2009年08月19日 01:03

体調不良で身体がだるく更新できずにごめんなさい。白鳥の湖とローデンバックの物語。

ローデンバック集成 (ちくま文庫)
チャイコフスキー:バレエ《白鳥の湖》 [DVD]

体調不良が酷く、身体が異常にだるくてなかなか更新できずに申し訳なくごめんなさい。身体が動かなくて、音楽を聴きながら臥せておりました。

チャイコフスキーの白鳥の湖を聴きながら僕の好きな作家であるローデンバックの本(ちくま文庫「ローデンバック集成」)を読んでおりましたら、そのなかに白鳥の湖を題材にとったエピソードがあって興味深かったのでご紹介しようと思います。

ローデンバックは極めて不可思議な作風の作家・詩人さんで、日本では永井荷風が彼のファンであり、彼の作品を日本に紹介したことで有名です。ローデンバックの小説作品はカテゴリ的には、幻想的なダークメルヘンということになるのかなと思います。彼の代表作である「霧の紡ぎ車」は短く幻想的な掌編が無数に集まって一つの小説になっているという非常に面白い作品でして、まさに題名どおり、霧の中のようなぼんやりした感じがあって僕は非常に好きな小説です。よろしければ一読お勧め致します。邦訳版はちくま文庫のローデンバック集成のなかに収められています。

チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」は、ヒロインのオデットが悪魔ロットバルトに呪い(昼は白鳥の姿・夜は人間の姿になる呪い)をかけられ、オデットを愛する王子ジークフリートはその呪いを解こうとするが、悪魔にだまされてオデットの姿に変化した悪魔の娘オディールを花嫁に選んでしまい、結果、オデットの呪いを解くことができなくなり(清らかな真の愛によって呪いは解けるが、すでに王子はオディールと契りをかわしていて、その愛は得られなくなった)、オデットは絶望して湖に身を投げて、ジークフリートも後を追って自殺するバレエ物語です。バレエ音楽の最高峰の一つと言えると思います。

ローデンバックの霧の紡ぎ車にでてくる掌編の一つだと、ヒロイン・白鳥に理想と純粋のメタファーが分かりやすい形で与えられていて、面白いなあ、こういう解釈もあるのかと思いました。引用してご紹介致します。

女神ミューズが、白鳥達の白い群れを引き連れ、取り巻きにして、騒々しい街をさまよっていた……。(中略)

彼女は、物乞いのように歩いていた。彼女は貧乏だった。古びたぼろ切れを身にまとっていた。そこで、誰一人として、彼女が女王であって、下劣な時代(理想が顧みられることのない現代)に追放の身になっているのだとは思いもしなかった。彼女の通る道すがら、たくさんの人々があざ笑い、からかいの言葉を投げかけていた。くだらない雑言の数々が、まるで小石のように、眼にも鮮やかな白鳥達の白い姿の上に降りこぼれてきた。その白鳥達は、陸上だけの生活を強いられている白鳥達と共に見世物になっているおとなしい熊のいる、定期市のみすぼらしい粗末な動物小屋から逃げてきたと思われていたのだった……。

女神自身も、道行く人々に、ぼろをまとった、信用するに足りないジプシーの女といった印象を与えていた。ただ、いたるところで、少数の芸術家だけは、神々が憩う十月の森、茶褐色の輝き、この世のものとは思えない、彼女の豊かな髪の毛に注意を払った……。(中略)

彼女のあまりにみすぼらしい様子にほんの今しがた注意を向けたある商人が、店の入り口からだし抜けに声をかけた。

「なにかご入用ですかな?」

「なにか生きていく足しになるものを――死なない程度でいいですから」

「それはどんなことより難しいですな。愚かなことをしているときにはね」

「なんですって?一体何が言いたいのですか?」

「そうなんだよ」とその商人は、もったいぶり、軽蔑しきった口調で答えた。「あなたは人の気を惹くことさえないんだ。時代遅れの贅沢というだけでなく、異様でもある白鳥達の群れと一緒にいれば、ご自分の生活をいやおうもなく失くしてしまう。この私が、白鳥どもを養うですと。他の町の人達も養っていますかね?

こんな鳥どもが、何の役に立っているのかい。確かに時おり歌を歌いはするがね。けれど、歌姫らの声のように、音楽学校でみっちり仕込まれた訳でなく、ましてやオペラに生かすことさえできそうもないあのもって生まれただけの歌声に何の価値があるというのか。

もし一人だけならば、貧しさから抜け出せるはずだ。ご婦人なのですからね。ことに、美しい髪をしているし……。私の言うことを信じて、白鳥どもを追っ払いなさい。さもなくば、鳥どもを役立てることですな。歌い手としては、奴らは役立たずで、一文の価値もありゃしない。売り飛ばしなさい。そうすりゃ始末されますよ。柔らかい羽毛が結構な金になるからね。ご承知だろうが、あの羽毛でふっくらとした、なかなか高く売れる枕ができる。良い夢を見させてくれるからね。そうではないかい?

夢を見たり、多分、内面の声を聞いたり、眠っている間に現実を超えた世界を飛翔したり、要するに飛べるからこそ、人は白鳥のふっくらとした遺品の間に頭を沈めるのだよ。そうした理由でお金持ちが使う枕は羽毛でできているんだ。だから白鳥達を売り飛ばしなさい。死ぬ間際になってやっと聞ける幻の歌(スワンソング)よりは、奴らをお金に替えて即座に儲けてごらん……。つまるところ、実際的になりなさい」

女神ミューズは、その敵意ある街、真心もなく河も流れないその街を逃げ去った。その街では、美しい白鳥達が死を思っていたので。
(ローデンバック「ローデンバック集成」)

この後も苦難の旅は続くのですが、ヒロイン・白鳥が理想を求めることのメタファーとして描かれていて、現代社会ではヒロイン・白鳥は生きる場所を与えられないということを描いていて、面白かったですね…。原作のバレエ小説の白鳥の湖だと、結末は悲劇的(ヒロイン・白鳥は死す)ですが、このローデンバックの掌編だと、最後に、愛によって、現代社会でもヒロイン・白鳥は生きてゆけるという形にして、救いを与えています。

僕も、職がなく、普通なら餓死してしまうところを、なんとか生きていけているのは、ギフト券を贈ってくださったり、アフィリエイトでお買い物をしてくださったりして、助けてくれるお方々のおかげで、なんとか生きのびることができ、深く感謝しております。物語としてはローデンバックの方が好きですね…。

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