2010年01月30日 17:11

ラフマニノフ「鐘」、ポーの詩を題材にした暗い合唱曲、名曲です…。はなまる幼稚園とワーズワースと猫たん。

ラフマニノフ:合唱交響曲「鐘」
ポー詩集―対訳 (岩波文庫―アメリカ詩人選)

僕は元々頭痛持ちなんですが、今日は左前頭部の頭痛が特に酷くて、最近あまり食べていないこともあって心身の調子がよくなく、暗い気持ちなので、ラフマニノフの合唱曲「鐘」を聴いていました。フィギュアスケートの浅田真央選手が今年のバンクーバーオリンピックで使う曲もラフマニノフ「鐘」(op3)ですが、浅田選手の使う曲はピアノ曲の方の「鐘」なので、僕が今回取り上げる合唱曲「鐘」(op35)とは別曲です。盲目のピアニスト辻井伸行さんが演奏を得意とする作曲家ということで昨今一躍有名になったラフマニノフは、同郷の作曲家ショスタコーヴィチと同じく、陰欝にて絶望的な音色に満ちた暗い曲を作曲したというのが特徴としてありますので、ピアノ曲と合唱曲のどちらの「鐘」も「暗い」ということは共通していますが…。

ラフマニノフの特徴は、先にも挙げたように、暗いということでして、ショスタコーヴィチと同じく聴いていると気が滅入ってくるのが特徴です。この近代ロシアの二巨匠(ラフマニノフ・ショスタコーヴィチ)にはチャイコフスキーのような明るさは欠片もなく、ただひたすらに、陰陰滅滅とした名曲の数々を作曲しました。その中でも、ラフマニノフop35「鐘 独唱、合唱と管弦楽の為の詩曲」は、ラフマニノフの名声を高めた代表作にして彼の最も暗い曲の一つであり、聴いていると、「ああ…もうだめだ…」みたいな気持ちになってくる曲です…。特に第三楽章〜第四楽章の絶望的な音楽は、聴いていると気が滅入って何もかも全てに絶望的になってくるような凄まじいものがあります。ラフマニノフ「鐘」ライナーノーツより引用致します。

第三楽章、プレスト、ヘ短調、四分の三拍子。
この楽章には、ソリストは登場しない。まず慟哭の鐘が鳴り、幻想的なオーケストラは合唱を伴って、人生の不幸や恐怖を叫びつづけるのだ。

第四楽章、レント・ルクブレ、嬰ハ長調、四分の四拍子
合唱にバリトン独唱が参加する。葬式の鐘がなり、イングリッシュ・ホルンが悲しい調べを吹き、声楽が死への苦しみやそれへの怒りを表現する。やがてオーケストラの苦味に満ちた後奏に達し、終結部は、なお幸福を追い求めようとする人間が、心の中に思い描く虹のように美しい。
(ラフマニノフ「鐘」ライナーノーツより)

この曲は、エドガー・アラン・ポーの詩を題材とした曲で、題名の「鐘」とは「弔鐘」のことです。第一楽章と第二楽章が、愛する人と巡り合い、結婚するまでの喜びを、第三楽章と第四楽章が、愛する人が亡くなり、人生と世界に絶望して悲嘆に暮れる哀しみを描く、悲劇的合唱曲です。第一楽章と第二楽章はあまりたいしたことはないのですが、第三楽章と第四楽章の暗い悲劇の音楽的密度が凄まじく、ラフマニノフ作品の中でも最も高く評価されている曲の一つです。

僕も、気分が滅入っているので、今第四楽章を聴きながらこの文章を書いていますが、まさに、気持ちと音楽がシンクロ(同調)するという感じでして、気持ちが滅入って、全てが暗い底に落ちてゆくような気分です…。この曲は全く救いのない悲劇的楽曲でして、先に引用したライナーノーツに書かれている「終結部の救済」というのは、曲に使われているポーの詩を読んで解釈すると、愛する人を失い悲嘆に暮れる主人公の死のことなんですね…。本合唱曲より、第四楽章に使われる詩文を引用致します。

ラフマニノフ「鐘」第四楽章

聞け、鐘の響きを
悲しげな鐘を
実らぬ夢の苦い終わりを、侘しい哀歌を
荒涼たる世界が、鉄の鐘の響きに宿る
我らは墓場を思い
宿命に身を震わせる
試練は永久に、静寂と闇の中に沈む
憑かれたように
繰り返される
彼らの抑えた響き
うめき声に似た
重いうめき声に似た
抑揚をつけるのは
深い哀しみ
伝えられるのは、兄弟がついた永遠の眠り
それは苛酷に響き渡る
喜びは失われたと
罪人にも正義の士にも
その目は眠りに閉ざされ、頭は塵に化したと
彼らは石の下に眠ると
だが鐘楼に住む魔性のもの
それは不吉に告げる、
告げる、告げる、
鐘楼のまわりを狂ったように踊りながら
大鐘は響き渡る
鐘は激しく響く
鐘は脅すように鳴る
宿命の言葉を告げながら
鉄の鐘は冷たく響く
虚空を抜けて、宿命を告げる
墓の静けさのほかに、安息はないと。

これで、曲は終わります。聴くと心底暗い気持ちになる曲の一つと言えます。曲自体は非常に優れた名曲でして、悲劇的楽曲の最高曲の一つとされています。暗い気持ちのときは、暗い曲を聴くと、ますます暗くなって、気分が無限降下してゆきますね…。クラシック合唱曲として聴き易い曲でもありまして、お勧めの名曲です。

先にも挙げましたように、ラフマニノフの曲の特徴は暗いということなので、浅田真央選手がオリンピックで使うピアノ曲の「鐘」も暗い曲ですし、盲目のピアニスト辻井伸行さんが演奏するラフマニノフも暗いピアノ曲ですし、ラフマニノフが浅田選手や辻井さんの活躍で有名になって、ラフマニノフの暗い曲で日本中が満たされればいいなあと思いますね…。ラフマニノフの曲が暗いのは、近代ロシアの度々の政変の影響、近代ロシアの暗い世相の反映があると考えられており、現代日本の世相はとても明るいとは言えませんから、日本中に響く曲に、ラフマニノフの暗い名曲の数々は相応しいと思います…。

天上の幸せは夢幻
暗闇の中で苦しみ
全てが終わってゆく
何が残るのか
運不運いずれにせよ
苦悩の印が刻まれる
あの昔からの戸惑い
空っぽの宝
朝の喜び
夕べの苦しみ
(W・B・イェイツ)

幼子達の幸せな生活を描いた「はなまる幼稚園」を読んだり、視聴したりしていると、上記のイェイツの詩を思い出しますね…。なぜ人の生活は年を経るに連れて、苦しく辛いものになるのか、考え込まされます…。

はなまる幼稚園、以前第一巻買ったこと書きましたがamazonギフト券を定期的に送って頂いたおかげで二巻以降も買えました(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1065989.html)。ありがとうございます。心から深く感謝致します。「はなまる幼稚園」第一巻〜第七巻は、ワーズワースの詩のような人生賛歌・生命賛歌で、とても良い作品ですね…。『われらの幼けなきとき、天国はわれらのめぐりにありき』(ワーズワース)ですね…。

残念ながら人間は年月と共にワーズワースの謳う晴れやかさを永遠に失ってしまいますね…。猫がとても可愛いのは、人間の大人が失った晴れやかさを動物たちは持っているというのもあると思います。暗い気持ちのときは、ラフマニノフやショスタコーヴィチが生み出した、悲劇を描いた暗い美の芸術が、心を慰めてくれますね…。

今のわれわれはもはや生活から美を引き出せないので、生活から美を引き出せないということそのものから、せめて美を引き出すとしよう。
(フェルナンド・ペソア「不安の書」)

参考作品(amazon)
ラフマニノフ:合唱交響曲「鐘」
ポー詩集―対訳 (岩波文庫―アメリカ詩人選)
浅田舞・浅田真央 スケーティング・ミュージック2009-10(DVD付)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(DVD付)
不安の書
ワーズワース詩集 (岩波文庫 赤 218-1)
イエーツ詩集 (海外詩文庫)
はなまる幼稚園1 [Blu-ray]
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