はるまで、くるる。

同人SFノベルゲームの「J.Q.V 人類救済部〜With love from isotope〜」先ほどクリア致しました。いやあ…思った以上に遥かに凄い作品、実に素晴らしい出来で…久々にノベルゲームをプレイして感無量になりましたね…。SFノベルゲームとして最高峰の一つであり、田中ロミオ作品のオマージュとしても最高峰であると思います。今年は「はるまで、くるる。」(http://nekodayo.livedoor.biz/archives/1668211.html)といい、本作といい、滅多にみないレベルのSF良作ゲームが出て素晴らしいな…。

「J.Q.V 人類救済部〜With love from isotope〜」公式サイト
http://www.studio-beast.com

とらのあな「J.Q.V 人類救済部〜With love from isotope〜」
http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/04/63/040030046372.html

本作は「人間が動物に突然変容してしまう、動物化した後は人間だった時の特性(記憶・人格)は一切失われる」という「EO」と呼ばれる奇病の蔓延により、人類がほぼ滅亡した後の世界が舞台。既に世界に生き残っている人類の数は100人弱で、全員一箇所に集まって暮らしています。なんとか生きのびているその100人もいつEOを発病するか分かりません。しかもこの世界は地球環境が極度に悪化しており、EO以外にも地球環境の悪化と他の疫病の蔓延で、「人類が完全滅亡する5秒前」みたいな超絶に終わりかけている状態です。

「EO」が具体的に人体に対してどういう具体的メカニズムで発生するかは、最初から最後までそれほど詳しく説明されないので、「う〜ん…人類が動物に変容するというイメージは鮮烈だけど、SF的な説明の部分は弱いなあ…SFというよりファンタジーかな。人間が動物に変容するというイメージにおいても、同じテーマ(人間が動物に変容するテーマ)のSFである神林長平さんの『あなたの魂に安らぎあれ』の方がイメージがより鮮烈で説明もしっかりしていたなあ…」と思っていたのですが、後半の展開が物凄いです…。上記で思っていたことを良い意味で完全にひっくり返してくれました。

人間が動物に変容する「EO」は、実はこの作品のメインテーマではないんですね。本作は、人類の数がどんどん減って、最終的に三人になってしまっている状態から、主人公が、過去(まだ人類が普通に存在した頃や、人類の残りが100人弱になってしまった頃)を想起するシーンと、現状の「人類の生き残りが三人」の状態が、過去現在入り混じった形で描写されるという特殊な物語の語り方をしているのですが、それにもちゃんと意味があった。本作の世界は観測(人間の行う「人間的観測」)によって存在している世界なのですね。

君は、君が見ているときだけ月がそこに実在すると本気で信じているのかね。
(アインシュタイン)

本作の世界は「強い人間原理」の世界なんですよ。物語の中で「この世界は神がサイコロ遊びをしまくっている不確定の反アインシュタイン的世界」ということを語っていますが、まさにその通りの世界なんですね。この世界では「人間が見ているときだけ月がそこに実在する」、逆に、人間(観測者)が存在しないとき、世界は不確定の確率の波で、確固たる世界自体、全く存在しない。

奇病の「EO」は人間的観測者(世界内存在)、自己と世界を区分して自己が世界を観測していることを自覚できるある程度知能と精神が発達した存在、IQが70以上で精神の三層構造を持つ観測者にしか発病しないのですが(動物や人間でも乳幼児などには発病しない)、どうやらこの病気は、自分で自分の存在を観測して改変させてしまう病気のようなのですね。

不確定な確率の波(波動関数)で成り立っているこの世界は、人間的観測者によって左右され、人間的観測者の数が多いときは、観測者同士の観測により、観測結果が固定されるのですが、観測者が極端に減少すると(人類の生き残りが数人とか、一人とかいうレベルになってくると)、観測者の主観と世界の客観の境界が消滅し、観測者の主観によって、世界が夢のように極端に形を自由自在に変えてくるのですね。物語の後半はこの悪夢的世界になってゆき、ドグラマグラ的な奇怪な世界の面白さが素晴らしいです。主観的な人間的観測が夢のように不確定な世界を決定付ける、「波動関数が常に発散している不確定でゆらいだ世界」というのは、山本弘さんのSF「「シュレディンガーのチョコパフェ」「オルダーセンの世界」「夢幻潜航艇」(「シュレディンガーのチョコパフェ 」「アリスへの決別」に収録)を彷彿とさせますね。人類(観測者)の数が極端に減少した本作の世界はまさに亜夢界(リダンダンシーの低い世界)なのですね。

「亜夢界へようこそ」
http://homepage3.nifty.com/hirorin/amukai.htm
夢って何?
 ここで言う「夢(ドリーム)」とは、夜見る夢ではありません。クオークの「カラー」や「フレーバー」と同じく物理用語です。いわゆる“シュレディンガーの猫”のような、真でも偽でもない状態のことを指します。
 本来、宇宙のすべての事象は夢で構成されています。ですから、現実と架空の区別は存在しません。あなたがたが住む「現実」と呼ばれる世界は、広大な夢の海の中の、現実と架空の対称性が自発的に破れた小領域にすぎないのです。
 亜夢界は現実に近い構造を持ちますが、わずかに夢の海に沈んでいます。規格化によって安定していますが、細部は常に変化しており、現実ほど堅苦しい構造を持ちません。因果律の反転は日常茶飯事です。

規格化って何?
 宇宙と意識が互いの状態を束縛し合うことを言います。
 もしあなたが16世紀のヨーロッパや10世紀の南米に生きていれば、21世紀の日本人としての意識状態を持てなかったはずです。つまり宇宙の状態があなたの意識が取り得る状態の幅を定めています。これを内規格化と呼びます。
 一方、あなたが21世紀の日本人としての意識を持っているということは、あなたの周囲の世界は16世紀のヨーロッパや10世紀の南米ではあり得ません。つまり意識の状態が宇宙が取り得る状態の幅を定めています。これを外規格化と呼びます。
 意識が宇宙なしには存在できないのはもちろんですが、宇宙もそれを認識する意識なしには存在できません。こうした考え方を「人間原理」と言います。(中略)

リダンダンシーって?
 「冗長性」と訳されます。その相がどれほど多くの意識に支えられているかを示します。
 何億という意識によって共有されたコイノス・コスモス領域(観測者が沢山いる領域)は、リダンダンシーが高く、きわめて安定しています。一方、支える人が少数しかいない相(観測者がほとんどいない領域)は、リダンダンシーが低く、じきに夢の海に沈んでしまいます。

最後、世界に生き残った唯一人となった主人公は、この「亜夢界」としか言いようがない世界の唯一の生き残りとして、一つの決断をするのですが、ここがちょっとう〜ん…。主人公の主観による世界創造は、主人公が外界を観測し始めた、つまり既に地球の環境破壊と奇病EOやその他の致命的疫病の蔓延が起きた後の破滅的状態以降時間軸の、主人公が実際に体験したいずれかの時間軸にしか戻せないということなのかな…。10年前にも戻せるみたいなことが作中で言われていますが、主人公の世界創造の能力がそれだけ大きければ、『地球環境の破壊が起こらず、奇病EOもその他の致命的疫病も起こらず、人類が普通に発展している平和な世界』を具現化できたんじゃないかなと…。

実はこの世界は、EOの蔓延により人類が滅び、ヒロインの芽衣が、生き残った人類最後の観測者になった時、彼女がその孤独な世界において主観で望んだことによって生まれた世界(主人公は人類の救いと救世主を望んだ芽衣の心象風景が生み出した芽衣のアニムスであり、主人公の記憶や生い立ちは芽衣自身のもの)なので、芽衣の能力(不確定の量子世界から自分が望む世界や人物を具現化する)を考えると、「世界で生き残った観測者が一人の時、その観測者が世界を主観によって創造できる」という自覚のある主人公(芽衣にはこの自覚がなかったので世界を上手く創造できなかった)は創造主のように何でもできるように思えるし、それならば、人類85億人の死という究極的な悲劇の起こらない世界を最初から創造すれば良かったんじゃないかなとどうしても思ってしまいますね…。

もし、主人公の世界改変が「主人公が外界を観測し始めた後、つまり既に地球の環境破壊と奇病EOやその他の致命的疫病の蔓延が起きた後の状態かつ、主人公の体験したいずれかの時間軸にしか戻せない。また大きな世界改変はできない」ということであれば、主人公の行った最後の行動(とある希望の具現化)には大いに意味がありますね。この場合は、実にSFらしい、希望のある終わり方でとても良かったと思います。ラストは小松左京さんの「継ぐのは誰か」を思い出していました…。

後はナタリアがなぜ世界を観測できない存在なのか分からないので、その説明があるともっと良かったかな。人類種でありある一定以上の知性と自意識があれば世界を観測している観測者である(動物や乳幼児など観測能力がない場合は観測者になれず、奇病EOも起こらない)とされている世界で、なぜナタリアは世界を観測できないのか。ナタリア自身が観測者になれない理由とか最後まで分からなかった…。観測者としての能力を持たない上に観測されない偶発的なイレギュラーの確率存在として誰かに観測された存在ということなのかな…。この世界は確率論の世界で、観測者が減少して、観測者の主観と世界の客観の境界が消えて超低確率の事象の発生率が恣意的に上がっている量子化された世界(トンネル効果がマクロに適用できてしまう世界)なので、なんでもありっていっちゃなんでもありなんで、「全ては確率的になんでもありだからしかたない」と考えるのも物語的にやぶさかではないのですが…。もう一度プレイしてテキスト読み返そうかな…。何か見落としているのかな…。今読み返すと、ナタリアの超常的な能力は主人公の観測を上手く誘導しているという風に語られているけど、それだと、一体どうやって主人公が「ナタリアの死」を観測した後、ナタリアが復活したのかも分からない…ナタリアの存在がますます分からなく(^^;ナタリアの正体についてSF的に解説する番外編とか出ないかなあ…。

本作、田中ロミオさんのオマージュ作品としても優れていますね。田中ロミオ作品というと「ぶっ壊れている主人公」でして、本作もそれを踏襲していますが、本作はそれが更に捻ってあって、ヒロインと主人公が表裏一体の鏡像のような存在なのですね。主人公はヒロインの観測によって生み出されたヒロインのアニムス(理想像)なので、ある意味、全ては予定調和だったと考えることもできるのが面白いな。ヒロインが人類の救済と自身の救済を願って生み出した自分の分身であるヒーロー(主人公)が、最後は、人類がEOや地球環境悪化や疫病で滅亡せずに、新たなる人類種として再び地球に生き永らえる可能性の希望を残しますので、物語全体を見ると彼女の願いは叶ったと言えるんですね。

本作は選択肢が一切ないというところも、「人類最後の観測者であるヒロインの観測によって生み出された最終的な予定調和だったのでは」という感じがして、SFゲームとして色々仕掛けがある感じが実に面白いです。本作の中に「皇帝の新しい心」の量子論的自由意志論が出てきますが、物語の最初から最後までの流れは実は最後の観測者であった芽衣による予定調和な感じがして、果たして彼ら(芽衣と彼女の分身である主人公によって観測された人類の生き残り達)に自由意志などあったのかどうか分からないというところが実に面白く、SFとして実に捻りが効いています。僕はナタリアと同じくマテリアリスト(唯物論者)なので、量子論の不確定性と人間の自由意志の問題を安直に結びつけることはできないと考えていますので…。ミクロ(量子世界)を簡単にマクロ(現実世界)に適用すべきではないですよね…。ミクロとマクロが無限大に離れていることを考えると、むしろ観測による予定調和が起きたのではないかと考える方が自然かなと…。

本作はSFとして実に先進的な素晴らしく良く出来た作品、SF好きはぜひプレイして欲しい傑作です。田中ロミオ好きにもお勧めですね。SF好きでしたら間違いなく時間を忘れてプレイして、プレイ後は素晴らしいSFを読了した時の感動、センス・オブ・ワンダーが味わえること間違いなしの傑作です。「はるまで、くるる。」の時も書きましたが、SFマガジン、早川書房は、こういった優れたSFをどうか取り上げて欲しいですね…。多くのSF好きにプレイして欲しいです。こういった作品こそまさに「SFは元気だよ」ということの身を持った証明になると思うのです…。SF好きとして、巡り合えたことが嬉しくなる良作、お勧めです。

最後に余談ですが、アメリカのSFだと、人間が量子世界の観測者となって創造主となるというパターンはあまりない感じで(この展開があるのはルーディ・ラッカーのコメディSFぐらいな感じ)、人間が量子世界の観測者になって世界を改変するときも、ダン・シモンズの「うつろな男」のように相当に抑制が効いているように思いますが、日本のSFだと人間がまさに「なんでもありな創造主」となる、最高にはっちゃけた展開が多いように思いますね。この辺、キリスト教の持つ抑制的影響の大きいアメリカと、そういった抑制的な影響の少ない日本の違いがSFを通して現れ出でているような感じで、SFを読んでいて文化の違いを感じて面白いですね。

シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)
アリスへの決別 (ハヤカワ文庫JA)
あなたの魂に安らぎあれ (ハヤカワ文庫JA)
継ぐのは誰か? (ハルキ文庫)
うつろな男
時空の支配者 (ハヤカワ文庫SF)
皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則
はるまで、くるる。
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