2010年01月26日 05:30
「ミニマル・サウンド・インテリア」、岩代太郎さんGoodです。テン・ホルト、陶酔のピアノミニマルミュージック。
シメオン・テン・ホルト(1923~):ピアノ作品集(11枚組)
僕はクラシック音楽、インストゥメンタル(人の声の入っていない器楽曲)が好きでして、現代音楽では、ミニマル・ミュージックが昔から好きです。昨日図書館に行った時、日本人音楽家のミニマル・ミュージックを集めた3枚組のアルバム「ミニマル・サウンド・インテリア」が入っていたので早速借りてきました。
僕は不眠症なので(最近、睡眠薬があまり効きません…)、寝ようと思いながら聴いていたら、先ほど3枚全部聴き終わっていました。感想は『普通』ですね…。物凄く、『普通である』としか言い様のない出来の曲の数々です。ミニマル・ミュージックというよりは、普通に聴き易いイージー・リスニングの環境音楽集です。僕はアルヴォ・ペルト、テン・ホルト、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス、テリー・ライリー、ジョン・アダムズなどが作曲する極限まで切り詰めた音が永遠に反復するエッジの効いた陶酔的ミニマル音楽が好きなので、ちょっと肩透かしな感覚を覚えたことは否めません。本アルバムの曲は良くも悪くもきちんとした起伏のある音楽なので陶酔するのは無理っぽいです。
本アルバム、テレビドラマ音楽を作曲をしている音楽家の曲が多いですが、ちょうど「エリック・サティの曲を日本のテレビドラマ音楽向けに編曲した」ような音楽です。サティの曲は夜寝る前に必ず聴くくらいに大好きなんですが、このアルバムに収録されている音楽の大半はサティに比べるとメロディアスな要素、情緒的な要素に重きを置きすぎていて世俗的すぎるように感じますね…。収録されている音楽の中でショーロ・クラブの曲だけはミニマル・ミュージックと言える出来(最小の旋律の無限反復でありエスニック要素を持っている)ですが、収録時間が1分36秒と極端に短く、陶酔する前に曲が終わってしまいます。ミニマムな旋律が長時間反復するところがミニマルの肝なのに…。
ただ、どの曲もかなりなレベル以上の音楽で、BGMとして気軽に聞くにはぴったりなイージーリスニングアルバムであると思います。エッジなミニマル音楽が好きなのは、あくまで僕の趣味なので…。イージーリスニング・環境音楽の金字塔、ブライアン・イーノの良い意味で「ぽやや〜ん♪」とした環境音楽「ミュージック・フォー・ザ・エアポート」辺りが好きなお方々にはとても良いアルバムではないかと思います。本アルバムは様々な日本人音楽家がアンビエントな曲を寄せていますが、なかでも岩代太郎さんは特に素晴らしいですね。彼の曲はブライアン・イーノ、マイケル・ナイマンなどが代表する海外の環境音楽に肩を並べているように感じます。「弦楽オーケストラの為の悲歌第二番、第三番」が本アルバムに収録されていますが、これなどマイケル・ナイマンの代表作「ピアノ・レッスン」にひけをとらない、実に素晴らしい叙情性を持った良い曲だと思います。岩代さんはナイマンと同じように様々な映画音楽やフジテレビの朝のニュース番組「めざにゅ〜」の音楽を作っているので、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。弦楽オーケストラの為の悲歌はユーチューブやニコニコ動画にはないようですが、amazonの「12vox」のページにて、ちょこっとだけ視聴できます。5〜7曲目の「the elegy for strings orchestra No.1〜3」です。
12 vox - the way to be ourselves トウェルブ・ヴォックス
この「ミニマル・サウンド・インテリア」、3枚とも絶盤みたいでして、ミニマル・ミュージック好きとしては残念ですね…。絶盤の為、amazonで中古盤が定価より高く売られてますが、出来としては定価相当という感じなので、定価より高く買うのはお勧めできません。ミニマル・ミュージックは日本にはあまり聴き手がいないジャンルのようで、海外のアルバムがなかなか日本には入ってきませんし、本アルバムのような日本オリジナルのアルバムも絶版なのかと思うと、悲しいです。ミニマル・ミュージックは最初期よりシンセサイザーを活用し電子音楽の分野を探求したジャンルでして、初音ミク人気でブレイクしたDTM(デスクトップミュージック)の先駆けとも言えるのですが、ボーカロイドの聖地であるニコニコ動画でミニマル・ミュージックタグを見ると寂れていて数百人〜数人くらいしか視聴者がいないので悲しくなります…。しかも先日現代音楽動画の大量削除があって、スティーヴ・ライヒ「Piano Phase」などのミニマルの名曲の数々が消えてしまい、現在はほぼ空っぽな状態です…。初音ミクにテリー・ライリーの名曲「in C」を歌わせるとか、物凄く面白い取り組みをしている製作者さんもいるのですが、こちらも見に来ているのが数百人…。
上記、『もっと評価されるべき』と心から言える出来、実に見事です。ニコニコ動画は、グラス、ライヒ、ライリーのミニマル御三家やペルト、アダムズは昔は結構な数の音楽動画が上がっていましたが(現在は現代音楽動画大量削除により大幅に消えて空っぽになってしまいました)、僕の大好きなテン・ホルトが元々昔から全く見当たらないのが悲しいです(「タグ テン・ホルト が登録されている動画はありません。」)。テン・ホルト好きとして涙でそうです…。テン・ホルト、もっと評価されていいと思うんですが…。ニコニコ動画はラ・モンテ・ヤングやモートン・フェルドマンのようなアルバム入手が困難なマイナーミニマル音楽を手軽に聴けたのがとても良かったですし(ラ・モンテ・ヤングやフェルドマンをずっと聴いていると気が遠くなりそうです)、テン・ホルトも聴けたら良いなあと心から思いますね…。
テン・ホルトは非常にお勧めのミニマル音楽家です。彼はラ・モンテ・ヤングやフェルドマンと同じく、非常に長大な曲を作る為、以前はアルバムを入手するのが物凄く困難でしたが、最近は大枚数のBOXセットが廉価でリリースされ、楽に入手できるようになりました。彼の代表作はセリーではなくミニマルなので聴き易いです。ライヒ・グラス・ライリーのミニマル御三家より聴き易いのではないかと思います。フェルドマンと同じく、目を瞑ってひたすら聴いていると、気が遠くなります。
テン・ホルトの最大の特徴は、彼の作品は徹底的にピアノ・ソロにこだわったミニマル・ミュージックであるところです。僕はミニマル好きで楽器ではピアノ好きなので、テン・ホルトとは趣味がどんぴしゃりです。ピアノでひたすら短く美しく馴染みやすい旋律をひたすら反復します。聴いていると、静かで美しい単調な無限旋律の中に音の中に身体が吸い込まれてゆくようで、ダウナー・トリップします。永遠のリフレインの中で音楽と心身が一体化し時の流れが止まるような、言葉で表現できない感覚ですね…。静かな気持ちで陶酔したいお方々にお勧めです。
シメオン・テン・ホルト(1923~):ピアノ作品集(11枚組)
ミニマル・ミュージックの入門編としては、1000円で売っているアルバム「ミニマル・セレクション」が入門編として最適です。ライヒ、グラス、アダムズの代表的なミニマル音楽を集めたコストパフォーマンス抜群の優れたアルバムです。聴き易いミニマルの名曲が集められていて、寝る前のお供に最適なアルバムだと思います。このアルバムを試金石に聴いてみて、もし気に入って頂けたら、『ミニマルの世界へようこそいらっしゃいました!』という形でミニマル好きとしてとても嬉しいなあと…。ミニマルがどんな音楽であるか、「ミニマル・セレクション」から引用致しますね。
ライヒ、グラス、アダムズ:ミニマル・セレクション
ミニマル音楽をずっと聴いていると気が遠くなります…。ミニマル・ミュージックならではの音楽の全てを感じ取る陶酔体験は何ものにも代えがたいものとしてあるように思いますね。交響曲に流れる全ての音(音階)を聴き分けて構造を全て理解しながら聴くのは困難ですが、限界まで音と旋律を最小に切り詰めたミニマル・ミュージックはそれが意識せずとも可能でして、無限反復する小さな旋律をずっと聴いていると、音の流れが身体の中と外でなっているような感覚、音楽と身体が同化するような感覚になってきます。そこには何ともいえない音楽の根源的な良さがあると思いますね…。こういう感じの音楽です…。
Steve Reich: Different Trains; Piano Phase
ピアノ・ソロのミニマル・ミュージックを聴くと古代ギリシャの劇作家、アイスキュロスの言葉を思い出しますね…。『海のさざなみは無数の微笑みである』(アイスキュロス)。ピアノ・ソロのミニマル・ミュージックでは、「Minimal Piano Collection」というアルバムが非常にお買い得でお勧めです。古今東西のピアノ・ソロ・ミニマル・ミュージックを集めたBOXセットで、永遠に聴いていたい気分にさせられます。とてもお勧めのBOXセットですね。
Minimal Piano Collection [Box Set]
他のBOXセットをご紹介致しますと、優れたミニマルの作曲家であるスティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスの代表作を集めたBOXセット、ジョン・アダムズは有名な「ハレルヤ・ジャンクション」を含むベスト版2枚組、それぞれ廉価で出ておりお買い得です。アルヴォ・ペルト、テリー・ライリーはこういった廉価盤がないのでコツコツ集めるしかないように思います。ペルトは「アリーナ」(代表作「鏡の中の鏡」収録)、ライリーは「in C」が代表的なアルバムで初めて聴くときに良いアルバムかなと思います。フェルドマン、ラ・モンテ・ヤングのアルバムの入手は残念ながら日本では困難かと思います。ヤングに至っては海外で定価一万円くらいのアルバムが日本では何十万円もの無茶苦茶な値段をつけて売られています…。
Steve Reich Works 1965-1995
Steve Reich: Phases [Box Set]
Glass Box [Box Set]
John Adams: Hallelujah Junction - A Nonesuch Retrospective(2枚組)
ペルト: アリーナ
Terry Riley: In C
ショーペンハウアーは「音楽は人生の鎮痛剤である」、ニーチェは「音楽は人生の興奮剤である」と述べましたが、僕にとってのミニマル・ミュージックは前者ですね…。昨年の冬から不眠症状が酷いのですが、夜更けに暗い部屋のなかで静かにミニマル・ミュージックを聴いていると、この音楽は眠れない苦痛や様々な苦痛を静める力を持っていると感じます…。
参考作品(amazon)
ライヒ、グラス、アダムズ:ミニマル・セレクション
シメオン・テン・ホルト(1923~):ピアノ作品集(11枚組)
Minimal Piano Collection [Box Set]
ミニマル・サウンド・インテリア~In The Soft Light~
ミニマル・サウンド・インテリア~Sweet Afternoon~
ミニマル・サウンド・インテリア~Emotional Silence~
12 vox - the way to be ourselves トウェルブ・ヴォックス
クラシックストア
ミュージックストア
amazonトップページ
僕はクラシック音楽、インストゥメンタル(人の声の入っていない器楽曲)が好きでして、現代音楽では、ミニマル・ミュージックが昔から好きです。昨日図書館に行った時、日本人音楽家のミニマル・ミュージックを集めた3枚組のアルバム「ミニマル・サウンド・インテリア」が入っていたので早速借りてきました。
僕は不眠症なので(最近、睡眠薬があまり効きません…)、寝ようと思いながら聴いていたら、先ほど3枚全部聴き終わっていました。感想は『普通』ですね…。物凄く、『普通である』としか言い様のない出来の曲の数々です。ミニマル・ミュージックというよりは、普通に聴き易いイージー・リスニングの環境音楽集です。僕はアルヴォ・ペルト、テン・ホルト、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス、テリー・ライリー、ジョン・アダムズなどが作曲する極限まで切り詰めた音が永遠に反復するエッジの効いた陶酔的ミニマル音楽が好きなので、ちょっと肩透かしな感覚を覚えたことは否めません。本アルバムの曲は良くも悪くもきちんとした起伏のある音楽なので陶酔するのは無理っぽいです。
本アルバム、テレビドラマ音楽を作曲をしている音楽家の曲が多いですが、ちょうど「エリック・サティの曲を日本のテレビドラマ音楽向けに編曲した」ような音楽です。サティの曲は夜寝る前に必ず聴くくらいに大好きなんですが、このアルバムに収録されている音楽の大半はサティに比べるとメロディアスな要素、情緒的な要素に重きを置きすぎていて世俗的すぎるように感じますね…。収録されている音楽の中でショーロ・クラブの曲だけはミニマル・ミュージックと言える出来(最小の旋律の無限反復でありエスニック要素を持っている)ですが、収録時間が1分36秒と極端に短く、陶酔する前に曲が終わってしまいます。ミニマムな旋律が長時間反復するところがミニマルの肝なのに…。
ただ、どの曲もかなりなレベル以上の音楽で、BGMとして気軽に聞くにはぴったりなイージーリスニングアルバムであると思います。エッジなミニマル音楽が好きなのは、あくまで僕の趣味なので…。イージーリスニング・環境音楽の金字塔、ブライアン・イーノの良い意味で「ぽやや〜ん♪」とした環境音楽「ミュージック・フォー・ザ・エアポート」辺りが好きなお方々にはとても良いアルバムではないかと思います。本アルバムは様々な日本人音楽家がアンビエントな曲を寄せていますが、なかでも岩代太郎さんは特に素晴らしいですね。彼の曲はブライアン・イーノ、マイケル・ナイマンなどが代表する海外の環境音楽に肩を並べているように感じます。「弦楽オーケストラの為の悲歌第二番、第三番」が本アルバムに収録されていますが、これなどマイケル・ナイマンの代表作「ピアノ・レッスン」にひけをとらない、実に素晴らしい叙情性を持った良い曲だと思います。岩代さんはナイマンと同じように様々な映画音楽やフジテレビの朝のニュース番組「めざにゅ〜」の音楽を作っているので、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。弦楽オーケストラの為の悲歌はユーチューブやニコニコ動画にはないようですが、amazonの「12vox」のページにて、ちょこっとだけ視聴できます。5〜7曲目の「the elegy for strings orchestra No.1〜3」です。
12 vox - the way to be ourselves トウェルブ・ヴォックス
岩代太郎公式サイト
http://www.its-club.com/
この「ミニマル・サウンド・インテリア」、3枚とも絶盤みたいでして、ミニマル・ミュージック好きとしては残念ですね…。絶盤の為、amazonで中古盤が定価より高く売られてますが、出来としては定価相当という感じなので、定価より高く買うのはお勧めできません。ミニマル・ミュージックは日本にはあまり聴き手がいないジャンルのようで、海外のアルバムがなかなか日本には入ってきませんし、本アルバムのような日本オリジナルのアルバムも絶版なのかと思うと、悲しいです。ミニマル・ミュージックは最初期よりシンセサイザーを活用し電子音楽の分野を探求したジャンルでして、初音ミク人気でブレイクしたDTM(デスクトップミュージック)の先駆けとも言えるのですが、ボーカロイドの聖地であるニコニコ動画でミニマル・ミュージックタグを見ると寂れていて数百人〜数人くらいしか視聴者がいないので悲しくなります…。しかも先日現代音楽動画の大量削除があって、スティーヴ・ライヒ「Piano Phase」などのミニマルの名曲の数々が消えてしまい、現在はほぼ空っぽな状態です…。初音ミクにテリー・ライリーの名曲「in C」を歌わせるとか、物凄く面白い取り組みをしている製作者さんもいるのですが、こちらも見に来ているのが数百人…。
初音ミクにテリー・ライリーのin Cを歌わせてみた
http://www.nicovideo.jp/watch/sm7069922
上記、『もっと評価されるべき』と心から言える出来、実に見事です。ニコニコ動画は、グラス、ライヒ、ライリーのミニマル御三家やペルト、アダムズは昔は結構な数の音楽動画が上がっていましたが(現在は現代音楽動画大量削除により大幅に消えて空っぽになってしまいました)、僕の大好きなテン・ホルトが元々昔から全く見当たらないのが悲しいです(「タグ テン・ホルト が登録されている動画はありません。」)。テン・ホルト好きとして涙でそうです…。テン・ホルト、もっと評価されていいと思うんですが…。ニコニコ動画はラ・モンテ・ヤングやモートン・フェルドマンのようなアルバム入手が困難なマイナーミニマル音楽を手軽に聴けたのがとても良かったですし(ラ・モンテ・ヤングやフェルドマンをずっと聴いていると気が遠くなりそうです)、テン・ホルトも聴けたら良いなあと心から思いますね…。
Simeon Ten Holt
http://www.netlaputa.ne.jp/~pass-age/MINIMAL/holt.html
オランダの作曲家、シメオン・テン・ホルトは1923年生まれというから、ライヒなどのアメリカ・ミニマル第一世代よりもさらに一回りほど前の世代で、60年代にはセリー技法を用いていたという(つまり調性的で聴きやすい現在の作風とは大きく異なり、前衛音楽の作家だったということである)。以下に紹介するディスクは近作を収録するもので、数時間にも及ぶピアノ中心のミニマル的作品を聴くことができる。
ビート(繰り返し)の陶酔という真っ当な音楽の気持良さを得られるミニマル・ミュージック、実はピアノ・ソロのための作品はそう多くはない。ミニマルの多くはアンサンブルの形態を取っているし、最近ではコンピュータや大編成のオーケストラなどが主流になっている。ピアノは本来旋律楽器と打楽器の特質を併せ持っており、ペダルを踏めばアンビエンス豊かに旋律を歌い、踏まなければタイトなリズムも刻めるこの便利な楽器がなぜかソロで使われることが多くないのは残念なことである。そんな中、テン・ホルトは作品リストの半数程をこの楽器で埋めており、多くは演奏時間が20分を越えるものだ。録音が少なくディスクの入手も難しいために音を聴けるものは少ないが、ミニマルの流れに位置するピアノ音楽の豊富なカタログを持つこの作曲家の存在の独自性に興味を引かれる。
テン・ホルトは非常にお勧めのミニマル音楽家です。彼はラ・モンテ・ヤングやフェルドマンと同じく、非常に長大な曲を作る為、以前はアルバムを入手するのが物凄く困難でしたが、最近は大枚数のBOXセットが廉価でリリースされ、楽に入手できるようになりました。彼の代表作はセリーではなくミニマルなので聴き易いです。ライヒ・グラス・ライリーのミニマル御三家より聴き易いのではないかと思います。フェルドマンと同じく、目を瞑ってひたすら聴いていると、気が遠くなります。
テン・ホルトの最大の特徴は、彼の作品は徹底的にピアノ・ソロにこだわったミニマル・ミュージックであるところです。僕はミニマル好きで楽器ではピアノ好きなので、テン・ホルトとは趣味がどんぴしゃりです。ピアノでひたすら短く美しく馴染みやすい旋律をひたすら反復します。聴いていると、静かで美しい単調な無限旋律の中に音の中に身体が吸い込まれてゆくようで、ダウナー・トリップします。永遠のリフレインの中で音楽と心身が一体化し時の流れが止まるような、言葉で表現できない感覚ですね…。静かな気持ちで陶酔したいお方々にお勧めです。
シメオン・テン・ホルト(1923~):ピアノ作品集(11枚組)
ミニマル・ミュージックの入門編としては、1000円で売っているアルバム「ミニマル・セレクション」が入門編として最適です。ライヒ、グラス、アダムズの代表的なミニマル音楽を集めたコストパフォーマンス抜群の優れたアルバムです。聴き易いミニマルの名曲が集められていて、寝る前のお供に最適なアルバムだと思います。このアルバムを試金石に聴いてみて、もし気に入って頂けたら、『ミニマルの世界へようこそいらっしゃいました!』という形でミニマル好きとしてとても嬉しいなあと…。ミニマルがどんな音楽であるか、「ミニマル・セレクション」から引用致しますね。
ライヒ、グラス、アダムズ:ミニマル・セレクション
(ミニマル・ミュージックは)大きく分けてしまうと、二通りのミニマル・ミュージックがあります。一つは決まったリズムとか短めのメロディを、延々とリピートする音楽ですね。もう一つは、ある決まった音を、延々と引き伸ばし、ビローンって、いつまでも鳴らしている音楽です。どちらかというと、前者の方が人気があるようですけれど。(中略)
これはあくまで、西洋クラシック音楽の中での話ですが、まあ、モーツァルト、ベートーヴェン、マーラーと、時代を下るに連れ、音楽はややこしくなりました。戦後の前衛音楽の時代になると、ブーレーズみたいな、ややこしすぎて、何だかわからぬ音楽さえ出てきます。その手の音楽への反動として、シンプルなミニマル・ミュージックが誕生したんです。(中略)
バッハからブーレーズまで、ヨーロッパの音楽は音の流れに起伏を作り、喜怒哀楽でも、静と動の対比でもいいけれど、何かドラマチックな動きを作りだそうとしてきた……。音が複雑になっていったのも、より複雑なドラマを音で表現したかったからと、説明できちゃうわけです。なるほど、確かに人間は、劇的な事柄が好きな生き物で、だからこそ、ワイドショーとか見て喜ぶのですが、といって、のべつまくなしに、劇的、劇的……では、イヤになっちゃう。雲のゆったりとした流れを眺め、ボンヤリしたいこともあるんですね。そんな気持ちを音楽にすれば、劇的な変化のない、単純なくりかえしだけの音楽が出てきます。(中略)
複雑化したのは、無論、音楽だけではありませんよね。その他のあらゆる芸術・文化の諸分野から、政治、経済、社会システム、科学技術……。もう一切合財が近現代の歴史を通して複雑化してきました。その背景には、音楽でも文学でも機械製品でも、複雑に、理屈たっぷりに作られれば作られるほど、より進歩的なんだとの、近現代文明全体を支える信念、即ち、モダニズムの思考があるのです。
それへの反動は、ほとんど周期的に出て来るものですが、(ミニマル・ミュージックが誕生し隆盛した)1960年代後半からは、特にその反動が強かった。
「そうでしたよねえ。学生の反乱、反科学文明運動、反管理社会闘争、遠くへ行きたい……」
そういう時代感情の受け皿として、ミニマルは発展したとも言えるのです。たとえば、近代文明批判は、近代文明が原始的とかローカルとかレッテルを貼り、あまり評価してこなかったアフリカやアジアのエスニックな文化を、いや、これらは欧米の近代文化と対等だと言って、持ち上げます。そんな関心は、ミニマルにあるエスニックな部分とマッチする……。
「ミニマルというのはエスニックなんですか?」
ええ、リズムやメロディのくりかえしのテクニックや、使う楽器なんかは、だいぶ、アフリカやインドの民俗音楽から学んでおりますからね。それから、もうひとつ、近代文明批判は、合理主義とか科学的思考に否定的になるから、神秘的、宗教的なものと結びつく傾向があります。ドラッグとかヨーガとか、70年前後にはとりわけ流行ったでしょう。そこにもミニマルはマッチする……。
「ミニマルはドラッグやヨーガなんですか?」
だって、くりかえしばっかりですから、当然、音による麻酔効果、擬似麻薬効果があります。よって、瞑想やらトリップやら、ミニマルはよく似合うんです。(中略)
(ミニマルには)近現代の文明生活のダイレクトな反映との面があります。
「えっ、(近現代文明の)批判であり、ただの反映でもあるんですか?」
そう。敵味方、1人2役なんです。ほら、現代人の生活は、大量生産、大量コピーで、同じものが世界に溢れているし、人間の生活も何時出勤、何時退社とか、くりかえしばかり。その意味では、ミニマルのくりかえし音楽は現代社会の音楽による反映とも言えるわけです。
(「ミニマル・セレクション」ライナーノーツより)
ミニマル音楽をずっと聴いていると気が遠くなります…。ミニマル・ミュージックならではの音楽の全てを感じ取る陶酔体験は何ものにも代えがたいものとしてあるように思いますね。交響曲に流れる全ての音(音階)を聴き分けて構造を全て理解しながら聴くのは困難ですが、限界まで音と旋律を最小に切り詰めたミニマル・ミュージックはそれが意識せずとも可能でして、無限反復する小さな旋律をずっと聴いていると、音の流れが身体の中と外でなっているような感覚、音楽と身体が同化するような感覚になってきます。そこには何ともいえない音楽の根源的な良さがあると思いますね…。こういう感じの音楽です…。
Steve Reich: Different Trains; Piano Phase
Steve Reich 'Piano Phase' (1/2)
http://www.youtube.com/watch?v=JW4_8KjmzZk
「《ピアノ・フェイズ》のプロセスと構成」
http://sound.jp/nishikawa/r2000/0427shh.html
Piano Phaseでは、2人のピアニストが反復音型をユニゾンで演奏し始め、何回かの反復の後に第2奏者の奏者が僅かにテンポを上げることによって次第にずれが生じる。 16分音符1個分だけ先行したところで初めのテンポに戻るのだが、この時第1奏者との間に合成された別の音型が生じる。以後これを繰り返し、周回遅れにした所で次の音型に移る。
ピアノ・ソロのミニマル・ミュージックを聴くと古代ギリシャの劇作家、アイスキュロスの言葉を思い出しますね…。『海のさざなみは無数の微笑みである』(アイスキュロス)。ピアノ・ソロのミニマル・ミュージックでは、「Minimal Piano Collection」というアルバムが非常にお買い得でお勧めです。古今東西のピアノ・ソロ・ミニマル・ミュージックを集めたBOXセットで、永遠に聴いていたい気分にさせられます。とてもお勧めのBOXセットですね。
Minimal Piano Collection [Box Set]
他のBOXセットをご紹介致しますと、優れたミニマルの作曲家であるスティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスの代表作を集めたBOXセット、ジョン・アダムズは有名な「ハレルヤ・ジャンクション」を含むベスト版2枚組、それぞれ廉価で出ておりお買い得です。アルヴォ・ペルト、テリー・ライリーはこういった廉価盤がないのでコツコツ集めるしかないように思います。ペルトは「アリーナ」(代表作「鏡の中の鏡」収録)、ライリーは「in C」が代表的なアルバムで初めて聴くときに良いアルバムかなと思います。フェルドマン、ラ・モンテ・ヤングのアルバムの入手は残念ながら日本では困難かと思います。ヤングに至っては海外で定価一万円くらいのアルバムが日本では何十万円もの無茶苦茶な値段をつけて売られています…。
Steve Reich Works 1965-1995
Steve Reich: Phases [Box Set]
Glass Box [Box Set]
John Adams: Hallelujah Junction - A Nonesuch Retrospective(2枚組)
ペルト: アリーナ
Terry Riley: In C
ショーペンハウアーは「音楽は人生の鎮痛剤である」、ニーチェは「音楽は人生の興奮剤である」と述べましたが、僕にとってのミニマル・ミュージックは前者ですね…。昨年の冬から不眠症状が酷いのですが、夜更けに暗い部屋のなかで静かにミニマル・ミュージックを聴いていると、この音楽は眠れない苦痛や様々な苦痛を静める力を持っていると感じます…。
参考作品(amazon)
ライヒ、グラス、アダムズ:ミニマル・セレクション
シメオン・テン・ホルト(1923~):ピアノ作品集(11枚組)
Minimal Piano Collection [Box Set]
ミニマル・サウンド・インテリア~In The Soft Light~
ミニマル・サウンド・インテリア~Sweet Afternoon~
ミニマル・サウンド・インテリア~Emotional Silence~
12 vox - the way to be ourselves トウェルブ・ヴォックス
クラシックストア
ミュージックストア
amazonトップページ