2008年07月17日 08:25
アリス・カイパース「冷蔵庫のうえの人生」哀しくて愛おしい本当に大切なもの

「夏休みなんかいらない。
お母さんが元気になってくれればいい。
クレア」
(アリス・カイバース「冷蔵庫のうえの人生」)
僕の大好きな本「冷蔵庫のうえの人生」を紹介します。お金なくて漫画とかはなかなか紹介が難しいけれど、本は図書館で借りられるので、良い本をこれからも紹介していきたいと思います。
この本は書簡小説ならぬメモ小説で、シングルマザーで一人娘を育てている産婦人科医のお母さんと、その15才になる娘クレアとの物語です。お母さんの産婦人科の仕事がとても忙しく、なかなか二人は時間を共に過ごすことができないので、冷蔵庫の上にマグネットでメモを留めて、それによってやりとりをしているんですね。この本は、そのメモの交流のみで綴られた本です。こんな感じです。
「お母さん
リストのもの、チキンと豆の缶詰のほかは、みんな買ったよ。
今日はちょー さむかった ブルブル。
袋を持つ指がちぎれて落ちそーだったよー。
新しい手袋がほしいなあ。
土曜日にまた買い物に行くというのはどうでしょう?お母さん、今度の週末は休めるんだよね。
クレアより」
「スパゲティ・ボロネーゼを作っておきました。帰ってきたらどうぞ。
母より」
「でがけにこれを書いてます。
今週末は宿直になってしまったの。ごめんね。
母より」
「今夜はエマのところに泊まるね。昨日の夜、お母さん、少し疲れてたみたい。仕事、あんまり無理しないで。
クレアより
心配しないで。鍵は持ったからd=(^o~)=b」
(アリス・カイバース「冷蔵庫のうえの人生」)
こんな感じで母娘、たまには喧嘩もしながらも、なかよく暮らしているんですが…、お母さんが、悪性腫瘍、乳癌になってしまうんですね…。お母さんは、動揺しながら娘に一生懸命それを隠すんですけど、もう転移していて余命幾ばくもないかもしれないことがわかって、それでも娘の為に、午前中は放射線治療を受けながら午後は働いたりしていて、娘は、今まで居るのが当たり前だと思っていたお母さんが、重い病気に掛かったことで、とても心配して、お母さんが娘を愛しているように、自分がいかにお母さんを愛していたかに気付くんですね…。
「クレア
お母さんがこの状態(転移した重い癌)では、夏休みどころではありませんね。この埋め合わせはしますね。いつかきっと
母」
「夏休みなんかいらない。
お母さんが元気になってくれればいい。
クレア」
(アリス・カイバース「冷蔵庫のうえの人生」)
どんどんお母さんの具合が悪くなっていってしまって、余命幾ばくもなく、そのとき、一生懸命、二人でメモを通して(メモからクレアがお母さんを看病し二人が一緒に過ごしていることが分ります)本当に心を開いて、二人とも、本当に愛おしいとてもかけがえのないお母さんであり、愛おしいとてもかけがえのない娘であるということを、二人とも生活の中で、感じて、分かり合ってゆくんですね…。
僕の大好きな作品にAIRという作品がありますが、この作品は、難病の娘と母との愛おしい、かけがえなき絆を描いています。本作は、その逆に難病の母と娘との愛おしい、かけがえなき絆を描いているんですね…。AIRをプレイしたり、見たりしたとき、深い哀しさとともに愛おしさを感じましたが、この本も読了後、そのような気持ちに胸一杯になりました。本当に大切な、かけがえなきものが描かれています。
メモだけで綴られているので読みやすく、そして心を哀しく愛おしく、ふんわりとさせる、とても良い小説だと思います。一読お勧め致します。
「お母さんへ
お母さんの頭にピーターがちょこんと座っている写真を、思い出すとおかしくてしかたがない。あの日のこと、ずっと忘れずにいたい!
お母さんはよくならないかもしれない。そう書いてしまうのは、とってもつらいことだけど、わかっている。なぜ、お母さんと私が、昨晩、そのことを話さなければならなかったのかも。
本当に、本当に、つらい。つらい。
でも、お母さんに心配をかけたくない。
お母さんは、わたしに未来と向き合う力を与えてくれたのよ。
わたしは、最悪に備えながらそれでもなお、最善の未来を信じています。お母さん、それでいいでしょう?
愛と勇気と光、そして抱擁をお母さんに。
クレア」
(アリス・カイバース「冷蔵庫のうえの人生」)
僕は「わたしは、最悪に備えながらそれでもなお、最善の未来を信じています。お母さん、それでいいでしょう?」という一節がとても好きで、涙が滲みました。

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