2016年07月02日 18:33

S・キングの軽めで面白いライトノベル風味小説「ドクター・スリープ」「公正な取引」

先日、S・キングの新作長編小説「ドクター・スリープ」を読了。とても面白かったのでご紹介致しますね。この「ドクター・スリープ」は、キングの代表作「シャイニング」の主人公ダン・トランスを再び主人公にした直接的な続編なんですが、重厚な文学的ホラーだった「シャイニング」より遥かにエンタテイメント(娯楽)的な作品です。まあ簡単に言うと、本作は日本で日本人作家が出すなら「超能力美少女対吸精鬼軍団 地獄のサイキックバトル対決」みたいなB級な題名になりそうな感じです。

本作はぶっちゃけていうと、超能力者として力が衰えつつもまだ力を保持しているおっさんになったダン・トランスが、ヒロインである超能力美少女アブラを助けて、二人&協力者達が、超能力者のエナジーを吸う怪物軍団と戦うという良い意味でB級アクション映画な話でして、なんか全体的にキングというよりはクーンツぽい感じですね。

キングの小説の特徴としては、凄まじく精緻に書き込まれる圧巻の描写力というのがあるんですが、これは逆に言えば、描写が濃すぎて中々読み進められない、飛ばし読みなんてもってのほかで読むのがスローペースになりがちということでもあるんですね。この「ドクター・スリープ」においては、その辺の精緻な描写みたいなのはかなりあっさり目になっていて、ライトノベル風味といいますか、全体的に軽い感じです。その分、テンポが良くて物語が凄いスピードでポンポン進んでいくんですね。

そして物語は先に挙げたように、「超能力美少女対吸精鬼軍団 地獄のサイキックバトル対決」なので、普通に面白いですが、後に残るようなものがあるかといわれると特にないです。この辺、先にあげたように本当にクーンツぽい。あと怪物軍団と戦う超能力おっさん&超能力美少女のコンビというのが日本のアニメとか漫画とかライトノベルとかゲームぽい感じですね。ヒロインは周囲に超能力を隠して暮らしている普通の学生なのでゲーム・オブ・スローンズ(アメリカのファンタジー小説・ドラマ)を見ていて、サイキック空間で敵の怪物とイメージバトルするとき、ゲーム・オブ・スローンズから戦う女騎士のイメージを持ってきて変身するとか最高に楽しい。気楽に楽しめる小説なので、普段、キングの小説を読まない方にもぜひ読んで見て欲しい読みやすくて面白い小説です。

ちなみにキングの小説で、本作のような緻密な描写よりもポンポン進む物語の軽快さを重視する小説ということでは、短編の「公正な取引」(「1922」収録)が一番だと思います。これはキングの短編の中でも凄く好きな短編なのでご紹介させて頂きますね。

この「公正な取引」の主人公は末期癌で死に掛かっているしょぼくれたおっさん。おっさんは偶然、悪魔と出会い、悪魔はこう言います。収入の15%を毎年くれるならお前の悪運を取り除いてやろう、ただし、取り除いた悪運を背負わせる相手が必要だ。その相手はお前が心から憎悪している相手でなければならない。

おっさんには、「親友」(と相手は思っている)がいます。それは子供の頃からスポーツが苦手でナード(オタク)だったおっさんを利用し続けているスポーツマンでハンサムな大金持ち。こいつはジャイアニズムの持ち主でして、金持ちでイケメンでモテモテなスポーツマンジャイアンと、特に金持ちですらないスネオみたいな関係です。子供の頃からおっさんはこのスポーツマンに利用され続けてきましたが、イケメンスポーツマンは周りから大人気でおっさんは冴えないナードなので何もいえません。そしておっさんは、スポーツマンの学業を全部肩代わりし、恋人は寝取られ、お金を融資したらそのお金でスポーツマンは実業家として大成功。スポーツマンの子供もスポーツマンでフットボールのエース選手、おっさんの子供はTVゲーム大好きなナード息子です。

ところが、悪魔と取引してから、おっさんの末期癌は瞬く間になおったばかりか、おっさんとおっさんの家族には毎年素晴らしい幸運が訪れ、おっさんの「親友」とその家族には毎年最悪な不幸が訪れます。この辺の毎年の描写がブラックユーモア満載の最高に笑える描写で、筒井康隆さんの短編とか髣髴とさせますね。一番笑ったのが、おっさんのナード息子はゲームクリエイターになり大人気ゲームを作って大成功!一躍時代の寵児になるんですが(息子は父親が悪魔と取引したこと知らないし、オタクだけど家族思いの良い子です)、「親友」のフットボール選手息子はコカインでラリって妻をフォークで刺し重傷を負わせて逮捕されるシーン。

これ、完全にS・キングの感情が入ってて最高に吹きました。S・キングってエッセイとか読むと分かるんですが、学生時代や小説家として成功する前の不遇時代は貧乏なナードで、ぶっちゃけスクールカーストの下位にいて、スクールカーストの最上位にいる金持ちのイケメンスポーツマンを心底から憎悪してますからね。キングの小説って基本は勧善懲悪ですけど、ナードやいじめられっ子が復讐する話だけは勧善懲悪じゃないんですよね。スクールカースト上位のイケメン野郎を吹っ飛ばす闇と魔の力こそ大勝利的な展開になる。

で、この小説もまさにその通りで、悪魔の取引は最高だぜ!で終わります。いやあ、最高に笑った。解説にも書いてありますけど金持ちのイケメンスポーツマンなんてタイプが心底から嫌いなナードの人々にとっては最高に痛快な小説でぜひ読んで欲しいですね。

(「公正な取引」は)いつもの緻密な語りとは異なる小気味よい筆運びで物語はどんどん加速してゆきます。(中略)普通に読んでいると痛快でさえある物語ですが、その痛快さの核心にあるのは、わたしたち読者のなかにある罪深く暗い愉悦であることに気づかされることになります。
(「1922」作品解題)

1922 (文春文庫)1922 (文春文庫)
著者:スティーヴン キング
文藝春秋(2013-01-04)
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ドクター・スリープ 上ドクター・スリープ 上
著者:スティーヴン キング
文藝春秋(2015-06-11)
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ドクター・スリープ 下ドクター・スリープ 下
著者:スティーヴン キング
文藝春秋(2015-06-11)
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