2009年02月18日 02:36
ルービンシュタイン「The Chopin Collection」ショパンの原典とフォンタナ版。ルービンシュタインの演奏について。
The Chopin Collection [Box Set]
先日より強力な作用を持つ向精神薬レボトミンを飲んでいるので、一日中頭がふらついてくらくらする感じで、あまり文章が書けそうになく申し訳ございません。
終日非常に頭がふらつき眼が霞み周囲が暗く見えて尿漏れが起き(レボトミンの副作用と思われる症状)、心身も先日からとても辛く、非常に辛い状況ですが、更新しないと収入が一切なく、生活できない状態でして、何とか頑張ります。レボトミンは副作用が強すぎる感じで服用していて辛いので先生に相談してみようと思います。猫は元気です。
久々に音楽の話を致します。僕は現在活躍中のピアニストではアシュケナージが好きなんですが、歴代のピアニストから一人最も天才的なピアニストを選ぶということでしたら、故アルトゥール・ルービンシュタインを選びます。ルービンシュタイン自身は現在ピアニストのTOPに位置するマウリツィオ・ポリーニをとても高く評価していましたが(ポリーニのショパンコンクール優勝時、ルービンシュタインの賛辞「今ここにいる審査員の中で、彼(ポリーニ)より巧く弾けるものが果たしているであろうか」、流石の慧眼です)、僕としては、ルービンシュタインの演奏を20世紀最高の演奏として押したいです。
これは、僕はショパンが好きなので、ルービンシュタインはショパンと相性が良かった(20世紀最高のショパン弾きの一人であることは間違いありません)という点もあります。また、もう一つはポリーニよりもルービンシュタインのピアノ演奏の方が僕個人として好きなので、そういった点があります。ポリーニは技術は凄いのですが、極限的なクラシックの高み(完成度)を求める求道者的な音楽なので、より幅広い人が楽しめるという演奏では、ルービンシュタインの右に出るものはいないと思います。
ルービンシュタインは浮気性の遊び好き、放埓な女性遍歴で知られ、奥さんはいるのですが、奥さんが献身的に彼に尽くしているにも関わらず、多額の演奏収入を使って放蕩の限りを尽くした女性好きの遊び好きの演奏家で、生真面目なポリーニとは相反する部分があります。その辺の違いも演奏にでている感じを僕は受けます。ポリーニが技術の頂点を極めようとする凄い技術の音楽を弾いているのに比べ、ルービンシュタインの演奏は柔らかいユーモア、遊び心があって、そこがルービンシュタインの演奏の魅力に繋がっているように思います。
また、ルービンシュタインのショパンは、これも有名ですが、彼は可能な限り原典に近いショパンを弾いています。これは非常に大きな点で、ルービンシュタインの高名を世界に轟かせた大きな一因だと言われています。
ショパンの作譜にはフォンタナ版(ショパンの友人フォンタナがショパンの遺作の譜を改変・編集して相当に原典と変えてしまったバージョン、作品66〜74)とオリジナル原典作譜があり、前者(フォンタナ版)は、はっきりいって音楽としてダメダメです。フォンタナの作曲家としての才能はショパンに及びもつかない低いものであり、ショパンのオリジナル原典作譜に比べると明らかに劣っています。しかし、フォンタナ版の方が安易で弾きやすい上、こちらが先に大勢に出版されてしまったので、フォンタナ版の方で弾くピアニストが大勢いました。そんな中、ルービンシュタインはショパンのオリジナル原典の方で演奏し続けました。これは、ルービンシュタインのショパンを世界に轟かせた大きな一因だと言われています。それまで、フォンタナ版ショパン(ショパンオリジナルより完成度の低い劣化版ショパン)しか聴いたことの無かった人々は、ルービンシュタインの演奏で始めてオリジナル原典版作譜のショパンを聴き、そのクリアさと演奏の緻密さに驚嘆したと言われています。
余談ですが、極めて残念なことながらショパンの作品70の3は今現在も、自筆譜紛失により、フォンタナが改変してしまったフォンタナ版しか残っていません。ショパンのオリジナル譜は永遠に失われており、オリジナルのショパンの作譜を復元する研究(フォンタナがどのような改変をしたか推測してショパンのオリジナル譜を復元する)もあるようですが、オリジナルが失われている以上、復元しても全ては推測の域にすぎず、我々はショパンの作品70の3の真のオリジナルを聴くことはできません。ショパン好きにとって、大きな悲劇の一つです。
またルービンシュタインのショパン演奏ではRCAの録音が最高峰だと僕は思いますが、RCA録音のショパンも、ショパンの作品70の1については、自筆オリジナル譜をルービンシュタインが手にいれられず、残念ながら作品70の1は原典ではなく、僕の知る限りフォンタナ版による演奏のみです。同作品70の1のもうひとつの自筆オリジナル譜が1967年10月に発見され、オリジナルの復元が成功しました。けれど、ルービンシュタインのRCA時代にオリジナル譜を入手できず(ルービンシュタインは可能な限りショパンのオリジナル原典に当たりましたが、作品70の1はオリジナル譜の所有者が公開してくれませんでした。理由は不明。1957年にこの原譜は公の機関で保管され、また1967年に別の自筆譜が見つかり、作品70の1のオリジナルの復元に成功しました。余談ですが、お金持ちの芸術愛好家・コレクターには、芸術を自分だけのものにして、他の人々から作品を隠すことで優越感に浸るたいへんはた迷惑な芸術愛好家・コレクターもいるので、クラシックの原譜の所有者がそういう人だと音楽という分野においてとても困ります。例えば、作品70の1はオリジナル復元に成功したゆえ、まだしも幸運な作品であり、作品70の3においては、『誰かが原譜をこっそり持っているけど隠している』という可能性もあります。閑話休題。)、残念ながら、作品70の1の原典版ショパンの演奏をルービンシュタインの演奏で聴くことは僕の知る限りではできません。もしかしたら、原典版で弾いているアルバムがあるかも知れません。それだったら申し訳ありません。
ただ、そういったデメリットを鑑みても、ルービンシュタインのRCA録音演奏はとても素晴らしい、出来うる限り原典により、なおかつルービンシュタインの才能が全開で吹き出ているような演奏で、心からお勧めできる演奏です。僕は一枚3200円するRCAの一枚綴りのルービンシュタインショパン音楽CDを過去に買い集め、今は売却してしまったのですが、今、一枚あたり、以前の十分の一程度(300円強)でルービンシュタインのRCA録音盤が「The Chopin Collection」として売られていますので、昔一枚3200円だったことを思うと、驚くべき価格破壊であり、ピアノ曲好きのお方々に心からお勧め致します。
最後に、RCAのマックス・ウィルコックスがルービンシュタインとのRCA時代の録音風景について語っていますので、引用致します。
参考作品(amazon)
The Chopin Collection [Box Set]
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先日より強力な作用を持つ向精神薬レボトミンを飲んでいるので、一日中頭がふらついてくらくらする感じで、あまり文章が書けそうになく申し訳ございません。
終日非常に頭がふらつき眼が霞み周囲が暗く見えて尿漏れが起き(レボトミンの副作用と思われる症状)、心身も先日からとても辛く、非常に辛い状況ですが、更新しないと収入が一切なく、生活できない状態でして、何とか頑張ります。レボトミンは副作用が強すぎる感じで服用していて辛いので先生に相談してみようと思います。猫は元気です。
久々に音楽の話を致します。僕は現在活躍中のピアニストではアシュケナージが好きなんですが、歴代のピアニストから一人最も天才的なピアニストを選ぶということでしたら、故アルトゥール・ルービンシュタインを選びます。ルービンシュタイン自身は現在ピアニストのTOPに位置するマウリツィオ・ポリーニをとても高く評価していましたが(ポリーニのショパンコンクール優勝時、ルービンシュタインの賛辞「今ここにいる審査員の中で、彼(ポリーニ)より巧く弾けるものが果たしているであろうか」、流石の慧眼です)、僕としては、ルービンシュタインの演奏を20世紀最高の演奏として押したいです。
これは、僕はショパンが好きなので、ルービンシュタインはショパンと相性が良かった(20世紀最高のショパン弾きの一人であることは間違いありません)という点もあります。また、もう一つはポリーニよりもルービンシュタインのピアノ演奏の方が僕個人として好きなので、そういった点があります。ポリーニは技術は凄いのですが、極限的なクラシックの高み(完成度)を求める求道者的な音楽なので、より幅広い人が楽しめるという演奏では、ルービンシュタインの右に出るものはいないと思います。
ルービンシュタインは浮気性の遊び好き、放埓な女性遍歴で知られ、奥さんはいるのですが、奥さんが献身的に彼に尽くしているにも関わらず、多額の演奏収入を使って放蕩の限りを尽くした女性好きの遊び好きの演奏家で、生真面目なポリーニとは相反する部分があります。その辺の違いも演奏にでている感じを僕は受けます。ポリーニが技術の頂点を極めようとする凄い技術の音楽を弾いているのに比べ、ルービンシュタインの演奏は柔らかいユーモア、遊び心があって、そこがルービンシュタインの演奏の魅力に繋がっているように思います。
また、ルービンシュタインのショパンは、これも有名ですが、彼は可能な限り原典に近いショパンを弾いています。これは非常に大きな点で、ルービンシュタインの高名を世界に轟かせた大きな一因だと言われています。
ショパンの作譜にはフォンタナ版(ショパンの友人フォンタナがショパンの遺作の譜を改変・編集して相当に原典と変えてしまったバージョン、作品66〜74)とオリジナル原典作譜があり、前者(フォンタナ版)は、はっきりいって音楽としてダメダメです。フォンタナの作曲家としての才能はショパンに及びもつかない低いものであり、ショパンのオリジナル原典作譜に比べると明らかに劣っています。しかし、フォンタナ版の方が安易で弾きやすい上、こちらが先に大勢に出版されてしまったので、フォンタナ版の方で弾くピアニストが大勢いました。そんな中、ルービンシュタインはショパンのオリジナル原典の方で演奏し続けました。これは、ルービンシュタインのショパンを世界に轟かせた大きな一因だと言われています。それまで、フォンタナ版ショパン(ショパンオリジナルより完成度の低い劣化版ショパン)しか聴いたことの無かった人々は、ルービンシュタインの演奏で始めてオリジナル原典版作譜のショパンを聴き、そのクリアさと演奏の緻密さに驚嘆したと言われています。
余談ですが、極めて残念なことながらショパンの作品70の3は今現在も、自筆譜紛失により、フォンタナが改変してしまったフォンタナ版しか残っていません。ショパンのオリジナル譜は永遠に失われており、オリジナルのショパンの作譜を復元する研究(フォンタナがどのような改変をしたか推測してショパンのオリジナル譜を復元する)もあるようですが、オリジナルが失われている以上、復元しても全ては推測の域にすぎず、我々はショパンの作品70の3の真のオリジナルを聴くことはできません。ショパン好きにとって、大きな悲劇の一つです。
またルービンシュタインのショパン演奏ではRCAの録音が最高峰だと僕は思いますが、RCA録音のショパンも、ショパンの作品70の1については、自筆オリジナル譜をルービンシュタインが手にいれられず、残念ながら作品70の1は原典ではなく、僕の知る限りフォンタナ版による演奏のみです。同作品70の1のもうひとつの自筆オリジナル譜が1967年10月に発見され、オリジナルの復元が成功しました。けれど、ルービンシュタインのRCA時代にオリジナル譜を入手できず(ルービンシュタインは可能な限りショパンのオリジナル原典に当たりましたが、作品70の1はオリジナル譜の所有者が公開してくれませんでした。理由は不明。1957年にこの原譜は公の機関で保管され、また1967年に別の自筆譜が見つかり、作品70の1のオリジナルの復元に成功しました。余談ですが、お金持ちの芸術愛好家・コレクターには、芸術を自分だけのものにして、他の人々から作品を隠すことで優越感に浸るたいへんはた迷惑な芸術愛好家・コレクターもいるので、クラシックの原譜の所有者がそういう人だと音楽という分野においてとても困ります。例えば、作品70の1はオリジナル復元に成功したゆえ、まだしも幸運な作品であり、作品70の3においては、『誰かが原譜をこっそり持っているけど隠している』という可能性もあります。閑話休題。)、残念ながら、作品70の1の原典版ショパンの演奏をルービンシュタインの演奏で聴くことは僕の知る限りではできません。もしかしたら、原典版で弾いているアルバムがあるかも知れません。それだったら申し訳ありません。
ただ、そういったデメリットを鑑みても、ルービンシュタインのRCA録音演奏はとても素晴らしい、出来うる限り原典により、なおかつルービンシュタインの才能が全開で吹き出ているような演奏で、心からお勧めできる演奏です。僕は一枚3200円するRCAの一枚綴りのルービンシュタインショパン音楽CDを過去に買い集め、今は売却してしまったのですが、今、一枚あたり、以前の十分の一程度(300円強)でルービンシュタインのRCA録音盤が「The Chopin Collection」として売られていますので、昔一枚3200円だったことを思うと、驚くべき価格破壊であり、ピアノ曲好きのお方々に心からお勧め致します。
最後に、RCAのマックス・ウィルコックスがルービンシュタインとのRCA時代の録音風景について語っていますので、引用致します。
多くの音楽家と違い、ルービンシュタインはレコーディングが好きだった。彼は録音スタジオをコンサート・ホールに変え、技術者やピアノ調律師や私(マックス・ウィルコックス)を聴衆に変えた。(中略)
一例をあげるために、1965年のある日に戻ってみよう。(中略)(洒落者で知られたルービンシュタインは待ち合わせ場所のエクセルシオール・ホテルに颯爽と姿を現した。)栗色のタートルネックのセーターに、栗色のカシミアのジャケット、粋なつば広の帽子といういでたちもさっそうとしていた。(中略)
(RCAの)スタジオでは、ルービンシュタインのイタリアでのピアノ調律師リッカルド・オルシーニと録音技師のセルジオ・マルコトゥリが私たちを迎えた。30分のドライブでルービンシュタインはすっかり舌の回りがよくなり、続く10分間のあいだはとびきりおかしな話の洪水となった。ルービンシュタインの役者としての(ユーモアの)才能は、彼の音楽家としての才能に優るとも劣らず、限られた観客たちは、数分間笑い転げるのだった。(中略)
(スタジオでのルービンシュタインは満足の行くまで演奏をやり直し)……もう一度弾きなおされ、さらに9テイク(通常の3倍)が録られた。ついに満足のいくものが(10回目の演奏によって)録れ、私は自分の楽譜に「10テイクで完了」と書き込んだ。音楽を純粋に、さりげなくつくりあげてゆく際の(ルービンシュタインのスタジオ録音での)集中力は恐ろしいほどで、最後の演奏(OKの演奏)は最初のもの(彼自身がNGにした演奏)とははっきり考え方の違いが示されていた。
(RCAマックス・ウィルコックス。RCAルービンシュタイン演奏集「ワルツ集」ライナーノーツより)
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