2015年04月06日 19:45

S・キング「アンダー・ザ・ドーム」「11/22/63」読了。両方傑作ですが、特に後者が凄い。タイムループSFとして五指に入る素晴らしい出来と感じました。

11/22/63 上
11/22/63 下

先日図書館に行ったら近年のS・キングの本が揃っていたので、まとめ借りして、ただ今、長篇「アンダー・ザ・ドーム」「11/22/63」を読了。両方息もつかせぬ面白さで素晴らしかったんですが、特に面白かったのは後者、「11/22/63」ですね。前者をさらっと紹介した後、後者をメインに紹介させて頂きますね。

前者「アンダー・ザ・ドーム」は、キングお得意の一つの街が超常的な力と人間の悪意によって丸ごと滅びる様を描くパニック都市SFホラー。アメリカ郊外の一つの地方都市が超常的な力の壁を作られて完全封鎖されてしまい、そして最終的に崩壊するまでを描いています。小松左京さんのSF「首都消失」や「物体O」との共通点を指摘する書評が多いようですが、僕は同じく小松左京さんのSF「アメリカの壁」(アメリカが全世界と縁を切って、超常的な力の壁の中に引きこもるSF)を思い出しましたね。壁の内側で壁が消えると困る悪しき連中(連中は巨大な麻薬犯罪や殺人を行っており、壁の消失はFBIらによる逮捕を意味する)が壁の内側で権力を握って、壁を維持しようとするというのが、内側から壁を作って篭っているアメリカの壁っぽいなあと…。

「アンダー・ザ・ドーム」、面白かったんですが、まあ、正直、ハリウッド映画のお約束的な「爆発落ち」には、『なんでも大爆発させて全てがチャラになればいいってもんじゃないよな…』と思ったのも確かですね…。何もかもが吹っ飛んでチャラになるので、読んでて悲壮感よりも、「またこれか!!」という感情がわいてくるような…。終盤は読んでて頭の中にWe'll Meet Againが流れていました。

博士の異常な愛情 We'll Meet Again
https://www.youtube.com/watch?v=094cdbHSMVk

まあ、キングらしい骨太のパニックサスペンスとして、全体として面白く読めました。なかなかお勧めですね。

「11/22/63」は、これは、本当に大傑作ですね。タイムトラベルSFであり、ケネディ大統領暗殺を防ごうとするタイムトラベラーの悲劇を描いています。構造的には、予知能力者の悲哀を描いたキングの「デッド・ゾーン」と同じなんですが(デッド・ゾーンも凄く好きな作品です。キングに嵌ったきっかけの一つで、凄く感動しましたね。思い出すだけで涙が…)、本作はデッド・ゾーンよりも、倫理的に深化していると感じましたね…。

「未来を知っていることで、過去を改変する」これら人知を超えた力を行使しても、それが逆に災厄を招いてしまうというのは、凄く皮肉で、なおかつ人間の限界を描いており、極めて倫理的に真摯な姿勢を感じましたね…。SF作品としては構造的にはケヴィン・J・アンダースンのSF小説「臨界のパラドックス」と同じネタなんですが、現状のアメリカの軍事的動き(核戦略等)を肯定しようとする意図が透けて見える「臨界のパラドックス」とは比較にならぬ、真剣な悲劇性を本作は孕んでいますね。過去を改変することで起きるその悲劇はイデオロギーから完全に離れている人知の及ばぬものであるところに好感が持てました。まさに、古代ギリシア悲劇の数々から、現代アニメのジョジョの奇妙な冒険のEDテーマにまで歌われている通り、「運命というのは正確には読み解けないものさ」

ジョジョ新ED【アク役◇協奏曲 〜ホルホースとボインゴ〜】
https://www.youtube.com/watch?v=opin9fLh1zE

本作「11/22/63」はある種のタイムループ物になっていて、未来の知識により過去を改変するとより巨大な災厄と悲劇が齎されるが、過去を改変しなければ愛する人が損なわれる耐え難い災厄と悲劇が齎されるというのが、主人公にとってとてつもないジレンマになっていて、物語の構造が一直線だったデッド・ゾーンに比べると、凄く深みを増しているのですね。

これはループ物タイムトラベルSFとしても、他から群を抜いた秀逸な出来で、それはやはり、『未来を改変するとより巨大な災いが起きるため、未来の悲劇を正確に知りつつも悲劇を回避するための改変ができない』という本作のテーマ性(人知を超えた超常的な力で世界を改変することはできない、そのようなことを無理に行えば破滅が起きてしまうという倫理的なテーマ性)に起因していると思いますね…。タイムループ物の傑作映画「バタフライエフェクト」を、より大きなテーマで描きなおしたような感じを受けましたね。アメリカの「ニーバーの祈り」がベースにあるのだと思います。

ウィキペディア「ニーバーの祈り」
ニーバーの祈り(ニーバーのいのり、英語:Serenity Prayer)は、アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーが作者であるとされる、当初、無題だった祈りの言葉の通称。(中略)

日本語訳(翻訳者:大木英夫)

神よ
変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。

タイムトラベラーの主人公は、最後は過去の改変を断念するのですが、ボロボロになったそんな彼を支えているのは、過去を変える(ケネディ暗殺を防ぐ)ことで未来がより良く変えられると信じて、愛する人と共に過ごした過去の幸せで情熱的な日々、それらの過去の思い出なんですね。しかしそれさえも、過去の改変を断念することで全てはリセットされ、ただ、彼自身の記憶の中のみの思い出となってゆく…。素晴らしく切なく悲しい終わりでした。でも決して読後感は悪いものではない。それは読者も彼の熱意に充ちた行動をキングの素晴らしい筆力によって追体験しているからだと思いますね。作家の力量というものをひしひしと感じさせられました。読んでいて、ラスト、星新一の「鍵」を思い出しましたね…。

なにもいらない。いまのわたしに必要なのは思い出だけだ。それは持っている。
(星新一「鍵」)

SF好き、特にタイムループ作品が好きなSF好きには絶対読んで欲しい作品です。素晴らしい見事なSF作品、キングのSF小説の中でも、最も優れた作品の一つであると思います。


11/22/63 上11/22/63 上
著者:スティーヴン キング
文藝春秋(2013-09-13)
販売元:Amazon.co.jp

11/22/63 下11/22/63 下
著者:スティーヴン キング
文藝春秋(2013-09-13)
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アンダー・ザ・ドーム 1 (文春文庫)
アンダー・ザ・ドーム 2 (文春文庫)
アンダー・ザ・ドーム 3 (文春文庫)
アンダー・ザ・ドーム 4 (文春文庫)
デッド・ゾーン〈上〉 (新潮文庫)
デッド・ゾーン〈下〉 (新潮文庫)
臨界のパラドックス (ハヤカワ文庫SF)
妄想銀行 (新潮文庫)
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