2009年10月05日 21:03

小川一水氏のSF短編集「フリーランチの時代」読了。なかなか面白かったです。

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

精力的な執筆活動で知られる若手SF作家小川一水氏のSF短編集「フリーランチの時代」読了。SFマガジン収録のSF短編を中心に収録しているだけあって、どの短編もなかなか質が高く面白かったです。

あえて難点をあげるなら、これは小川一水さんの小説全てに言えますが、質は平均的に高いのですが、全般的に物凄く健全に普通過ぎて、展開に意外性がないところでしょうか。まあ、平凡さが小川作品の味とも言えるので、平凡さを含めて楽しむということで言えば、いつもの小川作品です。本作に収録の「Live me ME.」は先鋭的な作風で知られる人気SF作家グレッグ・イーガンを意識したような、テクノロジーの発達によって揺らぐ個人のアイデンティファイを描いた小説ですが、イーガンが描いたならばけれん味たっぷりになったようなプロットも、小川一水さんが描くと、とても健康的で安全安心的な平凡さがみなぎる短編になってしまいますね…作者さんの特性(健康的・健全・平凡)がこれほど作品に大きく出る作家さんは他にいないのではないかと思います。そこが小川一水さんの味なのですが…。

本作はどれもごくごく普通の健全なSF短編作品という形でどの作品も特に特筆すべきような物語はないのですが、なかでも面白かったのは「千歳の坂も」ですね。人類が不老不死テクノロジーを手に入れた後の長い時代を描いています。ただ、これ、十数年ぐらい前にSFマガジンに収録された、ナノテクノロジーで不老不死になった女の人の長大な時間を描いた海外SF短編(題名・作者名失念しました、申し訳ありません。題名・作者名覚えている人がいたら教えてくれると嬉しいです)がモデルじゃないかなという感じが…。「千歳の坂も」の主人公の一人が最後は機械化して意識野を拡大し宇宙を渡るとか、海外SF短編そのままのオチですし。まあ、このネタ自体が今ではありがちではありますが…。

SFの短編は近年数が少ないので(スティーヴン・キングが『短編小説は労力の割に儲からないので、短編を書く作家が年々減っている。私は短編を読むのも書くのも好きなので残念だ』ということを自身の短編集の前書きで書いていましたが、日本の現状もまさにそういう感じです)、今回小川一水氏の読んだ「フリーランチの時代」は全体的に質の良いSF短編で楽しめました。必読といえるほど凄い小説ではありませんが、全体的な質は高く、SFの面白い短編集を読みたいお方々にお勧めです。

参考作品(amazon)
フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

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