2017年01月05日 02:58

フリーゲーム「呪われた人魚姫」とクトゥルフ神話的時間。時間を超越した存在と時間に縛られる人類種、小林泰三「大いなる種族」

超時間の闇 (The Cthulhu Mythos Files)

今回は前回の「呪われた人魚姫」エントリ(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1919217.html)の続きです。本作「呪われた人魚姫」の非常に優れた点として、時間の概念がきちんとクトゥルフ神話的であることがあげられます。クトゥルフ神話の特徴は、茫漠と続く果てしない時間と空間において、人間一人の一生は儚く、同じように人類種ホモ・サピエンスの歴史もまた一瞬であり儚いということが挙げられるんですね。

呪われた人魚姫
http://www.freem.ne.jp/win/game/13438

荒俣宏
「ラヴクラフトの書いているいろんな小説のパターンというのは、だいたい宇宙からいろんな生物が、まあその生物を彼は「旧人類」(旧支配者)と呼ぶわけですけれども、それが地球に入植してきて、なんらかの関係で――主として地球の地殻変動ですが、その辺は生物学的というか進化論的だと思うんですけど、とにかくそれによってうまく入植できてしまうけれど、地殻変動によって死滅していくという展開になります。(中略) 次々に(地球において覇権を握る種の)世代が交代していくというパターンで、その路線が人間まで(人間が滅んだ後の次々の種まで)つながっている」
(ユリイカ「ラヴクラフト」より「荒俣宏・笠井潔対談」)

この辺をきっちり描いている現代クトゥルフ神話作品というのは実は結構少ないんですね。本作はその点をきちんと描けている作品であることは特筆すべきことでしょう。本作においては、生命活動を外部から破壊されない限り不死であるディープ・ワン(深きもの)と、寿命により死を免れぬ人間(人類種)の決定的な差異を「時間感覚」として捉えている。これはラヴクラフトの原典に非常に近い発想で見事としか言いようがありません。

本作において、ディープ・ワンがやろうと思えば人類を壊滅させたりできるのにも関わらずあまり動かないこと、本作の中で、ディープ・ワンと人間の混血(ダゴン秘密教団)と、人間達が戦い後者が勝って前者を殲滅したのに、なぜディープ・ワンは人間に復讐したりしないのかについて、不死であるディープ・ワンと、死の定めに支配され、いずれは滅びるであろう人類種では、時間感覚が全く違うことを挙げている。

数千万、数億の年月を生き続ける不死の存在にとってみれば、人類種は地上にいつのまにか蔓延っているが、数千か数万の年月が経てばまた地上から全て消え去っているであろう塵芥に過ぎないことが明かされている。ゆえに、人類種とは時間感覚が全く異なる彼らにとっては、人類が今滅びようが数千年後に滅びようが数万年後に滅びようがたいして違いがないゆえに、人類はクトゥルフの眷属達から放置されているのだと語っていて、まさにこれはクトゥルフ神話の醍醐味だと感じましたね。

クトゥルフ神話の根源はまさにこれで、人間の生が数十年であり儚いように、人類種の種としての寿命も儚いもの(長く見積もっても数百万年。実際にはもっと短いでしょう。人間は技術によって自分の種を自分から急速に滅亡させられる自滅ができるので、今後もし不測の事態が起これば数百年、数千年すら危うい)であり、不死にして超越的な高次元存在(クトゥルーやアザトースやニャルラトホテプのような存在)や人間と物理的に同次元にいるが不死であったり時間を超越したりしている存在(ディープ・ワンやイースの大いなる種族)からしてみれば、いつのまにか地上に蔓延りいつのまにか消えている無数の種族の一つに過ぎないのですね…。

この惑星(地球)が経てきたほとんど知られていない茫洋たる歴史において、人類が、高度に進化した支配種族の一つ――おそらくは最小の種族――にしか過ぎないということなのだ。
(H・P・ラヴクラフト「時間からの影」「ラヴクラフト全集3」より)

ラヴクラフトの原典の中で既に人類種はたいして長続きしない地球の無数の覇権種族のうちの最小(この最小はおそらく種の寿命のことと思われる)の種族の一つに過ぎないって語られているんですね。この圧倒的な無常観を考えると、クトゥルフ神話で人類種が英雄的に振る舞うヒロイック・ファンタジーな展開をやっている作品は「虚しい…」って気持ちにどうしてもならざるを得ないですし、逆に本作のようにこの無常観を物語から醸しだしている作品は、クトゥルフ神話の真髄、メメント・モリを感じて良い作品であると感じますね…。

ちなみにこの「人類種を含む地球の無数の種の絶滅による種族交代の果てしない繰り返し」はラヴクラフトがクトゥルフ神話の基底として埋め込んだものなので、ここから脱するというのは凄く難しいんですが、この、ラヴクラフト神話の基底に挑んだ作品が日本にはあるんですね。それは、以前取り上げました「超時間の闇」(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1910576.html)に収録されている小林泰三さんの「大いなる種族」です!!
超時間の闇 (The Cthulhu Mythos Files)超時間の闇 (The Cthulhu Mythos Files)
著者:山本 弘
創土社(2013-11-07)
販売元:Amazon.co.jp

この作品は、クトゥルフ神話の中でもエポックメーキングな作品だと個人的には思っていて、先に挙げた「人類種を含む地球の無数の種の絶滅による種族交代の果てしない繰り返し」における人類種の役割を「最小の種族」という点はそのままに(時間の流れの中で人類の滅亡は避けられない)、それでいて見事にクトゥルフ神話全体を上手くひっくり返したような形で、人類と言う存在が、アザトースらと同じように、ある意味の永遠の中に入ることが出来た世界を描いています。イースの大いなる種族と人類との関係を描いた小説作品の中において最高傑作だと思いますね。「大いなる種族」はぜひご一読をお勧めする、「呪われた人魚姫」と並んで見事なクトゥルフ神話作品です。「大いなる種族」は小林泰三さんの初期傑作「酔歩する男」の続編にもなっているので、「酔歩する男」を読まれたお方々にもお勧めです。

青空文庫 「時間からの影」(H. P. ラヴクラフト The Creative CAT 訳)
http://www.aozora.gr.jp/cards/001699/files/57342_57668.html
「時間からの影」の他に「超時間の影」とも訳されています。たしかコリン・ウィルソンの訳にあった「時からの投影」というのも、「と」音の頭韻(←これも頭韻だ)が好みです。「チャールズ・ウォード」を訳しながら、こちらもなんとか訳してみたいと思っていました。
 
同じ主題を繰り返しながら、最後の一文目がけてじわじわとサスペンスを盛り上げる手法が最高です。そればかりではなく、「ああ自分もイースの円錐生物になって図書館に籠り、永遠に本を読み宇宙と時間の果てのことを知りたい」と思うのは私だけではないでしょう。時代閉塞の昨今、このようなコンテンツを最後まで読まれた方もきっと同じなのではありませんか?

ラヴクラフトは、自身も読書家であったゆえに、図書館のシステムや図書館の司書さんや図書館に通う人々(読書家の人々)にはそこはかとない好意を抱いていたようで、延々と宇宙的な図書館に篭って宇宙の始まりから終わりまで存在し続けて永遠の読書と研究に種族生命を捧げている「イースの大いなる種族」にはその辺のラヴクラフトの気持ちが反映されていると言われるので、「時間からの影」「大いなる種族」を読むときはその辺のことも頭に入れながら読むとより楽しめると思います。

超時間の闇 (The Cthulhu Mythos Files)超時間の闇 (The Cthulhu Mythos Files)
著者:山本 弘
創土社(2013-11-07)
販売元:Amazon.co.jp

玩具修理者 (角川ホラー文庫)玩具修理者 (角川ホラー文庫)
著者:小林 泰三
角川書店(1999-04)
販売元:Amazon.co.jp

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))
ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3))
ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈6〉 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集7 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈別巻上〉 (創元推理文庫)
ラヴクラフト全集〈別巻 下〉 (創元推理文庫)

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