2009年10月06日 21:34

hotmailで大規模なパス流出が起きたとのことです。僕のメールアドレスは今のところ問題ありません。

イタリア現代思想への招待 (講談社選書メチエ)

マイクロソフトのhtomailで大規模なパスワード流出が起きたとのことです。僕のメールアドレスは今のところ、この問題に巻き込まれておらず、メールの送信受信などメール全般に特に問題がないことを確認しました。hotmailを使っている人は一応確かめた方がいいかも知れません。

僕の方は、こちらのメール(ne.ko.tan@hotmail.co.jp)でamazonギフト券を贈って頂き、本当に助けられています。ありがとうございます。これは私信ですが、復職なされたとのこと良かったです。お仕事が上手くいくこと、心から願っております。

僕の近況ですが、岡田温司「イタリア現代思想への招待」を読了しました。病院の先生に思想とかあまり小難しい本は読まない方がいいと言われているのですが、何となく図書館で借りて何となく読んでしまいました。特に難しい本ではない、分かりやすい平易な文章で書かれたイタリア思想紹介本だったので、気軽に読めてよかったです(普通の本に比べると専門用語が多くてそこは難しいです)。普通に面白かったですね。

この本で紹介されているイタリア現代思想は、バチカンのあるイタリアだからキリスト教の影響が大きいのかなと僕は思っていましたら、思っていたのとは逆に、ギリシア哲学や美学の影響の大きい、キリスト教と距離を取ったイタリア現代思想が紹介されていて、意外かつ面白かったですね。イタリア現代思想は、東方(オリエント)・ビザンティン帝国の影響を受け、ローマ教会とは慎重な距離を取っていたヴェネチアの影響があるそうでして、東洋思想っぽいところがありますね。超越的な絶対の神の掟とか原罪とか契約とかのキリスト教の概念から距離を取って、不条理な自然性、人間の内在性、美的感性とかを重視しています。こんな感じです。

苦痛はそれ自体は普遍的なものであるが、文化や宗教、時代や社会によってさまざまに異なった受け取られ方をしてきた。たとえばヒンズー教徒や仏教徒は、キリスト教徒とはまた別のかたちで苦痛を捉え、経験してきたことだろう。

つまり、同じ苦しみであっても、別様に感じ取られ解釈されるのである。ナトーリはとりわけ、西洋文化の二つのマトリックス、古代ギリシアとユダヤ=キリスト教における苦痛の経験の違いに注目する。

たとえば(キリスト教の思想とは相容れない形態の悲劇である)ギリシア悲劇において、苦痛は幸福と必ず対をなしている。生きるという経験そのもののなかに、苦痛は必然的に組み込まれているのである。なぜなら、人間の生は、生み出すと同時に破壊する自然の力に従うからで、その意味では、ビオス(社会的生、文明を営む人間の生)としての生は、ゾーエー(動物的生、生命種の本能的な生命)やピュシス(自然、外部環境)と連続している。たとえ不意の死や予測できない闖入として死が訪れるにしても、それはピュシス(外的環境による要因)の規則性にかなっているのであり、生がいかに不可解であるとしても、自然の懐(外部環境)のうちにあることにはかわりがない。それゆえ、(外部環境が生命存在に必ずどこかで苦痛を与えるように形成されている為)存在するかぎりにおいて苦痛は自明のもので、人間はただ、これ(苦痛)を除去するのではなく、いくらか軽減することができるだけなのである。

他方、ユダヤ=キリスト教において、苦痛は契約の神学にその位置を占めており、神の法=掟が破られることのうちに、苦痛の意味と正当性が見出される(この世の苦痛は神の掟に逆らった罪人に下される神罰であるという思想)。罪は神との契約の破棄を意味するのであり、その罪の報酬として苦痛がある。それゆえ「潔白で正しい」ヨブが、自らの苦痛の意味を神に問わないではいられなかったのも、もっともな話なのである。周知のように最初の人間の罪はアダムとエヴァが犯したもので「原罪」と呼ばれる。(中略)

これ(超越的な唯一神=あの世に全てを帰するキリスト教思想)にたいして、ギリシア人たちは、神に、あるいは「大文字の他者」(超越的な絶対存在・あの世の世界)に救いや希望を求めることはしない。「希望」を意味するギリシア語の「エルピス」は「エルプ」という語根を持つが、この語根から享楽(現世的享楽)という意味のラテン語「ウォルプタス」も派生した。つまり希望とは、生への愛(現世への愛)であり、生きる意志であり、地上(現世)に留まることの固執である。そしてそれは「大文字の他者」への希望ではなくて、複数の他者たち(現世の存在たち)への希望である。
(岡田温司「イタリア現代思想への招待」)

この本で紹介されているイタリア現代思想は、『あの世の為にこの世の苦しみを甘受するという思想を捨てて、この世の為に生きよう』という感じの思想なので、なんだかとても入りやすい形ですね。悪くない思想だと思います。本書でも解説されていますが、僕の好きな作家のウンベルト・エーコやイタロ・カルヴィーノとか、こういうところから出てきたのかと思うと納得できる感じですね。

後は、よく日本批判として、『日本は美的感性で物事を処理するからダメなんだ』というのがありますが、この本によると、逆に西欧のロゴス至上主義に対するアンチテーゼとして美的感性の意義を積極的に認めているところがあって、面白いなと思いますね。普通に面白い本でした。ただ、やっぱり専門書的なところが多いので、イタリア現代思想に興味のないお方々が読んでも面白くないかもです。題名通り、イタリア現代思想に興味のあるお方々向けです。

イタリア現代思想に興味のないお方は、先に挙げたウンベルト・エーコやイタロ・カルヴィーノの小説お勧めです。エーコは「ウンベルト・エーコの文体練習」がパロディ短編集でしてとても読みやすいです。彼の代表作「薔薇の名前」は優れた作品ですが、大長編でして読むのが大変なので、「文体練習」の方を読んでエーコの小説が気に入ったお方々向けです。

イタロ・カルヴィーノは、ユーモア短編集「むずかしい愛」が読みやすい方かなと思います。この人の作品はちょっと癖があるので、慣れるまであれっと思うことが多いかもしれませんが、慣れると面白いです。メタ・フィクションを上手に書く作家さんでして、メタ的なトリックが作中のあちらこちらに隠されています。僕が一番面白いと思うのは「見えない都市」ですね。これはお勧めです。ボルヘスの小説から物語の筋を取ってバラバラにして再構築した幻想小説みたいな感じでして(分かりづらい説明ですみません…)、一時間くらい読んでいると物語の世界に吸い込まれます。幻想小説の最高峰の一つだと思いますね…。エーコとカルヴィーノの作品は双方とも非常にユニークな個性がある小説でして面白くてお勧めです。

参考作品(amazon)
イタリア現代思想への招待 (講談社選書メチエ)
ウンベルト・エーコの文体練習 (新潮文庫)
薔薇の名前〈上〉
薔薇の名前〈下〉
むずかしい愛 (岩波文庫)
見えない都市 (河出文庫)

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