2008年09月29日 08:13

筒井康隆さんの寓話論と猫の寓話について。命の寓話「猫の復讐」

乱歩の選んだベスト・ホラー (ちくま文庫)

先日(9/24)、筒井康隆さんの誕生日だったですね。僕の大好きな作家さんで、先日書いたとおり今の僕は生活における前向性健忘みたいな痴呆症状が酷いんですが(うつ病の病変の悪化と複数の精神薬を処方内において限度まで沢山飲んでいるからかなと思います)、うつ病になる以前のことは比較的記憶が衰えてなくて、筒井康隆さんの誕生日も思い出しました。

遅ばせながら、お誕生日おめでとうございます。今後とも第一線で活躍して欲しい作家さんです。

筒井康隆さんをブラックユーモアの作家さんとお考えの皆様方には、少し驚きかも知れませんが、筒井康隆さんって、寓話・民話・童話・訓話による子供のモラル教育ってことをとても重視しているんですね。これまた手元になくて申し訳ないんですが色んなところに書いています。今思い出せるのでは「小説のゆくえ」「笑犬樓よりの眺望」に載っていると思います。

昔、うつ病に掛かる前の僕は映像記憶(写真記憶)みたいな抜群の記憶は持ちませんが、それでも、一度読んだ本の内容は文脈の全記憶と文章を印象に残るところは長文でもそのまま記憶できて、忘れない形で文章記憶持てたんですが(字幕映画とかでもそういうことが出来ました)、今はそういう過去の記憶力も完全に減退していて、詳しく説明できずごめんなさい。

筒井康隆さんの寓話・民話・童話・訓話論は、これらの寓話群、現実離れして、不条理で、シュールで、非合理的で、残酷で、ゆえに現代のモラルとは全く違う独特のモラルを持つこういった寓話群は、無意識、特に子供の無意識に潜入して、子供の無意識のモラル、現代の合理性一辺倒とは違った全く別種のモラルを形成するという論です。

それで、僕は、寓話ときくと、一つ、物凄く心に残っている寓話があるので、それをご紹介いたします。「吸血鬼ドラキュラ」を書いたブラム・ストーカーの書いた「猫の復讐」という物語です。

全くの余談ですが、ドラキュラを逆さ読みしてアーカードというのは、漫画では手塚治虫先生の「I.L」(僕はこの漫画とても好きです)が先駆だと思います。そこから平野耕太さんの大人気漫画「HELLSING」に繋がっていると思います。どちらも人間に仕える吸血鬼の物語です。

寓話の話に戻しますと、「猫の復讐」(The Squaw)はタイトル通りの寓話です。犬の物語は人間に忠誠を誓って人間に仕える、基本的に人間に下位なるものとして仕える話がメインとしてあると思いますが、猫の物語は、猫と人間が対等のパートナーシップ、もしくは敵同士になって、猫と仲の良い人間には猫にだけ分かるアドバイスを与えて助けたり、猫と仲の良い人間が殺されたりしたときは、その相手に殺された彼彼女らに代わって復讐したりする話がメインとしてあると思います。「猫の復讐」もこちらの系統の寓話です。

これは、猫は単独狩猟動物なので、犬のような群的上下関係(群的命令関係)ではなく、一対一で関係を認識する(基本的には一対一の協力関係・もしくは敵対関係となる)ところから来ていると云われます。

話がまたずれてしまったので、「猫の復讐」の話に戻りますと、これは掌編寓話で、現在入手が最もしやすいのは「乱歩の選んだベスト・ホラー」というアンソロジーに収録されているものだと思います。国書刊行会の「書物の王国16復讐」にも「牝猫」というタイトルで収録されていると思います。

物語は、ドイツにハネムーンに来ている夫妻が、気さくなアメリカ人と知り合い、仲良くなるんですが、実はこのアメリカ人は、白人(ハネムーンに来ている夫妻)には気さくですが、アメリカにいた頃はインディアンを虐殺したりしている、他の生命(白人以外の生命)に対しては酷く残忍な男だということが、だんだん分かってくるんですね。

この男は、夫妻のハネムーンについてまわり、ニュールンベルグの拷問塔に一緒に登るんですね。そこで、塔の下で母猫が小さい子猫を一生懸命世話しているのを見て、非常に残忍なことに、塔の上から石を投げつけ、子猫の頭を潰して殺すんです。母猫が怒り狂うのを見て、まるで赤ん坊を奪われたインディアンの母親みたいだって嘲笑するんですね。この男のいうインディアンの母親は、過去、この男に殺されているんです。

ハネムーンに来ている夫妻はぞっとして、大丈夫なのかって聞くと、この男は、いざとなったら拳銃で母猫も撃ち殺してやるから大丈夫だというんですね(この男は拳銃を所持しています)。

そしてここから、拳銃を持った男に対する、子猫を失った母猫の戦い、猫の復讐が始まるんですが、非常に怖い復讐で、寓話的な意図としては、命を蔑ろにするものは、命をもってその命に復讐されるであろうというとても怖い寓話です。これ読んで、筒井康隆さんの寓話論に説得力を感じたことを覚えています。命ということについて考えるとき、ぜひ読んで欲しいです。

参考作品(amazon)
乱歩の選んだベスト・ホラー (ちくま文庫)
復讐 (書物の王国)
小説のゆくえ (中公文庫)
笑犬樓よりの眺望
I・L(アイエル) (1) (手塚治虫漫画全集 (262))
I・L(アイエル) (2) (手塚治虫漫画全集 (263))

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