ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語 (Zoran Zivkovic's Impossible Stories)

ユーゴスラビアのSF作家ゾラン・ジフコヴィッチの短編集「ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語」読了。この作家さんはSF評論家の巽孝之さんが高く評価しており、東欧SF・ファンタチスカ短編集「時間は誰も待ってくれない」に載っていた短編も面白かったので、どんなものかなと思って読んでみたら…

凄すぎる…。素晴らしいです。ボルヘスとレムが融合してそこにカフカをひとふりしたようなめくるめく幻惑的な作風の幻想SF、読み終わったいま、今現在における今世紀最高のSF作品集と感じています。なぜこんな凄いSF作家を日本は埋もれたままにしているのか、なんでこの作家さんの日本語訳、これ一冊しか出てないの?早川書房はこんな凄いSF作家を見過ごさないで、SFマガジンに1982年に掲載された短編など収録した日本語訳作品集出してください、もっと読みたいです!!(本書は黒田藩プレスより出版)

とにかく、テッド・チャンやグレッグ・イーガンの日本初邦訳を読んで衝撃を受けたSFファンのお方々は今すぐ読んで欲しい作品です。ボルヘスやレム、カルヴィーノがお好きなお方々、幻想文学、SF小説が好きなお方々、最高に楽しめることを保証致します。読了した今、じわじわ衝撃が来ています。カフカやボルヘスやレムやカルヴィーノを始めて読んだ時、テッド・チャンやイーガンを始めて読んだときと同質の衝撃と胸の高鳴り、通常の書籍とは全くレベルの違う作品を読んだときのドキドキが来てますね…!!

ボルヘスの幻想小説が平屋建ての小説だとすると、本作はメタ・高層ビルディングみたいな作風で、平易な現実世界(東欧の日常の一こま)を舞台にしながら、そこにメタ的な幻想が果てしなく折り重なっていて、凄いとしか言いようがないです。SFセンスはレムに似ている感じですね。量子論の波動問題がベースになっている「換気口」にはイーガンぽさも感じました。作品集には「ティーショップ」「火事」「換気口」の三作が収録されていますがどれも幻想文学としてもSFとしても傑作です。

まず、文章に凄く良い意味で味と気品があります。最初は東欧の普通の日常を描いた平易で読みやすい品のある文章ですが、それだけではなく、すうっと、東欧の普通の現実世界から不可思議な幻想の世界にいつのまにかシフトしている、独特の味のある展開が物凄く見事に、いつのまにか行われているんですね。凄いです。思わず夢中で読み耽っていました。こんなに時を忘れて読むのは久々です。

個々の作品を紹介いたしますね。「ティーショップ」は、列車待ちで、二時間半空きが出来てしまった女性が、街のティーショップに入って時間をつぶそうとする話。このティーショップが不可思議なお店で、最初は筒井康隆の「薬菜飯店」みたいな話かなと思ったら全然違いました。このお店には色んな不思議なお茶がありますが、それは、物質的なものに限らないんですね。このお店では「物語のお茶」をお出しするのです。これが実に凄い、秀逸な「物語のお茶」で、物語の根源とは、リレー小説にあるのかも知れないと読んでいて感じましたね…。物語を読むだけではなく、書いたりしたことのあるお方々、物語を創作したことのあるお方々ならより楽しめるかと。物語自体も面白く、最後の展開も良かったですね。不思議な幻想的な優れた物語です。

「火事」は、図書館の司書さんが不思議な情景を幻視する物語。よく出来ていますが、「ティーショップ」「換気口」に比べると、箸休めの短編という感じですね。幻想的で、最後まで何があったのかよく分からない霧に包まれた終わりなので、もやもやが残ります。アレキサンドリア大図書館に流れていた不思議な音楽は何だったのかな…。

「換気口」、これは三つの作品の中で最もSFらしい話ですね。自殺しようとした女性を診察しているお医者さんが、その女性の話を聞く物語。その女性は、並列世界の行く末を見渡して、それを選ぶ力、世界の未来を選ぶ力を持っているのですが、それを持っているがゆえに…。読んでいて、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を思い出しましたね。

「より良い選択って?」

「そうだな、病気も不幸も苦労もない世界を選べるってことだ。光の紐がかぞえきれないほどあるのなら、ひとつぐらいはそういう未来があるにちがいない」

カタリーナはのろのろと首を横に振った。「それって、ユートピア?地上の楽園?純朴なことをいわないで。そんな未来はないわ。病気も苦労もない未来なんて、ひとつもない」

「理想論をいったわけじゃない。私が思い描いた未来は、そういうものがほとんどない世界だというだけだ。その世界では、たいていの人が幸福に暮らしている」

「だけど、不幸なひともいる」

「それは必然だと、あなたは自分でそういったよ」

彼女の目に、咎め、責める光が宿った。「あなただったら、大多数の幸福な人々の祭壇に犠牲として捧げられる者を選ぶ役目を課せられても、平然と受けられる?」
「ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語」

「――いいかい。仮りにだね、おまえが最後において、人間を幸福にし、かつ平和と安静を与える目的をもって、人類の運命の塔を築いているものとしたら、そのためにただ一つのちっぽけな生き物を――例のいたいけな拳を固めて自分の胸を打った女の子でもいい――是が非でも苦しめなければならない、この子供のあがなわれざる涙なしには、その塔を建てることができないと仮定したら、おまえははたしてこんな条件で、その建築の技師となることを承諾するかい?」
(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」)

「換気口」はイーガンっぽいですが、科学よりのイーガンに比べると、より、人間の方に接近している感じの作品でしたね…。これも傑作です。三作品とも傑作です。凄いです。SFファンだけでなく、全ての読書好きの皆様方に、ぜひ、ご一読なさることをお勧め致します。最後に、巽孝之さんが書いておられる本書の解説を引用してご紹介致します。

ニューウェーヴSF運動最大のスポークスマンであったムアコックは彼を賞賛してやまず、ジフコヴィッチ本人も2002年刊行の代表作「図書館」の献辞にムアコックの名を記している。かくして、彼は不条理的とも内宇宙的とも幻想文学的ともシュールレアリスム的とも評される独自の思弁小説の作風を確立して作家となり、1993年の「第四の円環」を皮切りに2009年発表の最新作「ゴーストライター」まで18冊の長篇及び短編集を刊行するに至った。(中略)

1993年刊行の第一著書「第四の円環」で初めて英訳され、SF的要素をも一環とする超ジャンルな現代文学、ブルース・スターリングいわくのスリップストリーム文学の新旗手となり、前掲「図書館」では2003年度世界幻想文学賞を受賞し、2009年には世界幻想文学大会のゲスト・オブ・コナーに選ばれた(中略)

ジフコヴィッチ一家は独裁者とも目される大セルビア主義者ミロシェヴィッチ大統領の治世に辟易しており、コソボ紛争のときには狭いアパートから出ることもできず、NATOのストライキのため食べ物にも電気にも困窮し、国連の経済制裁のため燃料の不足を補うのにSF本をくべるしかないと決意するほどのありさまだったが、にもかかわらず作家は作品を執筆しつづけたという。ベオグラードの中国大使館へ撃ち込まれたミサイルから逃れて九死に一生を得たこともあるわけだから、現実を語ればそれなりにダイナミックな作品も書き得ただろう。だが、この作家はむしろ、現実が厳しくなればなるほど伝統的にして地方主義的なリアリズムを忌避して、あくまで普遍的な幻想力のみで現実より深い現実をえぐりだす。(中略)

だからこそ、本書に収録された珠玉の短編集は、いずれも幻想の先にさらなる幻想を紡ぎだす。(中略)ジフコヴィッチの作品において、物語はひとつではなく、未来もひとつではない。すべては重層的に絡み合い、そのベクトルはいつどこへ伸びていくのか、はっきりしない。その複雑系は、映画「インセプション」の比ではない。ひとたび彼の小説をひもとけば、そこには作品のサイズに似合わぬほどに奥深く幅広いメタ文学的可能性のチャイニーズ・ボックスが秘められている。ときに彼がカフカやボルヘス、カルヴィーノにたとえられ、前述してきた思弁(スペキュレーション)はもちろん、批評家ロバート・スコールズいわくのポストモダン寓話作用「ファビュレーション」をも活用しうる作家と評価されるゆえんだ。(中略)

世界文学者ジフコヴィッチの作品集が、それを日本語圏で始めて読むものにどう受け入れられるのか、それは定かにわからない。しかし、仮にとてつもない悪夢的幻想であったとしても、その味わいがたまらなく甘美であることだけは、ここに保証しよう。
(巽孝之「ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語」解説)

素晴らしかった。読了後の感想として素晴らしいとしか言いようがないです。メタ的に空へ広がっているこの小説読んだ後では、他の小説が平べったくみえる。凄いよ、凄すぎるよ…。はやく、日本語訳されたジフコヴィッチの作品をどこの出版社でもいいから出してください!!世界幻想文学大賞受賞した「図書館」読みたいです!!

ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語 (Zoran Zivkovic's Impossible Stories)
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