2012年03月16日 23:28

今日のNHK世界遺産、テルマエ・ロマエに出てくる「ティボリのハドリアヌス帝別荘」特集でしたね。皇帝の孤独が伝わってきます…。

ハドリアヌス帝の回想

今日放映されたNHKの番組「世界遺産」、テルマエ・ロマエに出てくる、ルシウスが皇帝を訪ねる時に行く舞台「イタリアティボリのハドリアヌス帝別荘」の特集で、美しくも寂しい円形の皇帝住居に皇帝の孤独を感じましたね…。良い特集でした。

ティボリのハドリアヌス帝別荘はテルマエ・ロマエで描かれる通りの場所でして、優れた建築家であった皇帝自らが設計し建設したその住居はテルマエ・ロマエでルシウスが驚いた通りの建築物。テルマエ・ロマエがきちんと史実の建築物を模して建築物を描いていることに好感を覚えました。皇帝の住居である円形の大きな堀に囲まれた円形の建築「海の劇場」そのままが跡地として残っていて、歴史の長い流れを感じさせてくれます。東京ドーム26個分という広大な別荘の敷地には、皇帝が愛したナイル川の支流「カノープス」を模した人工の川が流れており、皇帝はこの河を見ながら、ナイル川で亡くなった愛人アンティノウスのことを想ったんだろうなと感じさせてくれますね…。

晩年の皇帝は身体を壊し、中心住居である海の劇場に引きこもって孤独でそこで暮らしたと説明がされておりました。海の劇場は円形43メートルになるように設計されていて、周囲を取り巻く堀には可動式の橋が掛けられ、出来うる限り人の出入りを制限し、43メートルの円形の住居に皇帝一人がこもりきりで人とは交わらずに孤独に暮らしたそうです。この43メートルの円形住居は、皇帝が設計建築したローマの祭儀神殿「パンテオン」の設計と似通っており、パンテオンは神殿の中がちょうど43メートルの立体的な円形になるように建築されている、これは、古代ローマにおいて、ローマを中心とした世界は円形の世界として捉えられており、皇帝がそれを建築において「小世界」として表現したのではないかとされているそうです。

ハドリアヌス帝は、人との交わりを好まず、孤独を愛する人であったと説明がなされていましたが、自分で作った円形の小世界にこもって孤独に暮らす皇帝の姿には、僕は深い共感を覚えずにはいられないです…。晩年になって身体を壊し政治力が減衰し、そしてやっと、大勢の部下たちに取り囲まれるローマを統治する皇帝としての孤独から、一人での生活を行う自由のある孤独へと生活が変わったのかなと感じさせてくれますね…。ユルスナールの「ハドリアヌス帝の回想」では死を迎えつつある皇帝が、美的で洗練された観念的嗜好を持ちながらも、最後までローマの煩雑で俗世的な統治に頭を悩ませていますが、皇帝の海の住居での孤独な晩年を見るに、最後は皇帝に美的な孤独の自由があったと思いたいですね…。

ハドリアヌス帝の回想(白水社)マルグリット・ユルスナール著 多田智満子訳
http://plaza.harmonix.ne.jp/~usausa/usa40shi/bok/usa41008.html
 作品(ユルスナール「ハドリアヌス帝の回想」)では「古代人の中でも最も現代的であった」と称されるハドリアヌスの複雑な性格と、その彼が地味に見えて波乱万丈だった数々の難題を解決していった統治の行跡、そして狩猟や詩吟や彫刻に象徴されるギリシア文化への耽溺を心から望みながらも、皇帝としての責務を死の直前まで優先させざるを得なかった悲劇。そうした皇帝の姿が実にハドリアヌスらしい筆致で語られています。

 作者自身が「考古学者が外側からやったことを、内側からやり直す」と述懐する作品では膨大な史料をもとにして構築されたであろう、歴史上のハドリアヌスの姿が虚構を交えることなく、ですが美しく飾られて描き出されています。生前のトライアヌスの征服計画を断念してまで、防衛に専心することを選んだ苦悩や帝国中を巡回してパックス・ロマーナと呼ばれるローマの平和を維持する皇帝としての責務、それらを放り出すことがないまま時としてギリシアに伝わる秘儀に参加し、獅子を狩る夢を抱き、詩を口ずさんで美しい彫像や若者を愛する。賢帝であるために最後には自分の望みを犠牲にせざるを得なくなった、病に倒れた皇帝の晩年を知る者であればなおのこと綴られている回想に彼の悲劇を感じることでしょう。

 心からギリシアを愛したハドリアヌスは、もしかしたら皇帝ネロのように心からギリシアだけを愛する日々を送りたかったのかもしれません。ですがネロにならなかった、あるいはネロになれなかったハドリアヌスはそれだけにいっそうギリシア的な官能を感じさせる人物となっています。皇帝としての散文的な生活を送る中でも、詩人の心を忘れることがなかった皇帝が後の「哲人皇帝」に送る言葉はあまりに静かで美しく、それでいてほとばしるほどの情熱を感じさせずにはいられません。

 この作品を読んで思った感想は二つ、一つはマルクス・アウレリウスが残した「自省録」のような述懐をハドリアヌス自身が記していたらこのような作品になったのではないかということと、もう一つはこの作品を読んで最も喜ぶ者がいるとすれば、それは自分の姿をこれほど美しく描いてもらった当のハドリアヌス本人ではなかったろうかということです。官能的で情熱的ですらありながらも、現実の中に生き続けねばならなかった皇帝ハドリアヌスが自らの死に際して残したと伝えられている詩文があり回想は締め括られます。

小さな魂、さまよえるいとおしき魂よ
汝が客なりしわが肉体の伴侶よ

汝はいま、青ざめ、硬く、露わなるあの場所
昔日の戯れをあきらめねばならぬあの場所へ降り行こうとする

いましばし、共にながめよう
この親しい岸辺を、もはや二度とふたたび見ることのない事物を
目をみひらいたまま、死のなかに歩み入るよう努めよう・・・

ハドリアヌス帝の回想
ハドリアヌス帝の回想

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