで遡る。16世紀を通してイタリアのリュート奏者と彼らの作品は、ヨーロッパ全土に強い影響を持っていた。イタリアのリュート音楽は質の面でも量の面でも圧倒的だった。
(イェラン・セルシェル「ルネサンス・リュート曲集」)
リュート曲は数ありますが、僕が好きで良く聴いている、「チェーザレ」の新刊が出たときにBGMとして流しているアルバムは、イェラン・セルシェルの「ルネサンス・リュート曲集」です。ルネサンス・リュート音楽のなかで僕が知る限りにおいて、一番聴きやすいアルバム、穏やかで郷愁を感じさせる、心を打つ音楽アルバムだと思いますね…。ただ、このアルバムは高いので(3000円もします)、安く手軽に聴きたいという場合は、500円で売っている「涙のパヴァーヌ ルネサンス・リュート名曲集」や、1500円前後で売っているキルヒホーフのものなども、ちゃんと聴ける演奏ですので、そちらのアルバムでも、ルネサンス・リュートの味わいは確りと味わえると思います。デッカの1200円のダウラント・リュート曲集もとても良い出来です。
イェラン・セルシェルの「ルネサンス・リュート曲集」についてご紹介させて頂きますと、イェラン・セルシェルはルネサンス音楽の第一人者であるギタリスト、ヨンソンに師事したギタリストでして、リュートという古楽演奏に行いながら、なおかつ、現代ポピュラー音楽の娯楽性(現代の聴衆)を意識した演奏を行う音楽家です。古楽を当時のまま弾くのではなく、古楽を現代の人々に分かりやすく弾くタイプの演奏者ですね。ビートルズなどの近現代ポピュラー音楽の演奏も手掛けているので、他のリュート音楽演奏者に比べると、彼の演奏は非常に聴きやすいのが特徴です。リュート演奏における最高峰の弾き手と言える人物の一人だと僕は思いますね。
彼は、アルト・ギターという、ヨンソンが開発した、リュートの音を出す為の特殊なギターの弾き手でして、彼の奏でるルネサンス・リュート曲は、ルネサンスという遥か古い時代の郷愁を感じさせる優れて切なく胸に響く、名演奏であると思います。セルシェルの奏でるルネサンス・リュート音楽は、心からお勧めする美しい音楽ですね…。お勧めです。「チェーザレ」を読むとき、流しているのに相応しい音楽だと思いますね。ルネサンスの時代に民衆によって奏でられていた、美しい音楽です…。僕は「チェーザレ」読むときは、いつもこのアルバムを聴いています。
参考作品(amazon)
ルネサンス・リュート曲集
涙のパヴァーヌ~ルネサンス・リュート名曲集
ルネサンス・リュート
ダウランド:リュート集
チェーザレ 破壊の創造者(1) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(2) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(3) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(4) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(5) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(6) (KCデラックス)
チェーザレ 破壊の創造者(7) (KCデラックス)
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