2016年01月06日 11:12

ケン・リュウ(劉宇昆)「紙の動物園」読了。史上最高のアジアン・SF短編集!!アジア系の人々への共感溢れた傑作SFです!!

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。新年初読了した小説が実に素晴らしかったので、ご紹介させて頂きますね。

中国系SF作家ケン・リュウ(中国名は劉宇昆)の日本初邦訳SF短編集「紙の動物園」新年初読了しました。これは凄い!!グレッグ・イーガンやテッド・チャンを越える新進気鋭のSF作家として注目を浴びているとのことですが、まさにその通りだよ!!

正直なところ、イーガンの短編集を生まれて初めて読んだ時よりも良い意味の衝撃を受けた。

なんというか…読めば分かるんですが、日本人が読むと、心から嬉しくなるような感じのイーガン的SFという感じです。主に中国、日本、台湾等の漢字アジア圏域及びその周辺の人々の姿をSFという形で描いている作品が多いんですね。白人であるグレッグ・イーガンには逆立ちしても描くことのできないであろう、アジア系の人々への共感に溢れたアジアンSFの傑作集です。これは作者さんの生い立ちが関係しているのでしょうね。中国の方だけあってSFモティーフとしての漢字の使い方が素晴らしく上手い!

ウィキペディア「劉宇昆」
劉宇昆(リウ・ユークン、英名:ケン・リュウ Ken Liu、1976年 - )は、アメリカ合衆国の小説家、翻訳家である。SF作品を得意とし、数々の賞を受賞している。中国系アメリカ人。

1976年、中華人民共和国の蘭州に生まれる。8歳(11歳という説あり)の時、両親とともにアメリカ合衆国に渡り、以後はカリフォルニア州のパロアルトで育つ。後、さらにコネチカット州のウォーターフォードに移る。

ハーバード大学に入学し、法律を専門に学ぶ。ロースクールを出て、法務博士号を取得し、卒業後は弁護士、コンピュータープログラマー、中国語書籍の翻訳者として働きながら、文筆活動を行っていた。

短編小説を中心に活動している。2012年に、「紙の動物園」でネビュラ賞とヒューゴー賞と世界幻想文学大賞の短編部門で受賞、史上初の三冠を達成した。2013年もヒューゴー賞の短編部門で受賞した。2015年に初の長篇となるファンタジー”The Dandelion Dynasty”を刊行。シリーズ化の予定である。また、翻訳家としても活動し、中国の作家を英語圏に紹介している。

作風は、東洋の伝統を下敷きにした細やかな情感を特徴とする。自身の出自である中国文化を背景にした作品も多い。また、日本での初翻訳となった「もののあはれ」のように日本人を主役とした作品もある。著者は日本の漫画「ヨコハマ買い出し紀行」に啓発された作品と語っている。

「紙の動物園」は、先に挙げたように主に漢字アジア圏域出身の人々の近未来やパラレルワールドでの姿をリリカルに叙情性たっぷりに描き出し、なおかつ先端的なSFガジェットたっぷりに謳いあげた傑作SF短編集。アジアンなイーガンって感じですね。日本や日本人をテーマとした作品が多く、日本と日本人にとても好意と共感を寄せていることが伝わってくるのも嬉しい。本書作品の中でも日本テーマの最高傑作といえる「もののあはれ」とかとても感動した。この作品をちょっと紹介いたしますね。

世界のほかの場所で起きていることをTVで見ていた――略奪者がわめきながら、往来を踊り狂い、兵士や警官達が宙に向かって、時には群集に向かって発砲していた。燃える建物、ぐらぐら揺れる死体の山、大昔からの不平不満に対する復讐を誓って荒れ狂う群衆を前にして声を張り上げている将軍達。この世が終わろうとしているのに。(中略)

(地球は小惑星との衝突で崩壊し、脱出も不可能と分かったのに、それを知って日本国内の日本人は)
「みんなただ家に帰ったの?」信じられないという表情を浮かべてミンディが訊く。

「そうだよ」

「略奪はなかったの?パニックに駆られて逃げ惑う人々や、街中で反乱を起こした兵士達はいなかったの?」

「それが日本なんだ」自分の声に誇りが滲んでいるのが分かる。父さんの誇らしげな声を真似ていた。

「みんな諦めたのね」ミンディは言う。「諦めちゃったんだ。文化的なものかもしれないわね」

「ちがうよ!」声を荒げないように努める。ミンディの言葉は僕をいらだたせる。碁が退屈だというボビーの発言と同じように。「そういうもんじゃなかったんだ」
(ケン・リュウ「もののあはれ」)

この作品は、小惑星との衝突で地球が滅び、ほんの僅かな人々だけがたった一隻の外宇宙恒星間移民船で太陽系から脱出した先の物語。幼い頃に移民船に乗ることが出来た、日本人の最後の生き残りである大翔の一人称で話は進みます。

面白いのは、たった一人の、最後の日本人の姿を描くことで、日本と日本人というもはやない国と国民(地球そのものがなくなっている)の姿がまざまざと浮かび上がってくるところですね。SFならではの見事な構成です。「日本沈没」とか和辻哲郎の「風土」とか思い出しましたね。『日本人論』SFとしても秀逸で、日本人として読んでいてちょっと照れくさいけど凄く面白いです。

僕もひどく疲れて、一瞬でいいから目を瞑りたい。

夏の夜、僕は道を歩いている。かたわらには父がいる。

「日本人は、火山と地震と津波と台風の国に暮らしているんだ、大翔。地下の炎と上空の凍える真空とのあいだにはさまれた、この惑星表面の細長い土地に縛られ、いつなんどき生命の危機に襲われるかもしれない暮らしをずっと送ってきた」

と、宇宙服を着ている自分に戻った。一時的な集中力の欠如から、背中に背負った荷物を太陽帆の梁の一本にぶつけて、あやうく燃料タンクの一本が外れ落ちてしまいそうになった。すんでのところでタンクをつかんだ。すばやく動けるよう、装備の重量を最後の1グラムまで軽くしていたため、ミスする余地はなかった。何も失うわけにはいかなかった。

「とはいえ、それが死の近さを、一瞬一瞬に宿る美しさを意識させ、耐え忍ぶことを可能にしているんだ。もののあはれは、いいか、宇宙と共感することなんだ。それが日本という国の魂なんだ。それが絶望することなくヒロシマを耐え忍び、占領を耐え忍び、都市の崩壊を耐え忍び、全滅を耐え忍ばせたんだ」
(ケン・リュウ「もののあはれ」)

地球が滅亡するときにもテレビ東京は普段通りアニメ流してそうですよね…。日米の風土に基づく文化性の違いみたいのが、日本人の最後の生き残りである大翔とその恋人のアメリカ人のミンディとの間にあるのが面白い。この作品だけでなく、ケン・リュウの作品は、「紙の動物園」に収録されている作品はどれも、風土に基づく文化性の違いによるコミュニケーション・ギャップを凄くセンシティヴに描いていて、それが魅力となっています。

本当に傑作ぞろいのSF短編集、日本人のSF好きなら必読と言っていい、見事な作品集、心からご一読をお勧め致します。

余談ですが、ケン・リュウの作品は表題作「紙の動物園」や上記の「もののあはれ」など「漢字SF」としての側面も持っていて、漢字を主言語として使う国として「日本、中国、台湾」は文化言語的共通項があるわけで、もうちょっとこの三国は仲良くできてもいいと思うのですが、現実の国際情勢はなかなか上手くいきませんね…。

「古代唐の詩人李商隠の「楽遊原」という題の詩だ。李商隠は中国人だが、彼の詩情はとても日本人的だ」
(ケン・リュウ「もののあはれ」)

『登楽遊原(楽遊原に登る)』 李商隠 書き下し文・現代語訳(口語訳)と文法解説
http://manapedia.jp/text/1975
現代語訳

夕暮れになると、心が満たされなくなって

馬車を走らせて古原に登った。

そこから見える夕日は限りなく素晴らしいのは

黄昏がすぐそこに迫っているからだ。

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
著者:ケン・リュウ
早川書房(2015-04-22)
販売元:Amazon.co.jp

風土―人間学的考察 (岩波文庫)
日本沈没 上 (小学館文庫 こ 11-1)
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