2018年01月

2018年01月31日 13:12

傾福さん [DVD]

たつき監督の同人アニメーション「傾福さん」がamazonで取り扱い開始と共にアニメーション部門一位の売り上げを驀進していることが話題になっていますね。たつき監督とその素晴らしい作品群を心から崇敬する一人として本当に「素晴らしい!」としか言いようがない想いです。

私は本気で、たつき監督は日本の閉塞したアニメ業界全般、そしてひいては創作全般を変革していく先駆けとなるクリエイターであると思っていて、まさに今回のことは、たつき監督の個性に溢れた輝かしい異彩を放ったアニメ「けものフレンズ」に引き続いての、たつき監督らしい新しい第二の始まりだなと思いますね。

「けものフレンズ」については、プロジェクトからたつき監督が外されるという残念を超えた絶望的事態になりましたが、終わったことなのでくだくだ述べることはここでは避けます。ただ、一言だけ言っておかねばならないのは、『たつき監督の作品は、たつき監督にしか創れない』ということです。たつき監督の創り上げる強烈な異彩を放つ作品は、たつき監督にしか創れない。キューブリックやクローネンバーグが彼ら自身にしか彼らの作品を創れないのと同じように。

今回のように、創作者の個性が活かされた個人製作、アニメ製作会社製作のアニメがそのままネットで公式放映されて、製作委員会もテレビ放映もなしの状態で円盤が売れるなら、もう製作委員会はいらない訳で、真に「クリエイターが創りたいものを作って誰の横槍も入らずにそれが売れる」になるんですよね。たつき監督はその先駆けたる存在だと思います。

私がこういう主張すると、必ず「映像メディアは製作にお金が掛かる・テレビで流さないと売れないからそんなことは不可能」みたいに返されるんですけど、たつき監督はまさに上述したことを成し遂げているし、何よりゲーム業界はずっと上記の形でやってきて、ゲーム会社自体が大きくなってきた訳です。小説も、なろう、カクヨムなどのWEB小説や個人出版のハードルの低い電子書籍はその方向性を目指しつつある。

視野を広げた話を致しますと、創作という営みが大規模資本主義の中に組み込まれることによって、大衆受けの中の平均値を狙うという企業と世間と国家のつまらない論理に創作の想像力の自由、クリエイターの情念の自由が圧殺されてきた事実がある訳です。それは遥か昔からあるのです。

――澁澤さんや石井さん、埴谷さんなどはとにかくサドというのは自由を問題にしたということで。

石井恭二
「想像力の問題。想像力を自縄自縛にしてはいかんということですよね。それはいまの時代でも同じですよ。これ以上考えてはいけない、これ以上考えたら自分が破滅してしまうという保身。それは当時よりもずいぶん保守的(強固)になっていますよ。これを言ってしまったら(周囲から潰されて)生きていけないとか、そういう自己保身の風潮はこの二十年くらい強くなったと思いますね。だから、想像力を自縄自縛してしまう。自縄自縛というのは、実は無縄自縛なんですよ。縄も無いのに(周囲を気にして)自分を縛る。強靭な、強烈な、あるいは凶暴でもいいから、そろそろそういう想像力が出てきてくれればいいんだけど」
(石井恭二「サド裁判と現代思潮社の時代」)

ここで石井恭二さんが言っている通りで、創作者の最も重要な、自分の創りたいように創るという情念が、周囲の「空気」によって自分自身に自縄自縛にされている。とても良い意味で、そういった「空気」を読まずに創作するのが、たつき監督であり、ゆえにこそ、その作品群は、たつき監督にしか創り出せない個性に溢れている(角川の側に立ち、たつき監督を批判する批判者達に、『大企業に逆らうとはけしからん、空気を読め』という意見が多いことは、まさに自縄自縛の世界を示唆している)。

本質的に優れたクリエイター(歴史の風説に耐えうる稀有な作品を創造するクリエイター)の一つの特質として、空気を読まずに(心の中で周囲の状況を忖度したりせずに)、自分の創りたいものを創ることを第一とする、自分の情念に正直に創るというのがあり、まさにそれが創造の行為と呼応しあって優れた作品が生まれる訳です。

今回のように、周囲の空気(企業の論理)とは異なった、それこそ、たつき監督の創り上げたフーリエ的な時空(ジャパリパーク)のイメージで、たつき監督の同人作品が売れていくということは本当に素晴らしいと感じる。フーリエ的な時空の特徴は、企業の空気(効率性と上意下達を重視する生産性の論理)が退けられること、そしてなによりも創造において情念と自由が何よりも尊ばれることであり、それはまさに創作者と消費者にとってのユートピアなんですね。

フーリエは、そのライバルであるサン・シモンが生産を重視し、無制限の生産(アップダウン型経済)こそが人類に幸せをもたらすと主張したのに対し、人間は物欲に生きるにあらずと、消費ファクターを中心とした生活協同組合(ボトムアップ型経済)を主張した。フーリエ派経済学者のシャルル・ジッド(アンドレ・ジッド)の流れを汲む生活協同組合運動(生協)は、消費者の団結によって生産を調整しようという運動である。この意味で、フーリエもまた消費ファクターの強い思想家だったと言える。

このように、フーリエと澁澤は、消費ファクター、幼児固着、選択と組み合わせなどの面で、強い親近性を持つが、これを現代社会の傾向と照らし合わせてみれば、そこに彼らときわめてよく似た行動様式の一群を見い出すことができる。オタクと呼ばれる種族がそれである。

オタクは、サン・シモン型の生産重視資本主義が行き着いて、モノが溢れたところから生まれた精神の傾向である。彼らは、自分たちが加わらなくても、生産資本主義に何らの変化も生まれないことを熟知している。彼らは、幼児期の情念(創造の原点となる情念)に固着し、それにすがって生きてゆくことを選ぶ。それは幼児的情念であるがゆえに、生産とは無縁で、ひたすら消費に奉仕する。

彼らの生きがいは、多くの商品の中から(自分が愛好するものを)選び、組み合わせて、コレクションを形成することである。彼らは、デ・ゼサント(「さかしま」の主人公)と同じように、部屋に閉じこもり、そこで、自分たちの情念に忠実な王国を築く。それは、モノによって形成された小さなファランステールである。(略)

すなわちオタクたちは、20世紀のサン・シモン型資本主義の煮詰まり(トップダウン型の企業による生産の押し付けの限界)によって誕生した存在ではあるが、情念に生きて幸せであるという点においては、21世紀的なフーリエ型資本主義(消費者=オタクが生産を選考するボトムアップ型経済)を予告している。

フーリエ、スタージョン、デ・ゼサント、澁澤龍彦、それにオタク。21世紀が、この系譜に連なる人たちの時代になることは、もはや確実である。
(鹿島茂「来たるべきフーリエ世界」)

鹿島先生の予想通りであり、この系譜の最先端が、まさに、たつき監督とその支持者であると言えると思います。

角川のようなアップダウン型経済の姿の企業は21世紀が進むに連れて、だんだんといずれは終わり、たつき監督のような、個人の創作者と、それを支持するボトムの個人の広範な支持で成り立つ経済が、ネットというテクノロジーに支えられて、いま訪れ始めていると感じていますね。

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