2010年03月30日 15:59
ミステリを幾つか読みました。宮部みゆき「楽園」海堂尊「チーム・バチスタの栄光」折原一「疑惑」
チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)
チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)
楽園 上 (文春文庫)
楽園 下 (文春文庫)
昨日から、喉が非常にヒリヒリと痛く、熱はないので、自然に治るだろうと思っていたら、今日になって痛みが更に増していて、困ったとしか言いようがありません…。どうして喉がこんなに痛いのか、原因はさっぱり分かりません。季節の境目で、体調崩しやすい時期ですし、身体が不調だと、気分も落ち込むので、皆様はお身体のご調子にお気をつけください。
昨日本日に掛けて、ミステリを幾つか読了しました。宮部みゆき「楽園」(「模倣犯」の続編です)海堂尊「チーム・バチスタの栄光」折原一「疑惑」の三冊です。僕的に一番面白かったのは「チーム・バチスタの栄光」ですが、圧倒されたのは「楽園」ですね…。「疑惑」は、軽い作風の短編ミステリ集で、特に可もなく不可もなく、といった出来でした。
宮部みゆきさんは、デビュー作の「我らが隣人の犯罪」(僕にとってマイ・ベスト宮部みゆき短編ですね)や初期の長編「魔術はささやく」などのデビューから最初の10年間くらいの作品と、その後の作品の作風が変わった作家さんですね。宮部みゆきさんの最初の頃の作品は、殺人事件は起きても、全体を通してみると後味の良い、爽やかなミステリ小説が多いのですが、その後のミステリ小説は、現実の犯罪事件などを取材して書かれた、もしくは現実の犯罪にインスパイアされて書かれたと思われる要素を持つ、より現実的で、救いのない陰惨な重みのある作品が多いです。今回読んだ「楽園」は、まさにいつもの通り、後者の代表ですね…。
特に、犯人の書き方に上記の特徴はより鮮明に現われていて、宮部みゆきさんの初期の作品の犯人は、犯罪を起こさざるを得ない何らかの人間的な原因(読者にも情緒として分かる動機)があることが多かったですが、中期〜後期の犯人は、単に自分の残虐な欲望を満たすだけに、人々を嬉々として傷つけ殺害する、ひたすらどうしようもない悪党としか言い様のない凶悪犯が多いですね…。そして、こういう犯人が起こす事件ですから、事件内容もより陰惨で救いのないものに…。中期〜後期の宮部みゆき作品は、現実の凶悪犯罪を彷彿とさせる凶悪犯罪・凶悪犯罪者と、それに巻き込まれた人々の癒されることのない深い傷を、優れた筆力で淡々と描くので、読み終えた後は、気が滅入ります。
「チーム・バチスタの栄光」の犯人も、非常に凶悪な、明らかにサイコパスとして描かれている犯人ですが、こちらの小説は、全体的にコミカライズ(強いデフォルメ)がされており、小説の内容に良くも悪くも現実味が無いんですね。特に、絶対に現実には存在しない強烈にアクの強いキャラクターとして造形されている名探偵の白鳥が出てきてからの展開は完全に漫画的(強くデフォルメされた作品世界)になって、現実には絶対にありえない漫画的な面白さを楽しむ小説となるので、作品内においてどういうことが起きても、あくまでファンタジーの物語として気軽に楽しめます。
それに比べると、宮部みゆきさんの「楽園」は、これに限らず宮部さんの中期〜後期(現在)の他の諸ミステリにも言えますが、現実的な展開を構成して緻密に描く筆力が極めて高く、その筆力を持って、現実にもありそうな(もしくはあった)凶悪事件を題材にし、その事件に巻き込まれた人々が如何に深い傷を負い、その傷はどれだけ周囲に影響を及ぼし続けるのかを、ミステリとしての構成のなかで淡々と描くので、読み終えた後はしばらく気が滅入ります…。小説として総合的にみた場合、宮部みゆきさんの小説は圧倒的にクオリティが高いですが、ただ、「犯罪の傷を現実的に描き、深く重い」という特徴が、読み手に「面白かった」という感想を簡単に述べさせることはしませんね…。現実の凶悪犯罪を取材したノンフィクションのルポタージュを読んでいるような感じで、ひたすら気が滅入って重いとしか…。
小説として、大きな重みがあったのは、「楽園」ですが、「チーム・バチスタの栄光」のような、漫画チックで気軽に楽しめる作品の方が、心が疲れているときに読むには適しているように感じましたね…。「楽園」や中期後期宮部みゆき作品は、どうしようもない、天災のような怪物的凶悪犯の手によって、市井の人々が破滅していく様をひたすら丁寧に描いているので、小説としては優れた出来映えですが、読了後は気が滅入るとしか言いようがないです…。
参考作品(amazon)
チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)
チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)
楽園 上 (文春文庫)
楽園 下 (文春文庫)
我らが隣人の犯罪 (文春文庫)
魔術はささやく (新潮文庫)
疑惑
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チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)
楽園 上 (文春文庫)
楽園 下 (文春文庫)
昨日から、喉が非常にヒリヒリと痛く、熱はないので、自然に治るだろうと思っていたら、今日になって痛みが更に増していて、困ったとしか言いようがありません…。どうして喉がこんなに痛いのか、原因はさっぱり分かりません。季節の境目で、体調崩しやすい時期ですし、身体が不調だと、気分も落ち込むので、皆様はお身体のご調子にお気をつけください。
昨日本日に掛けて、ミステリを幾つか読了しました。宮部みゆき「楽園」(「模倣犯」の続編です)海堂尊「チーム・バチスタの栄光」折原一「疑惑」の三冊です。僕的に一番面白かったのは「チーム・バチスタの栄光」ですが、圧倒されたのは「楽園」ですね…。「疑惑」は、軽い作風の短編ミステリ集で、特に可もなく不可もなく、といった出来でした。
宮部みゆきさんは、デビュー作の「我らが隣人の犯罪」(僕にとってマイ・ベスト宮部みゆき短編ですね)や初期の長編「魔術はささやく」などのデビューから最初の10年間くらいの作品と、その後の作品の作風が変わった作家さんですね。宮部みゆきさんの最初の頃の作品は、殺人事件は起きても、全体を通してみると後味の良い、爽やかなミステリ小説が多いのですが、その後のミステリ小説は、現実の犯罪事件などを取材して書かれた、もしくは現実の犯罪にインスパイアされて書かれたと思われる要素を持つ、より現実的で、救いのない陰惨な重みのある作品が多いです。今回読んだ「楽園」は、まさにいつもの通り、後者の代表ですね…。
特に、犯人の書き方に上記の特徴はより鮮明に現われていて、宮部みゆきさんの初期の作品の犯人は、犯罪を起こさざるを得ない何らかの人間的な原因(読者にも情緒として分かる動機)があることが多かったですが、中期〜後期の犯人は、単に自分の残虐な欲望を満たすだけに、人々を嬉々として傷つけ殺害する、ひたすらどうしようもない悪党としか言い様のない凶悪犯が多いですね…。そして、こういう犯人が起こす事件ですから、事件内容もより陰惨で救いのないものに…。中期〜後期の宮部みゆき作品は、現実の凶悪犯罪を彷彿とさせる凶悪犯罪・凶悪犯罪者と、それに巻き込まれた人々の癒されることのない深い傷を、優れた筆力で淡々と描くので、読み終えた後は、気が滅入ります。
「チーム・バチスタの栄光」の犯人も、非常に凶悪な、明らかにサイコパスとして描かれている犯人ですが、こちらの小説は、全体的にコミカライズ(強いデフォルメ)がされており、小説の内容に良くも悪くも現実味が無いんですね。特に、絶対に現実には存在しない強烈にアクの強いキャラクターとして造形されている名探偵の白鳥が出てきてからの展開は完全に漫画的(強くデフォルメされた作品世界)になって、現実には絶対にありえない漫画的な面白さを楽しむ小説となるので、作品内においてどういうことが起きても、あくまでファンタジーの物語として気軽に楽しめます。
それに比べると、宮部みゆきさんの「楽園」は、これに限らず宮部さんの中期〜後期(現在)の他の諸ミステリにも言えますが、現実的な展開を構成して緻密に描く筆力が極めて高く、その筆力を持って、現実にもありそうな(もしくはあった)凶悪事件を題材にし、その事件に巻き込まれた人々が如何に深い傷を負い、その傷はどれだけ周囲に影響を及ぼし続けるのかを、ミステリとしての構成のなかで淡々と描くので、読み終えた後はしばらく気が滅入ります…。小説として総合的にみた場合、宮部みゆきさんの小説は圧倒的にクオリティが高いですが、ただ、「犯罪の傷を現実的に描き、深く重い」という特徴が、読み手に「面白かった」という感想を簡単に述べさせることはしませんね…。現実の凶悪犯罪を取材したノンフィクションのルポタージュを読んでいるような感じで、ひたすら気が滅入って重いとしか…。
小説として、大きな重みがあったのは、「楽園」ですが、「チーム・バチスタの栄光」のような、漫画チックで気軽に楽しめる作品の方が、心が疲れているときに読むには適しているように感じましたね…。「楽園」や中期後期宮部みゆき作品は、どうしようもない、天災のような怪物的凶悪犯の手によって、市井の人々が破滅していく様をひたすら丁寧に描いているので、小説としては優れた出来映えですが、読了後は気が滅入るとしか言いようがないです…。
参考作品(amazon)
チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)
チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)
楽園 上 (文春文庫)
楽園 下 (文春文庫)
我らが隣人の犯罪 (文春文庫)
魔術はささやく (新潮文庫)
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