若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来

ASKA氏の覚醒剤逮捕のニュース凄い勢いで流れてますね。キャスター達が口を揃えて「なぜASKA氏は薬物に手を出したのか?」と述べていますので、そのこと(人はなぜ薬物に手を出すのか?)を根源的に考えてみたいと思います。薬物乱用がなぜ起きるのかということを根源的に考察した論考としては、「銃・病原菌・鉄」で一世を風靡したジャレド・ダイアモンドが、人類種(ホモ・サピエンス)について考察した本「第三のチンパンジー」において第九章「なぜ煙草を吸い、酒を飲み、危険な薬物に耽るのか」にて考察していますね。この考察自体が、薬物使用に対する重大な歯止めとして働く良い考察だと思うので、以下、抜粋引用致しますね。

危険で有害な化学物質を、なぜこうも多くの人達がわざわざ好き好んで口にしたり、注射したり、あるいは吸い込んだりしているのだろうか。自らを進んで傷つけるこうした行為は、いまも原始的生活をしている部族から、ハイテク都市の住人にいたるまで、現代社会の多くに様々な形で存在している。そして薬物中毒の歴史を辿れば、私達が文字を使って過去を記録するようになった遥か昔まで遡る。一体、薬物中毒はどのようにして人という種特有の性質を為すようになったのだろう。(中略)

(ここで考察するのは)薬物に一度手を出してしまうとなぜ使い続けるのかという問題ではない。使い続けるのは、毒性化学物質の場合、中毒になってしまうからである。いったん使い出せば、薬物は人間の脳に影響を及ぼし、どうしてもやめられなくなってしまう。そもそも人はなぜ毒性化学物質に手を出してしまうのか、その点が謎なのだ。(中略)

(薬物に手を出す動機としての社会的な環境及び個人的な動機は薬物問題に関係するが)これらの動機は私達のパラドクス、つまり有害であることを知りつつもなぜ進んでそれを求めようとするのか(人間はなぜ進んで自己を破壊しようとするのか)という問題の本質を突いたものではない。(中略)

(人間がなぜ薬物に手を出し始めるかの根源的動機は)動物の世界において、一見すれば広く見受けられる自己破壊的特質に関連している。人に見られる危険な行動や自己破壊的な行動もこの動機によって説明することができるだろう。(中略)

(生物の自己破壊行動が何に起因するのかについては)イスラエルの生物学者アモツ・ザハヴィが1975年に発表した論文である。ザハヴィがこの論文で説いているのは、動物の行動について、大きな損失や自滅的な信号が果たす役割に関するこれまでにない理論だった。(中略)

(ライオンの前で誇示行動を行うことで知られるガゼルの)ガゼルが使っている信号は「ストッティング」と呼ばれる行動である。ガゼルはゆっくりと走っては、脚を伸ばしたまま、空中に高く高々と跳び上がることを繰り返すのだ。見た限りでは自滅的行動としか思えない。時間やエネルギーを無駄に費やしてライオンに襲い掛かる機会を与えている。

ザハヴィの理論はこのパラドックス(なぜ生物は自己破壊行動を行うのかのパラドックス)の核心をつくものだ。その信号が長い尾羽やストッティングのような行動のいずれかであれ、動物に危険をもたらすような信号は、それが動物に対して不利を強いるからこそ、偽りではないことを示す格好の指標(誇示行動)となっている。(中略)

ガゼルは数ある信号の中からストッティングを選び、ライオンはライオンでガゼルの信号をよく考え、その上でストッティングがガゼルの脚の速さと正直ぶりを示していると判断を下した――ここまで私は(自己破壊的な)信号をめぐる問題についてそんな調子で説明をしてきた。実際には、これらの「選択」は進化の産物で、遺伝子によって決定されたものなのだ。(自己破壊的な誇示行動信号によって)不要で意味のない追跡を免れたガゼルとライオンは、エネルギーを浪費することなく、一頭でも多くの子孫を残すことに向き合える。

多くの子孫を残せるように遺伝子に組み込まれた特徴や行動、つまりこの場合はストッティングのような(自己破壊的な信号である)行動はおおむね受け継がれていくというのが進化生物学の基礎となる原理なのだ。(中略)

薬物乱用といった更に危険な行動になぜ人が駆り立てられていくのか、その点についてもザハヴィの理論で説明がつくだろう。とりわけ、自分の地位を世間に認めさせようと多くのエネルギーを使い続ける青年期から大人になりかけの時期は、乱用をスタートさせがちな時期である。私が言いたいのは、鳥やガゼルを危険なディスプレイ(誇示行動)に駆り立てたのと同じ無意識の本能を私達人間も共有しているということなのだ。一万年前の昔ならライオンや敵対する部族に挑むことで誇示していたのだろう。現代では、猛スピードで車を運転したり、危険な薬物を使ったりするなど、もっと物騒な別の方法でやはり同じこと(生存を有利にするために偽りなき優秀さを示そうとする本能に基づく自己破壊的な誇示行動)をしている。(中略)

人間が持つ多くの動物的本能と同じく、現代社会においては危険な誇示はむしろ(生存に)不利に作用する。意識の底に埋もれた人間の本能は(自己破壊的行動を行うことは優秀さを示す誇示行動になるという)このメッセージがまがいものであることを見抜くことはできない。しかし、私達は人が持つ学習能力や判断能力を用いることで、この誤ったメッセージを克服し、それとは別の目的を選び取ることができる。

進化の点から見れば、動物の行動と人間の薬物乱用の間には基本的な違いが存在している。ストッティングや長い尾羽など、動物が示す信号にはコストが伴うが、得られる利益はこのコストを遥かに上回る。尾羽の長い雄もコストを払っている。長い尾羽は餌を探したり、捕食者から逃れる時に不利だ。しかし、この長い尾羽のおかげで雌を引きつけることができるので、交配上有利になり、補ってもあまりある利益を雄にもたらしてくれる。結局は、より少なくではなく、より多くの子孫に自分の遺伝子を伝えていくことなのである。一見すると長い尾羽は自己破壊的でしかないが、実際はこの鳥の遺伝子の生存には大いに役立っているのだ。

しかし、私達(ホモ・サピエンス)の薬物乱用はそうではない。利益よりコストが上回っている。麻薬中毒患者もアルコール中毒患者も寿命を縮めるだけではなく、配偶者候補の関心を引きつけるどころかその魅力をどんどん減少していく。子供を世話するために必要な能力さえ失ってしまうのだ。ガゼルのストッティングや鳥の尾羽とは違い、人間の薬物中毒の場合、コストを上回る隠れた利益を伴わないので継続はしていかない。しかし、それでも薬物中毒が続くのは、毒性化学物質に依存しているからなのだ。概して言えば、飲酒や喫煙、薬物の使用は、自己破滅的な行動にほかならないということなのである。

ストッティングの際、ガゼルも計算違いをすることはあるだろう。そうやって、ライオンも時にはご馳走にありついている。しかし、ストッティングに伴う興奮がやみつきになり、それで自殺を図ろうとするガゼルはいない。薬物に対する私達の自滅的な乱用は、動物の本能的な行動である起源を遥かに通り越してしまっているのである。
(ジャレド・ダイアモンド「第三のチンパンジー」)

本書は、人間は様々な不合理な動物的本能(現代社会においては不利に働く無数の本能)に支配されているが、それを知性によって認識すること、そして不合理な本能を抑える知性に基づく意志を持つことで、その本能の軛から脱する可能性を持てると説いている本なのですね。まさにその通りだなと思いますね…。

若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来
著者:ジャレド ダイアモンド
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