2010年02月11日 17:05

クトゥルフ神話二次創作「平沢唯の音楽」「空深カナタのラッパ」。自覚的音楽、フランツ・リストからエニグマへ。

けいおん!ストア
ソ・ラ・ノ・ヲ・トストア

原因は不明ですが、アフィリエイト収入が激減していて、既に月の三分の一が過ぎて、3000円しかアフィリエイト収入がないので、誠に申し訳ないのですが、ギフト券を贈って下さったり、アフィリエイトで買い物して下さると、とても助かります。最初がこのような書き出しで申し訳ないです…。以下は別の話を致します。音楽とアニメとホラーについてなどを…。

昨日のエントリ(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1104076.html)にてラヴクラフト著「エーリッヒ・ツァンの音楽」について書いたので、架空の音楽家エーリッヒ・ツァン関係のサイトを見てまわっていたら人気アニメ「けいおん!」のクトゥルフ神話二次創作を見つけました。

「けいおん!」二次創作『平沢 唯の音楽』
http://zoidsfront.main.jp/ss/keionss.html

素敵な二次創作ですね。人畜無害な二次創作は読んでいてもつまらぬこと甚だしいですが、こういった悪夢的な二次創作は読むと極めて楽しいです。けいおんのヒロイン達は、暗黒神話の中に招かれること相応しきヒロインだと思いますし。元々音楽はシャーマニックな要素が強い分野、芸術分野の中において最もトランス的、神懸り的な要素を持っておりますからね…。クラシック音楽では、音楽の霊的天才オルフェウスを描いたフランツ・リストの交響詩「オルフェウス」などは音楽の霊力を描いたテーマの曲で傑作ですね。この曲に限らず、リストの交響詩(またファウスト交響曲やピアノ・ソナタなどの他作品も)は『芸術であることを意識した芸術、音楽であることを意識した音楽』、音楽であることに極めて自覚的な作品であって、古典的なクラシックの形式を自覚的かつロマン的に捻ってあり、聴いていて面白いです、お勧めですね。

リスト:交響詩全集(5枚組)
リスト:交響詩全集(5枚組)
リスト:ファウスト交響曲
リスト:ファウスト交響曲

古典的な、音楽への自覚なき全面的信頼(西洋においては、教会音楽における神への全面的信頼)を、自覚的に捻って演奏するということでは、リストの現代における後継者はエニグマかなと思います。ロック・バンドのエニグマではなく、ファーストシングル「Sadeness」ファーストアルバム「MCMXC A.D. 」にてグレゴリオ聖歌をパロディ化して全世界的なベストセラー音楽を創り上げたマイケル・クレトゥ率いるエニグマの方です。

エニグマが謎のベールに包まれた姿を現したのはちょうど3年前、90年2月のことだった。アルバムに先駆けて登場したシングル「Sadeness」は本国ドイツを皮切りに、イギリスを含む全ヨーロッパのヒット・チャートを総なめにし、明くる91年2月にはアメリカに上陸、4月初頭にはとうとう全米シングル・チャート5位まで上昇、同じ頃には南米やオーストラリア、アジア各国のチャートを荒らしまわっていたものだ。まさに衝撃のワールド・ワイドなヒット・レコードとなったのである。(中略)

90年の秋から暮れにかけての時期といえば、10月に東西ドイツの正式統一が為され、EC統合への本格的機運が一層高まって、ヨーロッパ、とりわけドイツに世界の目が集まっていた時である。そんな中に、グレゴリオ聖歌をモチーフにした、フロイト的とも、マルキ・ド・サド的とも、あるいは、ウィリアム・ブレイク的ともいえる宗教的かつセクシャルなトリップに誘うエニグマの不思議な楽曲が登場するというのは、この上ない好タイミングだったはずだ。エニグマは、その全ヨーロッパ人の心の底にある『教会でのトリップ』といったある種共通項を、実にソフィスティケイトされたグランド・ビートと、プログレッシヴ・ロックの新しい形といっていいようなサウンド、そしてフランス語のソフト・ラップで、鮮やかに現代に引き寄せてみせた。
(エニグマ「The Cross of Changes」ライナーノーツより)

グレゴリオ聖歌のバックに流れるBGMとして、教会音楽により宗教的恍惚状態(トランス状態)にある女性のセクシャルな吐息を使うというエニグマのアイデアは天才だと思いましたね。「Sadeness」初めて聴いたとき『このアルバムは凄い!』と思ったことを覚えています。エニグマは教会音楽というものを聴衆含めてメタ的に俯瞰して、纏めてひっくり返している訳ですね。既存の古典音楽をメタ的に俯瞰することで乗り越えようと試みたフランツ・リストを祖とする新ドイツ楽派(リスト、ブルックナー、ワーグナー、マーラー、ヴォルフ、シュトラウス、先日取り上げたハンス・ロット(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1101485.html)など)の正統なる後継者と言えるでしょう。エニグマがドイツから生まれているのも由緒正しきところですね。

MCMXC A.D.
MCMXC A.D.
The Cross of Changes
The Cross of Changes
Enigma 3: Le Roi Est Mort, Vive Le Roi!
Enigma 3: Le Roi Est Mort, Vive Le Roi!

ソ・ラ・ノ・ヲ・トの空深カナタとかも、暗黒神話の世界に誘われるに相応しきヒロインだと思いますね。僕もクトゥルフの二次創作を書いてみます。

「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」二次創作
『空深カナタのラッパ』

私がカナタと決別したのは、あのラッパのせいなんだ。空深カナタ、私がこれまで出会った中で最も偉大なラッパ吹き――人間の限界を超えて、神秘と狂気の深淵へと身を投じた、最も邪悪なラッパ吹きと袂を分けた理由なのだ。クレハの警告は正しかったよ。カナタがウィンドミルの店先であのラッパを手に取ったとき、それを買ってプレゼントしようなどと思うべきではなかったのだ。厳密に言えば、あのラッパはラッパではなかった。ユミナが言っていた通りあのラッパは遥か古代の呪物であり、何か私には想像もつかない得体の知れぬ力に満ちた妖げな遺物だったのだ。あのラッパにカナタが息を吹き込んだとき、何が起こったのかは決して分からない。分かるのはカナタはラッパを吹く前とは決定的に変わってしまったということだけだ。最初はなんでもなきことに見えた――カナタのラッパの腕前が凄まじいという言葉では形容出来ない程に上達している、それだけだと思ったんだ。だが、それだけではなかった。あのラッパを吹き始めてからカナタは奇妙な影のような存在になっていったのだ。カナタのこちらを見るあの目!ひたすらに丸い見開かれたあの空虚な目玉に見つめられるたびに、私はおぞましさで背中が縮こまる思いだったのだ。カナタが誰も聞いたことがない奇怪にして偉大な旋律を吹き始めたとき、既に彼女は人間の姿ではなかった。だが、今となってはもはやどうでもいいことのはずだ。邪悪さに満ちた姿に変貌したカナタはそのまま何処かへ消えたのだから――彼女がこよなく愛した町の人間全てと共に。ああ、私は恐ろしい。なぜ私だけ取り残されたのか。司令部への電話は通じず、砦には私以外誰もいない。誰もいない筈なのに、なぜ腐った水のような匂いが溢れ、ひたひたと濡れた足で歩く音が聞こえてくるのか。奇妙なラッパの音が滓かに聞こえる暗闇の向こうには何がいるのか。砦の灯を消すことは決してできない。私は今日もラッパの音に怯えている。

和宮リオ曹長の残した手記より――

余談ですがウィキペディアのラヴクラフトの項目、先日のエントリで書いたラヴクラフトの魚介類嫌いについて[要出典]のマークが付いていますが、ラヴクラフトの友人E・ホフマン・プライスが書いたラヴクラフト回想録に彼の魚介類嫌いについて書かれていますね。ラヴクラフトファンには有名な回想録ですのでウィキペディアの「ラヴクラフト」の項目を編集をされているお方々が知らないとは思えないのですが…。引用しますね。

E・ホフマン・プライス
『ラヴクラフトと呼ばれた男』

(ラヴクラフトと一緒に)共同で作品を仕上げるのはとても楽しいことだった。やがてだんだん気が大きくなって、私の原稿を書く速さはラヴクラフトも認めてくれていたから、そのスピードにものを言わせて、どんどん共作でやろうじゃないかなどとも考えたりした。二人の名前を並べて書くより、新しいスター作家を誕生させよう――エティエンヌ・マーマデューク・ド・マリニーだ。控えめにみても月産一万語はいける。そんなわけで私たち(貧乏作家のホフマンとラヴクラフト)は、エティエンヌ・マーマデューク・ド・マリニーがその莫大な収入で買い求めるであろうムーア式大邸宅や特別注文の車、はては二千種類もの味付けができる全自動アイスクリーム製造機(ラヴクラフトはアイスクリーム好き)やそれに劣らぬ数をそろえたワイン貯蔵庫など、ありとあらゆるぜいたく品の数々を夢想した。初期の伝記に書かれたよりもHPLは寛大な人物だったのである。それでも、牡蠣料理や海産物を除外することに私は同意した。(中略)

ラヴクラフトの海産物嫌いはよく知られている。にも関わらずラヴクラフトは、ポータクセットにある貝の蒸し料理で有名な店に連れていってくれた。ロードアイランドでこれほど美味いところは他にちょっとあるまいという程の店である。私に代わって注文をし、観光客向けのいい加減なものでないことを確認した上でラヴクラフトは言った。『君がその糞忌々しいものを食べるあいだ、通りの向こうでサンドイッチでも食べてくるよ。失敬するよ』

ラヴクラフトは正確にこの通りのことを口にした。よほどのことがなければ、(礼儀正しさで知られる)ラヴクラフトがこれほどはっきりと悪態をつくことなどなかった。『糞忌々しい』などという言葉は、蒸した貝を口に入れるなどという恐るべきことをしようとしている男を目撃するという、真の恐怖に遭遇した時の為にとってあったに違いない。後にも先にもラヴクラフトがこんな汚い言葉を使うのを聞いたのはこの時が最初で最後である。

読んでいて笑いましたね。この回想録は少々エキセントリックだけど基本的に人が良いラヴクラフトの面白い逸話が沢山載っていて好きな回想録ですね。最後にもう1つ余談を。ラヴクラフトが見つけたら目を輝かしそうなニュースを見つけたのでご紹介致します。

生存男性を死亡と判断=警察署検視室で目覚ます−さいたま市消防
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100210-00000149-jij-soci
さいたま市は10日、ゲートボール場で倒れていた男性(51)が生きているにもかかわらず、通報で駆け付けた桜消防署大久保出張所の救急隊が死亡していると判断し病院に搬送しなかったと発表した。男性は埼玉県警大宮西署の検視室で目を覚まし、病院に搬送された。命に別条はないという。

エドガー・アラン・ポーの短編「早すぎる埋葬」やスティーヴン・キングの短編「第四解剖室」を彷彿とさせるというか、そのまんまですね…。まさしく『事実は小説より奇なり』ということの表れ、この現実世界の肌寒さを感じさせる恐怖ですね…。

エドガー・アラン・ポー著「早すぎる埋葬」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000094/files/2526_17682.html
この出来事のもっとも戦慄すべき特異性は、ステープルトン氏自身が言っていることのなかにあるのである。彼は、どんなときでもまったく無感覚になったことはない、――医師に死んだと言われた瞬間から病院の床の上に気絶して倒れた瞬間にいたるまで、ぼんやり、雑然とだが、自分の身に起ったことはみな知っていた、と言っている。彼が解剖室という場所に気づいたときに、その窮境にあって一所懸命に言おうとしたあの意味のわからなかった言葉というのは、「私は生きているのだ」という言葉であったのだ。

このような記録をたくさん並べたてるのはたやすいことであろう、――が私はいまそんなことはしまい、――早すぎる埋葬が実際に起るものだという事実を立証するような必要はべつにないからである。そのことの性質から言って、たいへん稀にしか我々の力ではその早すぎる埋葬を見つけることができないことを考えるならば、それが我々に知られることなく頻繁に起るかもしれないということは認めないわけにはゆかない。実際、なんらかの目的で墓地がどれだけか掘り返されるときに、骸骨がこのいちばん恐ろしい疑惑を思いつかせるような姿勢で見出されないことはほとんどないのである。
 
この疑惑は恐ろしい、――がその運命となるともっと恐ろしい! 死ぬ前の埋葬ということほど、このうえもない肉体と精神との苦痛を思い出させるのにまったく適した事件が他にないということは、なんのためらいもなく断言してよかろう。肺臓の堪えがたい圧迫――湿った土の息づまるような臭気――体にぴったりとまつわりつく屍衣――狭い棺のかたい抱擁――絶対の夜の暗黒――圧しかぶさる海のような沈黙――眼には見えないが触知することのできる征服者蛆虫の出現――このようなことと、また頭上には空気や草があるという考え、我々の運命を知りさえしたら救ってくれるために飛んでくるであろうところの親しい友人たちの思い出、しかし彼らにどうしてもこの運命を知らすことができぬ――我々の望みのない運命はほんとうに死んだ人間の運命と少しも異ならない、という意識、――このような考えは、まだ鼓動している心臓に、もっとも大胆な想像力でもひるむにちがいないような驚くべき耐えがたい恐怖を与えるであろう。

『早すぎた埋葬』テーマの傑作、キングのホラー短編「第四解剖室」は、『呪われた部屋』テーマの傑作短編「1408号室」(「幸運の25セント硬貨」に収録)と対になっていますので、読むときは一緒に読むことをお勧めしますね。キングもクトゥルフ神話の愛好家で、自作にクトゥルフ神話オマージュの要素をよく持ち込むことで知られていますが、この「1408号室」はちょっとメタ的な要素のあるホラーで、作中にダイレクトにラヴクラフトの名前が出てくるので(そして呪われし部屋には異様な角度が…)、その点も面白い作品です。

常に変わらぬ人気を誇る「早すぎた埋葬」もの同様に、ショックやサスペンスの物語を旨とする作家はみな、少なくともひとつは「幽霊の出る旅籠」に関する話を執筆するものだ。
(スティーヴン・キング)

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リスト:交響詩全集(5枚組)
リスト:ファウスト交響曲
MCMXC A.D.
The Cross of Changes
Enigma 3: Le Roi Est Mort, Vive Le Roi!
黒猫/モルグ街の殺人 (早すぎた埋葬)
第四解剖室 (新潮文庫)
幸運の25セント硬貨 (新潮文庫)

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